2022年11月02日 15:00
オンライン診療は日本で本当に必要なのか-。「ホスピタルマネジメント・ジャパンサミット」(マーカスエバンズ主催)が開かれ、医療者によるディスカッションでこのような本質的な議論が交わされ、会場は盛り上がった。自身が理事長を務める診療所でオンライン診療を積極的に行っている黒木春郎氏は、「オンライン診療でこそ得られる患者の情報がある」とし、対面診療よりも優れている点を強調した。【松村秀士】
■オンライン診療の適応とは
黒木氏によると、イスラエルや米国などは新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなり、オンライン診療の実施が広がった。例えばイスラエルでは、感染の疑いのある人が自宅で血中の酸素飽和度や体温を測り、オンラインで医療機関にいるドクターに伝える。それを踏まえて、ドクターは問診や視診を行って適切な対処法を患者に説明する。これを連日繰り返すことで重症化を防止し、同国ではこれまでに新型コロナに伴う自宅での死亡事例がないという。
黒木氏は、この対応方法を「自宅でのコロナ対応の成功例」と評価した上で、技術的に日本も導入することが可能だと指摘。また、オンライン診療の優位性として、▽患者が医療機関に赴く必要がない▽急性感染症の流行下での非対面診療▽幼児がいる人や妊婦、専門性の高い疾患を持つ人など通院が困難な人への診療-などを挙げた。
さらに、ウェブ上のやりとりはプライベートなコミュニケーションのため、患者が対面診療で話しづらいメンタルヘルスなどに関する相談をしやすくなるほか、対面診療では把握しにくい家庭の様子(親子の関係など)が分かることがあることも、オンライン診療のメリットだと説明した。
ディスカッションは、黒木氏(医療法人社団嗣業の会・外房こどもクリニック理事長)と医療法人鉄蕉会亀田総合病院院長の亀田俊明氏、地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター管理者の神山潤氏の3人によるもので、会場には多くの医療関係者が集まった。
■黒木氏「第4の診療形態」
来場者の1人が、多くの病院ではほとんどの患者が所在地の5-10キロ圏内から来院し、通院が困難なケースが少ないと現状を説明。また、特に高齢者は医療機関に赴くことがアクティビティの1つになっており、コロナ禍で通院しか外出する機会がない人が増えている中、オンライン診療を進めるとそのような人がさらに外出しなくなるのではないかと懸念を示した。その上で、「そもそも、オンライン診療は日本で本当に必要なのか」と質問した。
これに対して黒木氏は、オンライン診療が対面診療の補完や代替ではなく、入院・外来・在宅に続く「第4の診療形態」だと強調。対面診療と競合するものでもなく、家庭の様子などが分かる点で在宅医療に近い診療だとした。
■亀田氏「ニーズはある」、神山氏は重要性強調
亀田氏は、「オンライン診療がメインの診療形態になるとは思わないが、補完的役割での必要性はある」と述べた。特に通院が困難な人や専門医が少ない疾患への「D to P with D」(患者がかかりつけ医らといる場合)や、へき地などではそのニーズが十分にあるとの考えも示した。神山氏も、「オンライン診療が普及すればアクセス面で患者にとっても利点がある」とし、その重要性を強調した。
オンライン診療を巡り、国は2020年4月以降、受診歴のない初診を含めて医師が実施することを時限的・特例的に認めている。また、政府はこの措置を恒久的なものにする方針を既に打ち出している。しかし、国内ではオンライン診療が普及していないのが現状だ。
討論では、モデレーターを務めた真野俊樹氏(中央大大学院教授)が、「海外で普及しているオンライン診療が、なぜ日本で広まらないのか」と論点を提示した。
■普及の妨げ、「現状維持バイアスも一因」
黒木氏は、最も大きな要因として診療報酬の低さを挙げた。現行の診療報酬の仕組みではオンライン診療の方が対面診療よりも報酬の点数が低い。そのため、特に中核病院などではオンライン診療を行うと採算が合わないことから敬遠する傾向が強いという。
黒木氏が挙げる2つ目の要因は、「現状維持バイアス」が働いていることだ。世界的に見ると日本の地域医療の提供は非常に充実し、それなりにうまくいっているため、診療側・患者側の双方に「新たなオンライン診療を取り入れるよりも現状を維持する方がいい」という考え方が根強くあるからだと指摘した。
亀田氏も、「オンライン診療は手間もかかるし、薄利多売の経営状況の中でそれを行うという判断は難しい」とし、診療報酬の低さがネックになっていると述べた。
来場者からは、「第4の診療として国はオンライン診療を進める気があるのか」との質問も出た。
