医療制度トピックス
オンライン診療~安全・適正かつ幅広い普及へ
Topics
2024年10月から施行「長期収載品の選定療養化」と「医療DX推進体制整備加算」
オンライン診療の届出数、病院・診療所とも増加傾向
オンライン診療は、2022年度診療報酬改定で「初診」からの実施が解禁、2024年度診療報酬改定(以下、今回改定)では「対象範囲が拡大」しました。さらに、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太方針2024)では、医療・介護DXの政策に対して「ロボット・デジタル技術やICT・オンライン診療の活用など『先進技術・データなどを徹底活用』して、効率的で質の高いサービス提供をしていく」と記載されており、更なる利活用を目指しています。
2023年7月1日時点でのオンライン診療(情報通信機器を用いた診療に係る基準)の届出数は、病院818施設、診療所7,713施設。2022年と比べると病院は313施設増、診療所は2,720施設増といずれも増加傾向となりました(図表1)。
(図表1)オンライン診療(情報通信機器を用いた診療に係る基準) 届出数の推移
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第591回)総-3-1-① (一部抜粋、改変)
特養でのオンライン診療の普及・推進を
また、2024年1月の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&Aの改訂において、通所介護事業所(療養生活を営む場所として患者が長時間にわたり滞在する場合)などでも、オンライン診療を受診できることになりました。さらに、6月に開催された「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、特別養護老人ホーム(以下、特養)などの利用者に対し、緊急時や夜間を含めたオンライン診療の普及・推進が求められました。過疎地域などの特養では大都市圏とは異なり、医療との連携がスムーズに行えないことがあるなど、緊急時の対応や、看取りケアを適切に行うためにも、オンライン診療の体制構築が今後ますます重要視されます。
感染症リスクの軽減など、導入効果あり
オンライン診療は、前述の通り、過疎地域や通院が困難な患者に対する診療も含め、地域の医療提供体制や医療ニーズの変化に伴い、その需要は高まる一方です。2023年度の委託事業である「遠隔医療にかかる調査・研究事業」で実施されたアンケート調査の結果では、医師が感じる導入効果として、「感染症への感染リスクの軽減」や「効率的・効果的な医療提供体制の整備」、患者からは「通院に伴う患者負担の軽減及び継続治療の実現」に寄与するとの回答が多く寄せられました(図表2)。
(図表2)オンライン診療の効果・意見についてのアンケート調査結果(2023年9月)
出典:厚生労働省 オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集(2024年4月版)(一部抜粋、改変)
地域特性や診療科が異なる15事例を紹介
一方で、今回改定の審議において、一部に不適切なケース(初診から向精神薬が処方されるなど)の存在が明らかになったことから、厚生労働省では安全・適正なオンライン診療実施の周知に力を入れています。オンライン診療を含む遠隔医療の適正かつ幅広い普及を進めることを目的に、それらを導入している医療機関などを対象としたヒアリング調査を実施。導入の経緯やプロセス、課題や効果などを「オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集(2024年4月版)(以下、事例集)」として取りまとめました。
事例集では、地域特性や診療科が異なる15件の事例を掲載。これから遠隔医療を導入することを検討している医療機関や、その支援を進めようとしている自治体・地域の関係者が参考にすることを期待しています。
厚生労働省
オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集(2024年4月版)
導入している医療機関を対象としてヒアリング調査を実施。導入の経緯やプロセス、課題や効果などを取り組み事例集として取りまとめ。
診療所における活用ポイント(事例集より一部抜粋、改変)
- 頭痛専門医が少なく、県内の遠方から通院していた患者の通院負担を軽減(脳神経外科)
- 外眼部疾患やアレルギー疾患などの患者に活用(眼科)
- 初診は対面診療を実施し、その後、生理痛、PMSなどの患者への低用量ピルの処方、がん検診の結果説明などで活用(婦人科)
- 通院していた患者で遠方に転居した方の診療継続や、高齢の患者(施設入所者など)の通院に付添う施設職員・家族の負担軽減のために活用(精神科)
- 円滑に実施できるよう専用アプリ使用上の注意点をまとめた患者向け説明資料を作成。男性の不妊治療への参加率が向上(産婦人科)
- 訪問診療または往診の患者に対して、訪問日程の合間に実施し状況確認(皮膚科)
- 安全・安心に実施するため、通院歴のある再診の患者を対象に実施(皮膚科)
- 小児に関わるすべての疾患についての診療に可能な限り対応(小児科)
