そもそも「かかりつけ医」とは
「かかりつけ医」という言葉の定義は現時点(2021年11月)で明確ではありません。ただ、診療報酬では機能強化加算として、かかりつけ医機能を担う医療機関としての評価項目があります。さらにこの機能強化加算を詳しく見てみますと「外来のかかりつけ医機能」と「在宅のかかりつけ医機能」に分けることができます(図表1)。
(図表1)かかりつけ医機能を有する医療機関との関係強化
出典:筆者作成
「外来のかかりつけ医機能」とは、地域包括診療料、及び地域包括診療加算のいずれかを届け出る医療機関で、生活習慣病の患者が重症化することなく、同じ医療機関に定期的に通い続けることを評価するものといえます。一方で「在宅のかかりつけ医機能」とは、在宅での看取りまで対応できる医療機関を評価するものといえます。
いずれのかかりつけ医機能にも共通するのは、「患者は同じ医療機関に一日でも長く通い続けること・訪問診療を一日でも長く受け続けること」ではないでしょうか。患者との長い付き合いをしていく、と言い換えることもできます。人口減少社会に突入している日本においては、新たな患者を獲得していく努力だけではなく、既存の患者が定期的に通い続け、重症化予防に努めてもらうことが、医療機関の経営においてはますます重要となっていきます。そして、こうしたかかりつけ医機能とは、一般病床200床未満の病院・診療所がその役割を担うことが期待されています。地域医療の観点でみれば、医療提供側の主人公はかかりつけ医機能を有する一般病床200床未満の病院・診療所であって(図表2)、一般病床200床以上の病院や専門診療所はそうしたかかりつけ医機能を有する医療機関をバックアップする役割が期待されている(図表3)、といえるでしょう。
(図表2)外来医療の役割分担(診療所、200床未満の病院)
出典:筆者作成
(図表3)外来医療の役割分担(200床以上の病院)
出典:筆者作成
事実、近年の診療報酬改定を見てみますと、一般病床200床を境にした明確な役割分担として、重症度、医療・看護必要度の重症者割合や地域包括ケア病棟の評価区分に一般病床200床以上か未満かで差をつけるようになっていることに気が付きます。
2021年5月に成立した医療法改正に伴い、2022年度からは外来版地域医療構想の始まりを予感させる外来機能報告制度がスタート。構想区域内における外来医療の役割分担も進むことになります(図表4)。一般病床200床以上の病院においては、病床稼働率なども確認しながら、今後を見据えて「病床を返上して200床未満となり、かかりつけ医機能を有する医療機関へと転換していくこと」も選択肢の一つとして考えておく必要もあるでしょう。
(図表4)2022年度からはじまる外来機能報告制度(案)
出典:筆者作成
一方、今後も一般病床200床以上で急性期入院医療や専門外来を中心としていく医療機関を志向していくのであれば、地域内にあるかかりつけ医機能を有する医療機関を支えるための専門領域に関する啓発活動や退院時共同指導料等を通じた連携をより強化していくことが必要だといえます(図表5)。
(図表5)退院時共同指導料への積極的参画を
出典:筆者作成
尚、2021年10月の中央社会保険医療協議会・総会では、議論が紛糾しました。厚生労働省は外来医療の論点として、▽「地域包括診療料」「地域包括診療加算」の対象疾患への慢性腎臓病と心不全の追加▽「小児かかりつけ診療料」の施設基準見直し▽かかりつけ医と専門医の連携で「診療情報提供料(III)」を算定できないケースへの対応▽耳鼻咽喉科領域での「小児抗菌薬適正使用支援加算」の算定容認―などを提示しています。一方、支払側は既存報酬の手直しではなく、かかりつけ医機能の評価に関する報酬の抜本的な見直しを要請。診療側は反発し議論が紛糾しており、今後の議論の行方が待たれます。