【診療報酬改定】検討結果のとりまとめ案を大筋了承~入院・外来医療分科会
診療報酬調査専門組織の入院・外来医療等の調査・評価分科会(以下、分科会)は10月中旬、2024年度診療報酬改定に向けた検討結果のとりまとめ案を大筋で了承しました。近く中央社会保険医療協議会(以下、中医協)へ報告され、改定議論が行われます。今回は、限られた医療資源で、今後の高齢者救急の需要増大などの医療ニーズに対応しうる効果的・効率的な入院・外来医療提供、医療従事者の負担軽減、働き方改革などの視点で検討が進んでいます。
とりまとめ案の主な項目
- ●一般病棟入院基本料:一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)」の見直し
- ●地域包括ケア病棟における救急搬送患者受け入れ促進
- ●回復期リハビリテーション病棟での適切なFIM(機能的自立度評価表)活用推進
- ●リハビリ・栄養管理・口腔管理の一体的実施
- ●がん化学療法の外来移行推進
- ●かかりつけ医機能の充実
- ●救急医療管理加算の適切な算定 など
主な項目の中から着目したい点をご紹介します。まず、急性期入院医療については適切な評価を行う観点として、看護必要度の評価項目であるA項目(救急搬送後の入院/緊急に入院を必要とする状態)の見直しを検討。さらにB項目(ADLなどを評価)では、「急性期一般入院料1」をはじめとする看護配置7対1病棟を評価基準から外すかが争点です。
また看護職員のタスクシフトについても言及。介護の必要性が高い病棟では介護職員を活用し、入院医療における患者の医療ニーズに対応するために看護職員・看護補助者の配置を進め、看護より介護の必要性が上回る患者は、介護を受けられる場に移行すべき-との指摘もありました。
急性期医療における機能分化のあり方では、高齢者の救急搬送の受け入れ推進が課題とされています。高齢患者の救急への対応やケアに必要な体制を備えた病棟を類型化して評価することが必要-といった意見の他、高齢者の救急搬送は地域包括ケア病棟で受け入れるのが現実的な対応だとしながらも、直接入棟は医療資源投入量が多く、(三次救急などからの)下り搬送と同様に扱うことには疑問が残る。分科会で整理してほしい-と注文がつきました。
外来医療は「かかりつけ医機能」「生活習慣病対策」「外来機能分化」の3つが論点となりました。その中で、かかりつけ医機能については、機能の一つでもある介護との連携について、サービス担当者会議や地域ケア会議への参加が「機能強化加算」の届出がある施設でも5割程度にとどまることから、これらの取り組みを推進するべき-との指摘がありました。また書面を使った説明について、患者の7割は病状と治療に関する説明を希望しているのに対し、実際に実施している医療機関は5割程度と、乖離があることが判明。2025年4月にはかかりつけ医機能として提供する医療の患者への説明が努力義務化されることになっており、両者の乖離を埋めるためにも診療報酬上での対応を検討するように求める意見があがりました。
【かかりつけ医機能】関連制度の施行に向けた検討会の初会合を開催
医療機関の連携を念頭においた制度設計を
社会保障審議会・医療部会は、かかりつけ医機能報告の創設や医療機能情報提供制度の刷新について議論する場として、「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会(以下、検討会)」やその下部組織として「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」、「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」の設置を決定。10月中旬に初会合を開き、各分科会で11月以降に具体的検討を進めることとなりました。2024年夏頃を目途に具体策をとりまとめ、関係省令や告示の改正、都道府県などへの周知を経て、2025年4月1日からかかりつけ医機能報告などの制度を施行する予定です。
先の通常国会で成立した全世代型社会保障法(正式名称:全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備のための施策として、以下が盛り込まれました。
●医療機能情報提供制度の刷新(2024年4月施行)
全国の情報を一元化・標準化した全国統一システムを構築して都道府県の枠を超えた医療機関検索などを可能にするとともに、かかりつけ医機能(定義:身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能)を十分に理解した上で、適切に医療機関を選択できるよう、情報提供項目を国民から見てわかりやすい内容に見直す(図表1)。
●かかりつけ医機能報告の創設(2025年4月施行)
