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専門医が解説する「頭痛」のこと

総監修:社会医療法人 寿会
富永病院 副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/
富永クリニック 院長
竹島 多賀夫 先生

片頭痛の慢性化

はじめに

片頭痛の予後は、不変、部分寛解(症状改善)、寛解、増悪に大別されます。また、片頭痛が増悪した患者さんの一部は慢性片頭痛に移行する場合があることが知られています1)

1.片頭痛の慢性化について

Point

  • 頭痛の慢性化の判断は、主に頭痛の発作回数をもとになされる
  • 慢性片頭痛とは、直近3ヶ月の間に頭痛が月に15日以上あり、そのうち8日間以上が片頭痛の診断基準を満たす状態である
  • 慢性的な頭痛を表す用語として「慢性頭痛」「反復性片頭痛」「慢性片頭痛」「慢性連日性頭痛」などが使用される

片頭痛の発作頻度は一般的に月に1〜4回程度とされています(月経関連片頭痛の場合は1週間弱)。また、「国際頭痛分類 第3版」(ICHD-3)では、片頭痛発作1回あたりの持続時間は4〜72時間(3日間)と定義されています2)

頭痛の慢性化の判断は、主に頭痛の発作回数をもとになされますが、これに関連して頭痛診療の現場では「慢性頭痛」「反復性片頭痛」「慢性片頭痛」「慢性連日性頭痛」などの用語が使用されていますので、まずはそれぞれの違いについて整理します。

■慢性頭痛

頭痛が新規に発症した後、3ヶ月以上に渡って繰り返し頭痛が起こる状態を「慢性頭痛」と呼ぶことが多くありますが、ICHD-3の診断名ではありません。

■反復性片頭痛(episodic migraine:EM)

頭痛頻度が月に15日未満の片頭痛については、以前は明確な定義がないまま反復性片頭痛と呼ばれていましたが、2020年に発表された「国際頭痛分類 第4版α版」において、直近3ヶ月の間の頭痛頻度が月に15日未満であり、そのうちの何日かが片頭痛の診断基準を満たす状態と暫定的に定義されました3)

■慢性片頭痛(chronic migraine:CM)

ICHD-3において、直近3ヶ月の間に頭痛が月に15日以上あり、そのうち8日間以上が片頭痛の診断基準を満たす状態と定義されています4)。すなわち、緊張型頭痛様の頭痛が混ざっていたとしてもこの定義を満たしていれば慢性片頭痛と診断します。

■慢性連日性頭痛(chronic daily headache:CDH)

1日平均4時間以上の頭痛が月に15日以上あり、それが3ヶ月以上続いている状態の総称です。慢性連日性頭痛はさらに変容性片頭痛、慢性緊張型頭痛、新規発症持続性連日性頭痛、持続性片側頭痛の4タイプに分類されます。慢性連日性頭痛はICHD-3の診断名ではありませんが、慢性頭痛を包括的に評価でき、実臨床上の利便性が高いことから頭痛診療の現場で使用されることがあります5)

2.片頭痛の増悪因子と薬剤の使用過多による頭痛(MOH)

Point

  • 片頭痛の増悪因子:ライフイベントや環境の変化などによるストレス、梅雨や台風といった季節や天候の変化、精神疾患の共存など
  • 片頭痛の慢性化の危険因子:家族歴、胎児期における母親の飲酒と喫煙、もともとの頭痛頻度の高さ、肥満、睡眠障害、薬剤の使用過多など
  • MOHとは、月に15日以上の頭痛があり、かつ3ヶ月以上に渡って月に10日以上(治療薬により15日以上)の急性期または対症的頭痛治療薬の使用歴がある状態である
  • 慢性頭痛の原因の多くをMOHが占めると考えられている

■片頭痛の増悪因子と慢性化の危険因子

片頭痛の増悪因子として、ライフイベントや環境の変化などによるストレス、梅雨や台風といった季節や天候の変化、精神疾患の共存などが知られています6)。したがって、学生時代に片頭痛を発症して社会人になったタイミングで悪化する方や、受験や昇進試験前、産後に悪化するような方がよくみられます。

また、慢性化の危険因子として、家族歴、胎児期における母親の飲酒と喫煙、もともとの頭痛頻度の高さ、肥満、睡眠障害、薬剤の使用過多などが知られています1)。なかでも、MOHは慢性頭痛の原因の多くを占めていると考えられているため注意が必要です。

■薬剤の使用過多による頭痛〔薬物乱用頭痛(medication-overuse headache:MOH)〕

MOHは、ICHD-3において、月に15日以上の頭痛があり、かつ3ヶ月以上に渡って月に10日以上(治療薬により15日以上)の急性期または対症的頭痛治療薬の使用歴がある状態と定義されています7)。慢性片頭痛とMOHの定義を両方とも満たす場合には、両方の診断名が付けられます。

MOHの治療は予防治療が基本です。具体的には、慢性片頭痛から反復性片頭痛に戻すことを目標として、患者さんへの知識啓発、原因薬剤の中止、薬剤中止後に起こる頭痛への対処、予防治療薬(発症抑制薬)投与を行います。

経験上、約半数の患者さんは薬の使いすぎが頭痛の原因であることを理解するだけで症状が改善していきます。残りの半数は精神疾患が共存するなどの理由により予防治療への初期の反応性が鈍いものの、治療を継続することで最終的には多くの方で改善が期待できます。

