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打錠障害防止への取り組み ~粉体物性の評価方法の確立~

開発製剤(錠剤)を工場で安定的に生産するためには、打錠障害の発生しない製剤処方や製造方法をしっかりと検討し、打錠障害を発生させないことが重要です。そのため、製剤設計や工場での生産(工業化)へ向けた検討の段階では、粉体を打錠した時の性質や打錠する条件などの検討を数多く行っています。
打錠の成功につながる大きなポイントの1つに粉体物性があります。しかし、これまで粉体物性は製剤を開発する担当者の感覚や経験から判断されることが多いものでした。そこで当社では人の感覚や経験によらない評価方法を検討し、多機能性打錠評価装置(The Gamlen Tablet Press:GTP)を用いた「粉体物性の定量的評価方法」と「視覚的に粉体物性の特徴付けが可能なシステム」を構築しました。
この評価方法によって、製剤設計や工業化のための技術的な課題の解決や既存医薬品の改良を実現しています。

当社研究所内の多機能性打錠評価装置:GTP
写真 当社研究所内の多機能性打錠評価装置:GTP

打錠工程における3要素

打錠工程は粉体の充填、杵による圧縮、抜圧、臼からの排出で成っています。(図1)

図1 打錠工程
図1 打錠工程

これらの工程は以下に示す3つの要素の総合点によって成否が決まります。3つのうちどれか1つを重視するのではなく、3つの要素のバランスをとることが重要です。(図2)

粉体物性
:打錠性や錠剤物性に影響する粉の性質
製剤の形
:割線や刻印、円形錠や楕円形錠 など
打錠条件
:打錠する時間や圧力、錠剤の厚さや硬度、打錠する機器 など

この3つの要素のバランスを利用して、粉体物性が良好であれば製剤の形状や打錠条件をある程度自由に選択することが可能です。例えば、割線の付与された付加価値のある製品の開発、工場での錠剤の高速打錠による生産数量の増大などが可能となります。
一方で、粉体物性が良好でない場合でも打錠することは可能ですが、製剤の形が患者さんにとって服用しにくいものになるといった問題や打錠条件が実際の工場での生産には適さなくなるといった問題が生じる可能性もあります。

図2 打錠工程の成否に関わる3要素
図2 打錠工程の成否に関わる3要素

多機能性打錠評価装置(GTP)による粉体物性の評価

製剤設計段階では打錠する錠剤の形状や打錠条件(硬度、錠剤の厚みなど)が様々であり、その製剤ごとに求められる粉体物性は変わります。そのため、この粉体物性を正確に理解・把握することが必要です。しかし、これまで粉体物性は製剤を開発する担当者の感覚や経験で判断することが多く、定量的に評価することが困難でした。
そこで当社では人の感覚や経験によらない評価方法を検討し、多機能性打錠評価装置(GTP)を用いた「粉体物性の定量的評価方法」と「視覚的に粉体物性の特徴付けが可能なシステム」を構築しました。
GTPは打錠工程で生じる「錠剤-臼間の摩擦によって生じる排出圧(ejection stress:ES)」と「錠剤の強度(tensile fracture stress:TFS)」といった粉体物性に関するデータを連続的に測定することが可能です。(図3)
ESは打錠した錠剤の排出のしやすさを示しており、錠剤の製造性に関わります。この値が高いと打錠障害が生じやすくなります。また、TFSは粉体のかたまりやすさ(成形性)に関わります。この値が低いと打錠した錠剤の強度が低くなります。

①充填

測定したい粉末を臼に充填する。

②圧縮成形

上の杵が一定の速度で下降し、粉末を圧縮成形する。

③ESを算出

圧縮成形された錠剤の下部に位置する底面治具をスライドさせ、杵をさらに下降させて錠剤を臼から排出させる。この排出時に発生する臼と錠剤の間の摩擦力を測定し、ESを算出する。

④TFSを算出

排出された錠剤を破壊し硬度を測定する。その結果から錠剤の強度を示す値であるTFSを算出する。

図3 GTPによるES・TFS測定の流れ

また、このGTPを用いて算出したES及びTFSを視覚的に認識するため、これら2つのデータを軸とした当社独自のプロット方法を作成しました。(図4)
このプロットを用いることで、錠剤の形状や打錠条件の異なる錠剤を同じ条件下で比較することや原薬を製剤化した時の変化を視覚化することが可能になり、製造時のトラブルが少ない製剤処方及び製造条件を見いだすことが可能となりました。
当社が作成したこのプロットは評価装置メーカーであるGamlen Tableting Ltd.のホームページにおいて『Sawai Plot』として紹介されています。

(Gamlen Tableting Ltd.ホームページ:https://gamlentableting.com/ 2024年2月時点)

