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医療制度トピックス

電子処方箋とリフィル処方の現状と課題

厚生労働省は6月上旬、全国運用が2023年1月に始まった電子処方箋の機能拡充に向けた当面のスケジュール案を「電子処方箋等検討ワーキンググループ(以下、WG)」で示しました。リフィル処方に対応する機能を新たに追加するほか、患者から口頭で同意を得られれば重複投薬等に該当する過去の薬剤情報を表示できるように運用を改める方針で、いずれも2023年11月頃のプレ運用開始を目指しています。電子処方箋、及びリフィル処方は、多くの課題を含みながらも、さらなる拡大の方向性が示されています。

【電子処方箋】電子処方箋率、医療機関・保険薬局ともに低調~モデル事業中間報告書

電子処方箋は2023年1月に全国運用が開始となりました。それに先んじて2022年10月末から1年間、先行導入地域として選定された4地域(山形県酒田地域、福島県須賀川地域、千葉県旭地域、広島県安佐地域)で電子処方箋のモデル事業が実施されており、その中間報告書が2023年4月に公表されました。

モデル事業には医療機関12施設、保険薬局81施設が参加。電子処方箋発行件数は全国運用開始以降に大きく増加し、週当たり400~600件で推移。全ての処方箋データ登録件数に占める電子処方箋の割合は6%でした(図表1)。また、全ての調剤結果データに占める電子処方箋の割合は2%にとどまりました。

参加施設の医師へのヒアリングでは、過去の薬剤情報の閲覧の意義について「過去情報が処方の参考になる事例がない」、「あまり事例がない」の回答が9割を占め、重複投薬チェックの実施効果も「まだ利用していない」、「チェック結果が出たことがない」との回答が多い結果となりました。

報告書では今後の課題として、業務プロセスの見直しや運用改善以外にも、患者への周知等が挙げられています。

(図表1)モデル事業参加医療機関の処方箋データ登録件数

(図表1)モデル事業参加医療機関の処方箋データ登録件数

出典:厚生労働省 2022年度オンライン資格確認等システムの基盤を活用した電子処方箋に関するモデル事業一式中間報告書 資料 (一部抜粋、改変)

【電子処方箋】導入意欲高い6病院を中心に面的拡大を促進

厚生労働省は4月28日、「第2回電子処方箋推進協議会」を開催し、電子処方箋の普及に向けて、公的病院へのさらなる導入や面的拡大、国民への周知広報の拡充を行っていく方針を提示しました。

電子処方箋は、近隣に導入医療機関と導入保険薬局の両方が揃っていないと活用が進まないことから、厚生労働省は公的病院や導入意欲の高い病院を拠点として周辺地域に波及させていく、面的拡大を進めていきたい考えです。面的拡大の中心となる6病院では、5~6月にかけて電子処方箋の運用を開始し、電子処方箋の機能拡充(リフィル処方や院内処方等)に関する先行検証を行うほか、「電子カルテ情報交換サービス(仮称)」等の先行導入も検討されています(図表2)。

公的病院については、厚生労働省の導入計画に関する調査に回答した714施設中、214施設が2023年度中の導入を予定。しかし、最も多いのは導入時期が未定の施設(414施設)で、「周辺保険薬局の対応がまだできていない」、「システムベンダの対応が間に合っていない」、「費用負担が大きく予算確保が出来ていない」等の意見が挙げられました。

厚生労働省が公表した6月11日時点の電子処方箋システムの導入状況は、「利用申請済みの医療機関や保険薬局」が、5万4,019施設(医療機関等向けポータルサイトで、電子処方箋の利用規約に同意し、利用申請を行った施設)。内訳は、病院1,259施設、医科診療所2万533施設、歯科診療所1万1,791施設、保険薬局2万436施設。それらのうち、実際に電子処方箋の運用を開始したのは4,325施設ありますが、保険薬局が3,913施設と大半を占める状況となっています。導入だけではなく、導入後の開始率が向上することも必要となります。

(図表2)病院等を中心としたさらなる面的拡大について

(図表2)病院等を中心としたさらなる面的拡大について

出典:厚生労働省 第2回電子処方箋推進協議会 資料2 (一部抜粋、改変)

【リフィル処方】発行実績あり病院・診療所の約半数が「患者の希望」でリフィル処方を実施

2022年度改定において、症状が安定している患者について、医師の処方により医師・薬剤師の適切な連携のもと、一定期間内に処方箋を反復利用できる「リフィル処方箋」の仕組みが導入され、処方箋様式も変更されました。このリフィル処方の実施状況を調べるため、2022年4月~6月のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)より、病院・診療所は「リフィル処方箋の発行実績の有無」、保険薬局は「受付実績の有無」に応じて無作為に抽出した施設を対象に調査が実施されました(調査期間:2022年12月~2023年1月、有効回答数:病院・診療所612施設(有効回答率30.6%)、保険薬局223施設(同44.6%))。

