閉じる

医療・介護ニュース

窃盗症患者、健常者に見られない視線の動きと反応-京都大が研究グループの成果発表

2023年02月21日 18:40

印刷

 京都大はこのほど、同大大学院情報学研究科の後藤幸織准教授らの研究グループが、窃盗症(クレプトマニア・Kleptomania)の患者について、窃盗症を引き起こすと考えられる視覚的な手がかり刺激に対して、健常者には見られないような視線の動きと脳活動の反応が見られることを明らかにしたと発表した。【新井哉】

 窃盗症は、物を盗みたいという衝動や欲求を制御できず、繰り返し窃盗をしてやめることのできない精神障害。万引きなどの犯罪で逮捕される人の中には、窃盗症が少なくないが、科学的な研究はほとんど行われておらず、そのメカニズムは分かっていない。

 研究グループは、研究対象者(窃盗症患者11人、健常者27人)のデータを収集。窃盗への渇望を引き起こすと考えられるスーパーマーケットの風景や、販売されている商品、それらとは関係のない外の風景などの画像やビデオを呈示した。研究対象者が、これらの画像やビデオを見ている際、アイトラッキング装置を用いて画像呈示中の視線追跡や瞬き、瞳孔の変化の計測を実施。機能的近赤外線分光法を用いて、脳の前頭前皮質領域の活動を測定した。

 計測の結果、窃盗症患者では、視覚的な手がかり刺激を含む画像に対して、視線の注視点、瞬き、瞳孔の変化などから構成される視線のパターンが、他の画像に対する視線パターンと異なることが示された。同様に、前頭前皮質の活動のパターンでも、窃盗症患者は、視覚的な手がかり刺激を含む画像とそれ以外の画像では大きく異なっていた。健常者では、そのような特定の画像に対する特異的な視線パターンや前頭前皮質活動は見られなかった。

 これらのことから、「窃盗症患者では、窃盗行為に関連する視覚的な手がかり刺激を誤って学習してしまった結果、このような手がかり刺激を健常者とは異なる方法で知覚している」と考察。先行研究では、薬物依存症でも手がかり刺激に対する特異的な反応が報告されており、今回の研究は「窃盗症は依存症と同様のメカニズムが関わっている可能性を初めて示唆するもの」としている。

 研究結果については、行動依存症の解明や予防・治療に役立つと考えられ、「今後は他の行動依存症との関連や薬物依存症との関連を追求する予定」と説明している。今回の研究の成果は、英国の国際学術誌「International Journal of Neuropsychopharmacology」(オンライン)に掲載された。

出典:医療介護CBニュース