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地域医療の実現のために
がん専門薬剤師による薬学的管理の実際と
地域病診薬連携の推進
京都大学医学部附属病院薬剤部
京都大学医学部附属病院 薬剤部 部長 寺田智祐先生
京都大学医学部附属病院 がん薬物療法認定薬剤師(薬剤部 副薬剤部長)池見泰明先生
京都大学医学部附属病院 がん専門薬剤師(薬剤部 主任)猪熊容子先生
京都大学医学部附属病院薬剤部は延べ93名(2021年7月現在)の認定・専門薬剤師を有し、日々の臨床における薬学的管理に貢献するとともに、基幹病院と保険薬局との地域連携の担い手を育成するための様々な取り組みを進めている。「地域や施設における 認定・専門薬剤師の取り組み」シリーズ第1回では、薬剤部部長 寺田智祐先生、がん薬物療法認定薬剤師 池見泰明先生、がん専門薬剤師 猪熊容子先生に、院内の具体的な業務、および地域連携を推進する取り組みの現状・展望についてお話を伺った。
目次
01がん専門薬剤師の具体的な日常業務
当院におけるがん関連薬剤師の日常業務は、およそ次のようなものです。院内で使用するほぼ全ての抗がん薬の処方監査と調製、薬剤師外来での患者指導、副作用モニタリング、薬局薬剤師との連携、入院の場合は、持参薬の確認と服薬計画の提案から始まり、がん化学療法の説明を含む服薬指導、副作用モニタリング、退院時指導等です。カンファレンスへの参加や、医師や看護師と患者さんの状態に関するディスカッションも適宜、行います。
まず、がん化学療法の処方箋の内容が適切か、患者さんの身体の状態にとって適切な服用方法・用量であるか等の処方監査を行った上で、抗がん薬の調製では正確かつ無菌的に調製し患者さんの元へ届けます。そして、薬剤を適切に使用いただけるよう、注射/内服の抗がん薬、併用薬等、薬剤に関する全般的な説明や服薬指導を行います。
病棟では、入院時に持参薬を確認し、薬剤師の視点から患者さんにとって適切な使われ方をしているかを検討した上で、服薬継続とする、あるいは腎機能低下が認められる場合等では投与量減量等の提案をさせていただき、医師に判断いただくようにしています。治療方針は、医師のカンファレンスを通じて決定されますが、入院患者さんの背景は特にさまざまで、合併症があったり高齢であったりといった状況のなかで抗がん薬治療を開始される方も多くいらっしゃいます。検討された治療方針がその患者さんにとって適切であるのか、患者さんのためになるのかといった点について、客観的かつ冷静な視点から見ていくことも薬剤師の重要な役割であると考えます。
投薬開始後は、抗がん薬の副作用モニタリングを行います。どの時期にどんな副作用が出やすいか、といったことはある程度、事前に情報を持っていますので、治療経過の中で留意すべき副作用について、医師や看護師に情報提供します。また、患者さんの元にも直接足を運び服薬指導をします。入院患者さんでしたら毎日お顔を見にいくことができますし、外来患者さんの場合も、フォローを継続している方は来院の都度、医師の診察の前後に直接お顔を見てお話を伺うようにしています。
もう1つ大事だと考えている点は、入院・外来を問わず、患者さんが歩く姿や、誰かと話される姿を見ることです。そうした際に、「足を引きずっておられるんじゃないか」「呂律が回りづらいのでは」といったことに気づく場合があります。なかには、静脈血栓ができやすいタイプのがん患者さんもいらっしゃり、医師に「足を引きずっておられるようですが、足の超音波検査をご検討いただけませんか?」といった話をし、検査をすると静脈血栓ができていて血栓溶解の治療を開始したというケースもありました。座った状態でお話をすることに加え、患者さんの日常の姿を含め全身的に、薬剤師として医療人として見ることを意識しています。
02薬学的管理に求められる情報管理
