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専門医が解説する「頭痛」のこと

総監修:社会医療法人 寿会
富永病院 副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/
富永クリニック 院長
竹島 多賀夫 先生

頭痛の解説

1.頭痛の診断

頭痛の原因は多岐に渡り、また頭痛を訴える患者さんには日常診療においてもよく遭遇します。頭痛を訴える患者さんを診るときには、まず一次性頭痛か二次性頭痛かを考えたうえで、緊急性の高い二次性頭痛を鑑別します。診断に迷う場合は、速やかに専門医に紹介することを考慮します。

■一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別

頭痛の診療ガイドライン2021では、以下のような症状がみられたときに二次性頭痛を疑う、とされています1)。これら15項目は二次性頭痛を疑うレッドフラッグとして、それぞれの英語の頭文字をとりSNNOOP10リスト(スヌープ・テン・リスト)と呼ばれ、危険な頭痛の鑑別の参考になります2)

  1. 発熱を含む全身症状【S】 Systemic symptoms including fever
    発熱に加え、項部(うなじ)の硬直や意識レベルの低下などがみられる場合は髄膜炎や脳膿瘍の可能性を考慮する
  2. 新生物の既往【N】 Neoplasm in history
    悪性腫瘍の既往がある場合は、脳への転移の可能性を疑う
  3. 意識レベルの低下を含めた神経脱落症状または機能不全【N】 Neurologic deficit or dysfunction(including decreased consciousness)
    手足の麻痺・しびれ、意識がぼんやりするなどの症状がある場合、脳・神経の損傷・疾患による頭痛を考える
  4. 急または突然に発症する頭痛 【O】 Onset of headache is sudden or abrupt
    今までに経験したことがない突然の頭痛、1分以内にピークに達する雷が落ちたような頭痛(雷鳴頭痛)の場合、くも膜下出血や可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)などの脳血管が関連する疾患を疑う
  5. 50歳以降に発症する頭痛 【O】 Older age(after 50 years)
    高齢になって初めて頭痛がおこった場合、脳出血などの疾患を疑う
  6. 頭痛パターンの変化または最近発症した新しい頭痛 【P】 Pattern change or recent onset of headache
    頭痛のパターンが変化した場合や、いつもと違う頭痛がおこった場合には、これまでの頭痛とは別の病気を発症した可能性も考慮する
  7. 姿勢によって変化する頭痛 【P】 Positional headache
    頭蓋内圧の変化によるもので、低髄圧や脳脊髄液漏出などの頭痛症状の可能性を考える
  8. くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛【P】 Precipitated by sneezing, coughing, or exercise
    キアリ奇形など頭蓋内圧の上昇、硬膜下出血など脳疾患でも起こることがある
  9. 乳頭浮腫 【P】 Papilledema
    視覚障害や嘔吐を伴えば、頭蓋内圧の上昇を疑う
  10. 痛みや症状が進行する頭痛、非典型的な頭痛 【P】 Progressive headache and atypical presentations
    頭痛が徐々に強くなる場合、非典型的な症状を伴う場合には二次性頭痛を疑う
  11. 妊娠中または産褥期【P】 Pregnancy or puerperium
    妊娠高血圧症候群、血栓・塞栓症の発症リスクが高まるなど注意が必要
  12. 自律神経症状を伴う眼痛 【P】 Painful eye with autonomic features
    三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)でも眼の奥が痛むため、急性閉塞隅角緑内障や虹彩炎、ぶどう膜炎などの炎症性疾患などとの鑑別が必要
  13. 外傷後に発症した頭痛【P】 Posttraumatic onset of headache
    外傷後すぐ~数日たってから頭蓋内出血の症状がみられることがある。高齢者においては頭部外傷後、数週間~数ヶ月たってから慢性硬膜下血腫を発症することがある
  14. HIVなどの免疫系病態を有する患者【P】 Pathology of the immune system such as HIV
    感染症などの発症リスクが高くなるため、頭蓋内および全身性の感染症による頭痛が考えられる
  15. 鎮痛薬使用過多もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛【P】 Painkiller overuse or new drug at onset of headache
    薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)など

以前からある一次性頭痛が悪化した場合や、いつもの頭痛とは異なる頭痛が生じた場合は、二次性頭痛の可能性を考え対処が必要です。二次性頭痛の原因疾患として、くも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎などの緊急を要するものも含まれるため、上記のSNNOOP10リストを用いて、危険な頭痛を除外することも有効です。

■一次性頭痛の分類と片頭痛の鑑別

一次性頭痛は、片頭痛緊張型頭痛三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)、その他の一次性頭痛疾患に分類されます。頭痛の診療ガイドラインでは、一次性頭痛は患者の苦痛があれば重症度に関わらず治療の対象となり、頭痛が日常生活に支障をきたしていると判断した場合には積極的に治療すべきである、とされています3)。また、一次性頭痛の中で日常生活への影響が最も大きいのは片頭痛であることが知られています4)。片頭痛の鑑別においては、片頭痛の特徴を示すPOUNDing5) として表される以下5つの項目のうち4つに該当すれば片頭痛の可能性が高いと考えられます。