医療機関に日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能(かかりつけ医機能)の有無を都道府県に報告することを求める。機能を有する場合は、(a)通常の診療時間外の診療、(b)入退院時の支援、(c)在宅医療の提供、(d)介護サービスなどと連携した医療提供-などの報告も要請。都道府県は(a)~(d)などの機能を有すると報告した医療機関が、その機能を果たすのに十分な体制を備えているかを確認し、外来医療に関する地域の協議の場に報告するとともに、情報を公表する(図表2)。
●患者に対する説明(2025年4月施行)
かかりつけ医機能を担うことを都道府県が確認した②の医療機関に対して、慢性疾患を有する高齢者など、継続的な医療を要する患者から求めがあった場合には、かかりつけ医機能として提供する医療の内容(疾患名、治療計画など)を電磁的方法や書面交付によって説明する努力義務を課す。
検討会の初会合では、参加した多くの委員がかかりつけ医機能報告について、医療機関の連携を念頭においた制度設計が不可欠-との認識を示しました。
その他、かかりつけ医機能は医療機関の連携ネットワークで実装するという視点を明確化するべき-という指摘や、複数の診療科の医師が連携してかかりつけ医機能を果たすため、専門医であっても他の診療科の医師と一緒にかかりつけ医機能を担っていくという視点で議論を深めていく必要がある-などの意見が委員よりあがりました。
現存する医療資源を最大限活かすことが重要であり、多くの医療機関が積極的に参画できる制度設計が望ましい-と地域の医療提供体制への影響を懸念する意見もあり、対象施設を限定するような厳しい要件設定は避けるべき-と強調。他の委員からも、医療資源が限られる中、すでに(かかりつけ医機能に)対応できている医療機関が参加して良かったと感じるフレームワークを検討してほしい-と要請する声があがりました。
(図表1)医療機能情報提供制度の刷新
(図表2)かかりつけ医機能報告の流れ
(図表1、2)出典:厚生労働省 国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会 資料-2 (一部抜粋、改変)
【長期収載品】薬剤自己負担の見直しを議論~医療保険部会
8月上旬、中医協薬価専門部会では、後発医薬品の収載時薬価や収載後の価格帯集約のあり方、長期収載品の薬価改定ルールなどについて意見交換が行われました。支払側の委員は、現状に強い問題意識を示し、「骨太の方針2023」で提言された長期収載品の自己負担の見直しについて、社会保障審議会・医療保険部会(以下、医療保険部会)で早急に議論するよう要請しました。
「骨太の方針2023」での提言では、持続可能な社会保障制度の構築として、“医療保険財政の中で、創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療など製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進などのイノベーションを推進するため、長期収載品などの自己負担の在り方の見直し、検討を進める”と記載されています。
左記要請を受け、医療保険部会では9月末に薬剤自己負担の見直しに関する議論を行いました。厚生労働省は、これまでの議論などを踏まえ、①薬剤定額一部負担、②薬剤の種類に応じた自己負担の設定、③市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し、④長期収載品の自己負担の在り方の見直し-の4つの案について、考え方と課題を提示しました(図表3)。
④では、使用実態に応じた評価を行う観点や、後発品との薬価差分を踏まえ自己負担のあり方を見直すとしつつ、医療上の必要性に応じ適切な医薬品を選べるよう担保する必要があること、参照価格制(同一薬効成分に一律の固定償還額(参照価格)を設け、償還額を超える分は患者が負担)との関係を課題に挙げました。
(図表3)薬剤自己負担の見直しに関する主な項目
出典:厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(第168回) 資料3 (一部抜粋、改変)
委員からは、薬剤自己負担の見直し(引上げ)を検討していくべき-といった肯定的な意見がある一方で、別の委員からは、いずれも患者の自己負担増に変わりなく、医療上必要なものは保険適用する公的医療保険制度の原則を守るために慎重、丁寧に議論すべき-と訴えました。
診療報酬改定の議論も2巡目に入り、2024年度改定での重点ポイントが徐々に明らかになる中、全世代型社会保障法の成立により、かかりつけ医機能は改定審議と並行して制度整備が進められます。今回は同時改定でもあることから、医療と介護が一体となった更なる連携と提供体制の構築にも期待が高まります。
(編集:株式会社日本経営)
※本稿は2023年10年20日時点の情報に基づき作成いたしました。
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