2022年10月から、看護職員等について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%(月額12,000円)程度引き上げる診療報酬上の対応が行われます。10月以降、医療機関は、看護職員処遇改善評価料の算定に伴う財源の3分の2以上を基本給か毎月支払われる手当の引き上げに充て、地方厚生局に対して年4回、看護職員や入院患者数等の状況報告が必要となりました。
看護の処遇改善については、2022年度診療報酬改定の改定率決定に際しての大臣折衝において、プラス0.43%の改定率のうち、プラス0.20%分を活用して実施することが合意されていました。「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の一環として、取り組みは2段階に分けられ、第1段階では「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員」を対象に、2022年2月~9月の間、国の補助金を活用し、収入の1%程度(月額4,000円)引き上げが行われ、今回の対応は第2段階となります。
上限は340点、処遇改善必要点数が最も高い施設の339点まで幅広くカバー
中央社会保険医療協議会が8月10日に行なった2022年10月改定の答申で、看護職員の賃上げ目的で新設される「看護職員処遇改善評価料」の詳細が明らかになりました。「看護職員処遇改善評価料」は、地域での新型コロナウイルス感染症に対する医療などで一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員等の収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げる目的で導入され、医療機関は、「看護職員等の数」と「延べ入院患者数」を所定の計算式に当てはめて算出した値で算定区分を判定します。
点数設定では、8つのシミュレーションモデルのうち、『 「入院料」にのみ100種類の点数を上乗せする試算モデル①-2』と、『 「初・再診料」にも15種類の点数を上乗せするモデル③-2』の2モデルが有力視されていました。入院・外来医療等の調査・評価分科会の追加分析では、これら2モデルの試算に用いた数値を直近のデータに置き換えた場合も、対象医療機関における処遇改善必要額の分布状況や、診療報酬による収入と処遇改善必要額の乖離率などの結果に大きな差はないことが明らかになりましたが、モデル①-2の方が、患者が負担増の不公平を感じにくいことや、モデル③-2では、外来患者数が変動しやすいこと、外来患者への看護職員の関与には濃淡があるため、一律の負担増が難しいこと-等を総合的に考慮し、細分化した点数を入院患者のみで算定するモデル①-2が制度設計の基礎となりました。
「看護職員処遇改善評価料」の算定区分は全165種類。点数設定は「評価料1」(1点)~「評価料145」(145点)までが1点刻み、「評価料145」と「評価料146」(150点)の間が5点刻み、「評価料147」(160点)以降は10点刻みとし、最も高い「評価料165」では340点の算定が可能となります(図表1)。
(図表1)看護職員処遇改善評価料
出典:厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 看護における処遇改善 資料 (一部抜粋、改変)
救急搬送件数の実績は年200件以上、満たせない場合は半年で100件以上
看護職員処遇改善評価料の対象は、「入院基本料」「特定入院料」「短期滞在手術等基本料(基本料1は除く)」のいずれかを算定する入院患者とされました。算定医療機関には施設基準で、(1)「救急医療管理加算」の届出があり、救急搬送件数が年間200件以上(賃金改善実施年度の前々年度の年間実績)、(2)「救命救急センター」「高度救命救急センター」又は「小児救命救急センター」を設置-のいずれかに該当することが条件です。
このうち(1)の救急搬送実績の対象期間は、賃金改善実施期間を含む年度の前々年度1年間とし、仮に基準を満たせなくなった場合も、賃金改善実施年度の前年度の連続する6カ月間における救急搬送件数が100件以上であれば、基準を満たしているものとして扱います。
看護職員等の数、延べ入院患者数を基礎に算定区分を判定、直近3カ月の算出値の変動が1割以内の場合は算定区分の変更不要
看護職員処遇改善評価料の区分では、「評価料1」(1点)から「評価料165」(340点)までの165種類の算定区分が設定されましたが、処遇改善必要点数が最も高い施設(339点)までカバーするとともに、上位区分では点数の設定間隔を10点刻みに広げ、看護職員数や延べ入院患者数が変動した場合もその影響をある程度吸収できるように工夫されました(図表2)。