近年、新たな抗がん薬が次々に登場するなかで、作用・副作用ともに強い薬剤もありますので、そうした情報には少しでも多く触れておくことが必要だと思います。重要な事は、そうした知識を、臨床の場で患者さんや医師と話す際に、いかに有機的に組み合わせていけるかです。薬剤師としての専門性は大事ですが、基本的に薬剤師はオールラウンダーでありジェネラリストでもあるべきで、そこに立脚した専門性であると考えます。とはいえ、患者さんの状態を含め、日々のさまざまな情報の全てをきちんと理解し、整理して頭に入れるというのは、毎日忙しく業務する中では難しい場合があります。ですから、少しでも触れたことがある情報を引き出して、有機的に繋げていくという、その積み重ねが大切です。また当院薬剤部には、認定・専門薬剤師がたくさんいますので、この話ならあの人に尋ねてみようといった具合に、周りの薬剤師の力も借りつつ、臨床上のプロブレムに対応するよう心がけています。医師に教えていただく機会も多くあり、それらが一つ一つ経験として積み重なることで、更に次の患者さんにより良い医療として貢献できるのだと思います。
副作用モニタリング等を含む薬剤師の医療行為は、すべて電子カルテに記録します。副作用評価ではCTCAEのグレーディングを用います。例えば、グレード3の悪心の発現頻度が高いレジメンを使用する場合には、事前に吐き気止めをしっかり使うとともに、投与開始後も日々フォローし、グレード評価して、その対策の有効性を評価しつつ、今後のプランを含めて電子カルテに記録します。医師や看護師もそうした情報を参考にされますし、薬剤師から直接口頭で相談させてもらったりもしています。
03薬剤師としての専門能力向上のための工夫
薬剤部内では症例検討会を実施し、他の人の体験を全体で共有することに取り組んでいます。同じ患者さんを見ていても、それぞれの立場からの見方や意見を交換することによって、新たな気づきが生まれます。また、病棟薬剤師として、患者さんの病状に関して疑問が湧いてくることがありますが、そうした場合は、小さなことであっても医師に質問するようにします。ただしその際、単に疑問を投げかけるのではなく「自分としてはこう考えるのですが、先生はどうお考えですか?」といったように、自らストーリーや背景を考えた上で質問をし、患者さんの全体像を診ておられる医師の視点を学ばせていただく、また看護師ともそうしたスタンスで患者さんの様子についてお話をさせていただくことが大事かなと思っています。
04認定・専門薬剤師の育成へのニーズ
私自身は現在、管理職として、主にがん診療の分野で活躍する後進の育成を担っています。がん分野に関しては院内にとどまらず、地域医療を含むがん診療のボトムアップができるよう、教育的立場に立って業務にあたるという視点が重要だと思っています。診療報酬上の「がん患者指導管理料」のように、診療報酬上、がん専門薬剤師・認定薬剤師が在籍していないと算定ができないものがあります。また、「外来化学療法加算」は、化学療法に係る調剤の経験を5年以上有する専任の常勤薬剤師が勤務していることが必要である等、各施設にがん治療に精通した認定・専門薬剤師が必要とされています。
後進の育成のためには教科書上の勉強にとどまらず、自分自身も臨床に触れておくことは重要と考え、がん患者さんに対する薬剤師外来を週1回は担当することで、個々の患者さんの状況を継続的に把握し、少しでも患者さんの治療をサポートできるよう心掛けています。そこで得た情報を踏まえてディスカッションすることは、自分自身の成長にも繋がりますし、若手薬剤師の成長にも寄与していると感じています。
05地域連携における病院・保険薬局の薬剤師の役割
