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医療制度トピックス

2022年度診療報酬改定 中間とりまとめ

2022年度診療報酬改定(以下、次回改定)に向けて、各審議会での議論が進んでいます。COVID-19感染拡大により、医療機関の経営に大きな影響を与えたことから、一連の特例に対する検証も論点となる次回改定ですが、改定の各項目に対する考察に入る前に、まずは骨太の方針の内容を確認しましょう。

骨太の方針2021から読み解く3つのキーワード

団塊の世代が90歳を迎える2040年に向けて取組む社会作りを目指し、毎年6月に骨太の方針が閣議決定され、各省庁がこの1年間でどういった取組を行うのかを明らかにしています。医療介護については、大きく3つのキーワードがあるといえるでしょう。

1つ目が「集約・強化・連携」です。地域医療構想のさらなる推進もさることながら、DPC/PDPSの見直しをはじめとする急性期入院医療の在り方の再検討と働き方改革がそれに該当します。

そして、2つ目が「かかりつけ医機能の強化」です。COVID-19感染拡大を契機にして、オンライン診療が拡大・拡充。ただそれは特例措置によるものです。今後もオンライン診療を推進していくにあたっては、かかりつけ医の定義を明確にしたうえでの安全な運用などが必要とされます。

そこで、2021年11月にも新たに見直されるオンライン診療の指針と合わせて、診療報酬改定においてもその要件、評価を見直すことになる見通しですが、ここで重要なのが「そもそもかかりつけ医とはどういう医師なのか」ということです。本格的少子高齢社会に突入していくにあたっては、医療機関の負担軽減の観点もさることながら、患者本人の負担軽減も考慮して、患者の自宅や入所する施設も、オンライン診療や訪問診療等で診療の現場になることを考慮していかなければなりません。

そうした時に中心となるのがかかりつけ医ですが、その定義をどのように考え、診療報酬で要件化・評価していくのか。次回改定での注目すべき点の一つだといえます。合わせて、診療の現場が患者宅になることを考えると、保険薬局の在り方も変わってくることになります。2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」では、2035年は「全ての保険薬局の立地を門前から地域へ」、その準備として2025年には「全ての保険薬局をかかりつけ薬局へ」と明記され、調剤報酬改定や昨年より施行されている改正薬機法でそのゴールに向けた環境整備が進んでいます。

また、2020年度改定では、外来栄養食事指導料2が新設され、栄養ケア・ステーションや近隣の医療機関から管理栄養士に当該施設で栄養指導をしてもらうことで評価されるようにもなりました。まだ定義が明確ではない「かかりつけ医」ではありますが、かかりつけ医には地域の医療機関だけではなく、地域の医療従事者のコーディネーションも求められるといえるでしょう。

最後の3つ目が「バイオシミラーを含む後発医薬品の使用促進」です。患者の負担軽減による治療の継続性を高める事もさることながら、画期的な新薬の高額な薬価のための財源確保の意味もあります。2023年度末までに全都道府県で「数量ベース80%以上」という新たな目標値が設定されたことで、次回改定においてもさらなる後発医薬品の使用促進策に期待が集まります。またさらに、2020年度改定で新設されたバイオ後続品導入初期加算の評価の見直しや対象拡大、フォーミュラリに対する評価の検討にも注目が集まります。

骨太の方針2021の閣議決定から、本格的な診療報酬改定の議論がスタート。そして9月中旬には中間とりまとめが行われ、10月下旬から各論の議論が始まっています。ここから先は、中間とりまとめの内容をもとに、考えられる次回改定の内容について読み解いていきましょう。

急性期入院医療、新たな指標作りに注目

重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)の見直しをベースに、急性期入院医療の病床数の適正化が図られてきましたが、ここ数年は減少ペースが鈍化している(図表1)ことから、看護必要度のさらなる見直しにも限界がきていると言われています。そこで、看護必要度の見直しについては従来から課題としてあげられていた心電図モニターの管理や、点滴ライン同時3本以上の管理の見直し、及び医師や看護師の負担が重くなりがちな輸血や血液製剤の管理の重み付を見直すことを検討する(図表2)一方で、集中治療室の有無を急性期入院医療の新たな指標に加えることを検討する方針です。しかしながら、集中治療室を有する医療機関の多くは大規模病院です。そこで、地域医療構想調整会議などを通じて、地域における役割を確認するなどの対応を踏まえての指標化などが検討されています。2020年度改定においても、総合入院体制加算においては小児科等については地域での診療機能や専門医の分散化を防ぐ意味で地域医療構想調整会議での了承を得た上での要件の緩和が実現されたところです。診療報酬改定においても、この地域医療構想調整会議での話し合いは大きな意味を持ってくることになるでしょう。

(図表1)入院料別の病床数の推移(一般病棟入院基本料)

(図表1)入院料別の病床数の推移(一般病棟入院基本料)

出典:厚生労働省 2021年度中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会))第9回 資料 入-1-2(一部抜粋、改変)

(図表2)重症度、医療・看護必要度Ⅰの評価項目毎の該当患者割合(A項目)

(図表2)重症度、医療・看護必要度Ⅰの評価項目毎の該当患者割合(A項目)

出典:厚生労働省 2021年度中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会))第8回 資料 入-2参考1(一部抜粋、改変)

