岸田総理による看護師等の賃上げ、そして菅前総理による不妊治療の保険適用を反映した形で診療報酬本体の改定率は0.43%とかろうじてプラス改定での決着となりました(全体0.94%マイナス、薬価1.35%マイナス、材料価格0.02%マイナス)。2月上旬の答申に向けて、2022年度診療報酬改定(以下、次回改定)の議論は個別項目の要件と点数の設定へと進んでいくことになります。本号では、2021年12月までの次回改定に向けた議論のポイントを各項目毎に整理してお伝えします。
【働き方改革の視点】処遇改善、そして新たなチーム医療の推進に注目
医師の間接業務を支援する医師事務作業補助者に対する加算については、引き続き高い評価と期待があることが分かっています。これまで点数の拡充や要件の見直しが図られてきたものの、急性期寄りの要件であることから回復期や慢性期での拡大が困難でした。そこで次回改定においては、急性期以外での算定ができるような要件の見直し、または診療報酬点数の引き上げが検討されています。また、経験年数が3年を超える医師事務作業補助者に関する評価も検討される(図表1)こととされ、職員のキャリア開発が診療報酬にも反映されることになるでしょう。
(図表1)3年以上の実務経験を有する実務者の配置と医師の負担軽減効果
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第503回)総-4-3 (一部抜粋、改変)
また看護師の間接業務等を支援する看護補助者についても同様に見直しが検討されています。介護職員の処遇改善が先行していることもあり、病院における看護補助者の採用は苦戦していることが知られていますが、次回改定は点数そのものの引き上げと同時に、食事介助などの直接ケアを行う看護補助者に対する新たな評価も検討されています。看護補助者に対する教育や研修体制などがポイントになると考えられるでしょう(図表2)。
(図表2)看護補助者活用の推進に係る研修-看護補助者に関する研修の実施状況
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第503回)総-4-3 (一部抜粋、改変)
働き方改革においては、チーム医療の推進について議論され「術後疼痛管理チーム」「周術期における薬学的管理」といった新たな取組が紹介されました。また、回復期リハビリテーション病棟ではすでに配置が進んでいる管理栄養士について「回復期リハビリテーション病棟入院料1」以外での配置の評価が検討され、中医協では異論が出ませんでした。
その他、COVID-19感染拡大が一つの契機となり、院内におけるICTインフラ整備が推進されています。オンライン会議やeラーニングによる研修管理、外部とのカンファレンス等が進んでいることが報告されていることからも、ICTの利活用を標準としたカンファレンスや研修に関する要件の見直しなどが考えられます。また、COVID-19感染拡大は感染対策の在り方にも変化を与えようとしていることも付け加えておきたいところです。感染対策防止加算について、多くの医療機関が参画できるように要件を緩和した新たな「感染対策防止加算3」を新設することや感染対策に関する認定看護師等を配置する医療機関を新たに評価する項目の設置等が予想されます。
【入院医療の視点】急性期医療の集約化、地域までを病床と考えた地域包括ケア病床のあり方
骨太の方針2021にも明記され、秋の建議でも指摘された一日当たり包括入院の転換に関する議論では、DPC/PDPSの導入以降、入院から手術を行うまでの期間が短縮していることが分かりました。現行のDPC制度では医療資源を多く投入する時期に合わせて4つの方式で点数が設定されています。そこで、入院初期に集中的に医療資源を投入する「D高額薬剤や手術等に係る診断群分類」方式の考え方を軸に見直していくことが考えられています(図表3)。
(図表3)1日当たり点数の設定方法(4つの点数設定方式)
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第499回)総-2 (一部抜粋、改変)
なお、重症度、医療・看護必要度については「A項目の心電図モニターの管理」「点滴ライン同時3本以上の管理の定義の見直し」「輸血や血液製剤の管理の評価引き上げ」がポイントとなりそうです。とりわけ、心電図モニターについては影響も大きくなることが考えられるため、動向に注目が集まります。また「急性期一般入院料1」よりさらに高い基準の急性期病床に関する評価も検討されています。集中治療室の有無や手術の実績などをベースにする方針で、集中治療室への看護師や臨床工学技士の手厚い配置を後押しするものになると期待されます。
回復期に目を向けてみると、地域包括ケア病棟については入棟元に合わせて診療報酬点数の見直しや400床未満病院での転棟割合を要した減算規定の拡大が検討されています。ただ、いずれの議論も地域医療の実状に左右されるところです。そこで、2020年度診療報酬改定(以下、今回改定)では最終的に見送られた「地域医療構想調整会議での合意」が改めてクローズアップされることになりそうです。回復期リハビリテーション病棟においては、慢性心不全等心疾患を対象に加えることを検討していますが、人員配置基準などがネックになっています。また「回復期リハビリテーション病棟5・6」を10年継続している医療機関に対する厳しい評価の可能性も示唆されています。
