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施設の取り組み

有限会社GENKI堂

在宅医療における地域連携薬局・薬局薬剤師の役割

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  • 徳永 勇雄先生 佐伯 剛先生
    有限会社GENKI堂 代表取締役 徳永 勇雄先生
    有限会社GENKI堂 在宅アドバイザー 佐伯 剛先生

超高齢社会において在宅医療・療養へのニーズが高まるなか、薬剤師には、在宅や居住系施設で療養される患者さんに対し、最適かつ効率的で安全・安心な薬物療法の提供が求められている。薬剤師の専門性を活かして在宅医療に貢献していくため、薬局および薬剤師に今何が求められているのか。地域連携薬局の経営に携わり、薬剤師の育成に取り組むGENKI堂 代表取締役の徳永勇雄先生および在宅アドバイザーの佐伯剛先生にお話を伺った。

01在宅医療をメインとした薬局開業の経緯

徳永先生:私が製薬メーカーの医薬情報担当者として勤務していた頃、がんをテーマとした市民公開講座において、がん専門の在宅医療に携わっておられる医師にご講演いただいたことが在宅医療に関心を持つきっかけとなりました。当時、がんに対する外来化学療法が始まり、国の方針としても入院を減らして在宅治療をメインにするという方針が打ち出された時期でもありましたので、自分自身が薬局を開業する際には、在宅医療にも取り組んでいかなければならないと考えるようになりました。
そして2006年に、神奈川県大和市で、有限会社GENKI堂の最初の薬局、キラリ薬局高座渋谷店を立ち上げました。開業から十数年経った時、開業時から来られている患者さんが外来通院困難になられたのです。医師からも薬局で在宅患者さんのフォローをしてほしいという依頼があり、そのことをきっかけに在宅に取り組むことにしました。
最初の在宅専門薬局として、キラリ薬局厚木店を出店しました。実際に出店してみると、薬剤師のやる気が非常に高く、やりがいをもって取り組んでいる姿を目の当たりにし、また患者さんからも非常に喜ばれましたので、その後平塚にも出店し、2021年11月にキラリ薬局四之宮店を出店しました。

佐伯先生:私は現在、GENKI堂の在宅アドバイザーの仕事を任されておりまして、私自身が経営する薬局(メディスンショップ蘇我薬局;千葉県千葉市)と同じようなスタイルの薬局が、GENKI堂として2店舗できました。このほど出店したキラリ薬局四之宮店は、地域連携薬局にとって必須となるクリーンルーム(無菌調剤室)を備えた点が大きな特徴です。実際、患者さんに寄り添う上で、クリーンルームは必要不可欠なものだと考えています。
私達が最初にクリーンベンチを設置した頃、千葉市内にある約1,150軒の薬局のうち、こうした設備を持つところは6軒しかありませんでした。今では、大手チェーン薬局ではクリーンルームやクリーンベンチを設置しているところはありますが、その数が劇的に増えているという状況ではありません。薬局が無菌調剤の設備を持つことで対応できる業務のクオリティは上がるのですが、その際、設備を活用する体制づくり、すなわち薬剤師の質の向上が必須になります。

02クリーンルーム設置の意義とその活用において求められる専門性

クリーンルーム設置の意義とその活用において求められる専門性

徳永先生:在宅医療に取り組むなかで、ターミナルの患者さんを避けて通ることはできず、その治療において痛みのコントロールが求められ、麻薬が必要になります。そのために、最低でもクリーンベンチの設置は必要だろうと考えています。さらにクリーンルームにすることによって、より多くの薬剤師が同時に調剤でき、より多くの患者さんへの対応が可能になります。ただ、自社だけがよければいいということではありませんので、近隣の薬局も必要に応じて利用していただければと考えています。

佐伯先生:クリーンルームやクリーンベンチを使いこなす上で、専門的な資格は必要ありません。また、実際の業務として、クリーンベンチを使うような内容の処方箋が突然、飛び込んでくるようなことはありません。当薬局の場合、例えば近隣病院が行う医療連携室等での退院時カンファレンス等に参加したり、初回の在宅医を含めた担当者会議で、病院からの情報提供に基づいた処方内容を患者さんに対し訪問看護師さん、介護士さんと投薬方法について相談し連携をしていく案件の中でクリーンルーム下で行う必要のある調剤案件があるという流れです。そこに何か特別のノウハウは必要なく、初めての方は経験豊富な先生にアドバイスを頂き、少しだけ手先が器用であれば誰でもできます。

徳永先生:実際にクリーンルーム、クリーンベンチを設置した経験から、薬剤師の技能的な部分については、研修を受けに行けばいいというものではなく、経験を積み重ねて行く必要性を実感しているところです。そこで今は外部から講師を招いて、継続的に指導いただいています。
がん専門薬剤師を取得すれば即座に処方提案ができるということではなく、保険薬局でがん専門薬剤師を持っていてもなかなか活かせる場がない状況があります。ですので、専門資格を取得することもさることながら、まずは現場で求められる業務に対して日々研鑽しつつ、オールマイティにこなせるようになることの方が大事ではないかと感じています。

03在宅療養を支援する医師との連携

徳永先生:在宅療養支援に携わる医師は、開業されて外来診療されている医師と往診専門の医師の2つに分かれます。このほど出店したキラリ薬局四之宮店は在宅専門の往診クリニックに隣接しており、全面的に受けるといった契約ではないものの、かなり密な連携を取っています。今後は、中核病院の地域連携室との連携も見据えて取り組んでいきたいと考えています。

