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地域医療の実現のために
患者さんのQOL向上のために
腎臓病薬物療法専門薬剤師が担う役割と
多職種連携、地域医療への貢献
兵庫医科大学病院薬剤部
兵庫医科大学病院 薬剤部長 木村 健 先生
安全で有効な薬物療法を患者さんへ提供するために、腎機能低下時の投与設計や副作用のモニタリング、薬剤性腎障害の予防などはあらゆる薬剤師が果たすべき役割となっている。また、腎機能は加齢とともに低下することが知られており、超高齢社会を迎えた現在、個々の腎臓がもつ機能に応じた薬物療法の実践がより一層、求められている。日本腎臓病薬物療法学会では、腎臓病薬物療法専門薬剤師の認定制度を設立し、腎機能を考慮した薬剤適正使用を推進・先導する人材の育成に取り組んできた。今回は、制度創設に尽力された兵庫医科大学病院 薬剤部長 木村健先生に、腎臓病薬物療法専門薬剤師が担う役割や多職種連携、地域医療への貢献などについてお話を伺った。
目次
01腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度の目的、概要
●認定制度創設の目的
腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度は、2012年より開始された日本腎臓病薬物療法学会の認定制度です。日本腎臓病薬物療法学会では、学会設立の目標として「腎臓病・透析・慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)などの専門知識を生かして、患者さんのアドヒアランス向上や安全で有効な薬物療法を提供できる薬剤師が、国民の保健・医療・福祉に貢献する」を掲げており、この目標を達成するための具体的な施策の一つとして認定制度が立ち上げられました。透析や腎移植を含めたCKDだけではなく、急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)や腎臓が未発達な未熟児などの薬物療法も含め、幅広く腎臓にかかわる薬剤適正使用を推進する人材の育成をめざしています。
●3段階の認定資格とその概要
具体的な認定資格としては、腎臓病薬物療法専門薬剤師、腎臓病薬物療法認定薬剤師、腎臓病薬物療法単位履修修了薬剤師という3段階を設けています(表1)。最上位の専門薬剤師は、実務、研究、教育に従事し、他の薬剤師への指導と研究能力を求められる点が認定薬剤師と異なります。認定薬剤師は、実務を主として従事し、認定審査では技能評価として提出する自験例が重視され、資質を満たす経験が豊富にあるかをチェックしています。単位履修修了薬剤師は、規定の単位を修得し自己研鑽を積んでいることで認定されます。認定要件としては、それぞれ規定の薬剤師歴の他、研修単位の履修、論文投稿、学会発表、自験例の提出、認定試験の合格などが求められ、5年ごとに更新する必要があります。
2022年9月時点で、腎臓病薬物療法専門薬剤師は22名、腎臓病薬物療法認定薬剤師は186名が認定されています。腎機能を考慮した薬物療法の実践は、本来、すべての薬剤師に求められることなので、認定・専門薬剤師は旗振り役をするフラッグシップの資格と位置づけています。論文投稿や学会発表を課し、試験問題の難易度が高くなっており、一定のハードルを設けることで、闇雲に認定者数を増やすのではなく、専門性の高さを維持し、先導する人材を育成できると考えています。認定制度の最大の目的は、認定者や学会会員を増やすことではなく、薬剤師が腎機能低下患者さんのケアに貢献することにあるのを忘れてはなりません。
表1腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度の主な概要、要件
腎臓病薬物療法 専門薬剤師 |
腎臓病薬物療法に関する実務、研究、教育に従事し、他の薬剤師への指導と研究能力が求められる。 |
|
---|---|---|
腎臓病薬物療法 認定薬剤師 |
腎臓病薬物療法に関する業務の実践を主とする。審査では、豊富な経験を裏づける自験例の提出が重視される。 |
|
腎臓病薬物療法 単位履修修了薬剤師 |
規定の単位を修得し自己研鑽を積んでいることが求められる。 |
|
参考1をもとに作成
02腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師が担う役割
●腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師による活動のエンドポイント
腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師による活動のエンドポイントは、CKDの進展抑制、心血管イベントの発症抑制、患者さんのQOL向上にあります(図1)。患者さん本位のアウトカムの達成に責任をもつことが、最も大切な腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師の役割と言えます。そのために、腎機能を考慮した薬剤の適正使用を推進するとともに、腎機能に応じた薬剤選択や投与設計といった薬剤師本来の職能を他のすべての薬剤師が発揮できるように先導する役割を担います。
●腎臓病薬物療法において具体的に薬剤師が貢献できること
具体的に腎臓病の薬物療法において薬剤師が貢献できることとしては、①適切な投与設計、②副作用のモニタリング、③薬剤性腎障害の予防の3つが挙げられます(図2)。
腎機能が低下している場合、投与する薬物や代謝物の体内からの消失が遅延し蓄積することによって副作用を引き起こさないか注意しなくてはなりません。それらを未然に防ぐには、①適切な投与設計が必要となります。薬剤の減量にはメリットもデメリットもあるため、薬剤の腎排泄寄与率や、患者さん個々の腎機能や病状などを適切に評価し、そのうえで治療の必要性も加味して、有効で安全な血中濃度を維持するための投与量、投与間隔を考慮する必要があります。最終的に医師が治療においてより的確に必要な判断をできるように、薬剤師としてサポートすることが大切です。
また、②副作用のモニタリングに関しては、腎機能低下患者さんにおいて蓄積しやすい薬剤の種類や、蓄積によって起こる症状、モニタリングすべきデータなどを薬剤師が把握し確認することが求められます。
そして、③薬剤性腎障害の予防も重要です。腎機能が正常な場合でも、投与する薬物に腎毒性があり、腎機能を低下させる要因とならないか注意が必要となり、常にチェックしなくてはなりません。
これらは、腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師だけではなく、すべての薬剤師に求められるスキルであると私は考えています。残念ながら、腎排泄型の薬剤を腎機能低下時に減量せずに使用するといった事例が未だ散見されています。そのため、薬剤師の教育を先導し、施設内で薬物療法の相談を受ける役割を担う腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師が必要ではないかと思います。
03腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師と腎臓病療養指導士の位置づけ
●全人的なサポートと専門的なサポート
日本腎臓病協会が認定する腎臓病療養指導士は、薬剤師、看護師・保健師、管理栄養士が取得可能な資格です(図3)。患者さんに幅広い療養指導をするためには、薬剤師がもつ通常の知識に加えて、看護師や管理栄養士が担う看護ケアや食事指導などの職種横断的に共通となる基本的な知識と技能が必要となります。そこで、患者さんを全人的に捉えたサポートを行い、窓口となれるのが腎臓病療養指導士であると思います。そして、腎臓病療養指導士という窓口の先に、腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師や認定資格を有する看護師・保健師、管理栄養士による専門的なサポートがあるという位置づけになります。
04日常業務に活用できる腎臓病薬物療法に関するツール・資料
●PEACS、薬学管理チェックシート
薬剤師の大きな役割として、患者さんに行われている薬物治療の評価・分析があります。しかし、何をどのように評価・分析すべきかが薬剤師によって相違があり、確認すべき事項を見落とすという問題がありました。そこで、腎機能も含め薬物治療を評価・分析するためのチェックシステムとして「PEACS(Pharmaceutical Evaluation and Analysis Check System)[ピークス]」を作成し、患者さんに確認すべき項目を9つに分類してまとめています(表2)。さらに、PEACSに基づいて疾患別に確認項目をまとめた「薬学管理チェックシート」を作成しました2, 3)。これを用いることで、経験の浅い薬剤師でも確認漏れがなくなることにつながります。また、薬剤師が確認したことを記録として残すことで、他職種との情報共有にも活用できるツールとなっています。
表2PEACSを活用した薬剤師が患者さんに確認すべき9つのポイント
① | 自覚症状 |
② | 患者さんの客観的データ |
③ | リスク因子 |
④ | 他の薬剤の影響、相互作用 |
⑤ | OTC薬、健康食品などの服用 |
⑥ | 副作用の発症 |
⑦ | コンプライアンス |
⑧ | 薬物治療の理解度 |
⑨ | 生活習慣 |
木村健先生提供
●日本腎臓病薬物療法学会が発信する情報
