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医療制度トピックス

医療DX~マイナ保険証の利用促進

政府は、マイナンバー法等の一部改正法等の関係法令を受け、現行の健康保険証の新規発行を2024年12月2日に終了し、マイナンバーカードの健康保険証利用(以下、マイナ保険証)へ移行することを閣議決定・公布しています(終了後も最長1年間は発行済みの健康保険証を使える猶予期間あり)。これに先行して2023年4月より、医療機関と保険薬局ではオンライン資格確認導入が原則義務化、訪問看護ステーションではマイナ保険証への移行と合わせ、2024年12月2日より義務化となります。マイナ保険証の利用拡大の実感が乏しい中、厚生労働省は2024年12月に向けて、さまざまな利用促進施策を打ち出しています。

マイナ保険証の利用率6.56%、都道府県ごとの地域差大きく

マイナンバーカードの保有率は、全人口の73.7%に達し、保有者のうち78.5%がマイナ保険証の利用登録を済ませています(2024年4月30日時点/デジタル庁調べ)。さらにカードの携行率は保有者の50.2%(2023年11月~12月/デジタル庁調べ)、18歳以上のカード保有者のうち、「常に携行」しているのは、42.7%(2024年2月/厚生労働省調べ)-との結果が報告されました。

またマイナ保険証の4月の利用率が全国ベースで6.56%(2024年4月/厚生労働省調べ)、前月比較では 1.09ポイント上昇。類型別利用率では、病院13.73%、歯科診療所10.91%、医科診療所5.87%、保険薬局5.71%(2024年4月/厚生労働省調べ)-となりました。2023年1月に集計を始めて以来、過去最高値ではありますが、都道府県別の利用率では地域差が大きいことが明らかになりました。
※マイナ保険証の利用率は、オンライン資格確認を行った件数のうち、マイナ保険証を利用した件数の割合を算出

マイナ保険証の携行率や利用率が一定程度に留まっているこれらの状況を踏まえ、厚生労働省では、▽支援金や一時金交付、▽院内掲示用ポスターや配布用チラシ、▽利用促進支援策のためのチェックリスト、▽患者向け周知広報物(トークスクリプトや、よくある質問)-等で、医療現場における利用を勧奨しています。また医療機関・保険薬局内で上映可能な動画を公開しています(利用申請必須)。

WEBサイト
厚生労働省 オンライン資格確認に関する周知素材について

  • ● 施設内での掲示ポスター
  • ● 配布用チラシ
  • ● マイナ受付のポスター・
    ステッカー
  • ● 窓口での案内チラシ
  • ● 説明動画(ダウンロード用、YouTube用)

https://www.mhlw.go.jp/stf/index_16745.html

(参考)マイナ保険証の利用率(年齢別)

(参考)マイナ保険証の利用率(年齢別)

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第174回) (一部抜粋、改変)

2024年10月からのマイナ保険証利用実績 要件化でさらなる促進

2024年度診療報酬改定(以下、今回改定)での、「医療DX」に関する一連の評価は、医療現場におけるマイナ保険証の利用勧奨を加速させることが狙いですが、医療DXの推進は、その基盤となるマイナ保険証の普及が鍵を握っています。今回改定では、オンライン資格確認によって取得した診療情報・薬剤情報を実際に診療に活用可能な体制を整備するとともに、「電子処方箋管理サービス」や「電子カルテ情報共有サービス」を導入し、質の高い医療を提供するための体制を確保していることへの評価として、「医療DX推進体制整備加算(月1回・初診のみ 8点)」が新設されました。

施設基準として(1)電子処方箋の導入(経過措置2025年3月31日まで)、(2)電子カルテ情報共有サービスの導入(経過措置2025年9月30日まで)、(3)マイナ保険証の利用実績(2024年10月1日から適用)-等の要件を満たす医療機関が算定できます。厚生労働省の疑義解釈によれば、(1)については、届出時点で未導入、もしくは導入未定であっても、経過措置期間中は算定が認められます。

(1)電子処方箋では、届出様式の導入予定時期の記入欄は「未定または空欄」であっても差し支えないとしていますが、経過措置期間終了後も電子処方箋が未導入であった場合、加算の算定要件を満たさないものとして取扱われ、未導入のまま算定を続けた場合は返還対象となるので注意が必要です。

(2)電子カルテ情報共有サービスの導入等の具体的な内容は、サービスが実装可能となった時期に疑義解釈を示す予定としています(2025年4月頃サービス開始予定)。

(3)マイナ保険証の利用実績については、その具体的な水準については今後、中央社会保険医療協議会で議論されます(図表1)。

(図表1)2024年度診療報酬改定におけるマイナ保険証利用等に関する診療報酬上の評価(イメージ)

(図表1)2024年度診療報酬改定におけるマイナ保険証利用等に関する診療報酬上の評価(イメージ)

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第178回) 資料1(一部抜粋、改変)

疑義解釈ではその他、施設基準である「医療DXを通じた質の高い取組み」について、「マイナ保険証をお出しください」等のマイナ保険証の提示を求める案内や掲示を行う必要があるとし、「保険証をお出しください」等、単に従来の健康保険証の提示のみを求める案内や掲示は該当しない-としています。