2020年の診療報酬改定において「連携充実加算」が認められ、病院薬剤師および保険薬局薬剤師の役割が定められましたが、地域連携で重要になるのが、そこに示される薬剤師の役割です。例えば病院薬剤師は、抗がん薬治療に関連する副作用の発現状況を評価し、その状況をレジメンや投与量、支持療法等、その後の医学薬学的管理上必要な項目とともに文書(施設間情報連絡書)にまとめ、患者さんに提供します。保険薬局の薬剤師は文書で提供された内容を把握した上で、保険薬局での投薬時における薬学的管理にその情報を活かして対応します。さらに、患者さんが次回病院を受診するまでの期間中、保険薬局薬剤師も必要に応じて、継続的に患者さんをフォローすることとされています。指示通り適切に抗がん薬の内服が継続できているか、抗がん薬治療に関連した重篤な副作用が出現していないか、副作用が出ている場合は悪化していないか、そういった情報を確認し、保険薬局薬剤師から病院にフィードバックいただきます。それを病院薬剤師が評価をした上で、必要に応じて医師に伝え、次回外来時にその副作用を解決するために介入する―そのような一連のプロセスが、1つ連携の在り方として重要になると思っています。
経口抗がん薬については、保険薬局薬剤師も治療に関する情報把握がしやすいですが、注射薬の抗がん薬治療は、複数の抗がん薬が組み合わされて使用されるため、情報把握が困難な場合があります。その点を解決するため、患者さんのレジメン情報の提供や病院ホームページ上で抗がん薬レジメンの情報を公開し、共有することが求められています。当院でも薬剤部のホームページと京大病院がんセンターのホームページにもリンクを貼って、抗がん薬のレジメン情報を提供しています。
さらに、病院から保険薬局に提供する施設間情報連絡書に対し、保険薬局から病院に情報提供いただく文書(服薬情報提供書)、いわゆるトレーシングレポートについても、フォーマットを病院で作成し、ホームページからダウンロードいただけるようにしています(図1)。
図1 施設間情報連絡書(病院→保険薬局)およびトレーシングレポート(保険薬局→病院)
副作用項目の記載欄は共通フォーマットとし、例えば病院薬剤師がグレード2の悪心と記載した場合、保険薬局薬剤師はその情報を踏まえて患者さんをフォローし、「グレード2からグレード1に変わっていましたよ」というように継時的な変化を情報共有できるようにしています。これらを活用することで、保険薬局との情報共有を密に実施できていると考えます。
これは当院だけの取り組みではなく、京都府薬剤師会でがん治療に関するフォローアップシートが作成されており、京都府薬剤師会ホームぺージから保険薬局薬剤師が自由に入手することが可能で、病院へのフィードバックする際に活用されています。
06分割調剤の実際とそのメリット
がん薬物療法のなかでも例えば術後補助ホルモン療法の場合、3ヵ月から半年くらいの長期処方が処方される場合があります。そうした場合、受診日から3ヵ月ないし半年が経過した時点まで、患者さんの服薬状況や副作用発現等が把握できない状況となってしまいます。こうしたケースに対処するため、当院では分割調剤を行うことがあります。分割調剤はがん薬物療法だけでなく、関節リウマチの領域でも一部行われています。
分割調剤を医師の指示で行う場合は、例えば、90日処方を出すけれど、それを3分割ないし2分割して投薬するよう保険薬局薬剤師に指示が出されます。保険薬局で3分割する指示の処方箋を受けた場合、まず30日分の薬剤を患者さんに交付し、30日後の薬剤がなくなるタイミングで患者さんが再度来局します。その時に半分程度飲めていなければ、残薬分を差し引いた上で、2コース目の30日分を投薬するといった方法です。つまり、本来は3ヵ月経たなければ医療者の目が届かないところ、分割調剤により、投薬時毎に服薬状況や副作用のモニタリングが可能になるわけです。アドヒアランスを維持することにつながるという面もあると考えられ、これらは分割調剤のメリットだと考えます。
07専門性・臨床経験を培うレジデント制度・研修制度
薬学教育が6年制となり、より実践的な薬剤師の卒後教育が求められる社会情勢のなかで、2019年度より薬剤師レジデント制度を整備しました。レジデントの募集は主に新卒者を対象として毎年行っており、毎年5~7人を採用しています。