慢性期では、経過措置型療養病棟の行方に注目が集まっています(図表4)。従来通りであれば2022年3月末には廃止されるところでしたが、実際に入院している患者の傾向をみるとリハビリテーションを必要とする患者が多いことがわかっています。予定通りに廃止することで、リハビリ難民が地域に出てくることを懸念し、経過措置の延長と共に、リハビリの適正化を促す方向で進みそうです。そして、もう一つ注目を集めているのが「障害者施設等入院基本料」です。入院する患者の7割以上が肢体不自由児や筋ジストロフィーといった医療依存度の高い患者でなければならない反面、3割未満は重度な意識障害以外の脳卒中患者などであったケースが出来高算定されていました。そこで、一部の患者については出来高ではなく、療養病棟と同様に包括評価にする方針です。
(図表4)入院料毎の患者のリハビリテーションの実施状況
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第498回)総-2 (一部抜粋、改変)
【外来医療の視点】かかりつけ医機能の見直し、透析医療の動向を注目
かかりつけ医機能の新たな見直しとして「地域包括診療料」及び「地域包括診療加算」の在り方に注目が集まっており、慢性心不全や慢性腎臓病を新たに対象に加える予定です(詳細は前号参照)。
その他、透析医療では今回改定で新設された「腎代替療法指導管理料」のさらなる拡充と腎代替療法専門指導士の配置を新たに評価する方針です(図表5)。また、在宅腹膜透析を推進するための遠隔モニタリングを評価の対象とすることが検討されています。その他、長時間透析を推進するべく在宅血液透析の評価を拡充する方針です。近年の透析医療では長時間になるほどQOLに及ぼす影響が少ないことから、長時間透析に資する取組を評価する傾向にあり、次回改定も同様の流れです。
(図表5)腎移植医療の適切な推進について
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第502回)総-2 (一部抜粋、改変)
【調剤報酬の視点】バイオ後続品を含む後発医薬品の使用促進、フォーミュラリの評価は見送られる公算
バイオ後続品については、今回改定で「在宅自己注射指導管理料」の加算として「バイオ後続品導入初期加算」が新設されました。バイオ後続品導入初期加算について、さらなる点数の拡充を通じて使用をさらに推進していくこと、加えて現在は在宅だけの要件となっているものの、外来及び入院においても評価すべきとの意見もあり、今後対象の場が拡大する方針です。また後発医薬品の使用促進の一環で期待されるフォーミュラリについては、診療報酬での評価は見送られる公算です。ただ、国は2022年度中にフォーミュラリガイドラインを作成・公表する方針を明らかにしていることで、診療報酬上での評価とはならないものの、ガイドラインができることで取組が進むことが期待されます。なお、認定薬局の一つである地域連携薬局(2021年8月より認定スタート)は地域の基幹薬局として、「地域でのフォーミュラリの推進」更には「薬剤適正使用の推進者として、病院との連携を通じた地域でのバイオ後発品を含む後発医薬品の使用促進の中心」として注目されています。入院医療機関との連携が必須となっていることからも、連携強化を通じて、地域における医薬品費の適正化に努めていくことが期待されています(図表6)。
(図表6)地域連携薬局の役割
出典:筆者作成
まだ議論の途中ではありますが、現時点で特に注目すべきポイントについて紹介しました。他にも、骨粗鬆症を有する大腿骨頚部骨折患者の骨折二次予防のためのリエゾンサービスの評価の可能性なども検討されているなど個別項目の議論が続いています。
2021年度介護報酬改定でも結果はプラス改定でしたがその内容から言えることは、従来通りの要件を意識した取組の継続では、現状維持さえも難しくなる、ということです。基本的な介護報酬部分に対してはCOVID-19感染拡大という情勢もあってか大きな見直しは無かったものの、加算等については従来より設定された基準が引き上げ。より高い評価基準となった印象でした。それを踏まえると診療報酬でも同様であることが予想されます。医療機関個別の努力がさらに高い評価につながる一方で、現状維持では評価が下がることになる可能性が高いことを改めて意識しておく必要があるでしょう。2022年2月上旬に予定される答申に向けて、ぎりぎりの議論が続きます。
(HCナレッジ合同会社 山口 聡/編集:株式会社日本経営 2022年1月作成)
※本稿は2021年12月17日時点の情報に基づき作成いたしました。
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