はじめに
頭痛を訴えて受診される患者さんのうち、月経時の頭痛のみを主訴とする方はほとんどいません。多くの場合、時々頭痛がある患者さんが月経周辺での頭痛悪化を訴えることで覚知されます。ここでは月経時に訴える頭痛への対応について紹介します。
目次
1. 月経に関連した片頭痛とは?
国際頭痛分類 第3版では、付録※として月経開始日前後に起こる片頭痛を、純粋月経時片頭痛と月経関連片頭痛に分類しています1)。純粋月経時片頭痛は、月経の時期にのみ発作を認めますが、月経関連片頭痛は月経以外の時期にも発作を認めます。片頭痛の誘発因子には月経の他にもストレスや睡眠の過不足などさまざまなものがあり、臨床では月経期間以外でも頭痛を訴える方が多く、患者さんの大部分は月経関連片頭痛に該当します。
※付録:国際頭痛分類では独立した疾患概念とするにはまだエビデンスが不十分で議論のある頭痛疾患の診断基準を付録として収録している。
2.頭痛で受診される患者さんについて
月経時の片頭痛に限らず、頭痛を訴えて受診される患者さんには、まずは問診で頭痛の特徴を聞き出すことが重要です。片頭痛は、発作を起こす慢性疾患ですので、24時間365日頭が痛いという人は片頭痛ではありません。普段は元気であるけれども発作として頭痛が起こっているかが、片頭痛を診断する第一のポイントです。
そのうえで、特徴的な随伴症状(例えば光や音への過敏、悪心、嘔吐)や、身体活動による増悪、症状の重さなどの診断基準に沿ったポイントで、その片頭痛一つひとつの発作を聞き出していきます。もちろん、二次性頭痛を除外する、つまり頭部に器質的異常がないかを確認するために、画像検査等により脳と血管の状態を確認する必要もあります。
3.20〜40代の女性を診るときのポイント
20〜40代は一般に片頭痛が多い年代であり、月経関連片頭痛の有病率も当然高いです。一方で患者さんは、月経時に起こる頭痛を月経痛の一種や片頭痛以外の頭痛〔PMS(月経前症候群)など〕と考えることも少なくありません。したがって、そのような患者さんを診たときには、月経時に起こる頭痛が片頭痛という疾患であり、日常生活への支障度が高いことに気づいてもらうことが重要です。そして、誘発因子に気づいていない患者さんも多いので、頭痛ダイアリーを渡して、頭痛発作のタイミングや強さ、薬の服用、天候などさまざまな事柄と一緒に月経も記録してもらいます。
頭痛ダイアリーをつけることで、本当に発作性なのか、どんな状況で起こっているのかという特徴を見極めることができますし、患者さん自身も頭痛を客観的に評価できるようになりますので、診断に役立ちます。
月経に関連した片頭痛の患者さんには「生理のときに頭痛が起こるのは当たり前だ」と思っている方も少なくありません。PMSでも頭痛はみられますが、もし片頭痛と診断できる頭痛発作を繰り返していて、特に生理のときに起こりやすい、との訴えがあれば、月経に関連した片頭痛である可能性が高いです。
4.月経関連片頭痛の特徴と対処法
月経関連片頭痛には、通常の片頭痛よりも症状が重度である、持続時間が長い、薬が効きにくい、そして再発しやすい、という4つの特徴があります2)。月経関連片頭痛の特徴をあらためて説明することで、患者さんも月経のときに頭痛が重症化することに対して心の準備や予定の調整ができます。そして、対処法を一緒に考えることとなりますが、薬物療法はもちろんのこと、薬の効果が表れにくい傾向があるため、非薬物療法も重要です。
非薬物療法
片頭痛の誘発因子のうち月経や天候の変化は避けることができませんが、それ以外の誘発因子を避けることをアドバイスします。例えば睡眠や食事をきちんと取る、無理な予定を入れない、その他、本人ごとの誘発因子(お酒など)を避けてもらう、などです。
薬物療法
患者さんにはまず、月経痛の症状として頭痛以外にも腹痛などがあり、月経痛に対する鎮痛薬を服用しているかを確認します。なかには「生理痛で鎮痛薬を飲むのでいつもの片頭痛治療薬を飲まない」という方もいます。しかし月経時に起こる片頭痛は、重度の頭痛であるため、むしろ薬物療法を強化する、つまり「いつもの片頭痛治療薬に加えて生理痛に対する鎮痛薬も併用して問題ない」と強調する必要があります。薬の飲み過ぎへの不安を感じる患者さんもいますが、機序が異なる薬であり、ひと月に3~4日という限られた期間なので、頭痛ダイアリーを見せながら「ここで集中して飲んでもほかの日で飲んでいないから大丈夫ですよ」と説明することも効果的です。