  • ・Pulsating(拍動性)
  • ・duration of 4-72 hOurs(4~72 時間の持続)
  • ・Unilateral(片側性)
  • ・Nausea(悪心)
  • ・Disabling(生活支障度が高い)

2.片頭痛

片頭痛は、頭の片側または両側に生じる拍動性(ズキンズキンと脈打つよう)の痛みで、中等度(例:普段どおりに家事や仕事ができない・パフォーマンスが低下する)~重度(例:動かずじっとしていたい・寝込んでしまう)の日常生活に支障をきたすような頭痛です。歩行など身体を動かすことで悪化し、悪心・嘔吐、光過敏、音過敏が代表的な随伴症状です。

■片頭痛の分類

ICHD-3では片頭痛は6つのタイプに分類され、前兆の有無により「前兆のない片頭痛(migraine without aura:MO)」と「前兆のある片頭痛(migraine with aura:MA)」に大きく分かれます。
「前兆のある片頭痛」は前兆の種類により4つのサブタイプに分類されています。

  1. 1.1前兆のない片頭痛
  2. 1.2前兆のある片頭痛
    1. 1.2.1典型的前兆を伴う片頭痛
    2. 1.2.2脳幹性前兆を伴う片頭痛
    3. 1.2.3片麻痺性片頭痛
    4. 1.2.4網膜片頭痛
  3. 1.3慢性片頭痛
  4. 1.4片頭痛の合併症
  5. 1.5片頭痛の疑い
  6. 1.6片頭痛に関連する周期性症候群

(国際頭痛分類 第3版より一部抜粋)

前兆の代表的なものに、閃輝暗点とよばれる目の前で光がチカチカする・視野が欠ける等の視覚症状、チクチク感や感覚が鈍くなる感覚症状、言葉が出にくくなる言語症状などがあり、通常は前兆が20~30分(診断基準上は5~60分)続いた後に頭痛が始まります。

■前兆のない片頭痛(migraine without aura:MO)

「前兆のない片頭痛」は、片側性で、拍動性の中等度~重度の強さの頭痛発作を繰り返す疾患です。発作は4~72 時間持続し、日常的な動作により頭痛が増悪することが特徴的です。随伴症状として悪心・嘔吐、光過敏や音過敏などがみられます6)

前兆のない片頭痛の診断基準6)

  1. A .B~Dを満たす発作が5回以上ある
  2. B .頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
  3. C .頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
    ①片側性
    ②拍動性
    ③中等度~重度の頭痛
    ④日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
  4. D .頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
    ①悪心または嘔吐(あるいはその両方)
    ②光過敏および音過敏
  5. E .ほかに最適なICHD-3の診断がない

■前兆のある片頭痛(migraine with aura:MA)

「前兆のある片頭痛」は、数分間持続する片側性完全可逆性の視覚症状、感覚症状またはその他の中枢神経症状からなる再発性発作であり、これらの症状は通常徐々に進展します。また通常それに引き続いて頭痛が生じ、片頭痛症状に関連すると考えられていると定義されています7)

前兆のある片頭痛の診断基準7)

  1. A .B およびCを満たす発作が2回以上ある
  2. B .以下の完全可逆性前兆症状が1つ以上ある
    ①視覚症状
    ②感覚症状
    ③言語症状
    ④運動症状
    ⑤脳幹症状
    ⑥網膜症状
  3. C .以下の6つの特徴の少なくとも3項目を満たす
    ①少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展する
    ②2つ以上の前兆が引き続き生じる
    ③それぞれの前兆症状は5~60分持続する
    ④少なくとも1つの前兆症状は片側性である
    ⑤少なくとも1つの前兆症状は陽性症状である
    ⑥前兆に伴って、あるいは前兆出現後60分以内に頭痛が発現する
  4. D .ほかに最適なICHD-3の診断がない

前兆のある片頭痛は前兆の種類により4つのサブタイプに分類されています。
1.2.1「典型的前兆を伴う片頭痛」では、視覚症状、感覚症状、言語症状から1つ以上の前兆を伴います。運動麻痺(脱力)、脳幹症状、網膜症状は含まれません。1.2.2「脳幹性前兆を伴う片頭痛」では、脳幹が関連すると考えられるようなめまいや呂律が回らない、耳鳴りといった症状がみられます。運動麻痺(脱力)の症状があれば1.2.3「片麻痺性片頭痛」、片頭痛に伴い片側の眼に視覚障害(閃輝、暗点、視覚消失など)がみられる場合は、1.2.4「網膜片頭痛」に分類されます。

■慢性片頭痛(chronic migraine:CM)

