「毎日のように頭が痛いです」と訴える患者さんに対し、頭痛専門医がどのようにアプローチし、診断を行うのかを、ケーススタディ形式で解説します。本コンテンツで扱う症例は、臨床現場で起こりうる状況を想定して作成したものです。
1.症例:毎日の頭痛に悩む35歳・女性
今回紹介する症例は、毎日の頭痛に悩む35歳女性です。
患者背景
35歳、女性。未婚で一人暮らしの会社員(営業職)。既往歴に花粉症があり、基礎疾患や家族歴に特記事項はない。やや肥満体型。
生活習慣
喫煙歴なし。飲酒は週1〜2回。睡眠は平均5時間程度。以前は週1回スポーツジムに通っていたものの最近は行けていない。食生活も不規則になりがちで、外食やコンビニ弁当が多い。
現病歴
以前からたまに頭痛はあったものの、二日酔いでも頭痛が起こるので重要視していなかった。年明けに仕事で大きなプロジェクトの担当者に任命されてから、頭痛の頻度が増えるとともに、帰宅時間が遅くなり食事も不規則になった。花粉症の時期には抗アレルギー薬を毎日服用しているため、頭痛薬はひどくて治まらないときにしか服用していない(市販薬を月あたり10錠・5日程度)。頭全体が締め付けられるような痛みを感じる日もあるものの、頭痛は片側・拍動性のことが多い。ほとんどは半日程度で改善するが、ひどいときは薬を服用しても1日続くことがある。前兆はない。この状態が4ヶ月続き、毎日のように続く頭痛に耐えかねて専門医を受診した。
2.毎日続く頭痛の診断に役立つ問診のポイント
問診票の活用
問診ではまずは患者さんに自由に話してもらいますが、診察時間が限られるなかで多岐にわたる問診内容を漏れなく把握する必要がありますので、その場合はクローズドクエスチョンを投げかけることもありますし、問診票を活用することも重要です。
頭痛に特化した問診票を作成することで、様々な随伴症状を含め、多角的な情報を引き出すことができます。診察時間を節約できるのみならず、症状の伝え忘れを防ぐことにもつながります。
問診票には、国際頭痛分類第3版1)における片頭痛の診断基準を網羅できるよう、以下のような項目を含めるとよいでしょう。
- ・頭痛の性質:拍動性、締め付けられるような痛み、片側性、両側性など
- ・頭痛の発症時期:あるときから突然増加したのか、徐々に増加したか
- ・頭痛の治療歴:これまでの服薬状況とその効果
- ・随伴症状:悪心、嘔吐、光過敏、音過敏、臭覚過敏など
- ・予兆・前兆:生あくび、肩こり、閃輝暗点など
- ・誘発因子:ストレス、睡眠、食事など
- ・不安や抑うつの尺度:GAD-7(不安尺度)やPHQ-9(抑うつ尺度)などの指標
二次性頭痛の除外
問診ではまず、危険な二次性頭痛を除外するため、二次性頭痛を疑わせるSNNOOP10リストの症状の有無を確認します。(関連ページ:「頭痛の解説」)
このリストには、発熱や体重減少、頭痛以外の神経症状(感覚異常、力の入りにくさ、見え方の問題など)、外傷、突然の発症か、発症時の年齢が高いか、頭痛のパターンの変化、などが含まれます。
これらの症状は会話のなかで出づらいこともありますので、医師から積極的に質問するのはもちろん、問診票に項目を設けたり、患者さんが持参したメモや頭痛ダイアリーなどを参考にしたりすることで、見落としを防ぐことが重要です。
画像検査
今回の症例のように頭痛日数が多い方には、二次性頭痛を疑う発熱や体重減少がなかったとしても、最近MRIを含む画像検査を受けたことがなければ、私は画像検査の実施を提案することが多いです。もちろん金銭面の負担は考慮しますが、緊急性の高い疾患が見逃されることは避けたいですし、実際に画像を撮って何も見つからなければ、むしろ患者さんの安心にもつながりますので、無理のない範囲で勧めています。
血液検査
全身性の異常がないかを確認するための一般的な採血を行い、感染症、炎症、電解質異常などの可能性を検討します。また甲状腺機能の低下症・亢進症はいずれも頭痛の誘発因子と報告されていますので2)、甲状腺機能の項目を確認することもあります。
薬剤の使用過多による頭痛(MOH)の確認
今回の患者さんは、市販薬の服用が月4日程度と少ないため、MOHの可能性は低いと判断できます。なお国際頭痛分類第3版におけるMOHの診断基準では、錠剤数ではなく服薬日数を基準としています1)。(関連ページ:「日常診療で出会う薬剤の使用過多による頭痛の患者さんへの対応」)
生活習慣の詳細な把握と改善指導
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睡眠:睡眠時間は平均5時間と、やや短めです。元々がショートスリーパーの方で、疲れが取れているのであればよいのですが、最近忙しくなったとのことですので、睡眠不足になっていないかを確認します。
また睡眠の時間だけでなく質的な変化、すなわち忙しいため睡眠の時間を確保できないのか、それともストレスなどが原因で寝付けなくなったのか、という点も確認します。後者のような不眠であれば睡眠導入剤を処方することもありますし、睡眠クリニックや精神科への紹介も検討します。 - 運動:以前ジムに通っていたが最近行けていないという状況は、運動不足を示唆します。定期的な運動は頭痛の軽減や予防に繋がるため、無理のない範囲で再開を促します。
