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がん化学療法の施行によって起こりうる有害事象ごとに、患者へ症状と対処法を説明するための文書。各項目で分冊化されており、必要な時に必要な項目のみを使用できるように工夫されている。
小路恵子, 小谷悠, 石川和宏ほか:外来がん化学療法において発現した有害事象の調査に基づいた患者向け説明書の作成, 日本緩和医療薬学雑誌 4: 31-39, 2011
石川 和宏氏(名古屋大学医学部附属病院 副薬剤部長)
医学博士、がん指導薬剤師
「どの病院でも行っていることですが」と前置きした上で、名古屋大学医学部附属病院(名大病院)副薬剤部長の石川和宏氏は、名大病院外来化学療法室ならではの取組みを「チーム医療です。」と明言する。がん化学療法を外来で行うことが普通になった現在、現場ではより一層のチームワークが求められている。外来で治療を終えて帰宅した患者の症状の変化は、入院時のように24時間医療スタッフが患者の側にいる訳ではないので細かくフォローできない。だからこそ、安全に治療を行う実施体制が重視される。外来化学療法室の特徴を石川氏は「外来化学療法室は、患者さんに起こる様々な事象に迅速に対処し、なおかつ何が起きうるかをあらかじめ患者さんに教育する、いわば専門部隊です。そのため、十分に経験を積んだ薬剤師、看護師を配置しています。目安となる経験年数は5年以上ですが、最近では、早い段階で経験を積ませるためにもう少し経験の浅いスタッフも参加しています。」と語る。
同院外来化学療法室の情報共有は、朝8時半から始まるカンファレンスが核となる。医師3~4名、看護師5~6名、薬剤師3名が参加し、実習生や他施設からの研修生が加わる場合もある。そこに、職種間のヒエラルキーはない。「非常に謙虚に、かつ深い議論ができる良い環境だと自負しています。各専門職が互いに敬意を払いつつ意見を出し合う、十分に熟したものが当院にはあります。」石川氏の口調は、化学療法部長を務める安藤雄一准教授の熱心な指導の下でそれを築き上げた自信にあふれている。
がん化学療法は、まさに薬剤師がその本領を発揮する最も重要な場面の一つである。石川氏は、がん化学療法における薬剤師の役割について「血液学的データや検査結果に基づいて、常に変動する患者さんの状況を正確に把握、分析し、その時々で患者さんに合わせた薬物療法を提案します。腎機能や代謝系の異常はないか、有害事象が出た場合はどの程度用量を下げるか、支持療法薬は適正か、前回の治療と照らし合わせて今回はどうなのか、決定権はもちろん医師が持っていますが、薬に関する細かく専門的な提案を積極的に行います。」と話す。
特に、がん化学療法は回数を重ねるうちに突然現れるアレルギーに注意が必要である。薬剤師は患者のがん化学療法の回数を把握し、アレルギー症状が現れるタイミングなどを看護師にアドバイスする。薬剤ごとに生じる可能性のある有害事象やその対応方法などの情報提供も含め、こうしたことが他職種からもっとも薬剤師が期待される部分だと石川氏は考えている。
もう一つの大事な役割が、患者への情報提供である。「短時間で簡潔に、その場で一番大事なことを伝える必要があります。かつ、患者さんやご家族など一般の方に分かりやすく伝える、いわば、指導力や教育力もがん化学療法の現場では求められています。」と石川氏は語る。
同院では、がん化学療法の有害事象などで現れる症状に特化した独自のパンフレットを作成しており、必要に応じて患者への説明に使用する。「患者さんの不安を軽減し、安心して治療を継続するためのものです。同時に、患者さんの不安に対して傾聴する、寄り添う姿勢も求められます。」と石川氏は話す。
「他職種と連携することで、互いの知識や動きが自然と身につくものです。」と石川氏は言う。「あえて職種の間に線引きをする必要はなく、医師・看護師・薬剤師が、同等の力を持てることが、チーム医療の良さです。例えば、以前はEGFR(epidermal growth factor receptor:上皮成長因子受容体)阻害剤による皮膚障害が起こるたびに皮膚科の医師を呼んでいましたが、経験を積み、既知の症例と同様の障害であるという判断ができれば、専門医へは電話などでの確認で済み、対応が可能です。法律上の規制を踏み外さない範囲内で、個々のスタッフが医師の分身となることは可能です。各職種のスキルミックスは自然な流れです。医師不足のハンデを補い、幅広い知識で患者さんに寄り添う効率の良い対応だと思います。」と石川氏は語る。
ここで知識とともに求められるのが、薬剤師のコミュニケーションスキルである。「薬剤師は専門性と人間性をともに兼ね備えることが理想だと考えています。」と石川氏は言う。そして若い薬剤師にこう教えている。「誠心誠意、患者さんに接しなさい。患者さんを支えることで、自分自身もすごく成長できます。未熟でも気持ちは伝わるもの。そこから臨床経験を積めば、専門性と人間性をバランス良く高めていけるはずです。」と、患者に対応する心の暖かみ、医療現場での人間性、社会性、患者を支えることの根本的な姿勢を訴える。
がん化学療法の中心が外来になり、また内服の抗がん剤が増えてきたことでクローズアップされてくるのが、大学病院と地域の保険薬局や診療所などとの連携である。名大病院でも地域との連携を大きな課題と捉えている。石川氏は「退院する患者さんが安心して地域でがん治療を継続するためには、地域の診療所や保険薬局が病院と同様の情報を共有し、患者さんを受け止められなければなりません。そのため病院には、地域医療を支える保険薬局の薬剤師など、スタッフ育成も求められます。しかし、患者さんの情報を保険薬局に提供することに対して、情報のセキュリティ面で検討の余地があるため、現在は、各種のがん治療に関わる薬剤部の職員が地域の保険薬局薬剤師を対象にレジメンの勉強会などを開き、来ていただくようにしています。2011年6月からは、レジメンと有害事象への対応方法をテーマに勉強会を開催しています。患者さんが安心して地域医療においてがん治療が継続できるように、まずは病院と地域との関係を構築し、知識の共有から始めたいと考えています。」と語った。
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がん化学療法の施行によって起こりうる有害事象ごとに、患者へ症状と対処法を説明するための文書。各項目で分冊化されており、必要な時に必要な項目のみを使用できるように工夫されている。
小路恵子, 小谷悠, 石川和宏ほか:外来がん化学療法において発現した有害事象の調査に基づいた患者向け説明書の作成, 日本緩和医療薬学雑誌 4: 31-39, 2011
(2011年6月取材)