日本腎臓病薬物療法学会では、「腎機能別投与量一覧データ」を定期的に更新して学会誌に掲載しており、薬物体内動態情報も含む特別号「グリーンブック」を2年に1回更新しています。また、「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」4)を学会のホームページに掲載し、最新情報を提供しています。書籍としては、「腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK」5)を2年に1回改訂し、2022年には「腎臓病薬物療法ガイドブック第2版」6)を発行しました。これらは学会の使命として責任をもって発信している情報なので、現場で業務を担う多くの方々に活用してもらえればと思います。
05多職種連携における腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師の貢献
●他職種から薬に関して信頼される存在に
腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師が他の職種と連携する場面としては、カンファレンスや回診への参加、クリニカルパスの作成、腎臓病教室の企画や開催、多職種が参加する勉強会の実施などが挙げられます。連携する際に、腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師の資格を所有していることを他職種に認知してもらえると、専門的な相談やマネジメントができる存在として信頼されやすくなることはあると思います。
しかし、これらの場面で連携が求められるのは、認定・専門薬剤師だけではなく、他の薬剤師も同様だと思います。腎機能を考慮した薬物療法について薬剤師に相談するなど薬剤師を頼った経験が積み重ねられることで、多職種連携のなかで薬剤師の存在価値が高まっていくと思います。
また、当院では、がん化学療法レジメンや術前・術後の抗菌薬の投与などにおいて、腎機能が一定の基準まで低下していた場合に、診療科との事前の合意に基づいて薬剤の変更や減量を薬剤師が代行できるPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management、プロトコールに基づく薬物治療管理)を策定しています。医師の働き方改革やタスクシフティングという時代の流れも背景に、多職種連携のなかで薬剤師が任される業務は拡大しており、信頼される存在をめざさなくてはなりません。
●CKD患者さんの指導に多職種が介入するメリット
厚生労働科学研究として行われた「慢性腎臓病(CKD)患者に特有の健康課題に適合した多職種連携による生活・食事指導等の実証研究」7)において、私は研究分担者の一人を務めました。本研究において、医師や看護師、栄養士、薬剤師など多職種によるCKD患者さんへの生活・食事指導の影響を調査したところ、多職種介入群は非介入群と比較して予後が良好となりました。
腎機能は悪化しても自覚症状として表れにくいこともあり、食生活や喫煙・飲酒習慣は変わらず、服薬アドヒアランスも低下したままのCKD患者さんは多くみられます。CKDの進行抑制には、一番のキーパーソンとなる患者さんや家族の意識をいかに変えられるかが重要です。そのためには、医療チームのなかに患者さんを巻き込み、多職種による服薬指導や生活指導などの介入が効果的です。しかし、患者さんにかかわれるスタッフの数や時間には限りがあり、診療報酬算定につながらない場合も少なくありません。このような研究結果をエビデンスとして、CKDへの多職種連携による介入に対して診療報酬上の評価を得られるようにしていくことも重要であると考えています。
●多職種連携を円滑に進めるポイント
多職種連携が推進され、各職種・各部門の専門的な意見が求められる機会が増えていると思います。しかし、職種によって意見が異なることは当然あります。そこで、多職種によるチーム医療を行ううえで最も大事なのは、相手の意見を尊重することです。薬剤師の場合、薬学的知見を前面に押し出して主張するのではなく、他の職種の意見を尊重し、包括的に捉えることが必要だと思います。
06地域における医療機関の連携と薬剤師の貢献
●地域におけるシームレスな医療の構築と薬剤師が果たすべき役割
腎臓病薬物療法専門薬剤師を含めたすべての薬剤師にかかわることですが、入院から外来への移行や病院から透析施設への転院など、地域において医療をシームレスにつないでいくことは患者さんのQOL向上のために大切だと思います。そのため、例えば、保険薬局の薬剤師に集まってもらい、病院で行われている治療内容や患者さんに伝えられている内容を説明して共有する取り組みや、あるいは、透析導入をする施設と維持透析を行う施設、そして患者さんが利用する保険薬局の間で各医療機関の治療方針や果たすべき役割などを共有する取り組みを行うことで、地域において有機的な取り組みができると思います。その他にも、地域の医療関係者が参加する合同の勉強会や症例検討会を開催するといった情報共有方法もあります。
