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医療・介護ニュース

児童虐待成人サバイバー心理療法の症状改善を報告-国立精神・神経医療研究センターが研究成果を発表

2022年06月21日 17:35

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 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)はこのほど、NCNP精神保健研究所の金吉晴所長らの研究グループが、複雑性心的外傷後ストレス障害(複雑性PTSD)に対する児童期虐待の成人サバイバー治療の心理療法「STAIR Narrative Therapy」の前後比較試験を実施し、この治療が日本でも実施可能で、患者の症状が改善したことを報告したと発表した。【新井哉】

 「STAIR Narrative Therapy」は、感情調整や対人関係の困難さに対処するスキルトレーニング(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation)とトラウマに焦点を当てた治療(Narrative Therapy)を組み合わせた治療法で、複数のランダム化比較試験で安全性・有効性が報告されている。従来のPTSDに対する国際的な治療ガイドラインでは、トラウマに焦点を当てた心理療法が推奨されているが、複雑性PTSD特有の感情調整や対人関係の困難さに取り組むための治療要素を先に実施するといった特徴がある。

 複雑性PTSDは、2018年に公表された国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)で、新たに採用された診断項目で、複雑性PTSDに対し、どのような治療が有効であるかを明らかにすることは国際的にも喫緊の課題となっている。

 今回の研究では、海外で虐待関連のPTSDに有効性が確立されている「STAIR Narrative Therapy」を日本に導入し、ICD-11の複雑性PTSD診断を満たす患者を対象とした前後比較試験を実施した。

 具体的には、18歳以前に身体的/性的虐待を経験し、ICD-11の基準で複雑性PTSDと診断された成人の女性患者を対象として、「STAIR Narrative Therapy」の実施可能性や安全性、治療成果を調べるために、対照群を置かない前後比較試験を行った。治療を完了した7人のうち、6人は治療後に複雑性PTSDの診断基準を満たさなくなった。治療終了3カ月後には7人全員が診断基準を満たさなくなった。

 また、複雑性PTSDの重症度得点は、治療前と比べて治療後、治療終了3カ月後に有意な改善が認められ、その効果量も大きなものだった。治療を途中で終えた3人(1人は新型コロナウイルス感染症の影響)のうち、中間評価を受けた2人にも複雑性PTSD症状の改善が認められたという。

 予備試験で得られた結果を基に、「STAIR Narrative Therapy」の有効性をより厳格な方法で検証するため、今後、ランダム化比較試験を行う予定。今回の研究の成果は、国際精神医学誌「European Journal of Psychotraumatology」オンライン版に掲載された。

出典:医療介護CBニュース