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専門医が解説する「頭痛」のこと

総監修:社会医療法人 寿会
富永病院 副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/
富永クリニック 院長
竹島 多賀夫 先生

日常診療における頭痛ダイアリーの活用

1.頭痛ダイアリー活用の意義

Point

頭痛ダイアリー活用の意義は大きく4つあげられる

  • 患者さんが自分の頭痛を客観的に把握できるようになる
  • 頭痛の状態を正確に把握できるようになることで診断の正確性が高まる
  • より的確な治療と生活指導が可能になる
  • 患者さんと医師間のコミュニケーションツールになる

頭痛診療において頭痛ダイアリーを活用する意義は大きく4つあげられます。

1つめは、患者さんが自分の頭痛を客観的に把握できるようになることです。人間の記憶は不確かです。例えば過去1ヶ月間の頭痛発作の回数を覚えている患者さんは多くありません。片頭痛をもつ方の中には頭痛への恐怖心が強いために、わずかでも予兆があらわれたらすぐに鎮痛薬を飲んでしまう方がいますが、頭痛を客観的に捉えられるようになると、薬を飲まずに少し待っても大丈夫といった判断ができるようになり、むやみな鎮痛薬の使用を減らすことにつながります。これは特に薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)の治療において重要な点です。

2つめは、医師が患者さんの頭痛の状態を正確に把握できるようになることで、診断の正確性を高められることです。頭痛は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)を用いて、頭痛の病態に基づいて診断されますが、頭痛ダイアリーからは、頭痛の頻度、痛みの性状、随伴症状、持続時間などさまざまな情報が得られます。実際、問診のみでは片頭痛様の症状しか認めなかったにもかかわらず、頭痛ダイアリーを読み解くことで緊張型頭痛を併せ持つことが判明したようなケースも経験します。

3つめは、より的確な治療と生活指導が可能になることです。いつ急性期治療薬を使用したのか、使用後どれくらい効果があったのか、あるいはなかったのかなど、治療効果を患者さんとともに客観的に評価しながら治療を進められるようになります。また、前述の片頭痛と緊張型頭痛を併せ持つようなケースで、緊張型頭痛に気づかないまま片頭痛として治療を続けてしまうと、片頭痛急性期治療薬が効かないことがあるとの誤った判定をしてしまうことになります。さらに、月経やストレス、睡眠不足・睡眠過多などの誘発因子や吐き気などの随伴症状についても確認できますので、生活指導にもつなげやすくなります。

そして4つめは、患者さんと医師間のコミュニケーションツールになることです。患者さんはさまざまなことを頭痛ダイアリーに書きとめてくれます。悲しいことがあって号泣したときに頭痛が起きた、親の介護がはじまってから頭痛が増えたなど、患者さんが困っていることや悩んでいることを知ることで、より深く患者さんに共感できるようになります。これは円滑な医師-患者関係を構築するうえで重要な意義があると感じます。

2.日常診療への頭痛ダイアリー導入の実際

Point

  • 頭痛ダイアリーは全ての頭痛に対して有用なツールとなりえる
  • 頭痛ダイアリーの導入に特別な準備は不要だが、記入の重要性について患者さんにしっかり理解していただいたうえで活用することが重要である
  • 頭痛ダイアリーを診療に活かすには、毎回の診察で患者さんと一緒に記入内容を確認していくことが必要である

頭痛ダイアリーは片頭痛や緊張型頭痛だけではなく、基本的には全ての頭痛に対して有用なツールとなりえます。ただし、朝から晩までずっと頭が痛いと訴える慢性連日性頭痛(chronic daily headache:CDH)のような患者さんの場合は、毎日のように症状を記入することになるので負担が増したり、頭痛を常に意識することになり、かえって治療に悪影響を及ぼす場合もあるため注意が必要です。一方で、毎日のように頭痛がある患者さんであっても、症状に波がある方では頭痛の悪化の要因が確認できるのでやはり頭痛ダイアリーは有用です。

■導入の準備

頭痛ダイアリーの導入にあたっては、特別な準備は必要ありません。ただ、頭痛ダイアリーを患者さんに渡す際には、「これから治療を開始するにあたって、あなたにとって大事なことの1つはこの頭痛ダイアリーを書いていただくことです」と伝えるなど、はじめに頭痛ダイアリーの重要性をしっかりと説明して理解してもらうことが重要です。

■「頭痛の程度」の記入方法

頭痛ダイアリーでは、「頭痛の程度」を「重度 +++」「中等度 ++」「軽度 +」の3段階で記載するようになっています。患者さんには、「軽度」とは痛みはあるが普通に生活できる頭痛、「中等度」とは少し生活に支障が出る程度の頭痛、「重度」とは寝込んでしまうほどの辛い頭痛、のように伝えると理解してもらいやすいでしょう(頭痛ダイアリーの記入例)。