現状では、地域連携の各種取り組みは、基幹となる病院が主催する場合が多くなっていますが、これからは保険薬局も含めた地域連携を担う各医療機関が共同で体制を築き、主体的に担うことが期待されます。
●医療デジタルトランスフォーメーションがもたらす地域連携と薬剤師への影響
医療デジタルトランスフォーメーションが進展すれば、患者情報や検査データなどさまざまな情報がオンラインでデジタル化され、院内だけでなく他の病院や保険薬局でも閲覧できるようになり、例えば患者さんの腎機能低下をいち早く把握し、適切な投与計画の立案やアプローチができる環境が整っていくと思います。
それは同時に、検査データやeGFR(estimated Glomerular Filtration Rate、推算糸球体濾過量)などの異常に気づかずに患者さんに医薬品を交付したことで重症化や死亡が発生した場合には、薬剤師が責任を問われるといった可能性が出てくることになるかもしれません。腎臓病薬物療法専門薬剤師も含めた薬剤師の責任が重くなっていくことが予想されます。逆に、薬剤業務に関する事故を防ぐ目的にも、医療デジタルトランスフォーメーションは活用されるでしょう。
現在、当院では、「h-Anshinむこねっと」という阪神南北医療圏(尼崎市、西宮市、芦屋市、伊丹市、宝塚市、川西市、三田市、猪名川町)におけるネットワークシステムに参画しており、病診連携として参加医療機関で診療情報の共有が行われています。今後、保険薬局がh-Anshinむこねっとに参画し、検査値などさまざまな患者情報を服薬指導に活用してもらえることを期待しています。
07医師、病院薬剤師、保険薬局薬剤師の方々へのメッセージ
●医師の方々へ
腎臓病をはじめとする薬物療法において、薬剤師としての職能を高め、質の高い医療を提供していきますので、薬剤師の見解に耳を傾けてもらえればありがたいです。薬剤師が把握した患者さんに関する情報を医師と連携して共有し、患者さんへのアプローチの仕方や考え方を擦り合わせ、QOL向上をめざして貢献していきたいと思っています。
●病院薬剤師、保険薬局薬剤師の方々へ
腎機能低下時の投与設計や副作用のモニタリング、薬剤性腎障害の予防は、腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師はもちろんのこと、すべての薬剤師に対応が求められます。特に薬剤による腎機能の悪化を防ぐことは、薬剤師の使命であると思います。腎臓にかかわる分野において、薬剤師として十分な役割を果たせるように研鑽を積んでいただくことを願っています。
自らがもつ専門的な知識や取り組みによって、過量投与などの問題を見つけ、重大な腎機能低下や中毒性の副作用を未然に防ぐなどの具体的な成果を得られると、患者さんの治療やQOL向上に貢献したという達成感を感じ、やりがいにつながると思います。さらに興味のある方は、腎臓病薬物療法認定・専門薬剤師の資格取得に挑戦するのはいかがでしょうか。
<参考>
- 1)日本腎臓病薬物療法学会 : 腎臓病薬物療法 専門薬剤師認定制度規程, 2023.
https://www.jsnp.org/docs/腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度規程(改定20230225).pdf(2023年9月閲覧) - 2)木村健 編 : 45疾患の薬学管理チェックシート, じほう, 2008.
- 3)木村健 編著 : 保険薬局のための薬学管理チェックシート, じほう, 2011.
- 4)日本腎臓病薬物療法学会 : 腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧 2023年改訂36版, 2023.
https://www.jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php(2023年9月閲覧) - 5)日本腎臓病薬物療法学会 腎機能別薬剤投与方法一覧作成委員会編 : 腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK, じほう, 2022.
- 6)腎臓病薬物療法ガイドブックワーキンググループ監, 日本腎臓病薬物療法学会編 : 腎臓病薬物療法ガイドブック第2版, じほう, 2022.
- 7)要伸也 : 厚生労働科学研究費補助金 腎疾患政策研究事業 慢性腎臓病(CKD)患者に特有の健康課題に適合した多職種連携による生活・食事指導等の実証研究 令和2年度 総括・分担研究報告書, 2021.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/147533(2023年9月閲覧)
(取材日:2023年6月5日 取材場所:兵庫医科大学病院)