- 対面診療とオンライン診療を組み合わせることによって治療継続率を向上(小児科)
- 再診の夜尿症の小児患者や一般的な排尿障害の患者へ実施。近隣の保険薬局とも連携し離島も含めた遠方の患者へも対応
遠隔医療モデル参考書を公開
さらに、総務省ではオンライン診療の導入を検討する医療機関などを対象として、導入に必要な情報及び事例などを取りまとめた「遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-」(改訂版)を公表。こちらは、導入プロセスの紹介や実際に導入したツールの製品名、服薬指導、へき地での取り組みなど、9件の事例を掲載し、オンライン診療の導入効果やサイバーセキュリティ対策、導入後の課題や留意点などを解説しています(図表3)。
総務省
「遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-」(改訂版)
導入時検討事項の具体的手順やシステム構成などの参考となる情報やサイバーセキュリティ対策などの技術的な面を中心に、事例を含めて取りまとめた参考書。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000395.html
オンライン診療は、距離の長短を問わずあらゆる場所から受診可能であることや、時間を有効的に活用できることなどがメリットです。しかし、その効果を十分に発揮するためには、オンライン診療を利用する医療従事者や患者などの間で円滑なコミュニケーションが行われていることが前提です。システム的な繋がりだけではなく、人的な繋がりも必要不可欠となります。
(図表3)オンライン診療の形態(一例)
出典:総務省 「遠隔医療モデル参考書-オンライン診療版-」(改訂版)(一部抜粋、改変)
Topics
2024年10月から施行「長期収載品の選定療養化」と「医療DX推進体制整備加算」
【長期収載品の選定療養化】
後発医薬品の使用促進策の一環として、長期収載品(後発医薬品のある先発医薬品)の選定療養化に伴う処方箋様式の見直しや制度の運用が10月1日より施行されます。患者の希望で後発医薬品の上市から5年以上経っている長期収載品や後発医薬品への置換率が50%以上の長期収載品を処方・調剤した場合は、選定療養として追加の患者負担が生じます(図表4)。
(図表4)長期収載品の選定療養化-保険給付と選定療養の適用場面と負担に係る範囲
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第592回)総-3(一部抜粋、改変)
「医療上の必要性」に該当するケースを整理
ただし、医師が医療上の必要性があると判断した場合は例外として、従来通り保険給付が適用されます。この医療上の必要性があると認められるケースについて、7月の疑義解釈では、(1)長期収載品と後発医薬品で薬事上承認された効能・効果に差異がある、(2)患者が後発医薬品を使用した際に、副作用や他の医薬品との飲み合わせによる相互作用、長期収載品との間で治療効果に差異があった、(3)学会ガイドラインにおいて長期収載品を使用している患者について後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている、(4)後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いがある(単に患者の剤形の好みで長期収載品を選択する場合は対象外)-などの理由で、医師が医療上の必要性があると判断した場合が該当するとしています。
調剤時に懸念がある場合は、疑義照会を
保険薬局薬剤師の調剤時の対応にも言及し、(1)~(3)の医療上の必要性について懸念がある場合は医師などに疑義照会するよう指示。(4)は医師などに疑義照会することなく、薬剤師が判断することも考えられるとしていますが、その場合も、調剤した薬剤の銘柄などを処方箋発行医療機関に情報提供することが不可欠だと注意を促しました。
【医療DX推進体制整備加算】
マイナ保険証利用率に応じて3段階に再編
同じく10月施行の「医療DX推進体制整備加算」では、マイナ保険証の利用率に応じた3段階の評価に再編。医科の最上位区分の「加算1」は11点とし、マイナ保険証利用率が15%以上であることを求めます。「医療情報取得加算」は健康保険証の廃止に合わせ、12月1日からマイナ保険証の利用の有無による点数差をなくし、初・再診時とも1点に統一します。
(編集:株式会社日本経営)
※本稿は2024年9月2日時点の情報に基づき作成いたしました。
内容に関する一切の責任は株式会社日本経営に帰属します。また、いかなる部分も一切の権利は株式会社日本経営に所属しており、電子的又は機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ無断で複製又は転送等はできません。使用するデータ及び表現等の欠落、誤謬等につきましてはその責めを負いかねます。なお、内容につきましては、一般的な法律・税務上の取扱いを記載しており、具体的な対策の立案・実行は税理士・弁護士等の方々と十分ご相談の上、ご自身の責任においてご判断ください。