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医療制度トピックス

データヘルス改革の推進

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情報利活用の絵姿と工程表、新興感染症拡大時の情報連携も論点に

健康・医療・介護分野のデータやICTを積極的に活用することは、国民の健康寿命延伸や利便性向上につながり、医療や介護現場においては、サービスの質を維持・向上しつつ、その効率化や生産性向上を図っていくことを可能とします。国は「データヘルス改革」を推進しており、その目玉となるのが、患者の保健医療情報を患者本人や全国の医療機関で確認できる仕組みの構築です。厚生労働省では、2020年7月のデータヘルス改革に関する閣議決定を受けて「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」において、「3つのACTIONを今後2年間で集中的に実行」としており、2021年に必要な法制上の対応等を行った上で、2022年度中の運用開始を目指しています。

「データヘルス改革」とは、健康・医療・介護分野のデータの有機的連結やICTなど技術革新の利活用の推進を目指すものです。国民の健康寿命のさらなる延伸と効果的・効率的な医療・介護サービスの提供が目的です。

厚生労働省は2017年に「データヘルス改革推進本部」を立ち上げ、その下に検討会やワーキンググループを設置して取り組みを進めてきました。その政策は、①ゲノム医療・AI活用の推進、②自身のデータを日常生活改善等につなげるPHR(Personal Health Record)の推進、③医療・介護現場の情報利活用の推進、④データベースの効果的な利活用の推進―の4つに整理されます(図表1)。また、2020年10月公表の厚生労働白書(2020年版)では、「医療・福祉サービス改革を通じた生産性の向上」の項目で「ロボット・AI・ICTなどの実用化推進、データヘルス改革」がその1つとして挙げられています。

(図表1)今後のデータヘルス改革の進め方について(計画)~新たなデータヘルス改革が目指す未来~

出典:首相官邸 知的財産戦略本部 構想委員会(第3回)資料4(一部抜粋、改変)

共有システムは「強固な安全」と「利便性」の両立が課題に 保険医療情報の全国的な利活用

前述のうち、主に②~④について総合的に検討を進め、工程表策定を目指しているのが、「健康・医療・介護情報利活用検討会」ですが、2020年5月に開かれた会合では、厚労省が(1)総論、(2)健診・検診情報を本人が電子的に確認・利活用できる仕組み(PHR)の在り方、(3)医療等情報を本人や全国の医療機関等において確認・利活用できる仕組み(EHR:Electronic Health Record)の在り方、(4)電子処方箋-の項目に分けて論点整理を行っています。また、この論点整理では、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、こうした非常時や災害時における情報利活用の在り方という視点も新たに盛り込まれています。

利用者目線で安全・便利な仕組みに、PHRは既存インフラで年度内に運用

論点整理のうち、(1)の総論ではまず、「患者・国民にとって有用、安心・安全で、利便性の高い仕組みとすることを第一の目的と考えてよいか」を確認していますが、厚労省はかねてより、「国民、患者、利用者」目線に立って取り組みを加速化していくことを強調しています。安全性と利便性のバランスを考慮し、その両立という二律背反する課題の克服が最大の焦点となりそうです。

インフラについては、オンライン資格確認システムやマイナンバー制度等を活用することで、迅速かつ効率的に利活用を進めていくこととしてはどうかとしています。オンライン資格確認は、マイナンバーカードを保険証として利用し、医療機関や調剤薬局で被保険者資格の確認を行うものです。2021年3月からの本格運用と、医療機関などの6割程度で導入することを目指して準備が進められており、医療機関などにはシステム整備費の補助も行われることになっています。この仕組みでは、支払基金や国保中央会で資格情報だけでなく、医療費・薬剤情報や特定健診情報も個人単位で管理されるため、各種データの利活用を進めるには確かに効率的です。しかし一方で、資格確認以外にも利用する場合には、システムの維持コストなどをどこが負担するかという課題も生じることになります。(※オンライン資格確認の詳細については、SKIM 2020 vol.2をご参照ください)

尚、2020年11月末時点で厚労省から発表されたオンライン資格確認の際に必要となる顔認証付きカードリーダーの申込は、全ての対象施設の18.1%だったと明らかになりました(病院23.9%、医科診療所11.7%、歯科診療所15.0%、薬局30.5%)。まだまだ周知不足の感が否めませんが、今後は遅れている病院への導入に対し、重点的に公的医療機関への働きかけや、病院内での改修範囲を早期に明確化できるよう支援していくとしています。

これらのオンライン資格確認の仕組みと、マイナンバー制度に基づくマイナポータルを活用すれば、(2)のPHR(図表2)が実現し、実際に特定健診情報は2020年度内、薬剤情報は2021年度内に本人が閲覧し、本人の同意下では医療機関なども利用できるようになる見込みです。しかし、健診情報や医療情報など、PHRとして活用すべき情報の種類は多く、管理主体も保険者・自治体・事業主・医療機関などと異なる中では、誰が管理し、どう保存し、誰がコストを負担するのかといった点が社会実装においては重要な論点となります。

(図表2)PHRの全体イメージ

出典:厚生労働省 第2回健康・医療・介護情報利活用検討会、第2回医療等情報利活用WG及び第1回健診等情報利活用WG 参考資料6(一部抜粋、改変)

レセを基本にミニマムデータを検討、リアルタイムの共有システムも必要

(3)のEHRは、医療・介護現場で患者の過去の保健医療情報を適切に確認することで最適なサービスの提供を図るとともに、重複投薬の適正化や医療・介護の連携なども促進することが目的です。
 ひと口に「保健医療情報」といっても、上記の薬剤情報や特定健診情報に診療情報なども含めると、実に幅広いものが想定され、すべてを共有することは現実的ではありません。そのため厚労省は、レセプトや電子カルテのデータを基本に、「共有すべき最低限のデータ」(ミニマムデータ)の検討を進めています(図表3)。レセプトデータは、すでに全国一律に統一された様式で集約されているため、全国的なシステムの早期構築に向け、その活用が論点整理にも盛り込まれています。ただし、レセプトは明細書(請求書)であり、情報をリアルタイムでは共有できないというデメリットもあります。
 そうしたデータとしての限界や、レセプト以外の情報、例えば、今回の新型コロナウイルス感染症でいえばPCR検査結果などの収集・活用も含め、レセプトや電子カルテの情報などを共有するシステムとは別に、WEBなどでリアルタイムに情報を共有できる仕組みを検討することの必要性も指摘されています。

様々な医療情報がオンライン化され他方面と連携されることで、国民の健康寿命延伸や利便性などに期待する一方で、セキュリティ面の安全性は必要不可欠です。この重要な論点が今後どのように議論・実施されていくのか注目が集まります。

(図表3)保健医療記録として共有するデータ項目のイメージ(案)

出典:厚生労働省 第2回健康・医療・介護情報利活用検討会、第2回医療等情報利活用WG及び第1回健診等情報利活用WG 参考資料7(一部抜粋、改変)

(編集:株式会社日本経営 2020年12月作成)

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