(図表2)看護職員処遇改善評価料の新設 算出区分判定の計算式、及び別表2
出典:厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 看護における処遇改善 資料 (一部抜粋、改変)
また、計算に用いる「看護職員等の数」と「延べ入院患者数」は、直近3カ月の平均値とします。算定区分の判定は毎年3、6、9、12月に実施(図表3)。区分に変更がある場合は届出を求めますが、前回の届出時と比較して、直近3カ月の「看護職員等の数」、「延べ入院患者数」、算出した値のいずれの変化も1割以内であれば不要とします。
(図表3)看護職員処遇改善評価料の新設 別表3
出典:厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 看護における処遇改善 資料 (一部抜粋、改変)
なお、「看護職員等の数」は、保健師、助産師、看護師及び准看護師の常勤換算の数、「延べ入院患者数」は、入院基本料、特定入院料又は短期滞在手術等基本料を算定している患者の延べ人数-となりますので、計算の際には注意が必要です。
さらに、評価料による収入が処遇改善に着実に結びつくよう、毎年4月には「賃金改善計画書」の作成・提出、毎年7月には「賃金改善実績報告書」の作成・報告も義務づけることになりました。
賃金の処遇改善対象者は、保健師、助産師、看護師、准看護師等 実情に応じたコメディカルが対象に
賃金の処遇改善対象者は、保健師、助産師、看護師、准看護師ですが、医療機関の実情に応じて看護補助者や理学療法士、作業療法士と、その他21のコメディカルが対象となりました。しかし、支払側が求めていた薬剤師は対象に含まれていません(図表4)。
また、安定的な賃金改善を確保する観点から、当該評価料による賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給か、決まって毎月支払われる手当の引き上げにより、改善を図るよう求めています。
(図表4)看護職員処遇改善評価料の新設 別表1
出典:厚生労働省 令和4年度診療報酬改定の概要 看護における処遇改善 資料 (一部抜粋、改変)
医療サービスを患者に直接提供していない一般の事務職員は、賃上げの対象外
その後、厚生労働省は9月5日付で疑義解釈資料(その1)を公表しています(図表5)。算定区分判定の計算式に用いる「看護職員等の数」について、看護部長等(専ら病院全体の看護管理に従事する者)、外来勤務、手術室勤務または中央材料室勤務等の保健師、助産師、看護師、准看護師-が含まれることを明記しました。直接雇用の関係にない派遣の保健師、助産師、看護師、准看護師も含めることができますが、その場合は賃金改善方法を派遣元と相談した上で、対象の派遣労働者を含めた形で「賃金改善計画書」や「賃金改善実績報告書」を作成する必要があるとしています。
同じく計算式に用いる「延べ入院患者数」については、「入院基本料」、「特定入院料」、「短期滞在手術等基本料(基本料1は除く)」の算定患者を対象に、毎日24時現在の入院患者の延べ数を計上。その際、退院日に該当する患者、入院日に退院または死亡した患者も、延べ入院患者数に含める必要があることを示しました。
処遇改善の対象に加えることができる「その他医療サービスを患者に直接提供している職種」については、診療エックス線技師、衛生検査技師、メディカルソーシャルワーカー、医療社会事業従事者、介護支援専門員、医師事務作業補助者等を想定していることを明らかにしましたが、医療サービスを患者に直接提供していない一般の事務職員は賃上げの対象にはなりません。また薬剤師については、「看護職員処遇改善評価料」による処遇改善の対象職種にはできませんが、医療機関が独自に行う処遇改善を妨げるものではないとの考えを示しています。
(図表5)看護職員処遇改善評価料の取扱いに関する疑義解釈資料(一部抜粋)
出典:厚生労働省 看護職員処遇改善評価料の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1) 資料 (一部抜粋、改変)
厚生労働省は、8月末に2023年度予算の概算要求を財務省に提出しましたが、処遇改善のための経費として前年度と同額の381億円を計上しています。2024年4月から始まる働き方改革とともに、医療機関での労働環境や処遇の見直しが本格的に進められており、各医療機関での対応が期待されています。
(編集:株式会社日本経営 2022年10月作成)
※本稿は2022年9月5日時点の情報に基づき作成いたしました。今後の疑義解釈やQ&A等により変更となる場合がございます。
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