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日常生活のアドバイス

むくみ
重症化を防ぐためのむくみのセルフケア
ケア

がん治療では、抗がん剤治療や手術、放射線療法などによりむくみが生じることがあります。重症化すると、日常生活に支障をきたしたり、感染症を起こす危険もあります。そのため、初期の段階でむくみに気付き、対処することが重要です。また、他の疾患が原因となり起こるむくみもあり、原因によって対処方法が異なります。そこで今回は、むくみを重症化させないための日常生活の注意点やセルフケアなどをご紹介します。

横浜労災病院 乳腺外科 部長
千島 隆司 先生
横浜労災病院 看護部
リンパドレナージ外来看護師
田上 砂織 先生
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がん治療で起こる「むくみ(浮腫)」とは?

がんの治療中に、腕や脚がむくむことがあります。これを浮腫(ふしゅ)といいます。浮腫は、腫瘍(しゅよう)の進行や転移が原因となるものの他に、全身に生じる抗がん剤の副作用や、手術部位などの局所に生じるリンパ管閉塞など、さまざまな要因で発生します。

がん治療を受けるすべての患者さんが発症するわけではありませんし、症状の程度もさまざまなので、医師と相談しながらご自身に合ったケアを見つけていきましょう。

浮腫の原因

全身性浮腫
抗がん剤によって起こる「薬剤性浮腫」

抗がん剤の影響で、血管内から出た水分が、皮膚と皮下組織内にたまることで、全身にむくみが生じます。ドセタキセルなどのタキサン系抗がん剤で起こりやすいと言われています。

低栄養によって起こる「低タンパク性浮腫」
イラスト

主に肝臓で作られるアルブミンというタンパク質には、血管の中に水を保持する働きがあります。栄養状態が悪くなり、タンパク質の摂取不足になると、アルブミンが減少して血管内の水が外へ漏れ出し、全身にむくみが起こります。

局所性浮腫
手術に伴う「リンパ浮腫」
イラスト

全身の皮膚のすぐ下には、網の目状に張り巡らされたリンパ管があります。この中を流れるリンパ液は、体内で不要になったタンパク質などの老廃物を運んでいます。
リンパ液は、リンパ管の中をとおって、リンパ節に流れ込みます。リンパ節は、細菌や異物が血管内に侵入しないよう捕捉(ほそく)する役割を担っています。一部のがん細胞も、このリンパ管を通って転移を起こすと考えられています。
手術によりリンパ節を切除すると、リンパ液の流れが悪くなり、タンパク質が皮下にたまり、その周辺(局所)に浮腫(むくみ)が起こります。タンパク質がたまり続けると、次第に周囲の組織に変性や線維化が起こり、進行すると皮膚が硬くなっていきます。

浮腫が発生しやすい部位

●全身性浮腫

薬剤性浮腫や低タンパク性浮腫は、上肢よりも下肢に症状が出やすいといわれています。多くの場合、両側性に出現するのが特徴です。

●リンパ浮腫

手術をした部位(リンパ節を切除した部位)の近傍から片側性に出現します。両側のリンパ節を切除した場合は両側に発症しますが、多くの場合は進行具合に左右差があります。
イラストイラストイラスト

早期発見のポイント

●薬剤性浮腫(両側性・全身性)
  • 急な体重増加
  • 両側の脚が重く歩きにくい
  • 靴下の痕が消えない
  • 骨に近い部分を押すと指の痕が残る
  • 起床時にまぶたや顔面がむくむ
●リンパ浮腫(片側性・局所性)
  • 何となく腫れぼったく、片方だけ腕や脚がだるく疲れやすい
  • 腫れている側で指輪や腕時計がきつくなる
  • 手や脚の皮膚のしわが見えにくくなる
  • 今まで見えていた血管が見えなくなる
  • 骨に近い部分を押すと指の痕が残る(しばらく元に戻らない)
  • 片方だけ靴下の痕が残ったり、靴がきつくなったりする

二の腕や太ももに生じても、最初は皮膚のたるみなどで気付きにくいことがあります。感覚が鈍ったような違和感や重くだるい感じの不快感と共に上記の症状に気付いたら、医師に相談してください。

日常生活の注意点・セルフケア

浮腫は、がん治療を受ける患者さんすべてに起こるわけではありません。薬剤性の浮腫や低タンパクによる浮腫は数ヶ月で治る方も多くいらっしゃいます。
術後に生じたリンパ浮腫でも、自覚症状のない軽度の場合は自然に改善する方も少なくありません。

リンパ浮腫を疑った場合は重症化しないよう、また重篤な皮膚感染(蜂窩織炎( ほうかしきえん ) ※1 など)を起こさないよう注意して過ごしましょう。

※1 蜂窩織炎:皮膚および皮下組織の急性細菌感染症で、感染部の皮膚の発赤が急速に拡大し、疼痛と発熱をきたします。特にリンパ浮腫の患者さんで起こりやすく、また繰り返す傾向にあると言われています。

