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施設の取り組み
有限会社みわ薬局 こごみ薬局
医療法人社団更生会 草津病院

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「精神疾患を抱える患者さんを支えるための病薬連携」
-入院から退院後まで 病院・保険薬局が連携し患者を支える-

有限会社みわ薬局 こごみ薬局
医療法人社団更生会 草津病院

栗原正亮先生のプロフィール
現職:
有限会社みわ薬局代表取締役
一般社団法人広島市薬剤師会理事
公益社団法人広島県薬剤師会代議員
一般社団法人広島県病院薬剤師会 精神科病院業務検討委員会委員
一般社団法人日本精神薬学会 地域医療連携推進委員会委員
日本赤十字広島看護大学 非常勤講師
広島市社会福祉審議会委員
広島市立吉島東小学校 学校薬剤師
認定:
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
所属学会:
日本薬剤師会
日本病院薬剤師会
日本精神薬学会
日本神経精神薬理学会
日本精神神経学会
山田雅彦先生のプロフィール
現職:
医療法人社団更生会草津病院 薬剤課 主任
広島県精神科病院協会 コメディカル委員会薬剤師部会委員
日本病院薬剤師会 精神科病院委員会委員
認定:
精神科薬物療法認定薬剤師
所属学会:
日本精神神経学会
日本精神薬学会
日本医療薬学会

01病院と薬局が環境と情報を統一し患者対応

厚生労働省は2011年に精神疾患を、がんや脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に加え「5疾病」とした。精神疾患の患者数は近年大幅に増加しており、2017年には400万人を超えた。職場におけるうつ病患者数の伸びが著しく、精神疾患は今や国民に広く関わる疾患となっている。精神疾患医療は、入院医療中心から地域生活中心へと、入院患者の地域移行が進められており、社会全体で患者を受け入れ支える体制づくりが求められている。

医療法人社団更生会草津病院は、広島市の中核的精神科救急医療施設である。開放的な治療環境で、精神科救急・急性期治療から地域リハビリテーションまで、トータルで患者をサポートする。専門的治療を行う一方で、患者がより地域で自立して生活できるよう地域との連携を深め、地域生活支援にも積極的に取り組んでいる。精神科病院としては大規模であり、外来患者は月4,500人を超える。

こごみ薬局は、2011年4月に草津病院が院外処方に移行するのを機に、門前薬局として開局された。管理薬剤師である栗原正亮氏は草津病院で17年間勤務し薬剤科長を務めた経歴を持つ。こごみ薬局の薬剤師4人も草津病院の薬剤課に勤務していた経験があり、薬局薬剤師はいずれも精神科医療での薬剤の取り扱いに精通する。

精神科医療では、薬物に対する反応や副作用の発現にも個人差が見られるため、患者に適した対応が個々必要になる。患者によっては、薬の形状や服用感、味などが変わることで、眠れなくなったり、不安を助長したりする恐れがある。精神疾患は同じ疾患でも患者によって薬の処方パターンや調剤方法が異なることもあるため、患者の希望に寄り添いながら患者の状態を適切に評価する必要があり、一般的な院外処方薬とは異なる対処が求められる。

なかでも患者服薬ニーズの違いには、特に注意が必要である。例えば一般的には2、3種類の薬をヒートで出すところ、処方された薬のうち、この薬とこの薬は一包化して、あとの1種類の薬はヒートで出して患者本人が服用調整する。薬袋に薬剤名を記載しない人、逆にすべて記載する必要のある人、薬の形状の違いや味・匂いに敏感な患者もいる。こういった服薬ニーズに応えることは適正な薬物療法の継続に必須である。また、日付記入やホチキス止めなど飲み忘れや飲み過ぎを防ぐための工夫も必須だ。服用量や服用パターンが日によって異なる患者に対しては、こごみ薬局で管理しながら、患者ごとの飲み忘れや飲み間違いを防ぐための調整を行っている。

さらにこごみ薬局では個々の患者の状態に即した細やかな配慮を心がけている。例えば処方薬について患者にその都度細かく説明するというよりも、患者の服薬状況を全体から捉えながら説明する内容について判断する。一つ一つの薬にこだわりすぎると、その薬がないと眠れない、その薬でなければ効かないといった依存状態を生み出してしまう。また、薬の副作用を心配しすぎて薬を飲めなくなる人もいる。説明しすぎずに必要最大の理解が得られて、薬の効果と副作用をどれだけ把握できるかが患者支援では肝要だ。いわゆる杓子定規なマニュアル通りの説明や服薬指導は逆効果なのだ。栗原氏は「どういった対応がベストかは患者さんごとに異なるが、適切な距離感を保ちながら接することで患者さんとの何気ない会話が生まれるようになる。そして聞き取った情報を記録し薬局内で共有することで次回以降の対応にも活かすことができる」と語る。草津病院薬剤課で勤務していた経験を持つ薬剤師がこごみ薬局に揃っているからこそ行える精神科医療での患者対応である。