当院のレジデント制度は2年間です。1年目は調剤業務や抗がん薬の調製等、主に薬剤部内でセントラル業務のスキルを身につけつつ病棟業務で必要な知識を習得し、2年目は病棟での研修が主となります。内科系、外科系、がん関連の3病棟において、患者さんへの服薬指導や、副作用モニタリング、薬学的管理等を習得するスケジュールが組まれており、2年間で基本的な薬剤師スキルを習得した人材を育成するプログラムとなっています。薬剤師としてどの専門領域を目指すかという点でも、レジデント制において内科、外科、がん領域とローテーションしていくことで、目指す方向性を見つけられる状況もあるようです。
当院は、日本医療薬学会の地域薬学ケア専門薬剤師(がん)の研修施設でもあり、来年度から1名、保険薬局薬剤師の研修を受け入れます。5年間にわたり、定期的に病院にもアクセスしていただき、症例検討会等を実施しながら地域医療を担う薬局薬剤師を養成していくプログラムで、具体的な内容については現在検討中です。また、病院独自の取り組みとして、がん治療に関わる保険薬局薬剤師を対象とした、約20日間の研修も実施しています。1期生として4名が修了しましたが、2期の研修の途中でコロナウイルス感染拡大のため中断している状況です。この研修では、がんの治療法が決定される、より上流の段階で、保険薬局薬剤師も治療方針の決定に参画するための視点を身につけられるような研修を行っています(図2)。
図2 がん治療に関わる保険薬局薬剤師を対象とした20日の研修プログラム(2021年度)
08専門薬剤師の将来展望
薬機法改正により専門医療機関連携薬局が設立され、そこでは保険薬局の専門薬剤師が役割を発揮していくことが重要になります。一方、専門医療機関連携薬局ではなくても、多くの保険薬局にがん患者さんが来られますから、保険薬局薬剤師さん全体としての底上げも重要です。そこで、専門医療機関連携薬局で専門性の資格を取得した薬剤師が保険薬局薬剤師全体を引っ張っていく、そういうリーダーシップを発揮できる人材育成が非常に重要であろうと考えています。そのために、病院間、あるいは病院と保険薬局との連携を深めていくためのインフラや、保険薬局薬剤師とのコミュニケーションおよびその教育のためのパッケージを当院薬剤部が作り出し、それを広めていくことで、連携の向上に繋がっていけばと考えています。
09病院・保険薬局の薬剤師の方々へのメッセージ
「学ぶ喜びと成長の実感」ということを寺田薬剤部長がおっしゃったのが、私としてはとても印象に残っています。認定・専門薬剤師を目指すにあたり、自分から情報を取りに行って学び、それを身につけて目の前の患者さんや医療スタッフへ貢献するということを、日々楽しみ、成長を実感しながらやっていただければいいと思います。また薬剤師は、医療現場において、医薬品という化合物からみたサイエンスを提供する立場であるということも意識しながら日々の業務に取り組んでいけると良いのかなと思います。
がん領域での診療を考えるとき、がんを知っているだけでは不十分で、薬剤師としてトータルケアを担う、ジェネラルな視点を持ったスペシャリストという、その両方のバランスが大変重要だと思っています。薬剤師の専門分野における資格は患者さんのための資格であると思うので、認定・専門薬剤師取得がゴールではなく、そこをスタートとして、より患者さんと寄り添い、専門的な知識を持った薬剤師として患者さんの治療の成功に関わっていく、そうした視点を大切にしていただきたいと思います。
今後2040年に向けて高齢者を支える生産者人口は減るため、医療人一人一人のパフォーマンスを上げていくことが必要で、そのためには生涯的な研鑽が求められています。認定・専門薬剤師制度では、学会発表や臨床経験等を通じて様々な知識、技術を身につけることができますので、生涯的な研鑽を達成するための1つのツールとして、是非活用していただきたいと思います。ただ言うまでもなく、本来の目的は患者さんに良い医療を提供することにありますので、そういったことをこの記事を通じてお伝えできればと思います。
(取材日:2021年11月9日 オンラインにて実施)