この他、「医療情報取得加算(「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」から名称変更)」では、患者がマイナ保険証を利用した場合、初診時(月1回・1点)だけでなく、再診時(3ヵ月につき1回・1点)にも算定できるようになりました。

また、今回改定では、マイナ保険証利活用の一環として、「総合入院体制加算」、「急性期充実体制加算」、「救命救急入院料」の施設基準に「救急時医療情報閲覧機能(2024年10月に運用開始)」の導入が追加されました。この運用により、意識障害等で同意取得困難な患者であっても、レセプト情報に基づく医療情報等が閲覧できるようになります。

2023年10月比でマイナ保険証の利用実績が増加すれば一時金も

厚生労働省では、2024年5月~7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」として、マイナ保険証の利用促進に総力を挙げて取組んでいます。

医療現場における利用率向上のための抜本的見直しとして、マイナ保険証利用人数の増加量に応じ、最大10万円(病院は20万円)の一時金を支給。2024年5月~7月のいずれかの利用が2023年10月との比較で増加した場合、その利用率・総利用件数に応じて支援額を決定します。例えば、診療所等では10%~20%未満、且つ30人以上の増加では10万円が支給されます(図表2/病院では10%~20%未満、且つ150人以上の増加で20万円支給)。

(図表2)医療機関等におけるマイナ保険証利用促進のための支援

(図表2)医療機関等におけるマイナ保険証利用促進のための支援

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第178回) 資料1(一部抜粋、改変)

2024年1月~5月まで実施されていた単価設計での支援を、利用人数の増加に応じた定額の給付へと見直すことにより、医療現場にとってより分かりやすい形とし、利用率のさらなる底上げを図ります。

ただし、①医療機関・保険薬局の窓口での共通ポスターの掲示、②来院患者への声かけとマイナ保険証の利用を求めるチラシ配布の徹底-が支給条件となりますので、注意が必要です(①は「医療DX推進体制整備加算」の要件の一例)。

その他、未稼働施設や低利用率施設に対するアプローチ強化として、未稼働施設へは、療養担当規則違反となる可能性があること、低利用率施設へは、「医療DX推進体制整備加算」や一時金、療養担当規則や診療報酬に関する留意点を案内する通知を送付し、利用を促します。

訪問看護でも相次ぐ義務化

これまで訪問看護ステーションでは、オンライン資格確認の体制が整っていなかったため、例外として義務化の対象外でしたが、いよいよ2024年12月のマイナ保険証への移行時期に合わせて義務化、同日にはオンライン請求も義務化されます(2024年6月からオンライン資格確認、及びオンライン請求開始/2024年12月時点でやむを得ない事情がある場合は、期限付きの経過措置あり)。

訪問看護等でのオンライン資格確認は、診療所や保険薬局での確認方法とは異なり、スマートフォン等を利用した「居宅同意取得型」の仕組みが活用されます。これにより患者宅に顔認証付きカードリーダーを携行しなくても資格確認が可能となります。さらに、継続的に訪問看護が行われている間は、2回目以降の訪問において、訪問看護ステーション側で再照会を行うことで、資格情報の照会・取得が可能となる機能が備わっています。効率的な資格確認が可能になるほか、初回時の同意に基づき、薬剤情報等を取得することができます。

オンライン請求への移行、期限迫る

今まで、やむを得ない事情により紙レセプト請求を行っている医療機関及び保険薬局では、オンライン資格確認導入の原則義務化の例外とされていました。しかし、「療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令」の改正が2024年4月から施行されたことを踏まえ、レセプト請求方法の取扱いが変更となりました。「オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ」に基づき、紙レセプト請求は、経過措置的な取扱いであることを明示(2024年4月以降も継続する場合は、届出が必要)。光ディスク等でレセプト請求をする場合は、2024年4月から9月までを経過措置期間としつつ、2024年9月末までに原則オンライン請求へ移行します(2024年10月以降も継続する場合は、届出や移行計画書が必要)。

これらの対応を通じて、2024年9月末までに「オンライン資格確認を導入済みである全ての施設」において、オンライン請求に移行すること-としています。また、同期限には紙での返戻を廃止し、オンライン返戻とすることも明記されていますので注意が必要です(図表3)。

(図表3)オンライン請求の割合を100%に近づけていくための基本的考え方

(図表3)オンライン請求の割合を100%に近づけていくための基本的考え方

出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第164回) (一部抜粋、改変)

政府が公言している「2024年12月2日」に向けたマイナ保険証の活用推進をめぐる各施策を取上げましたが、厚生労働省が提示した資料では「窓口での『マイナンバーカード(マイナ保険証)はお持ちですか?』の声掛け」が非常に有効だと報告されました。声掛けとともに、配布用リーフレットやチラシ等と合わせた対応でのさらなる推進が期待されています。

(編集:株式会社日本経営)
※本稿は2024年5月15日時点の情報に基づき作成いたしました。
内容は変更されることがありますので、最新情報を随時ご確認ください。

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