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専門医が解説する「頭痛」のこと

総監修:社会医療法人 寿会
富永病院 副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/
富永クリニック 院長
竹島 多賀夫 先生

頭痛の医療連携と頭痛ダイアリーの活用

はじめに

本邦における片頭痛と緊張型頭痛の有病率は、それぞれ8.4%、22.4%とされており1)、潜在患者を含め大変多くの方が頭痛に悩んでいます。一方で、頭痛専門医の数は年々増加しているとはいえ、まだ全国で約940名(2023年5月現在)にすぎず、今後、頭痛診療を必要とするすべての患者さんに十分な医療を提供し、満足度とQOLを高めていくためには、頭痛専門医と非専門医による医療連携の推進が重要な鍵の1つになると考えられています2)

そこで、ここでは長年にわたり頭痛の医療連携に取り組んできた静岡県の取り組みを紹介するとともに、医療連携における頭痛ダイアリーの活用と薬剤師の役割について解説します。

1.静岡県における医療連携の実際

Point

  • 静岡県には、専門性の高い医師たちによる県レベルの医療連携と、非専門医が含まれる市レベルの医療連携の2種類が存在する
  • いずれも参加施設のニーズを尊重した縛りの少ない連携体制としたことが、連携システムの長期継続につながっている

静岡県には頭痛の医療連携のしくみが2種類存在します。1つは日常的に頭痛診療に積極的に取り組んでいる医師同士による県レベルの医療連携、もう1つは頭痛診療を専門としない診療所を含めた市レベルの医療連携です。

■医療連携のしくみ1:慢性頭痛ネットワーク in Shizuoka

2002年に静岡赤十字病院では片頭痛・群発頭痛外来を開設しました(※現在は、片頭痛発作の発症抑制外来、群発頭痛外来、「薬剤の使用過多による頭痛」外来に発展)。これにより静岡県全域から非常に多くの頭痛患者さんが受診されるようになりましたが、キャパシティや患者さんの利便性などの問題から、症状が安定した患者さんについては院外で診てもらう必要が生じました。しかし、当時は県内に頭痛を専門的に診ることができる医師がどこに何人いるのかをほぼ把握できておらず、紹介先の選定に難渋する状況が多々発生していました。

そこで、紹介可能な医師の把握と、医師間の情報共有を目的として、2010年に静岡県内で頭痛診療に積極的に取り組んでいた医師を集めて「静岡県頭痛医療連携を考える集い」という取り組みをはじめました。その2年後の2012年からは「慢性頭痛ネットワーク in Shizuoka」に改称して、現在に至るまで活動を続けています3)。参加メンバーは頭痛専門医に限りませんが、脳神経内科や脳神経外科のバックグラウンドをもった医師がほとんどです。

ネットワークとしての活動は、講演会を年に1度開催することと、参加メンバーが使用可能な薬剤をリスト化して共有することの2点が中心です。医療連携としては比較的緩めの体制だといえるかもしれませんが、だからこそ長く継続することができていると感じます。

この取り組みの成果として、講演会を通じて顔の見える関係が作れたことで、相互に紹介しやすくなりましたし、患者さんにとっても紹介前後で薬剤を変更することなく同じ治療を受け続けやすくなりました。また、ネットワークに参加する診療所の医師からは、入院治療が必要な際の受け皿があることで安心できるとの声も届いています。

■医療連携のしくみ2:静岡市静岡医師会および清水医師会との医療連携

片頭痛をはじめとする慢性頭痛の診療においては、頭痛診療を専門としないかかりつけ医の先生方にも大きな役割が期待されています。なぜならば、これまで病院で頭痛を診てもらったことがない患者さんは、最初にかかりつけ医に相談することが多いからです。その際にもし「鎮痛薬を飲んで我慢するしかない」という指導がなされてしまうと、その後のQOLの改善は望めません。

また、片頭痛には反復性から慢性へと進展する進行性疾患の側面が存在します4)。慢性化の詳細なメカニズムはまだ明らかにされていないものの、肥満、薬剤の使用過多、ストレスの多い生活習慣、頭痛の緩和と予防が不十分などの危険因子が複数同定されており、これらの危険因子への早期からの介入が予後改善に結びつく可能性があると考えられています4,5)。さらに、近年の片頭痛診療は新たな予防治療薬(発症抑制薬)の登場などによって、治療の主眼が痛みの抑制から発症予防へと変化してきているように感じられます。

したがって、以上のような状況を理解して、頭痛患者さんを適切なタイミングで適切な医療機関に紹介していただくことが、かかりつけ医の先生方に期待される最も重要な役割だといえます。

このような背景のもと、静岡医師会および清水医師会の協力を得て2015年より慢性頭痛の医療連携を開始しました。この連携は、①総合病院、②頭痛診療が可能な慢性頭痛連携専門医診療所、③一般診療所の3者で構成されます。③を受診した頭痛患者さんを必要に応じて①または②に紹介し、症状安定後は③に戻し紹介(逆紹介)するのがこの連携の基本システムです6)。また、年に1度の講演会を通じて非専門医の先生方の頭痛の診療技術の向上をはかることも目的の1つです。