3.慢性頭痛の鑑別診断のポイント

Point

  • 片頭痛と二次性頭痛の鑑別には画像診断によるスクリーニングが有用である
  • 神経症状やバイタルサインの異常を伴わず、頭痛のみを主訴として来院された方のなかにも危険な頭痛が潜んでいることがあるため、頭痛の頻度だけではなく頭痛の持続時間にも着目することが重要である

■鑑別診断の進め方とピットフォール

頭痛回数の増加や症状の悪化を訴える片頭痛患者さんを診る場合の鑑別診断の基本的な流れは以下のとおりです。

  1. ①くも膜下出血などの危険な二次性頭痛を除外する
  2. ②副鼻腔炎など①以外の二次性頭痛を除外する
  3. ③二次性頭痛を除外した後、一次性頭痛の鑑別を進める

本記事では鑑別の詳細は省略しますが、頭痛の性状のみで片頭痛と二次性頭痛を正確に鑑別するのは困難です。二次性頭痛が疑われる場合や、頭痛の質が以前より変化している場合には、一度は画像検査によるスクリーニングを実施した方がよいでしょう。また、画像診断によって頭蓋内疾患を否定し、患者さんの不安を取り除くことは一次性頭痛の治療に好ましい影響を与えますので8)、月に15日以上の頭痛がある慢性頭痛の患者さんについても、どこかで一度は画像検査を行うことが勧められます。

なお、麻痺・意識障害などの神経症状やバイタルサインの異常を伴わず、頭痛のみを主訴として来院された方のなかにも、くも膜下出血などの危険な頭痛が潜んでいることがあります。そのため、頭痛の程度だけではなく持続時間にも着目して危険性を判断することが重要です。例として、片頭痛の定義を超えて4日間以上頭痛が持続するような片側性後頭部痛の場合には、椎骨動脈解離が潜んでいる可能性もあります。

■片頭痛の慢性化が疑われた場合の問診のポイント

片頭痛の慢性化が疑われた場合、過去3ヶ月の頭痛頻度と服薬日数を問診で確認していきますが、正確な診断には頭痛ダイアリーの記録が必要です。ただ、頭痛ダイアリーがなく、患者さんも正確な日数を思い出せない場合には、以下のような質問で大まかな日数を確認するとよいでしょう。

例1「だいたいで結構ですので、1ヶ月が30日だとすると、ここ3ヶ月間で1ヶ月あたりの頭痛が少なくて何日ぐらい、多くて何日ぐらいあったか思い出してください。」
例2「ここ3ヶ月間で、頭痛は月の半分以上ありましたか。また、痛み止めを月に10日以上使うことが続いていませんか。」

4.頭痛専門医への紹介のタイミング

Point

  • 慢性片頭痛の治療に難渋した場合や、精神疾患の共存が疑われる場合には、できるだけ早めに頭痛専門医へ紹介することが勧められる

慢性片頭痛は生活支障度が高い頭痛ですので、2〜3ヶ月予防治療薬(発症抑制薬)を継続しても改善せず治療に難渋された場合、もしくは何らかの理由で十分な予防治療が行えない場合はできるだけ早めに頭痛専門医へご紹介ください。MOHについては、前述の通り原因薬剤の中止で改善する方も多いことから、まず使い過ぎになっている薬剤の中止を指導し、それでも十分な改善がみられない患者さんを頭痛専門医に紹介いただいてもよいでしょう。

また、もし精神疾患の共存が疑われる場合には、難治例が多く、場合によっては精神科との連携も必要になりますので、早めに頭痛専門医へご紹介いただくのがよいと思われます。

5.生活支障度の確認の重要性

Point

  • 頭痛患者さんを診る際には、支障度評価を積極的に行うことが重要である

これは慢性片頭痛に限ったことではありませんが、本邦の頭痛診療には医療機関における頭痛の支障度評価が十分になされていないという課題が存在します。そのため、頭痛を何とかしてほしくて医療機関を受診したのに、痛み止めを出されるだけで終わってしまい、その後の受診を諦めてしまうような患者さんがいまだに存在します。

一見元気そうに見える患者さんでも、実は頭痛のせいで仕事や日常生活に大きな支障をきたしていることが少なくありません。頭痛を訴える患者さんを問診する際には、遅刻・早退・欠勤を繰り返していたり、登校・出社できていたとしても本来のパフォーマンスが十分に発揮できない状態(プレゼンティーズム)になっていたりしないか、また、余暇の過ごし方など頭痛のない発作間欠期も含めた生活支障度について能動的に確認し、患者さんごとに適切な治療を実施していくことが重要です。

<参考>
  1. 1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p107-109.
  2. 2)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018, p3-5.
  3. 3)Goadsby PJ, Evers S : International Classification of Headache Disorders - ICHD-4 alpha. Cephalalgia 2020;40:887-888.
  4. 4)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018, p10-11.
  5. 5)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p344-345.
  6. 6)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p104-106.
  7. 7)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018, p118-119.
  8. 8)Jordan JE, Flanders AE : Headache and Neuroimaging: Why We Continue to Do It. AJNR Am J Neuroradiol 2020;41:1149-1155.

(2023年10月作成)