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施設の取り組み

特定非営利活動法人どんぐり未来塾(宮城県仙台市)

「患者さんを副作用から守ろう!」を合言葉に活動 『今、起きる可能性のある副作用』をチェックできる業務システム作成プロジェクト(コロプロ)を展開

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特定非営利活動法人どんぐり未来塾(宮城県仙台市)

特定非営利活動法人どんぐり未来塾

「患者さんを副作用から守ろう!」を合言葉に、所属や業態の枠を超えて集まった薬剤師が生涯学習や社会貢献活動を行っている。2013年8月に特定非営利活動法人として法人化し活動を広げている。

 

患者さんを副作用から守ることは、薬剤師の重要な役割の一つである。安心して薬を服用してもらうためには、患者さんのわずかな変化や違和感を見逃さず、患者さん個々に起きる副作用を予測し、副作用をモニタリング、副作用発現や重症化を予防するために医師への処方提案が必要になってくる。宮城県仙台市で薬剤師が中心になり活動するNPO法人どんぐり未来塾は、「患者さんを副作用から守ろう!」を合言葉に、副作用機序別分類や薬物動態を副作用チェックに使えるよう広める活動をしている。

どんぐり未来塾のメンバーのほとんどは現役の薬局薬剤師である。活動のきっかけとなったのが、どんぐり工房代表の菅野彊先生(現在は顧問)による薬物動態と副作用機序別分類を学ぶ研修会である。副作用機序別分類とは、医薬品の副作用を臓器別ではなく、発生機序別に考え、薬理作用・薬物毒性・薬物過敏症の3つの発生機序に分類する方法論で、菅野先生が提唱する薬物治療の副作用を適切に予測するための手法である。臓器別ではなく発生機序別に考えることで、副作用の予測を立てやすくした。副作用機序別分類を活用すれば、患者さんの薬の服用期間に合わせた副作用の情報提供・モニタリングや、薬剤服用の継続可否についての判断、根拠を持ったうえで医師へ情報提供ができるようになる。

どんぐり未来塾ではこの薬物動態と副作用機序別分類についての勉強会(研修会)を重要な活動の一つにおいている。どんぐり未来塾のメンバーは研修会で学んだ知識を日々の業務に活かし、患者さんの副作用チェックに役立てている。NPO法人化したことで、有志の団体では難しかった講演会や研修会活動を、より多くの薬剤師、地域へと広げることができるようになった。研修会の開催地は東北に留まらず、現在では全国各地へと広がっており、薬剤師を対象とした研修だけでなく、一般向け市民講座も開催するなど好評を得ている。

発生機序から考える副作用チェック~副作用機序別分類

副作用機序別分類では、薬理作用による副作用を、①期待される薬理作用が過剰に発現して起こる副作用、②副次的な薬理作用によって起こる副作用、③薬理作用の消失によって現れる副作用の3つに分けて考える。これらは発生頻度が高く、投与量に依存する。

薬物毒性は、薬の代謝負荷や通過刺激によって生じるものである。投与量が多く、投与期間が長いほど起こる可能性が高くなる。定期的な検査で副作用発現をチェックしていくことが重要である。

最後に薬物過敏症による副作用は、薬理作用や毒性による副作用と違って、起きたらすぐに投与を中止することが重要である。薬物過敏症には重篤な症状が多く、あらゆる薬であらゆる臓器に起こる。チェックや予防の難しい副作用だが、頻度は低く、多くの場合、服用6ヶ月以内に発現するため、投与開始6ヶ月間のしっかりとしたチェックが必要となる。

副作用機序別分類を実践する上で、各薬剤の作用機序をしっかりと押さえておくことが重要である。例えばカルシウム拮抗薬の副作用の一つに便秘がある。カルシウム拮抗薬は血管を構成する平滑筋の中にあるカルシウムチャネルをブロックすることで平滑筋の収縮を抑え、血管を広げて血圧を下げる。血管平滑筋だけでなく、カルシウム拮抗薬が腸管の平滑筋に働きかけると、蠕動運動が抑制され、便秘が起こる。作用機序が分かれば、便秘はそもそも薬の作用によって起きるものだということが分かり、患者さんは症状が起きる理由や原因が分からないまま自己判断で下剤を服用したり、薬の服用を中止したりせずに済む。作用機序から読み解くことで副作用の原因と対処法に繋げやすくなる。

