2020年10月15日 16:15
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)はこのほど、NCNP神経研究所疾病研究第4部の橋本興人研究員らが、幼少期のアトピー性皮膚炎によるストレスが脳内炎症反応の応答性増大持続を促し、これが思春期のうつ様症状誘導の原因となる可能性を示したと発表した。【新井哉】
幼少期のアトピー性皮膚炎は、強い掻痒感で生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、その後のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎への引き金になることが知られている。こうした他のアレルギー性疾患に罹患するリスクだけでなく、精神疾患や発達障害の罹患リスクが高まることが疫学的に報告されているが、詳細な因果関係や分子メカニズムに関しては、ほとんど何も分かっていない。 橋本研究員らは、乳幼児期のマウスを用いてアトピー性皮膚炎モデルマウスを作成。乳幼児期におけるアトピー性皮膚炎の思春期での影響を検証するため、生後40日目のアトピー性皮膚炎モデルマウスの行動解析を行ったところ、通常の状態ではコントロールマウスと比べて明らかな異常は認めなかったが、アトピー性皮膚炎モデルマウスの扁桃体で脳内炎症に関わる主要細胞のミクログリアの機能抑制因子「CD200R1」の発現が抑制されていることが明らかになった。
アトピー性皮膚炎モデルマウスにリポポリサッカライド(LPS)全身投与による全身性炎症反応を誘導したところ、アトピー性皮膚炎モデルマウスの扁桃体や海馬ではIba-1陽性の活性型ミクログリアの数が有意に増加。LPS全身投与4時間後のアトピー性皮膚炎モデルマウスの海馬でのIL-6の有意な発現上昇を認めた。このような結果から、生後40日目のアトピー性皮膚炎モデルマウスの脳内では、炎症反応に対するプライミング状態が誘導されていたことが明らかとなった。
生後40日目にLPS全身投与を行い24時間後の行動解析を行った結果、コントロールマウスでは、生理食塩水投与群と比べて明らかな変化は認めなかったが、アトピー性皮膚炎モデルマウスではLPS全身投与24時間後に糖嗜好試験におけるショ糖水飲水割合低下、尾懸垂試験における無動時間の増加といったうつ様症状を示した。また、うつ様症状出現の原因として、LPS全身投与4時間後のアトピー性皮膚炎モデルマウスの海馬、前頭前皮質、扁桃体で、キヌレニン代謝の律速酵素であるIDOやKMOの発現がLPS投与群で有意に上昇を認めていることから、キヌレニン代謝異常による代謝産物の影響でうつ様症状が誘導されていることが示唆された。
これまで乳幼児期のアトピー性皮膚炎に対する予防や治療として、皮膚症状や随伴するアレルギー症状に焦点を当てた予防・治療計画が主流であったが、今後は将来の精神・神経発達を含めた予防や治療の重要性を示すことができたとしている。また、乳幼児期のストレス全般において、その後の精神・神経発達への影響に脳内炎症に対するプライミング機構の関与が明らかになったことも指摘。乳幼児期の環境が将来の精神・神経発達へ及ぼす影響に対する分子機構の一部を明らかにすることができたとし、「今後新たな予防法や治療法開発につながることが期待されます」としている。
幼少期のアトピー性皮膚炎は、強い掻痒感で生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、その後のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎への引き金になることが知られている。こうした他のアレルギー性疾患に罹患するリスクだけでなく、精神疾患や発達障害の罹患リスクが高まることが疫学的に報告されているが、詳細な因果関係や分子メカニズムに関しては、ほとんど何も分かっていない。 橋本研究員らは、乳幼児期のマウスを用いてアトピー性皮膚炎モデルマウスを作成。乳幼児期におけるアトピー性皮膚炎の思春期での影響を検証するため、生後40日目のアトピー性皮膚炎モデルマウスの行動解析を行ったところ、通常の状態ではコントロールマウスと比べて明らかな異常は認めなかったが、アトピー性皮膚炎モデルマウスの扁桃体で脳内炎症に関わる主要細胞のミクログリアの機能抑制因子「CD200R1」の発現が抑制されていることが明らかになった。
アトピー性皮膚炎モデルマウスにリポポリサッカライド(LPS)全身投与による全身性炎症反応を誘導したところ、アトピー性皮膚炎モデルマウスの扁桃体や海馬ではIba-1陽性の活性型ミクログリアの数が有意に増加。LPS全身投与4時間後のアトピー性皮膚炎モデルマウスの海馬でのIL-6の有意な発現上昇を認めた。このような結果から、生後40日目のアトピー性皮膚炎モデルマウスの脳内では、炎症反応に対するプライミング状態が誘導されていたことが明らかとなった。
生後40日目にLPS全身投与を行い24時間後の行動解析を行った結果、コントロールマウスでは、生理食塩水投与群と比べて明らかな変化は認めなかったが、アトピー性皮膚炎モデルマウスではLPS全身投与24時間後に糖嗜好試験におけるショ糖水飲水割合低下、尾懸垂試験における無動時間の増加といったうつ様症状を示した。また、うつ様症状出現の原因として、LPS全身投与4時間後のアトピー性皮膚炎モデルマウスの海馬、前頭前皮質、扁桃体で、キヌレニン代謝の律速酵素であるIDOやKMOの発現がLPS投与群で有意に上昇を認めていることから、キヌレニン代謝異常による代謝産物の影響でうつ様症状が誘導されていることが示唆された。
これまで乳幼児期のアトピー性皮膚炎に対する予防や治療として、皮膚症状や随伴するアレルギー症状に焦点を当てた予防・治療計画が主流であったが、今後は将来の精神・神経発達を含めた予防や治療の重要性を示すことができたとしている。また、乳幼児期のストレス全般において、その後の精神・神経発達への影響に脳内炎症に対するプライミング機構の関与が明らかになったことも指摘。乳幼児期の環境が将来の精神・神経発達へ及ぼす影響に対する分子機構の一部を明らかにすることができたとし、「今後新たな予防法や治療法開発につながることが期待されます」としている。