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医療・介護ニュース

アストロサイトが正常眼圧緑内障発症原因の可能性-山梨大が研究成果を発表、新薬開発に期待も

2022年11月07日 14:20

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 山梨大は、同大大学院総合研究部医学域薬理学講座の小泉修一教授と篠崎陽一准教授らの研究チームが、世界で初めて網膜や視神経に存在するアストロサイト(グリア細胞の一種)が緑内障、特に正常眼圧緑内障の発症の原因となる可能性を実験的に示したと発表した。今後、アストロサイトの機能を制御する新たな緑内障治療薬の開発が期待されるという。【新井哉】

 緑内障は国内の中途失明原因の第1位の疾患で、有病率は40歳以上で約5%と言われている。加齢に伴い、その割合はさらに上昇する。発症の最大のリスク因子の1つが眼圧で、視覚情報を脳へ伝達する網膜神経節細胞(RGC)の障害によって失明が引き起こされると考えられている。

 緑内障の進行を遅らせる治療として、眼圧を下げる処置が取られ、既に複数の眼圧を下げる点眼薬が治療に用いられている。しかし、単一の薬剤では効果が不十分であったり、薬剤の効果が徐々に減弱したりする場合がある。また、眼圧を十分下降させても症状が進行してしまう場合があるほか、さまざまな副作用などの問題がある。日本人の緑内障の患者の多くは眼圧が正常である正常眼圧緑内障に相当するため、眼圧以外の新たな治療標的の探索が喫緊の課題となっていた。

 緑内障は多因子疾患で、危険因子の1つに遺伝的要因があり、ABCA1(ATP-bindingcassette transporter A1)遺伝子の一塩基多型と緑内障発症リスクに相関があることが明らかとなっている。ABCA1が何らかの形で緑内障発症に関わることが推察されるが、▽ABCA1機能の欠損または異常な機能の獲得のどちらが大事なのか▽緑内障リスクとして最もよく知られる眼圧に影響するのか▽ABCA1は眼のどの細胞に発現して緑内障に寄与するのか-といったメカニズムについては、ほとんど明らかになっていなかった、

 研究チームは、世界中の緑内障患者を対象とした GWASと呼ばれる遺伝子変異解析のデータベースから、ABCA1の異常を見い出し、この分子に注目した解析を始めた。マウスを使った実験で、ABCA1が網膜や視神経周囲に存在する「グリア細胞」と呼ばれる細胞群のうち、アストロサイトに存在していることや、このABCA1の機能が損なわれると眼圧が正常にもかかわらず網膜の神経細胞が傷害され正常眼圧緑内障様の症状を引き起こすことを発見した。

 また、「1細胞RNAシークエンス」による解析から、アストロサイトは「ケモカイン」を産生することや、グルタミン酸受容体サブタイプ「NR3A」を持つ神経細胞が選択的に傷害を受けることを明らかにした。研究成果は米国科学振興協会(AAAS)が刊行するオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。

出典:医療介護CBニュース