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食生活:食生活が不規則ということですので、空腹が片頭痛を誘発している可能性があります。規則正しく、バランスの取れた食事を心がけるよう指導します。
特定の食品(チーズやチョコレートなど)をとると片頭痛を起こしやすいと言われることもありますが、誘因となる食品は人により大きく異なりますので、あまり食の内容には神経質にならなくてもよいと伝えることが多いです。
心理社会的因子・ストレスの把握
不安や抑うつについては、医師が直接聞き出しにくい場合もあります。問診票にGAD-7(不安尺度)やPHQ-9(抑うつ尺度)などの指標を組み込むと、スクリーニングを行うことができます。もしこれらの点数が高い場合は、精神科への紹介を検討します 。
今回のケースでは特に、「大きなプロジェクトの担当者に任命されてから頭痛が増えた」という時系列の一致を確認したいです。産業医の目線で考えた場合、プロジェクトによるストレスが頭痛を引き起こすという因果関係が明らかとなれば、プロジェクトの終了予定時期(数週間後に終わるのか、年単位で続くのか)や、本人の充実感、職場でのサポート体制(上司や同僚からの理解など)を考慮し、対応策を検討できるからです。
なおストレスから解放されることが副交感神経を刺激して片頭痛を引き起こすこともありますが、毎日続く頭痛の場合は、どちらかといえばストレスによる負荷が原因となっていることが多いようです。
ストレスが非常に大きい場合は、産業医への相談や精神科への紹介を検討します。
花粉症と頭痛
花粉症自体が頭痛悪化の原因となることがありますが、花粉症の時期に抗アレルギー薬を服用し対応されているとのことですので、本症例では頭痛との関係性は低いように思われます。
片頭痛の特徴
頭全体が締め付けられるような日もあるものの、片側・拍動性の頭痛が多いという訴えは、片頭痛の要素が強いことを示唆します。光過敏、音過敏、臭覚過敏などの随伴症状や、頭痛の予兆(生あくび、肩こりなど)の有無も確認し、片頭痛の診断基準1)に照らし合わせます。
今回の場合、前兆はないとのことですが、片頭痛患者の約70%には前兆がないため、これだけでは片頭痛を否定できません。
また、肥満体型は慢性片頭痛のリスク因子であることも考慮します。
3.診断
上記の問診と諸検査によって、二次性頭痛を除外したうえで、今回の患者さんの頭痛の症状やパターン、生活習慣、精神状態などを総合的に考えると、以下の診断となる可能性が高いと考えられます。
- 慢性片頭痛:片側・拍動性が多いものの頭全体が締め付けられるような日もあり、ストレスや不規則な生活が誘因となり頭痛の頻度が増加しているように思われるため、慢性片頭痛である可能性は高いと考えます。
- 新規発症持続性連日性頭痛(NDPH):明確に「この日から頭痛が始まった」と言える場合は、NDPHを鑑別にあげます。NDPHの診断基準には「明確な発症で明瞭に想起され、24時間以内に持続性かつ非寛解性の痛みとなる」「3ヶ月を超えて持続する」というものがあります1)。ただし、仮にNDPHの診断基準に合致したとしても、結局は片頭痛的要素が強ければ片頭痛の治療を、緊張型頭痛的要素が強ければ緊張型頭痛の治療をそれぞれ行っていくことになります。
4.頭痛専門医に紹介するタイミング
非頭痛専門医の先生方に、毎日続く頭痛を主訴とする患者さんが来られた際、以下のようなタイミングで頭痛専門医への紹介をご検討いただければと思います。
- 二次性頭痛の疑い:SNNOOP10の項目に該当する症状があった場合や、画像検査などで異常が見つかった、もしくは画像検査が行えない場合。
- 診断が難しい場合:複雑な症状や複数の頭痛が混在している場合など、診断に迷う場合。
- 治療薬に迷う場合:一般的な急性期治療薬だけでは頭痛が十分にコントロールできない場合や、CGRP関連抗体薬などの比較的新しい治療選択肢を検討する場合。
5.おわりに
頭痛患者は非常に多く、すべての患者さんを頭痛専門医が診ることは困難です。しかし、頭痛の治療は近年大きく進歩しており、適切な診断と治療によって患者さんの生活の質を大幅に改善できる可能性があります。頭痛に興味をもつ医療従事者が増え、1人でも多くの困っている患者さんを救うことができるよう願うとともに、私たち頭痛専門医とも積極的に連携をとっていただければと思います。
<参考>
- 1)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018.
- 2)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 :頭痛の診療ガイドライン2021, 医学書院, 2021, p104-106.
(2025年9月作成)