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施設の取り組み
北海道大学大学院薬学研究院 臨床薬学教育研究センター

北海道から世界の薬剤師業務をリードする高いレベルの薬剤師輩出を目指す

写真.柴山 良彦氏

柴山 良彦氏(北海道大学大学院薬学研究院 臨床薬学教育研究センター 准教授)

専門性の高い薬剤師の養成を目指す

写真.柴山 良彦氏による説明_1

薬学教育6年制が発足して5年。来年には、初の6年制卒業の薬剤師が誕生する。これは、薬剤師という職業にとって、大きな契機となる。6年間の臨床薬学教育を受けてきた薬剤師がどのように医療に貢献するかが問われるからだ。
2010年4月北海道大学は、6年制発足後の薬学教育・研究体制を充実させるために臨床薬学教育研究センターを設立した。同センター設立にあたり、鹿児島大学病院から移籍してきた柴山良彦氏は、「来年から輩出される6年制薬剤師が、卒業後に医学部や歯学部と同じレベルの高い専門職教育を受けるための養成機関は未整備です。それを構築する必要があります。」と指摘する。
その上で「当センターの目的は、指導的あるいは専門性の高い薬剤師の育成です。同時に、4年制の薬学教育を受け、現在臨床現場で活動している薬剤師のレベルを引き上げ、世界に通用するレベルの薬剤師を育成したいと考えています。北海道から、チーム医療のなかで新しい役割を背負って立つ、高いレベルの薬剤師の輩出を目指しています。」と意気込みを語る。

目的は患者への貢献

現在、薬剤師の世界では、がん専門薬剤師やがん薬物療法認定薬剤師などの資格が注目を浴びている。しかし、同センターはこのような資格を持つ薬剤師の育成を目指す訳ではない。専門や認定の取得は、最終的にいかに患者に貢献し、社会に役立てるかの通過点にすぎない。だからそれらの資格取得を「目標にするのはいいけれど、目的にするのは違います。」と強調する。
柴山氏はこれからのがん治療について、「薬物療法は、薬剤師が主導していくべきです。」と話す。がん治療におけるチーム医療の重要性が高まる中で、ケアは看護師が、生活などはMSW(メディカルソーシャルワーカー)が、そして医師はそれらをトータルマネジメントするのがそれぞれの役割となってくる。その中で薬剤師の役割は、医師が診断・治療方針を決めた後、標準治療を的確に安全に実施していくことである。
柴山氏は、「抗がん薬による治療は危険なイメージがありますが、だからこそ薬剤師が積極的に貢献すべき領域の1つです。」と指摘する。そして、「このような役割を担うことができる専門性の高い薬剤師を輩出することが目的です。」と語る。

保険薬局対象の在宅医療講座を開設

そのために同センターがまず着手するのが、保険薬局に対する在宅医療についての医療薬学講座である。「北海道は広いため、高齢者には通院の負担が大きいのです。まして雪に閉じ込められる冬は、治療のために点滴に通うのさえ困難になります。そのため、在宅で内服薬から注射薬、栄養管理、最終的には緩和医療まで含めてケアできる薬剤師を育てることがこの講座の狙いです。」という。
同講座は地域医療支援センター薬局整備事業との共同プログラムで行うもので、毎週1回開催し、北海道薬剤師会と協力して道内十数カ所をインターネットでつないで行われる。内容は、フィジカルアセスメントや経腸栄養法、緩和医療、がんの標準医療などについてである。
2006年の医療法改正で、保険薬局も医療提供施設として位置付けられた。そして現在、がん治療が入院から外来にシフトしている中で、「保険薬局も病院と協力して在宅の薬物療法を担っていかなければいけない時代にきています。」と柴山氏は指摘する。
この講座は今年の6月から開催している。保険薬局の薬剤師はもちろん、病院の薬剤師にも参加を呼び掛け、毎回200~300名の参加者を見込んでいる。

目指すのは世界をリードする薬剤師

写真.柴山 良彦氏による説明_2

一方、今年度から公募を行う大学院については、「6年間かけて臨床薬学を学び、長期の実務実習も経験してきた新たな薬剤師に対する教育です。チーム医療の一端を担う薬剤師の輩出とともに、世界をリードしていく薬剤師の育成も目指します。」と目標を掲げる。
医療サービスのグローバル化は急速に進んでいる。日本の患者がアメリカで治療を受けることは、もはや普通のことである。アメリカのがん専門病院であるMDアンダーソンやメイヨークリニックでは、積極的に海外のがん患者を受け入れる体制を作っている。
「日本でも、国内の患者さんだけでなく、アメリカや中国、インドなどの患者さんを受け入れるようになる日がきます。」と柴山氏はいう。
抗がん薬の治療はアメリカが進んでいるが、日本では手術、特に消化器がんの手術についてはアメリカをはるかにしのいでいる。また、医療の費用対効果が高いことも日本の強みである。そうした中で、「海外の研究機関、医療機関と手を組んで治療を行っていくことも、がん治療の1つのオプションとなるでしょう。」と柴山氏は予想する。『世界水準の治療が道内のどこでもできるという仕組みを作ること』それが同研究センターでの教育の目標となっている。さらに「将来的には、薬剤師主導の臨床研究も行っていきたいですね。たとえば、在宅医療に薬剤師が介入することで、入院よりも在宅のほうが生存率が良い、患者満足度が高いなどのエビデンスを出し、薬剤師の存在意義をより明確化していきたいと考えています。」と今後の展望を語った。

臨床薬学教育研究センターの概要

同センターは、有資格者を対象とした生涯研修教育と、大学院社会人コースによる臨床教育・研究を2つの柱として専門性の高い薬剤師養成を目指す。

※画像をクリックすると、図が拡大されます。


(2011年5月取材)

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