なお、③の一般診療所の医師の専門性や患者さんの背景はさまざまですので、この連携では③でどこまで診るべきかについては特に規定していません。受診後すぐに①や②に紹介される施設もあれば、ある程度までは自施設で治療される施設もあり、それぞれのニーズに合わせて連携を活用してもらうことが、無理のない連携につながっていると考えています。

2.医療連携における頭痛ダイアリーの活用

Point

  • 頭痛ダイアリーは診療経過が明確に把握できるため、医療連携においても有用なツールである
  • 非専門医の先生方による頭痛ダイアリーの活用率を向上するには、薬剤師と連携するのも一案である

頭痛ダイアリーはいまや頭痛専門医にとって欠かせないツールであり、その重要性は高血圧診療における家庭血圧測定にも等しいものです。医療連携においても有用なツールであり、紹介受診の際に記入済みの頭痛ダイアリーがあれば、それまでの診療経過を明確に把握することができます。そのため、専門性の高い医師が集まった「慢性頭痛ネットワーク in Shizuoka」においては十分に活用されています。

一方、非専門医の先生方による頭痛ダイアリーの活用率はいまだに低いのが現状です。記入方法が少し難しく患者さんへの説明を必要とするため、頭痛以外にも幅広い疾患を診なければならない先生方にとっては、その手間がハードルになっているのかもしれません。もしどうしても説明の時間がとれない場合は、医師からではなく薬剤師から手渡してもらうことも一案かもしれません。

頭痛ダイアリーについては、こちらでも活用の詳細をご覧いただけます。

頭痛ダイアリーの活用~頭痛診療の今後の展望を交えて~
日常診療における頭痛ダイアリーの活用

3.医療連携における薬剤師の役割

Point

  • 薬剤師が専門医受診のきっかけ作りを担っていくことも医療連携の1つの形である
  • 頭痛には諦めたり鎮痛薬を飲んだりする以外の選択肢もあることを、患者さんに気づいてもらうことに大きな意味がある

ここまで述べてきた医師-医師間による医療連携とは意味合いが異なりますが、薬剤師が専門医受診のきっかけ作りを担っていくことも医療連携の1つの形です。例えば、もし保険薬局に頭痛を訴え鎮痛薬を大量に処方されている患者さんが来たならば、疑義照会までは難しくても、患者さんに最新の頭痛治療に関するパンフレットを手渡してもらうだけでも大きな意味があります。患者さん自身に痛みを諦める以外の選択肢があることに気づいてもらうことが専門医受診の第一歩だからです。

また、薬剤の使用過多による頭痛は市販の鎮痛薬が原因となっているケースも多いです。市販薬を購入される患者さんは、それ以外の対処法を知らない方も多いため、ドラッグストアなどで市販の鎮痛薬を大量購入するような患者さんをみかけたら、正しい知識を提供して専門医受診を促していくことも薬剤師に期待したい役割です。

4.医療連携をはじめたいとお考えの方へ

Point

  • 医療連携で最も重要なことは継続し続けることである。そのために簡単で負担にならないシステムとすることが肝要である

頭痛の医療連携に対するニーズは高く、講演依頼も多いテーマですが、その反面、実際に医療連携を開始したとの話はあまり聞きません。恐らく最初から完成度が高く手間のかかるシステムを構築しようとして頓挫してしまっているケースが多いのではないかと推察します。医療連携において最も重要なことは「継続し続けるシステム」であることだと思います。したがって、これから医療連携システムの構築に取り組まれる方は、まずは簡単で負担にならないことからはじめるのがよいでしょう。
また、県や市レベルの大規模な医療連携だけではなく、立地が近い頭痛クリニックと産婦人科クリニックで連携するなど、他科の専門クリニック同士による小規模な連携から開始する方法もあると思います。

5.かかりつけ医の先生方への期待

Point

  • 片頭痛は生活支障度が高いにもかかわらず、見つけにくい疾患である。それに気づいて改善していくには、かかりつけ医の先生方の協力が不可欠である

片頭痛は生活支障度が高いにもかかわらず、患者さんがその状態が当たり前だと思ってしまっているなどの理由から、自発的な訴えとして出てきにくい疾患です。ですから、ふだんかかりつけ医の先生方が診ている患者さんが、実は家ではずっと寝込んでいたり、本人や家族の行動が制約を受けていたりする可能性があります。そのような目では見えない患者さんの症状に気がついて改善していくことは、かかりつけ医にとって非常に重要かつ本来の役割ではないかと思います。一人でも多くの頭痛患者さんに最新の頭痛診療が届けられるように、地域の医療連携システムへの参加や、お近くの頭痛専門医との連携を通じて、ぜひご協力いただけると幸いです。

<参考>
  1. 1)Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.
  2. 2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, p19-21, 医学書院, 2021.
  3. 3)静岡赤十字病院:慢性頭痛ネットワーク:慢性頭痛に悩む人たちのための医療連携(https://www.shizuoka-med.jrc.or.jp/section/diagnosis/neurology/z-net/)(2023年7月閲覧)
  4. 4)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, p107-109, 医学書院, 2021.
  5. 5)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, p122-124, 医学書院, 2021.
  6. 6)静岡市静岡医師会:疾患別連携システム(慢性頭痛)(https://shizuoka-city-med.or.jp/e2net/cooperation/headache/)(2023年7月閲覧)