図4 ES及びTFSを用いた二軸プロット

TFSをx軸、ESをy軸として、その交点をTFS:2MPa、ES:5MPaとする。
この座標上にGTPの測定で得られる各製剤のデータをプロットし、粉体の成形性及び製造性の状態を領域Ⅰ~Ⅳの4種類に分類する。

・領域Ⅰ:圧縮成形性が良好/製造性が良好
・領域Ⅱ:圧縮成形性が不良/製造性が良好
・領域Ⅲ:圧縮成形性が良好/製造性が不良
・領域Ⅳ:圧縮成形性が不良/製造性が不良

図4 ES及びTFSを用いた二軸プロット

製剤開発における本技術の活用

これまでの製剤開発では図4:領域Ⅱ~Ⅳに該当する粉体物性の良好でないものもあり、これらは打錠条件の工夫などにより工業化してきました。
しかし、現在は製剤設計の段階からGTPを用いて粉体物性を評価することで、粉体物性が良好なものになるよう製剤開発に取り組んでいます。

GTPを活用した製剤開発は以下の流れで進めていきます。

例) ラロキシフェン塩酸塩錠60mg「サワイ」の処方検討 (当社投稿文献より)

①錠剤1錠あたりの質量、錠剤の形状、目標とする錠剤の物性を定める。

  • 錠剤1錠あたりの質量:240mg
  • 錠剤の形状:長径12mm・短径6.5mmの楕円形
  • 目標とする錠剤の物性:硬度や水での崩壊時間など

②添加剤の配合量の組み合わせを変えた製剤処方を複数設計する。

製剤処方の複数設計

③GTPを用いて各製剤処方の粉体物性を測定し、各添加剤の添加量を決定する。

例)結合剤:ポビドン添加量の検討結果

1錠あたりの結合剤:ポビドンの添加量はSample 1:4mg、Sample 2:8mg、Sample 3:12mg、Sample 4:18mg、Sample 5:24mgとし、TFSにおけるポビドンの添加量の影響を確認しました(下表及び図5)。
GTPを用いてこれらの粉体物性を測定し、図4のプロットに当てはめたところ、Sample 1及び2はTFSが2MPaより低く、圧縮成形性に乏しいため、領域Ⅳにプロットされました。一方、Sample3、4、5はTFSが2MPaより高く、領域Ⅲにプロットされました。
この結果から、粉体を圧縮した際に十分な錠剤強度を得るためには、錠剤処方中の結合剤:ポビドンの添加量が12mg以上必要であることが推測されました。
こういった検討を他の添加剤においても同様に実施し、添加量を決定していきます。

ポビドン添加量の検討
図5 ポビドン添加量による粉体物性の推移
図5 ポビドン添加量による粉体物性の推移

このように製剤設計時に本技術を活用することで、人の感覚や経験ではなく客観的な指標に基づいた、打錠障害の発生しにくい製剤設計を行うことが可能です。本技術の活用によって、製剤設計や工業化のための技術的な課題の解決や既存医薬品の改良を実現しています。

本技術に関連する当社の実績

投稿論文

Characterization of tableting properties measured with a multi-functional compaction instrument for several pharmaceutical excipients and actual tablet formulations

T. Osamura,Y.Takeuchi,R.Onodera,M.Kitamura,Y.Takahashi,K.Tahara,H.Takeuchi

International Journal of Pharmaceutics:2016;510:195-202.

Prediction of effects of punch shapes on tableting failure by using a multi-functional single-punch tablet press

T.Osamura,Y.Takeuchi,R.Onodera,M.Kitamura,Y.Takahashi,K.Tahara,H.Takeuchi

Asian Journal of Pharmaceutical Sciences:2017;12:412-417.

Formulation design of granules prepared by wet granulation method using a multi-functional single-punch tablet press to avoid tableting

T.Osamura,Y.Takeuchi,R.Onodera,M.Kitamura,Y.Takahashi,K.Tahara,H.Takeuchi

Asian Journal of Pharmaceutical Sciences:2018;13:113-119.

多機能性打錠評価装置を用いた打錠特性のキャラクタリゼーションと製剤設計への活用

長村崇史

PHARM TECH JAPAN,2018,34(15),147-150.

学位論文紹介:多機能性打錠評価装置による打錠特性新規評価システムの構築に関する研究

長村崇史

製剤機械技術学会誌,2019,28(1).

打錠特性新規評価システムの構築と処方設計への適用(1)

長村崇史

製剤機械技術学会誌,2019,28(1).

打錠特性新規評価システムの構築と処方設計への適用(2)

長村崇史

製剤機械技術学会誌,2019,28(2).

<参考資料>
・京都精華大学(京都国際マンガミュージアム)事業推進室:打錠障害は起きる?─ GTP-1 編【PDFをみる

(2024年3月作成)