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医療制度トピックス骨太の方針2019を踏まえて

骨太の方針2019を閣議決定

政府は6月21日の臨時閣議で、【経済財政運営と改革の基本方針2019 ~「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦~】(骨太の方針2019)を決定しました。

2025年度に国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという財政健全化目標の達成を目指して、「目安」に沿った予算編成を行う方針を明記。これにより、2020年度の社会保障関係予算は、「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる」方針が継続されます。

公立・公的再編統合の重点対策区域等を盛る

予防・健康づくりでは、健康寿命延伸プランを推進し、2040年までに健康寿命を男女とも3年以上延伸し、75歳以上にすることを目標に設定。個別施策では糖尿病等の生活習慣病や慢性腎臓病の予防を進めるとともに、特定健診・特定保健指導は地域医師会等との連携モデルを全国展開し、2023年度までに実施率を特定健診は70%、保健指導は45%まで引き上げる。医療保険における「保険者努力支援制度」、介護保険における「保険者機能強化推進交付金」といった、保険者による疾病・介護予防を後押しするインセンティブ制度は、財源配分のメリハリを強化する等の抜本的見直しが検討されます。

地域医療構想の関係では、全ての公立・公的医療機関等の具体的対応方針について、診療実績データを分析し、その内容が民間医療機関では担えない機能に重点化され、医療機能の再編や病床の適正化目標に沿った内容になっているかを確認。重点対象区域の医療機関に対しては国が直接助言や集中的な支援を実施し、2019年度中の具体的対応方針見直しを促します(再編統合を伴う場合は2020年秋頃まで)。このほか、都道府県知事の権限のあり方や、地域医療介護総合確保基金の配分におけるメリハリ付け、消費税財源を活用した病床のダウンサイジング支援の追加的方策-等も検討します。

社会保障の給付と負担の見直しについては、「骨太方針2020において、給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」との表現に留まり、踏み込んだ記載はされませんでした。

POINT
骨太の方針2019に盛り込まれた主な医療・介護制度改革の項目(一部抜粋)

①医療・福祉サービス改革プランの推進

●ロボット・AI・ICT、タスク・シフティング等を通じて、2040年における医療・福祉分野の生産性を5%以上向上(医師は7%以上向上)

●患者の保健医療情報を患者本人や全国の医療機関等で確認できる仕組みを稼働

  • 特定健診情報は2021年3月を目途に
  • レセプトに基づく薬剤情報は2021年10月を目途に
②医療提供体制の効率化

●地域医療構想の実現

●かかりつけ医・かかりつけ歯科医・かかりつけ薬剤師の普及

●オンラインでの服薬指導を含めた医療の充実

●医師偏在対策の推進

●医師・医療従事者の働き方改革の推進
医療機関における労働時間管理の適正化とマネジメント改革の推進、実効的なタスク・シフティング等の取組

③保険者機能の強化
④診療報酬・医薬品等に係る改革

●調剤報酬の適正な評価
地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、対物業務から対人業務への構造的な転換の推進

●診療報酬等の検討
高齢者への多剤投与対策、生活習慣病治療薬の費用面を含めた適正な処方の在り方

●薬価制度の抜本改革の推進
国民負担の軽減と医療の質の向上への取組

●後発医薬品の使用促進

  • 安定供給や品質の更なる信頼性確保の画策
  • 2020年9月までの後発医薬品使用割合80%の実現への取組(インセンティブ強化を含む)

令和2年度診療報酬改定の行方は!?

中央社会保険医療協議会(以下、中医協)総会は7月24日に、2020年度診療報酬改定に向けた1ラウンドの議論の取りまとめを了承しています。取りまとめでは、これまで取り上げたテーマごとに、論点と主な意見を整理して記載。医療機関の機能分担と連携では、紹介状なしで大病院外来を受診した際の定額負担義務化について、対象病院の拡大を求める意見があったことや、オンライン診療で要件緩和を求める意見と慎重意見の両論があったこと等を報告しました。取りまとめを受けて、中医協は秋以降、個別項目について深く掘り下げる2ラウンドの議論に入ります。

地域医療構想の実現・働き方改革・オンライン診療等で、支払側と診療側で意見対立

これまでの審議で取り上げられたテーマは、

▽医療機関の機能分担と連携
▽かかりつけ医機能のあり方
▽患者への情報提供や相談支援のあり方
▽働き方改革と医療のあり方
▽医療におけるICTの利活用
▽医薬品・医療機器の効率的かつ有効・安全な使用
▽介護サービス等と医療との連携
 -等。

 

このうち、医療機関の機能分担と連携での取りまとめは、紹介状なしの大病院受診時の定額負担について、200床以上400床未満の地域医療支援病院の9割強が選定療養費として定額負担を徴収している実態があることから、これら施設の義務化対象への追加を求める意見があったことを紹介しています。初診は原則、かかりつけ医を受診する流れをつくるべきとの考えが提案の背景にありますが、これに対して、かかりつけ医機能の評価では、2018年度改定で新設された【機能強化加算】の効果検証を求める意見や、ポリファーマシー(有害事象を伴う多剤服用)対策のために、服薬状況の管理をかかりつけ医に一元化すべきとの意見があったことを記載しました。

 