「慢性片頭痛」は、頭痛が月に15日以上の頻度で3ヶ月を超えて起こり、少なくとも月に8日の頭痛は片頭痛の特徴をもつものです8)。このような頭痛が頻発する患者さんにおいては個々の頭痛を鑑別することが困難であるため、慢性片頭痛というタイプが設けられています。
ICHD-3において、「慢性片頭痛を示唆する症状の最も一般的な原因は『薬剤の使用過多による頭痛(MOH)』で定義されている治療薬の過剰使用であり、慢性片頭痛とみなされる患者の約半数は薬物離脱後に反復性片頭痛に戻る」とされています。慢性片頭痛が疑われる患者さんについては、薬剤の服用状況を確認することが望ましいと言えます。
ただし、「慢性片頭痛」と「薬剤の使用過多による頭痛」の診断基準を満たす患者さんには、両方の診断名をつけることになります9)

■片頭痛のメカニズム

片頭痛の病態・メカニズムはまだ確定しておらず、現在では頭痛発作の機序として三叉神経血管説が広く支持されています10)。光や音など外部からの何らかの刺激によって三叉神経終末からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)、サブスタンスP、ニューロキニンA等の神経伝達物質が脳血管に放出されます。これにより感覚神経の痛覚閾値が下がるとともに、硬膜周辺での血管拡張や血漿蛋白の漏出など神経原性炎症が起こります。
三叉神経の刺激が順行性に伝わると脳幹の三叉神経核に至り、悪心・嘔吐などの自律神経症状を引き起こします。刺激が視床を経由して大脳に至ると痛みを自覚するほか、視覚や聴覚、嗅覚の過敏症状なども起こすと考えられています。食欲不振や睡眠覚醒サイクル障害、気分変動や口喝など片頭痛発作時の随伴症状については、視床下部との関連も考えられています11)。また、刺激が軸索を介して逆行性に伝わると、末梢で血管拡張や神経原性炎症がより広い範囲に誘発され、痛みが増強すると考えられています。

メカニズムイメージ図

メカニズムイメージ図

■片頭痛の予兆期と前兆期

片頭痛には4つの段階があり、予兆期・前兆期・頭痛期・回復期と時間とともに経過します。近年の画像検査技術の進歩により、片頭痛患者さんの発作時の脳内変化を調べたところ、頭痛発作より2~3日前の予兆期にすでに視床下部に異常が認められ、前兆期、頭痛発作へと進展することが明らかとなりました12,13)

片頭痛の予兆期と前兆期

(文献14より引用)

この予兆期にあらわれる症状は前駆症状ともよばれ、前兆のない片頭痛では痛みの出現前に、前兆のある片頭痛では前兆の前に、最長48時間続く症状のことです15)
前兆期は片頭痛発作の初期症状で、前兆症状は典型的には20~30分(診断基準上は5~60分)持続し、頭痛に先行します15)

・予兆期の主な症状(前駆症状)
過食、あくび、疲労感、集中困難、頸部や肩のこり、抑うつ感、神経過敏、浮腫などがあります。肩こりを訴えることで緊張型頭痛と診断されることもありますが、実際には片頭痛の前駆症状であるケースもあります。

・前兆期の主な症状
目の前で光がチカチカする等の視覚症状(閃輝暗点)、チクチク感や感覚が鈍くなる感覚症状、言葉が出にくくなる言語症状などがあり、通常は前兆が20~30分(診断基準上は5~60分)続いた後に頭痛が始まります。

<参考>
  1. 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, p6-8, 医学書院, 2021.
  2. 2)Do TP, et al: Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice : SNNOOP10 list. Neurology 2019;92(3):134-144.
  3. 3)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会:頭痛の診療ガイドライン2021, p34-35, 医学書院, 2021.
  4. 4)Sakai F, Igarashi H : Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey. Cephalalgia 1997;17:15-22.
  5. 5)Detsky ME, et al: Does this patient with headache have a migraine or need neuroimaging? JAMA 2006 ; 296(10): 1274-1283.
  6. 6)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版. 医学書院, 2018, p3-5.
  7. 7)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版. 医学書院, 2018, p5-10.
  8. 8)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版. 医学書院, 2018, p10-11.
  9. 9)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, p122-124. 医学書院, 2021.
  10. 10)Moskowitz MA. The neurobiology of vascular head pain. Ann Neurol 1984;16:157-168.
  11. 11)Rodrigo N, et al: Migraine pathophysiology: anatomy of the trigeminovascular pathway and associated neurological symptoms, CSD, sensitization and modulation of pain. Pain, 2013.
  12. 12)Maniyar FH, et al. Brain activations in the premonitory phase of nitroglycerin-triggered migraine attacks.Brain 2014;137:232-241.
  13. 13)Schulte LH, May A. The migraine generator revisited: continuous scanning of the migraine cycle over 30 days and three spontaneous attacks. Brain 2016;139:1987-1993.
  14. 14)竹島 多賀夫, 「迷わない!見逃さない!頭痛診療の極意」, 丸善出版, 2014, P5.
  15. 15)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版. 医学書院, 2018. p2-20.