スキンケア

浮腫が出現した皮膚はデリケートで傷つきやすいため、清潔・保湿を心掛けましょう。 スキンケアの方法は、vol.8「皮膚障害の悪化を防ぐためのケア」もご参照ください。

皮膚の保護

感染予防のため、皮膚に傷をつくらないよう注意しましょう。靴下や長袖を着用することで、怪我や虫刺されから皮膚を保護することができます。

また、浮腫が出現した皮膚の感覚は鈍いため、やけどや切り傷が生じても気がつきにくいので注意が必要です。 過度な日焼けも皮膚に障害を与えるので避けましょう。

圧迫や負担を避ける※2

浮腫のある方の体は、部分的に締め付けないよう、ゆったりとした衣服・下着を着用しましょう。
下肢に浮腫がある場合、あぐらや正座など下肢を屈曲する姿勢は避けましょう。長時間の立ち仕事や脚を下ろした状態の姿勢も浮腫を悪化させる原因となるので、こまめに休憩をとりましょう。
腕に浮腫がある場合は、長時間にわたって重いものを持たないようにしましょう。また、浮腫のある方の腕に負担をかけないよう、かばんや荷物は反対側の腕で持つか、あるいは重さを左右均等に分散できるリュックサックなどを利用しましょう。ただし、出来るだけ荷物は軽くして、肩に当たるベルトの位置は時々ずらすようにしましょう。

※2 医療従事者の指導のもと、弾性ストッキングなどを使用して圧迫療法を行う場合を除きます。

就寝時に腕や脚を高くする
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就寝時は、浮腫がある方の腕や脚の下にクッションなどを敷き、浮腫のある部位を心臓より高い位置にしましょう。ひざ下あたりからクッションを入れると腰に負担がかかりにくくなります。この場合、足の先端が一番高くなるようにします。

食事

全身性浮腫では塩分を控えましょう。
低タンパク性浮腫の場合はタンパク質の摂取を増やすようにしましょう。
また、肥満による皮下脂肪の増加はリンパ浮腫悪化の原因となることがあるので、バランスの良い食事を心がけましょう。

Q&A

Qいつ頃から浮腫の症状がみられるのでしょうか?

A抗がん剤、特にドセタキセルによる浮腫は投与を重ねるほど起こりやすく、3 サイクル目以降に起こることが多いとされています。
一方、術後リンパ浮腫の発症は個人差が大きく、手術直後の場合もあれば、10 年以上経ってから発症する場合もあると言われています。症状がみられなくても、普段から発症予防や早期発見のために観察を行うことが大切です。

Q仕事で立っている時間が長いのですが、気を付けることはありますか?

A脚がだるくなったら少し動かすようにしましょう。座ったままではなく、時々歩くようにして筋肉を動かすようにします。女性の場合は、脚全体を軽く圧迫する市販タイプの着圧ストッキングを試してみるのも良いでしょう。

Qランニング・ウォーキングなどの軽いスポーツをしても大丈夫ですか?

Aイラスト適度な運動はリンパ液の流出を促進するので推奨されています。ただし、疲れが出るような激しい運動は避けましょう。また、水圧による適度な圧迫が期待できるので、水中での軽い運動も推奨されています。

Q温泉に入っても大丈夫ですか?

Aイラスト皮膚の変化や傷がある場合は、温泉の成分が刺激になる可能性があるのでおすすめできません。
また、長時間の入浴や高温の岩盤浴、サウナなどはリンパ液の流入が過剰になり、リンパ浮腫の患者さんでは過剰になったリンパ液を処理しきれずに症状を悪化させる可能性があるので避けましょう。

Q医療機関を受診するときに、気を付けることはありますか?

Aリンパ浮腫の場合、血圧測定による圧迫(リンパの流れを障害する)や注射・点滴(リンパの流れを増加させたり、血管外漏出などにより炎症を誘発する恐れがある)は、症状が現れている腕では出来るだけ避ける方が良いでしょう。どうしても必要な場合は医師に相談してください。

Q浮腫は治りますか?

A薬剤性浮腫や低タンパク性浮腫のように、水分貯留が原因となる浮腫は改善が期待できます。しかし、組織の変性や線維化が進んだリンパ浮腫の完治は困難です。出来るだけ早期に発見し、悪化させないよう気をつけることが大切です。

Qマッサージをしてもいいですか?

Aイラストリンパ浮腫治療でのマッサージは、肩こりなどのマッサージとは異なり、リンパ液を皮下から排液するという意味の「リンパドレナージ」と呼ばれます。エステなどの美容目的で行う、いわゆる「リンパマッサージ」とも異なるので注意してください。やり方を間違うと症状を悪化させて逆効果になりますので、リンパ浮腫外来などで医療従事者の指導のもと、正しい方法で行うようにしましょう。

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