佐伯先生:医師との繋がりに関しては時間がかかるところがあります。訪問すればすぐに関係ができるわけではありませんし、信用を勝ち取るには7~8年かかることもあるのは事実ですが、一旦信頼関係ができれば様々なことが始まるのも事実です。なかでも、往診専門で在宅診療されている医師の場合、長く診療してきた患者さんを最後まで診ていきたいので薬局もそれに付き合ってほしいといった想いが強く、それが地域密着、地域連携の基本スタイルであると思います。医師と薬剤師との連携に関してはアナログ的な面があり時間はかかるけれども、だからこそ強い関係が構築できると思っています。

04在宅医療における薬剤師業務に対する認識の変化

徳永先生:多職種のスペシャリストの方々にとって、薬剤師が在宅医療においてどんな仕事を担い、メリットをもたらしているかについての理解はまだまだ低い現実があります。患者さんにとっても同様だと思います。訪問看護師やケアマネージャーなどの皆さんの仕事をフォローアップしている薬剤師の業務について、うまく伝わるような場があるとよいと思っています。

佐伯先生:在宅医療において、多職種間の繋がりは必須です。在宅医療における看護師の業務は非常に幅広くなってきており、バイタル評価はもちろん、巻き爪を切ったり湿布薬を貼るといったことが含まれ、こうした細かい作業をしているとすぐに時間が経ってしまいます。そんな中で、看護師が薬のセットをしているケースもまだ多くみられます。近年、在宅の患者さんが増えるなか、1人の患者さんに十分な時間を費やす為にも自分達の仕事に効率よく専念するためには薬剤師が必要になります。
介護士も同様で、薬のセットをしている介護ヘルパーさんも多くいます。在宅医療の現場で働く看護師や介護士のために薬剤師がどんな役割を担えるのか、こうした点を理解いただくことで、多職種連携が本物になっていくのだろうと思います。

徳永先生:GENKI堂には在宅専門の営業マンがいるのですが、特別養護老人ホームなど様々な施設で看護師の方より薬のことで困っているというお話も多く聞きます。薬剤師のできる業務を話すとここまでできるのかと驚かれることが多々あります。
ただし、実際に在宅医療で必要な薬剤業務を提供するとなると、それなりの体制が必要です。GENKI堂は1つの薬局に4~5人の薬剤師がいて、1~2人は外に出られる状態を作っています。一方、薬剤師が1~2人の薬局の場合、訪問看護師やケアマネージャーさんが期待されるような薬剤師業務を行うことは難しいと感じています。実際、薬剤師2人の店舗で、在宅患者さんを10~15人持つと、長時間残業が常態化するという状況になります。かかりつけ薬局として薬局全体で患者さんを診るには、従業員は休む時は休めるという薬剤師が働くための環境づくりが求められます。そこをしっかりやっていかないと、継続は困難だと思います。

05調剤薬局における働く環境の重要性と改善方法

佐伯先生:国の方針としても、保険薬局薬剤師は薬局の外へという方針です。これを実現するために、薬剤師の監視の下、非薬剤師の方に、ピッキングや一包化、全自動分包機のオペレーションなどを任せることも推奨されており、薬剤師業務を人に向けて行くという考え方だと思います。GENKI堂ではいち早くそうしたことも取り入れており、非薬剤師のオペレーションも非常に充実しています。働く環境の改善のために経営者ができることについて、いち早く情報をキャッチし取り入れることも、在宅医療に取り組むうえでは大事だと考えます。

徳永先生:将来的に、調剤の業務委託化などは、在宅医療で考えると非常に良い考えだと思います。調剤センターで一気に調剤をやってしまって、薬剤師はそれを持って外にどんどん飛び出して行くという方策は、圧倒的に効率がいいと思います。ただ、それは現在の制度の下では難しいため、今、私達中小企業ができることは、まずは置いてきぼり状態になっている個人在宅の患者さんのフォローだと思います。GENKI堂は、半径約5km以内に5店舗、いずれも薬剤師が4~5人の薬局がありますので、そういう在宅患者さんをしっかりフォローしていくことをこの先5年ぐらいはやるべきだと考えています。加えて、外来処方箋を受けている店舗ではデジタル化を進め、オンライン服薬指導などにも対応できる体制を取っていく方向です。

06在宅医療に取り組む地域連携薬局および薬剤師へのメッセージ

在宅医療に取り組む地域連携薬局および薬剤師へのメッセージ

徳永先生:若い薬剤師の方に薬剤師業務について話をするとき、服薬指導はもちろんのこと、調剤も監査もできなければならないけれど、今や在宅医療に従事することも薬剤師業務の重要な職務であることを話します。在宅をやらないという選択は自分達の職能を下げることに繋がり、薬剤師ならば薬剤師業務としてなすべきことをしっかり頑張っていくことが重要です。働く環境は会社の方でしっかり守る、その代わり時間内は職能を果たせるよう頑張りましょうということで、会社側と薬剤師側がしっかりと職責を果たす事を目標にして頑張っていくことが最も大事だろうと思います。

佐伯先生:デジタル化が進む世の中で、まだアナログ的なところが非常に強いのが在宅医療で、いかにデジタル化を活用できるかという点は模索中です。現在、在宅医療現場における薬剤師の主流は、4年制大学を卒業して自ら培ったスキルで取り組んでいる人たちです。今後6年制大学で育成された薬剤師にどうバトンタッチしていくかを模索しているところですが、資格をとれる職業の1つということで、薬学を専攻し薬剤師を選ぶ人がいるのも事実です。薬剤師の業務は、人の命に関わる、医療に携わる仕事であり、そういった意味でのやりがいを見出せるような仕事づくり、環境づくりが、今必要なのかなと思います。

(取材日:2022年2月9日 オンラインにて実施)