またDPC/PDPSについて、現状の一日当たり包括支払からDRG/PPSのような一入院当たり包括支払の拡大についても検討されます。現行の一日当たり包括支払の場合は、入院している限りは逓減制で診療報酬は下がるものの、支払は継続されます。一方で、一入院当たり包括支払の場合はそうではなく、早期退院が求められることになります。日本では短期滞在手術等基本料3(図表3)がまさにこの一入院当たり包括支払に該当しています。次回改定でどこまで拡充していくのかはまだ分かりませんが、長い目で見て、一入院当たり包括支払への対応としての地域医療連携のさらなる促進や、医業収益率の確保のための後発医薬品の使用促進などは早めの対応が必要になるでしょう。

(図表3)短期滞在手術・検査に係る算定のイメージ

(図表3)短期滞在手術・検査に係る算定のイメージ

出典:厚生労働省 2019年度中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会))第7回 資料 入-1(一部抜粋、改変)

回復期、慢性期入院医療、慢性心不全の対応と障害者施設等入院基本料に注目

急性期入院医療の適正化が進むことで増加の傾向にあるのが回復期、とりわけ地域包括ケア病棟だといえます。ここ最近の診療報酬改定では、在宅医療への取組の強化、大規模病院における院内転棟割合の設定など、その名の通り、地域の共有資源を意味するかのような病棟名に期待する役割を強化しています。200床前後で病床稼働率に課題を抱えている病院では、200床未満に病床を削減し、地域包括ケア病棟の届出と共に地域包括診療料及び在宅療養支援病院の届出も行うケースも増えています。まさに、地域が自院の病床とした取組だといえます。次回改定では、さらなる在宅医療への取組を強化・評価する方向にあるのと同時に、急性期からの受入れ機能・自宅等からの受入れ機能・施設等からの受入れ機能の3つのうち、どの機能に重点的に取組んでいるかで評価も変わる内容が検討されているところです(図表4)。

(図表4)地域包括ケア病棟の入棟元別の分析について

(図表4)地域包括ケア病棟の入棟元別の分析について

出典:厚生労働省 2021年度中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会))第4回 資料 入-1(一部抜粋、改変)

同じく回復期にあたる回復期リハビリテーション病棟については、管理栄養士を配置することの効果が高いことが確認されたことと、心疾患及び慢性心不全を新たに対象に加えることについて検討がなされることになりました。2020年10月に循環器病対策推進基本計画が策定され、2021年度には医療計画の見直しにともない、慢性心不全等の急性増悪への対応なども盛り込まれることになりました。心不全による入退院を繰り返す患者も多いことから、この慢性心不全対策は急務だともいえます。しかしながら、専門性も高く医師の関わりも大きいことから、どういった形で対応をしていくのか、今後の検討に注目が集まります。

慢性期については、経過措置型の療養病棟の今後が気になるところです。現状では、リハビリテーション待機の病棟となっている実態が明らかになっていることがわかっています。経過措置後の動向は、退院先としているであろう近隣の急性期入院医療のベッドコントロールにも関わってくるところで注視が必要です。

また、慢性期入院でもう1点見直しのポイントとしてあげられるのが、障害者施設等入院基本料です。慢性期でありながらも、出来高算定できることとなっている病棟で、例えば重度の意識障害以外の脳卒中患者などを3割未満であれば受け入れる事ができます。しかしながら、療養病棟の入院患者と障害者施設等入院基本料の病床に入院する患者の状態を比較したところ、大きな差異がないケースが少なくないことが確認されています。そこで、障害者施設等入院基本料において、包括算定対象となる患者像を拡大することなどが考えられるでしょう。

後発医薬品の使用促進は、患者の経済的負担を軽減して治療と重症化予防を継続させる

バイオシミラーを含む後発医薬品の使用促進が、骨太の方針等でも明記され、審議会でも議論されている中、話題になっているのがフォーミュラリです。現時点では前向きな意見が少なく、評価されるかどうかは不透明です。しかしながら、フォーミュラリの効果についてや、薬剤師の関わりが大きいことが審議内でも理解されていることは確かです。そこで、フォーミュラリ策定のためのガイドラインを2022年に公表すること、薬剤師の負担が大きいことから病棟薬剤業務実施加算等で病棟薬剤師の配置を手厚くすることで間接的に後押しすることなどが考えられます。

また、「後発医薬品使用体制加算」「後発医薬品調剤体制加算」については、バイオシミラーも含めた推進策となっており、算定している施設は多くあります。今後については、加算をこのまま継続していくのか、それとも減算や入院基本料や調剤基本料等の要件に加えていくことや、カットオフ値の引き上げなどの見直しが考えられるところです。そして近年、後発医薬品の使用促進に大きく影響を与えたといえるのが「一般名処方加算」でしょう。しかしながら現時点では、一般名処方加算、そして分割調剤でもバイオシミラーは対象外となっています。次回改定においては、対象に加えることに大きな期待が寄せられるところです(図表5)。

(図表5)後発医薬品の使用促進に関わる診療報酬上の対応

(図表5)後発医薬品の使用促進に関わる診療報酬上の対応

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第484回)総-1-1(一部抜粋、改変)

次回改定は、2022年2月には答申が行われる予定です。そして、2022年4月からは新たな診療報酬体系となりますが、答申が出てからの対応では間に合わないことが多くあります。少なくとも2021年12月までにはこれまでの論点整理と議論のポイントを整理した上で、早めの対応を行っておくことが重要だといえます。また、最近の診療報酬は2040年を見据えた取組をする医療機関を高く評価する傾向にあります。中長期的に経営を考えていくための道しるべとした見方も意識しておきたいところです。

(HCナレッジ合同会社 山口 聡/編集:株式会社日本経営 2021年11月作成)
※本稿は2021年10月18日時点の情報に基づき作成いたしました。

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