■導入にあたっての注意点

当然のことながら、患者さんに記入してもらった頭痛ダイアリーを診療に活かすには、医師がその内容をしっかり確認しなければなりません。それも、時間のあるときだけ見たり、少しだけしか見なかったりするのではなく、毎回患者さんと一緒に確認していくことが重要です。まじめに詳しく書いてこられる患者さんが多いので、医師の確認がいいかげんだと思われると医師-患者関係にも響きます。なかには多忙な外来において毎回確認するのは難しいと感じる方もいるかもしれませんが、頭痛ダイアリーを使用せずに、患者さんが前回受診したときからの頭痛について思い出す間じっと待っているよりは、有意義で効率的な診察時間にできると思います。

3.頭痛ダイアリーを読み解く際のポイント

Point

  • いつもと発症パターンが異なる場合や、同じ痛みの程度でも患者さんの対処法が異なっていた場合には、その都度、発症時の詳細について確認していくことが重要である
  • 予兆と前兆を区別できていない患者さんが多いことに注意する
  • 急性期治療薬の効果は頭痛ダイアリーだけでは把握しきれないことがあるため、どの程度効果があったか具体的に確認していくことが重要である
  • 予防治療薬(発症抑制薬)の効果があらわれているにもかかわらず、その実感が乏しい患者さんには、治療前と治療後の頭痛ダイアリーを見ながら頭痛日数などを一緒に確認していくことで、効果を実感してもらいやすくなる。また、なぜ実感が乏しいのか原因を探ることができる

■いつもと異なる発症パターンに注意

いつもと異なる発症パターンが見られた場合は、その都度、頭痛の発症様式や、発症時の状況などを患者さんに確認しましょう。例えば、いつもより強くて長引く頭痛があった場合、脳血管疾患など二次性頭痛のサインである場合もありますので注意が必要です。

■頭痛の程度と服薬状況から頭痛の併発を見抜く

記入された頭痛の程度が同じでも、日によって急性期治療薬を飲んだり飲まなかったりしている場合があります。この場合、一方は我慢できない片頭痛で、もう一方は我慢できる緊張型頭痛のように、複数の頭痛が併発している可能性も考えられますので、痛みの性状や随伴症状の有無などを確認し、頭痛の程度だけではなく種類も同じだったかどうか確認します。

■患者さんが記入した予兆と前兆の意味に注意

片頭痛発作の時間的経過は、予兆期、前兆期、頭痛期、回復期に分けられます。予兆(premonitory symptoms、prodromal symptoms)は、通常片頭痛発作の数時間~1、2日前に起こり、あくび、多尿、気分変動、易刺激性、光過敏、頚部痛、集中困難などのさまざまな症状が起こります1)。一方で前兆(aura)とは通常は片頭痛発作の60分前〜直前に起こる症状で、閃輝暗点を代表とする視覚症状のほか、感覚症状、言語症状、運動症状、脳幹症状、網膜症状がみられる場合もあります2)片頭痛の予兆期と前兆期)。

患者さんには頭痛ダイアリーの導入時に予兆と前兆の違いを説明していますが、それでも生あくび、肩こり、光過敏などの予兆を前兆と記入する方は多いです。予兆なのか前兆なのかで服薬のタイミングが異なりますから、ただ単に予兆、前兆とだけ記入してある場合には、実際に何が起きていたかを毎回確認して、患者さんに「予兆」「前兆」という言葉の意味をきちんと認識していただくことが重要です。

■頭痛治療薬の効果判定のポイント

薬を使用した際は「頭痛の程度」の下部に薬の略称と効果を記入してもらいます。そして、効果があった場合は薬の略称を丸で囲うことになっていますが、この記載方法では実際にどのくらいの効果があったかまで読み取ることはできません。そのため、丸囲みを見た際は、痛みがすべて消失したのか、あるいは軽快したが残存していたのかなど、効果の程度を具体的に確認していくことが重要です。

■片頭痛予防治療薬の効果と患者さんの実感は乖離することがある

片頭痛予防治療薬の効果は、使用前後の頭痛ダイアリーを見て頭痛日数と急性期治療薬の使用日数を比べることで明確に確認できます。一方で、予防治療薬の使用によって頭痛回数が半分以下になっているような患者さんでも、効果の実感について尋ねてみると「まあまあ、少し良くなった気がします」としか答えないことがあります。もしかすると患者さんは痛みがゼロになることを期待していたために「まあまあ」と言っているのかもしれませんので、「いや、良くなっていますよね」と患者さんを否定するのではなく、頭痛ダイアリーを見ながら、頭痛日数が減ったという事実を一緒に確認していくようにすると、予防療法の効果を実感してもらいやすくなります。

<参考>
  1. 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p95.
  2. 2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p98-99.