5.事例紹介
事例として、「月に数回、つらい頭痛があり、生理のときに起こることが多く、薬を飲んでも効かないと訴える20代の患者さん」が受診した場合の対応について整理してみます。
まず、緊急性の高い二次性頭痛を除外するために、画像検査をはじめとする各種検査や問診を行います( 頭痛の解説 も参照 )。問診の際は、頭痛ダイアリーを活用することで、頭痛の種類や頻度、誘発因子などを把握できます。初めての頭痛の場合は、いかに片頭痛らしい症状であったとしても、片頭痛と診断することはできません。一次性頭痛は慢性疾患ですので、前兆のない片頭痛の場合は5回、前兆がある片頭痛の場合は2回、繰り返すことが診断には必要です。そのため、「ここ3ヶ月だと月に何回くらいありましたか、頭痛がないときは元気ですか」と聞くとよいでしょう。
そして、薬の服用のタイミングも必ず確認します。仮に鎮痛薬を月に10回も15回も服用している場合は、二次性頭痛である薬剤の使用過多による頭痛(medication overuse headache:MOH)が疑われます。また生理のときの頭痛に薬が効かない、との訴えは、月経関連片頭痛を疑わせる要素となります。
6.専門医への紹介について
非頭痛専門医の先生のもとに頭痛を主訴とする患者さんが受診された場合、もし画像診断ができなければ、その時点で専門医に紹介いただき、二次性頭痛の除外から任せてもよいと思います。画像診断で異常がなく、片頭痛が疑われる場合は、薬物療法の導入段階、もしくはそれ以前から専門医に紹介いただいてもよいでしょう。片頭痛は重症化して慢性頭痛になる前の早期介入が大切ですので、例えば市販の鎮痛薬が効かない、日常生活に支障をきたすなどの訴えがある場合は、遠慮なく専門医に紹介ください。
頭痛の治療は長期にわたりますが、次回受診につなげるためには、まずは患者さんの悩みに共感することが大切です。片頭痛は日常生活に支障をきたす「脳の病気」であること、そして「長期的な治療が必要ですが、一緒に頑張りましょうね」と最初の段階で伝えることが大切です。
7.頭痛ダイアリーを活用しよう
繰り返しになりますが頭痛ダイアリーは診療のうえでとても有用なツールです。例えば片頭痛ではあまり典型的でない、両側の重苦しい、締め付けられるような頭痛や、複数種類の頭痛が混在している場合にも、頭痛ダイアリーを活用して診断することも可能です。また、生活への支障度を記入してもらうことも有用です。頭痛は慢性疾患で、診断に時間のかかるものですから、やはり初診のときに必ず頭痛ダイアリーを導入して、続けてもらうことが重要です。
また男性の医師が診る場合、月経について「生理は順調にきていますか?」などと聞きづらいこともあるかと思います。月経状況を頭痛ダイアリーに記載してもらうことで、記載内容をきっかけに話がしやすくなることもあるはずです。ただ、なかなか書いてくれない方も中にはいますので、書いていない場合には必ず片頭痛の起こり方と月経の関係を確認します。
このように診断に欠かせないツールである、ということを、私は初診の患者さんに必ず説明し、日付を記入するところから時間をかけて一緒に行い、「必ず頭痛ダイアリーを書いてください、4週間書いて、次回いらっしゃるときに必ず持参してください」とお願いしています。そして頭痛ダイアリーを持参してくれた際には、患者さんの労に応える意味でも、患者さんと一緒に見て必ずコメントを伝えます。これによって重要なツールであることもより伝わり、毎月書き続けるモチベーションを維持してもらえると思います。ただ、頭痛を専門とはされない先生方は、頭痛ダイアリーの記入の勧奨や読み解きまで行うのは難しい場合もあるかと思います。そのような場合は頭痛ダイアリーを渡しつつ、「これを持って専門医に行ってください」、とお伝えいただけると、専門医もスムーズな診療が可能となります。
関連ページ:日常診療における頭痛ダイアリーの活用
<参考>
- 1)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018.
- 2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021,p.191-193.
(2024年11月作成)