しかし、患者さんを目の前に、個々の薬剤師がその場で実践するのは容易でなない。そこで、あらかじめ医薬品すべてを機序別分類して、副作用情報を網羅したデータベースを作った。どんぐり未来塾のメンバーが自分たちの薬局での業務が終わった後に、情報収集や分類作業を行い、4年がかりでデータを作り上げた後、システム会社やデータベース会社に委託しシステムを完成させた。それが、副作用機序別分類データベースである。

「今、起きる可能性のある副作用」をチェックできるシステムを目指す
コロコロプロジェクト(コロプロ)

日々の業務で行う副作用チェックをより体系的・効率的に行えないか、収集した副作用情報を蓄積し、薬剤師業務に利用できないか、と考えて作られたのが、副作用チェック業務システム、コロコロプロジェクト、通称コロプロ:collect origin record of patient real conditionである。

 

特定非営利活動法人どんぐり未来塾

コロプロの流れは、まずチェックシートを使って患者さんからの副作用情報の収集を行う。副作用の有無を聞き取るための症状チェックシートを使用し、来局時に書き込んでもらうことで、症状の聞き取りをスムーズに行う事ができる。チェックシートはイラスト入りで症状の表現も分かりやすくなっており、気になる症状を〇で囲む(図1)。

 

その後に薬剤師が詳細情報を聞き取って、別紙の症状別のシートに記載する(図2)。

  • (図1)お薬を服用中の患者さんさまへ
  • (図2)症状別のシート

その情報をデータとして入力し、データベースに蓄積していく(図3)。

薬剤師が直接、患者さんに口頭で聞き取ると薬剤師のバイアスがかかりやすい。例えば糖尿病の患者さんに「低血糖が起きていないか」という様な一般的な副作用情報に繋げてしまいがちである。患者さんが今感じている症状をそのまま伝えてもらうことで、軽視しがちな症状や副作用がより明らかになる。実際、口頭での聞き取りでは、症状の変化について特になしの回答が多いが、患者さんによる記述式にすると400人中172人が何らかの症状があると回答している。

データ入力で蓄積した症状発現件数と、副作用機序別分類データベースを活用した結果を出力すると、服用薬、服用期間、症状から、副作用の可能性を推測することができる(図4)。

  • (図3)
    データベース 拡大する
  • (図4)
    薬剤の報告件数 拡大する

副作用症状は、表現を簡潔にした上で、入力した薬剤に対する副作用症状が添付文書上にあるかどうかが表示される(図5)。

さらに副作用の発生機序や分類理由も記載した。佐藤氏は、「自分たちが分らなくて勉強したものなので、誰にでも分りやすくしようと思った。最初に該当する薬剤の作用機序を示し、分類理由と副作用症状を記載した。また、副作用が起きたときの対処方法も示し、現場の薬剤師がすぐに使えるような仕様にした(図6)。分類の理由を添えたのは、いろんな作用があると思うので、私達はこういうことを考えてこう分類しました、私達の意見ですということをまとめた」と話す。

  • (図5)
    副作用一覧 拡大する
  • (図6) 副作用症状・対応方法

 

今後の課題はデータベースの充実である。症状データの蓄積によって、個々の患者さんの状況に合わせ、起きる可能性のある副作用予測だけでなく、充実した副作用情報の提供が行える。現在のところコロプロのデータはどんぐり未来塾のメンバーや関係者が持ち寄って作られたものが中心となっており、400件程度とまだ十分ではない。どんぐり未来塾では今後より多くの薬局にデータの登録を働きかけ、患者さんの副作用チェックに活かせるようデータベースの充実を進めていきたいとしている。2021年5月に登録薬局1000店舗、40,000件のデータ登録を目標にしている。また、入力したデータをPMDAへの副作用情報報告に繋げたり、処方医への服薬情報提供に活用できるシステム作成なども検討している。

(2018年8月)