1泊2日で外来での大腸がん治療に関連する講義と見学、実習などが行われた。第1回目の意見を参考に、講義を受けてから現場を見学する流れに変更が図られた。
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久保田 康生氏(北海道大学病院薬剤部 主任)
がん専門薬剤師
北海道大学病院(北大病院)は、地域がん診療連携拠点病院に指定されている。
地域連携室を事務局とし、北大病院腫瘍センターが実施する『外来がん治療研修会』は、北海道におけるがん医療の均てん化を図り、道内のどこでも標準的ながん治療が受けられる体制作りを目的に昨年11月に発足した。
研修会は年2回、春と秋に開催する。第1回は2010年11月、第2回は2011年3月に実施された。「原則として参加施設は、医師、看護師、薬剤師の3名を1チームとして参加してもらいます。研修会の案内は、北大病院と連携している道内医療施設に送り、希望した施設のスタッフが無料で参加できますが、受け入れる当院側のキャパシティを考慮し、1回の研修会につき参加できるのは3施設を目処としています。研修会は1泊2日で行われ、1日目は朝10時から夜7時まで、2日目は朝8時50分から午後3時までのスケジュールが組まれ、がん治療に関わる講義と当院の見学が行われます。」と久保田康生氏は説明する(表)。
北大病院からは、腫瘍センターの医師と化学療法部(外来治療センター)の看護師、薬剤師である久保田氏が講師として参加する。
さらに、札幌がん専門薬剤師セミナーを通じて、「今後は北海道のがん治療に携わる薬剤師のネットワークを作っていきたいです。」と玉木氏は語る。
この研修会の特徴は、これらの講義や見学の参加者を職種ごとで分けていないことである。どの職種の参加者も同じ講義を受ける。「がん治療にはチーム医療が不可欠です。そしてチーム医療を行っていくためには互いの職種がどんなことをやっているのか、何ができるのかを理解することが重要です。」と、久保田氏はその理由を話す。互いの職能を知ることで、これは薬剤師に任せられるとか、そこをカバーするためにはこういうシステムが必要だといった具体的な役割分担の方法が見えてくる。
また、「見学は、北大病院がどのようにがん治療を行っているのか、ありのままを見てもらうようにしています。外来治療センターの見学では、運営方法やスタッフの役割分担、混注した薬剤がどのようなシステムで安全に患者さんに投与されるのかといった、実際の運営方法に参加者の興味が高いですね。」と言う。緩和ケアの講義やキャンサーボードにも参加してもらい、がん治療における各職種の関わり方を感じてもらう。
そして、薬剤部実習では、安全キャビネットや無菌室がない病院で、医師や看護師が混注する場合の曝露が小さくなる手技を教えたり、抗がん剤がこぼれた時の対処法なども行っている。
さらに「北大病院が使用している書類を参考に、インフォームドコンセントの資料や治療コースを患者さんに説明するための説明文書の作成も支援しています。当院の患者説明文書などは、すべて弁護士の監査を通しており、必要な説明項目を知ってもらうために行っています。」(久保田氏)
そして、研修会終了後は参加者に修了証が手渡される。
研修会で目指しているのは、地域が連携してがん患者を治療できる体制作りだ。道内の各地域から北大病院を受診しがん治療を開始した患者が、地域に戻っても同院と同じレベルの治療を継続できることを目標としている。そのためにチーム医療の重要性を知ってもらうことに主眼を置いている。
久保田氏は薬剤師の立場から、「一昔前は、薬剤師の役割は抗がん剤を調製して渡して、それで終わりでした。」と話す。「しかし今は、薬剤師の立場から医師・看護師にアドバイスをしたり、医師・看護師から相談を受けるようになってきました。薬剤師が患者さんのことを考えて様々な情報提供を行っていると、医師も治療の意図などについて、時間を割いて説明してくれるようになりました。」と言う。
各診療科の主治医と外来治療センターの看護師・薬剤師が、患者ケアやリスクを回避できる運営方法について話し合う実務者会議も毎月開かれており、より密なコミュニケーションがとれるようにもなった。
こうした、がん治療に携わる医療スタッフが互いに顔を合わせ、チーム医療を実践していることが同院の高い治療レベルに結びついている。「具体的な治療の知識とともに、研修会を通じてチーム医療の必要性も肌で感じていただければと思います。」と希望を口にする。
同研修会は昨年から開催し、今回で2回目だが、今後も経験を踏まえて改善しながら継続していく予定である。現在は消化器のがん治療を中心に行っているが、参加施設の要望などを取り入れ、今後は乳腺外科など、患者数の多い他領域にも広げていく構想などがあがっている。
一方で、「研修会に参加することで、どのようなことが役に立ったのか、足りない要素は何か、最終的には連携先の病院において、北大病院での治療を継続して実施するという目的が達成されているか、これから検証をしていく必要があります。」と言う。その上で、「今発行している修了証が、いつか何らかの意味を持つように発展させていきたいというのがスタッフ一同の願いです。」と語った。
(2011年5月取材)