患者のために環境を統一する取り組みは医薬品でも徹底されている。草津病院では患者の費用負担軽減に繋がるジェネリック医薬品採用にも積極的に取り組んでいるが、患者が混乱しないよう、退院後も同じ銘柄の薬となるよう院外処方は銘柄処方で統一されている。そのためジェネリック医薬品採用薬の選定にはこごみ薬局からも積極的に保険薬局としての提案が行われている。採用薬選定にあたっては、20項目程度の採用基準を設け、品質基準等の条件をクリアした3社程度まで絞った上で、さらに会社の信用度や実際の流通面、安定供給体制なども十分に精査した上で採用薬を決定する。精神科医療においてもジェネリック医薬品への抵抗感は少なくなっており、製品によっては服用感や使い勝手が向上しているものも増えているなど、現場の医師や患者の評価も高まっているという。

02退院時サマリー活用で入院から退院後まで一貫した患者サポート

精神疾患患者の薬物治療は退院後も継続されるケースが多い。病院と保険薬局とが患者情報を共有し、患者治療の継続に活かすことが重要になってくる。草津病院では、退院後に患者の情報が共有されるよう、「退院時サマリー」を作成し活用している。入院中の処方状況や薬剤投与方法、服用方法(本人管理か家族管理か)、退院直前での服用方法、服薬理解度、定期検査が必要な薬や検査値の情報など詳細に記録されている。

退院時サマリー作成にあたっては、こごみ薬局側が保険薬局として知りたい内容も項目として盛り込まれた。例えば抗精神病薬の持効性注射剤などの実施状況は処方箋からは読み取れないため、薬局では確認できない。また、定期検査が必要な薬などは、病院での最終検査日の把握や次回検査までの薬剤管理のために保険薬局として必要不可欠な情報もある。入院中にどのような処置が行われて、処方はどう変わったのか、患者の状態はどうなのかなど退院時サマリーの情報を充実させることで、精神疾患患者の服薬継続の支援に繋げている。
退院時サマリー作成以前は患者情報の確認に時間を要していたという。栗原氏は「退院後に初めて薬局に来られる場合、患者さんの入院中の記録は薬局にないので、入院前の記録になってしまう。病状の変化など一番大事な情報が欠けているわけで、薬局ではまず患者さんに入院から退院に至る経緯まで聞き取りしなければなりません。初めて来局される患者さんの場合など処方された薬が入院時から増量・減量されたのかなど薬局だけで判断できない内容もあります。患者さんからの聞き取り内容だけでは偏りがあったりすることもあり、退院時サマリー作成以前には、患者さんと話をしながら、病院の外来の看護師や薬剤師に確認を取るといった形で疑義照会をすることになり、患者さんをお待たせしている場での内容確認にもどかしさもありました」と語る。

今後退院時サマリーをより患者の治療支援に繋がるものになるよう充実していくことが課題である。例えば退院する前から患者の情報を保険薬局との間で共有できれば外来移行後もよりスムーズな対応ができる。退院後外来に移行した患者情報を病院と保険薬局が継続して共有することで、患者の日常的な状態を把握でき、再入院にも即対応可能となる。重要なのは患者情報の共有化、そしてその情報を患者の治療に活かすことだ。山田氏は「精神科の場合は患者さんとのおつきあいも長いですし、入院時・退院時だけでなく、経時的にどういう状態・状況なのかを病院・薬局双方でしっかり把握しながら患者さんと接していかなくてはいけない」と語る。

草津病院では、院外処方に全面移行し、現在病院薬剤師は病棟業務に専念している。病棟専任の薬剤師は担当病棟で直接患者の服薬指導を行うので、患者の状態が把握しやすく、その上患者と良好な関係を築きやすい。病棟業務に専念している薬剤師が退院時サマリーを作成し共有することで、患者が退院し外来通院で保険薬局に行くようになっても、薬について抵抗なく受け入れることができるようになる。患者が混乱したり不安に思ったりしないために、患者の状態把握を行うこと。そのため保険薬局と患者情報を共有することがますます重要となる。今後は合同勉強会や退院時カンファレンスなどを通じ情報共有を強化させることで、より円滑な精神科医療に繋げたいとしている。