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施設の取り組み
大垣市民病院 薬剤部

密な情報交換によりレベルアップを目指す
岐阜がん薬物療法懇話会の活動と将来

写真.吉村 知哲氏

吉村 知哲氏(大垣市民病院薬剤部 科長補佐)
薬学博士、がん専門薬剤師、がん指導薬剤師

がん化学療法に携わる薬剤師のレベルアップを目指す

がん化学療法に携わる薬剤師が現場での経験をもとに情報交換を行う『岐阜がん薬物療法懇話会』が立ち上げられ、今年の5月19日に第1回の懇話会が開催された。中心となる大垣市民病院薬剤部の吉村知哲氏は、立ち上げのきっかけをこう語る。「今までの岐阜県内でがんをテーマとした薬剤師の会は、人数が多く講演を聞くのみの受け身の会がほとんどでしたが、当懇話会ではディスカッションを中心に据えています。懇話会に参加したメンバーの所属する各施設が、現場で困っている内容を議題に挙げ話し合う、問題解決型の会を目指しています。県内のがん化学療法に携わる薬剤師である程度の経験があり、各施設で中心となって活動している先生方にお声掛けし、26名の小規模で密な会を発足しました。」
「目指すのは、各施設の情報交換とがん化学療法に関する薬剤師のレベルアップであり、そのレベルアップには2つのポイントがあります。1つはがん化学療法の安全性の確保、もう1つはいかに副作用を抑えて化学療法の治療効果を高めるかです。」と吉村氏は話す。「レジメンの登録制をまだ導入していない施設もあります。当院では、レジメンの管理、薬剤師による監査、安全な調製、投与後の副作用管理、支持療法、この5つが安全性に関するステップになります。治療効果を上げるためには、レジメンの検討から薬剤師が関わり、患者さんごとに最適なレジメンや投与量の提案ができることを目指しています。」

ディスカッションで施設ごとの情報を共有

写真.吉村 知哲_1

懇話会は、まず招かれた講師による基調講演があり、質疑応答からディスカッションへ広げていく。メンバーは県内の薬剤師会などで以前から顔見知りの間柄ではあるが、ディスカッションとなると最初はなかなか意見が出にくい。そこで、まず講師に座長からの質問に答えて頂き、その後参加者を指名し、それぞれの施設での事例はどうかと問いかけをする。そのうち指名しなくても意見が交わされるようになる。これが懇話会のポイントで、それぞれの施設の情報を聞き出し、情報交換ができる関係を目指している。
第1回の今回は、カルボプラチン投与量と血清クレアチニン値の相関性に関するテーマがあった。「カルボプラチン投与量を決定する計算式で、血清クレアチニン値をそのまま使用するか、0.2を加えた補正値を使用するかが話題となりました。補正値を使用していない施設や、実測値に0.2を加えて補正している施設などがあり、その取り扱いに違いがあることが分かりました。また、血清クレアチニン値が0.6を下回る場合、カルボプラチンの量が過量になることがあります。当院でも過去このような事例がありました。その際は、血清クレアチニン値を0.6としカルボプラチンの量を計算しましたが、血清クレアチニン値に関わらずAUCを元に計算しカルボプラチン投与量の上限を決めるという内容のFDAの論文が参加メンバーから紹介され、参考になりました。どの方法が正しいということではなく、このように他施設での情報が出てくると、参加者は投与量を検討する際の参考にすることができます。」と吉村氏は語る。懇話会の席上だけでは話しきれないこと、また普段の疑問を解決するために、懇話会のメンバーでメーリングリストも立ち上げたという。

支持療法を薬剤師主導で行えるレベルを目指して

写真.吉村 知哲_2

大垣市民病院では、がん化学療法における支持療法は基本的に薬剤師が処方を提案し、医師が承認する方法を用いている。吉村氏は「薬剤師が処方の提案を行うことは責任重大です。それ故に、副作用管理や支持療法薬の確固たる知識、その知識を得るための情報収集が必要です。先日、アメリカ・ミシガン州の病院を訪れた際、現地の薬剤師が処方する権利を持ち、疼痛管理のオピオイドの処方も行う姿を見て、支持療法に関しては薬剤師が責任を持って提案し、管理できるのが理想だと感じました。」と語る。
その一方で、知識だけでなく、チーム医療の中における各職種の関係性も重要だ。施設により規模も院内での薬剤師の立ち位置も異なるからだ。「今年の10月に兵庫県神戸市で第21回日本医療薬学会年会が開催されます。『一般病院における外来化学療法-チーム医療において薬剤師はどこまで関われるか-』というテーマでシンポジウムを受け持っていますが、そこで中小病院の代表として発表される予定の施設では、薬剤師の人数は少ないけれど治療の方針決定には必ず薬剤師が医師と一緒に入っているそうです。もちろん、個人の資質もあるでしょうが、基本的には施設の規模に応じた取組みができるはずだという思いはあります。」と吉村氏は話す。「治療方針の決定に薬剤師が参画できることは重要です。知識と経験がある薬剤師がそこまで踏み込むことが出来れば、医師の力になれるはずですし、チームは発展します。標準治療は決まっていますが、個々の患者さんへの選択肢を医師とは異なる視点で捉えられることもあるはずです。6年制の薬学教育も始まり、知識も豊富でモチベーションの高い若い薬剤師が出てくるので、そういう彼らの資質を活かす現場を作りたいです。いかに薬剤師が関わり医療安全を向上させ、そのエビデンスを作り、医療に貢献するか、それがこれからの大きな課題ですね。」と吉村氏は結んだ。

第1回岐阜がん薬物療法懇話会の様子

座長の吉村氏を含め、岐阜県内でがん化学療法に携わる総勢26名の薬剤師が参加。約30分の名古屋大学医学部附属病院 副薬剤部長の石川氏の基調講演の後、約1時間半にわたり参加者によるディスカッションが行われた。


(2011年6月取材)

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