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施設の取り組み
財団法人 星総合病院

遺伝性・家族性腫瘍研究の重要性の教育と啓発を目指す
東北家族性腫瘍研究会の活動と将来

写真.野水 整氏

野水 整氏(財団法人 星総合病院 病院長代行)
医学博士

認知度の低い遺伝性・家族性腫瘍

遺伝性・家族性腫瘍研究の教育と啓発を進める『東北家族性腫瘍研究会』の第15回学術集会が今年1月28日に宮城県仙台市で開催された。
遺伝性のがん研究は、大腸癌研究会でプロジェクトとして行われていた活動が下地となっており、その後、大腸がんに特化しない全ての遺伝性がんを主題とする研究会を立ち上げようという機運が高まり、1994年10月に日本家族性腫瘍研究会が発足した。そして、その第1回学術集会が福島県郡山市で開催されたことを契機とし、家族性腫瘍研究会の東北地方会として1997年10月に東北家族性腫瘍研究会が設立された。1998年2月に東北家族性腫瘍研究会第1回学術集会が宮城県仙台市で開催され、以降、東北地方を中心に遺伝性・家族性腫瘍の第一人者が一堂に会し、最先端の情報を共有する場として、年1回学術集会を仙台市で開催している。
活動の主眼を遺伝性・家族性腫瘍研究の重要性の教育と啓発とし、1つの施設では対応が困難な遺伝子診断や遺伝カウンセリング、症例検討などを研究会が中心となり進めることで、遺伝性・家族性腫瘍研究の普及拡大に尽力している。

遺伝子診断の普及を阻む高額な費用負担の壁

写真.野水 整_1

ある家系にがんの異常集積がみられる場合、それらの腫瘍を家族性腫瘍と言い、中でも発症の要因が遺伝にある場合は遺伝性腫瘍という。発症年齢が若いことや、複数の臓器にがんが発症するなどの特徴が研究により明らかになっている。がん患者全体の5~10%が家族性腫瘍であると言われており、その中でも遺伝性腫瘍は、一般のがんと異なる治療や対策が必要となる。例えば、乳がんに関係の深い遺伝子にBRCAというものがあり、BRCA遺伝子の変異ががんの増殖に密接に関係していることが明らかになりつつある。今、乳がんの中で話題になっているトリプルネガティブ乳がんと呼ばれる様々な薬剤が効きにくい非常にたちの悪い乳がんもBRCA遺伝子の変異が関係しているとも言われている。しかし、遺伝性・家族性腫瘍や遺伝子診断の有用性について理解している第一線の臨床医が少ないのが現状である。
東北家族性腫瘍研究会の中心的役割を担う星総合病院 病院長代行の野水整氏は「一部のがんが遺伝性のものであることをより多くのがんに携わる先生方に知ってもらえれば、遺伝子診断のきっかけが生まれ、診断結果より判明したことを治療に反映することができます。」と活動の重要性を強調する。遺伝子診断を行うことにより、適切な治療ができ、また、発症前診断とがんスクリーニングによって早期のがん発見に繋がり、若年者のがんの進行を防ぐことも可能となる。
遺伝子診断の普及において、最大の壁となっているのが高額な費用負担である。日本では遺伝子検査や遺伝カウンセリングは公的医療保険制度の対象とされておらず、原則全額自己負担となる。例えば、遺伝性の乳がんの遺伝子診断では20数万円の自己負担となる。これまで遺伝子診断については、厚生労働省がん研究助成金研究等で補填するケースが多かったが、最近では研究費の助成を受けることができないケースが増えてきている。そこで、星総合病院では、遺伝性の乳がんについて自費での診療開始になるが、将来的には先進医療を取り入れた保険適応の医療を目指し、昨年から遺伝子診断を開始した。昨年実施分についてはがん研究助成金研究費で全額補填できたのだが、今年からは自己負担での診断となる。診断希望者がいるか懸念していたが、遺伝子診断の重要性が認識され、今年2月の時点で診断希望者が既に2人現れたという。
「遺伝子診断が普及され、診断において自身の遺伝子に変異が見つかった場合、がんに罹患していない兄弟や子孫にも診断を受けてもらうことで、もし自身と同じ変異型の遺伝子が判明されると、将来、がんを発症する可能性が高いことが分かります。がんを発症する可能性が極めて高いことが分かると、定期的ながん検診を勧めてがんの早期発見に繋げることができるほか、治療方法の広がりも期待できるので手術の選択肢も増えます。」と野水氏は話す。

普及啓発活動を通じて遺伝性・家族性腫瘍研究の底上げをはかる

写真.野水 整_2

東北家族性腫瘍研究会として、今後も引き続き遺伝性・家族性腫瘍研究の重要性の教育と啓発を進めていくことを活動の主眼に置いている。遺伝性・家族性腫瘍の存在とその重要性をより多くの医療関係者に広めていくことで、遺伝子診断の有用性の理解が進み、遺伝子診断の臨床応用の進展が期待され、ひいては遺伝性・家族性腫瘍研究の底上げに繋がる。
手探りで進められてきた研究会の活動だが、発足から10年が経過し、当初、研究会が行ってきた遺伝子診断の受託や遺伝カウンセリング指導なども、今では病院が個別に実施できるようになってきた。その診断やカウンセリングの情報は、研究会の活動として共有され、症例の検討や臨床応用等に活かされつつある。
現在の啓発活動は医療関係者への訴えが中心となっているが、今後は、活動そのものへの支援や、行政への訴えなどがさらに重要になってくる。「遺伝性・家族性腫瘍の存在と重要性をアピールすることで、遺伝子診断にかかる費用負担の一部免除や、研究費用の助成など具体的な成果に繋げていきたい。」と野水氏は研究会の今後の展望を語った。


(2012年2月取材)

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