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医療・介護ニュース

ギャンブル障害の判別器開発、依存症病態理解にも-QST量子生命科学研究所のチームリーダーら

2022年04月19日 15:00

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 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)はこのほど、 QSTの量子生命科学研究所の八幡憲明チームリーダーらの研究グループが、脳機能画像による安静時脳機能結合の情報を基にしたギャンブル障害の判別器を開発したと発表した。今後、判別器を各種の物質依存に適用することで、依存症全般の脳における病態の理解の一助になる可能性があるという。【新井哉】

 八幡チームリーダーや東京医科歯科大大学院医歯学総合研究科(精神行動医科学分野)の高橋英彦教授、京都大大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)の村井俊哉教授らの研究グループは、人工知能技術を用いて、安静時脳機能結合の情報からギャンブル障害のバイオマーカーとなる指標を抽出し、診断を予測する判別器の開発を試みた。

 研究グループは、2台のMRI装置を用いて人工知能の訓練データとして合計161人(ギャンブル障害患者70人、健常対照群91人)の研究対象者から、安静時脳機能画像(rsfMRI)を収集し、各研究対象者の安静時脳機能結合を計算。診断のためのバイオマーカーとなる数値的指標が算出され、診断を予測する判別器が作製された。

 判別器の訓練データにおける疾患群と健常群などの二値分類を行う手法の精度を評価する指標のAUC(Area Under the Curve)は0.89で、高い判別性能(0-1の範囲で、1に近い値ほど優れた値であることを示す)を示した。次に判別器の汎化性を検証するための独立した外部データとして、訓練データの161人と異なる20人(ギャンブル障害患者6人、健常対照群14人)の研究対象者の安静時脳機能画像を訓練データとは別のMRI装置を用いて収集し、安静時脳機能結合の情報に判別器を適用した。その結果、独立した外部データに対する判別器のAUCは0.81で、このデータに対して高い判別性能を示したため、判別器は汎化性能があると考えられた。

 訓練データの収集に用いた2台のMRI装置と独立した外部データの収集に用いたMRI装置は、3台とも機種・撮像方法が異なっていたため、この研究で開発された判別器は、脳画像データの収集のために用いるMRI装置の機種や撮像方法が異なっていても利用することができると考えられた。

 開発された判別器によって、主観的な症状やギャンブルに関連する行動によって行われているギャンブル障害の診断に、生物学的情報に基づく判別という新たな切り口が加わり、適切な診断の一助となることが期待されるという。この研究成果は、国際科学誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」のオンライン版で発表された。

出典:医療介護CBニュース