黒木氏は、「オンライン診療は新たな診療形態であるため、厚労省は慎重に進めたいのだろう」と推測。オンライン診療を日本で広めるには、診療報酬での評価の引き上げは必須だとの考えも示した。
■オンライン診療の適応とは
黒木氏によると、イスラエルや米国などは新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけとなり、オンライン診療の実施が広がった。例えばイスラエルでは、感染の疑いのある人が自宅で血中の酸素飽和度や体温を測り、オンラインで医療機関にいるドクターに伝える。それを踏まえて、ドクターは問診や視診を行って適切な対処法を患者に説明する。これを連日繰り返すことで重症化を防止し、同国ではこれまでに新型コロナに伴う自宅での死亡事例がないという。
黒木氏は、この対応方法を「自宅でのコロナ対応の成功例」と評価した上で、技術的に日本も導入することが可能だと指摘。また、オンライン診療の優位性として、▽患者が医療機関に赴く必要がない▽急性感染症の流行下での非対面診療▽幼児がいる人や妊婦、専門性の高い疾患を持つ人など通院が困難な人への診療-などを挙げた。
さらに、ウェブ上のやりとりはプライベートなコミュニケーションのため、患者が対面診療で話しづらいメンタルヘルスなどに関する相談をしやすくなるほか、対面診療では把握しにくい家庭の様子(親子の関係など)が分かることがあることも、オンライン診療のメリットだと説明した。
ディスカッションは、黒木氏(医療法人社団嗣業の会・外房こどもクリニック理事長)と医療法人鉄蕉会亀田総合病院院長の亀田俊明氏、地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター管理者の神山潤氏の3人によるもので、会場には多くの医療関係者が集まった。
■黒木氏「第4の診療形態」
来場者の1人が、多くの病院ではほとんどの患者が所在地の5-10キロ圏内から来院し、通院が困難なケースが少ないと現状を説明。また、特に高齢者は医療機関に赴くことがアクティビティの1つになっており、コロナ禍で通院しか外出する機会がない人が増えている中、オンライン診療を進めるとそのような人がさらに外出しなくなるのではないかと懸念を示した。その上で、「そもそも、オンライン診療は日本で本当に必要なのか」と質問した。
これに対して黒木氏は、オンライン診療が対面診療の補完や代替ではなく、入院・外来・在宅に続く「第4の診療形態」だと強調。対面診療と競合するものでもなく、家庭の様子などが分かる点で在宅医療に近い診療だとした。
■亀田氏「ニーズはある」、神山氏は重要性強調
亀田氏は、「オンライン診療がメインの診療形態になるとは思わないが、補完的役割での必要性はある」と述べた。特に通院が困難な人や専門医が少ない疾患への「D to P with D」(患者がかかりつけ医らといる場合)や、へき地などではそのニーズが十分にあるとの考えも示した。神山氏も、「オンライン診療が普及すればアクセス面で患者にとっても利点がある」とし、その重要性を強調した。
オンライン診療を巡り、国は2020年4月以降、受診歴のない初診を含めて医師が実施することを時限的・特例的に認めている。また、政府はこの措置を恒久的なものにする方針を既に打ち出している。しかし、国内ではオンライン診療が普及していないのが現状だ。
討論では、モデレーターを務めた真野俊樹氏(中央大大学院教授)が、「海外で普及しているオンライン診療が、なぜ日本で広まらないのか」と論点を提示した。
■普及の妨げ、「現状維持バイアスも一因」
黒木氏は、最も大きな要因として診療報酬の低さを挙げた。現行の診療報酬の仕組みではオンライン診療の方が対面診療よりも報酬の点数が低い。そのため、特に中核病院などではオンライン診療を行うと採算が合わないことから敬遠する傾向が強いという。
黒木氏が挙げる2つ目の要因は、「現状維持バイアス」が働いていることだ。世界的に見ると日本の地域医療の提供は非常に充実し、それなりにうまくいっているため、診療側・患者側の双方に「新たなオンライン診療を取り入れるよりも現状を維持する方がいい」という考え方が根強くあるからだと指摘した。
亀田氏も、「オンライン診療は手間もかかるし、薄利多売の経営状況の中でそれを行うという判断は難しい」とし、診療報酬の低さがネックになっていると述べた。
来場者からは、「第4の診療として国はオンライン診療を進める気があるのか」との質問も出た。
黒木氏は、「オンライン診療は新たな診療形態であるため、厚労省は慎重に進めたいのだろう」と推測。オンライン診療を日本で広めるには、診療報酬での評価の引き上げは必須だとの考えも示した。