調査結果によると、調査期間中にリフィル処方箋を発行したのは、発行実績があった162病院で32.1%、発行実績がなかった133病院ではわずか0.8%にとどまっています。一方、発行実績があった169診療所では72.8%、発行実績がなかった145診療所でも33.3%に上りました(図表3)。改定後、様子見の動きをした病院では半年を過ぎてもその傾向が続く中、診療所では徐々に進展しているようにも見えます。

リフィル処方箋を発行しなかった理由としては「患者からの求めがない」、「長期処方で対応が可能」の2つが特に多くなっています。逆に、調査期間中に発行したことがある病院・診療所の約半数が「患者からの希望があった」としています。

また、リフィル処方箋発行の今後の見通しについては、「積極的に検討する」と回答した病院・診療所は少なかったものの、「患者の希望があれば検討」との回答が一定数あることから、リフィル処方が浸透していくためには「患者の希望」がポイントになることが伺えます。

(図表3)調査期間中(2022年12月~2023年1月)のリフィル処方箋発行の有無(病院・診療所、リフィル処方箋発行実績の有無別)

(図表3)調査期間中(2022年12月~2023年1月 )のリフィル処方箋発行の有無(病院・診療所、リフィル処方箋発行実績の有無別)

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第542回)資料 総-4-1 (一部抜粋、改変)

【リフィル処方】保険薬局からの提供情報はニーズと一致 薬剤師は制度の説明で業務負担増の傾向

どのような患者にリフィル処方箋を発行しているかについては、「かかりつけ患者」との回答が病院92.6%、診療所95.9%ともに最も多く、次いで「自施設と連携する保険薬局に『かかりつけ薬剤師』がいる患者」が病院5.6%、診療所9.0%でした(複数回答)。

調査期間中にリフィル処方箋を発行した54病院、122診療所のうち、保険薬局からの服薬情報提供書(以下、トレーシングレポート)があったのは病院11.1%、診療所23.0%でした。トレーシングレポートで提供された情報としては、病院・診療所ともに「患者の服薬状況」、「患者の服用薬(他の医療機関からの処方等も含む)」、「患者の状態(バイタル・体重・食欲・浮腫の有無・便秘の有無等)」等が多い結果となりました。これらは、病院・診療所が「トレーシングレポートで提供してほしい情報」でも上位にあがっています。

一方、保険薬局への調査では、223施設のうち調査期間中にリフィル処方箋の受付経験があったのは55.6%でした。リフィル処方箋導入による保険薬局・薬剤師業務等への影響について、受付実績のある保険薬局の回答では、「リフィル制度の説明をするため、通常の処方箋の場合より時間をかけて対応する」が最も多い結果となりました。保険薬局・薬剤師の負担を軽減するためにも、患者への周知が求められています。

【電子処方箋のリフィル対応】2023年11月にもプレ運用期間(仮)開始

政府の医療DX推進本部では、電子処方箋について「2023年度内にリフィル処方等の機能拡充を実施するほか、2024年度以降、院内処方への機能拡充や重複投薬等チェックの精度向上等に取り組む」とした工程表を決定。これを受け、6月上旬にWGが、電子処方箋の機能拡充に向けた当面のスケジュール案を提示し、リフィル処方・口頭同意、マイナンバーカードを活用した電子署名への対応を2023年10月に、調剤済み電子処方箋の預かりサービスを2024年3月にリリース予定であることが示されました(図表4)。リフィル処方・口頭同意に対応した機能は、モデル地域や早期導入施設等で先行導入する「プレ運用期間(仮)」(11月頃開始)を設け、取り組んでいくことになりました。

なお、口頭同意については、現在のところ、患者が受付時に同意しなければ、診察室で重複投薬等のアラートが出ても過去の薬剤情報の閲覧はできないため、診察時に患者に直接口頭で同意を得た場合も閲覧可能となる機能が追加される予定です。

(図表4)当面の全体スケジュール(案)

(図表4)当面の全体スケジュール(案)

出典:厚生労働省 第1回 電子処方箋等検討ワーキンググループ 資料2 (一部抜粋、改変)

マイナンバーカードの不備が多数見つかる等、マイナ保険証の利用に対する患者側の心理的ハードルが上がっている昨今。電子処方箋・リフィル処方共に、医療機関・保険薬局と患者双方のメリットも多いことから広く普及されることは望ましくはありますが、厚生労働省が思ったように拡大していないことも事実です。より安全で効果的な導入とその普及が期待されます。

(編集:株式会社日本経営)
※本稿は2023年6年15日時点の情報に基づき作成いたしました。

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