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原薬のマルチソース化をすすめる取り組み

1医薬品(製剤)に対し、原薬を複数の原薬メーカーから確保すること(原薬のマルチソース化)は安定供給につながる重要な取り組みです。しかしながら、同じ原薬でも原薬メーカーにより粒子径やかさ密度などの物理化学的性質(物性)が異なると、同等の製剤品質を維持することが困難になることがあります。ここでは、当社が原薬のマルチソース化をすすめる取り組みをご紹介します。

原薬をマルチソース化する必要性・メリット

医薬品の製造販売承認を、原薬メーカー1社のみ(シングルソース)で取得した場合、万が一その原薬メーカーからの原薬調達が滞ってしまうと、製剤の供給不安リスクが大きくなります。
あらかじめ複数の原薬メーカー(マルチソース)で製造販売承認を取得しておけば、1つの原薬メーカーで供給に支障が生じても、供給不安リスクを最小限にすることができます。

マルチソース原薬で製剤化することの難しさ

原薬には、溶解度など物質固有の物性がある一方、粒子形状や粒子のサイズ、かさ密度など製造ごとに変わり得る物性があります。
特に、原薬メーカーが異なると、原薬の承認規格に適合していても、製造方法やスケールの違いに起因して、 設計した製剤特性に影響し得る承認規格項目に無い物性に違いが出てしまうことがあります。そして、異なる原薬物性に起因して、製剤の製造において、設計した条件で目標とする製剤品質を得られないリスクが生じることがあります。

図 マルチソース原薬で製剤化することの難しさ

事例①:粒子形状やサイズに違いがある原薬

原薬の粒子形状やサイズは、製剤の製造における混合均一性や製剤の溶出性に影響を与える因子です。当社では、これらの物性について、顕微鏡や粒度分布測定装置(レーザー回折・散乱法)、画像式粒度分布測定装置を用いて評価し、製剤化に適した原薬を選定しています(写真1、模式図1)。当社から原薬メーカーに特定の粒子形状やサイズの調整を要望することもあります。

写真1 同じ原薬でも粒子形状やサイズに違いがある事例の顕微鏡拡大図
写真1 同じ原薬でも粒子形状やサイズに違いがある事例の顕微鏡拡大図
(左:C社製原薬 右:D社製原薬 沢井製薬株式会社 物性研究部より提供)
模式図1 製剤化に影響を与える粒子形状
模式図1 製剤化に影響を与える粒子形状

事例②:かさ密度に違いがある原薬

同じ原薬であっても、同じ質量を量りとったときの“かさ密度”が原薬メーカーごとに異なる場合があります(写真2、模式図2)。そのような場合、製剤の製造において添加剤との混合時に均一性が悪くなってしまうなど、設計した製造方法では目標とする品質の製剤を製造できないリスクが生じます。当社では、かさ密度が重要な物性パラメータであると特定した場合は、許容できるかさ密度の範囲を設定し、製造に適した原薬を選定しています。当社から原薬メーカーにかさ密度の調整を要望することもあります。

写真2 同じ質量の原薬でもかさ密度に違いがある事例
写真2 同じ質量の原薬でもかさ密度に違いがある事例
(左:E社製原薬 右:F社製原薬 沢井製薬株式会社 物性研究部より提供)
模式図2 同じ質量でもかさ密度に違いが生じる
模式図2 同じ質量でもかさ密度に違いが生じる

原薬物性のうち、製剤の製造性や製剤品質に影響を与えるものを見つけ出し、「重要物質特性」と位置付けます。マルチソース原薬を導入する際は、原薬の重要物質特性の違いが許容範囲内のメーカーでなければ、製剤化の際に目標品質を満たすことはできません。それに加え、不純物の混入量を抑えた化学的な品質も配慮する必要があり、複数の原薬メーカーを選定することは困難を極めます。

当社は原薬選定の高い目利き力といろいろな原薬メーカーとの科学的根拠に基づく高い交渉力で原薬のマルチソース化を推進し、選定した原薬メーカーとは原薬の品質に関する取決めを締結することで、原薬の品質を一定に担保しつつ、製剤の安定生産・安定供給につなげています。

図 原薬のマルチソース化を推進・原薬メーカを選定

安定供給につながるマルチソース

医薬品の製造販売承認を取得するにあたって、複数の原薬メーカーを登録できた場合と1社しか確保できなかった場合で、原薬供給に問題が発生した際のシミュレーションを以下に示します(図3)。

図3 原薬供給に問題が発生した際のシミュレーション
図3 原薬供給に問題が発生した際のシミュレーション

このように、原薬をマルチソース化することは、製剤の安定供給におけるリスク低減に大きく寄与します。当社はこれからも原薬のマルチソース化に取り組んでいきます。

(2024年3月作成)