骨太の方針2019の「医療・福祉サービス改革プランの推進」にも係るICTの利活用の議論では、オンライン診療の要件緩和を巡って、支払側と診療側の意見が対立する場面もありました。これを受けて取りまとめも、生活習慣病患者の仕事と治療の両立支援の一環としてオンライン診療の要件緩和を求める支払側の主張と、対面診療との同等性に関するエビデンスが確立された疾患に対象を限定するべきだ、と慎重姿勢を示す診療側の両論を併記しています。働き方改革に関する議論でも、人件費の増加を踏まえた入院基本料の見直し等、医療機関のコスト増への手当てを求める診療側の意見と、結果として患者負担が増えることに「違和感を覚える」と反対する支払側の意見の双方を掲載しています。

 

凍結中の【妊婦加算】では、厚生労働省の「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」の取りまとめ内容を反映。妊婦加算の取扱いだけでなく、妊産婦の診療体制の構築や産婦人科以外を受診した時の情報連携も含めた全般的な議論を行う方向性を示しました。

 

このほか医薬品の効率的な使用では、フォーミュラリー(院内や地域等で定める医薬品の使用指針)について、診療報酬上で評価する性質のものではないとする支払側の意見を掲載していますが、幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は点数化には改めて否定的見解を示したものの、「何らかの算定要件にフォーミュラリーの作成を入れて推進していくことは必要ではないか」と述べました。

 

秋からの2ラウンドでは、外来・入院・在宅・歯科・調剤といった個別テーマに分けて、これまでの診療報酬改定での検討項目、2018年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見、他の審議会等の議論等を踏まえ、具体的な診療報酬における評価に向けた検討が進められます。

(編集:株式会社日本経営)

タスク・シフティング(業務移管)とフィジシャン・アシスタント

骨太の方針2019 の医療・福祉サービス改革プランにも盛り込まれたタスク・シフティングに関して、厚生労働省は2019 年6 月から「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」を開催しています。2019年6月17日に開催された<第1回>は、日本医師会等9 団体が参加し、タスク・シフティングが可能な医師業務や実施上の課題について、それぞれの立場から意見陳述されました。

第1回ヒアリングの内容は!?

日本医師会は、タスク・シフティングに関する基本方針として、下記5項目を提示しました。

  1. 国民にとって安全な医療を守るため、医師による“メディカルコントロール”(医療統括)の下で業務を行うことが原則である。
  2. 新たな職種の創設ではなく、既に認められている業務の周知の徹底、並びに、それらが実践されていない場合の着実な検証を実行するべきである。
  3. 法令改正や現行法解釈の変更による業務拡大をするのであれば、適切なプロセスを経て行うべきである。
  4. タスクシフティング先の医療関係職種への支援が必要である。
  5. AI等のICTの活用は、医師のタスクをサポートするものとして、推進していくべきである。
 

医療の安全性を確保しながら、タスク・シフティングを進めていくにはチーム医療の視点が不可欠とし、コントロールタワーの役割を担う医師の下、多職種が連携して医療・介護の提供にあたる「医療統括体制」の整備を訴えました。

 

また、日本脳神経外科学会は、脳卒中の初期対応(病歴聴取、検査オーダー等)等の6業務を看護師への移管が可能な業務として提示。うち4業務は現行法では認められていない、または明確に規定されていない業務や手技ですが、「特定行為としてトレーニングを必須として、看護師に業務移管が可能と思われる」との認識を表明しています。質を確保するための仕組みとして、4行為のいずれについても業務開始に際して医師から直接指導を受け、実施可能の承認を受けることも提案しました。

 

業務移管を受ける側の意見では、日本医師事務作業補助研究会が、医師や看護師から医師事務作業補助者に移管可能な業務として、下記を挙げました。

▽検査手順の説明業務

▽医療記録(電子カルテの記載)

▽症例登録等の各種統計資料の作成

全て現行法下でも医師事務作業補助者が実施可能な業務ではあるが、マンパワー不足やスキル不足等が原因で移管が進んでいないことを説明しました。

タスク・シフティングの推進と、その状況

実際、タスク・シフティングはどこまで進んでいるのでしょうか。2019年1月の「医師の働き方改革に関する検討会」では、緊急的な取組の実施状況の中でタスク・シフティングの推進状況が報告されています。項目によって差はあるものの、約5~7割の病院が緊急的取り組み公表以前から対応しており、検討に着手していない病院は約2~3割でした。着手していない理由としては「問題が生じておらず、必要がない」と「特になし」が合わせて約7~8割、その他「人員が確保できない」との回答も目立ち、厚生労働省はタスク・シフティングの必要性の周知と併せ、担い手の養成も含めた支援の検討が必要だと指摘しています。(下図)

(図)医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組の実施状況について「タスク・シフティング(業務の移管)の推進」

タスク・シフティング(業務の移管)の推進

タスク・シフティングの推進と、その状況

また、2019年6月に「タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業」が公募される等、医師の働き方改革を推進するための動きが活発化していますが、今後、タスク・シフティングがどこまで進むかは、推進状況の報告でも明らかになった通り、担い手の養成を含めた支援が重要になってくるのは間違いないでしょう。

フィジシャン・アシスタントは、新たな担い手か!?

遡ること2017年4月、厚生労働省(新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会)の報告書において、フィジシャン・アシスタントの創設を提言しています。

▽今後、労働力制約がより一層高まっていく我が国において、医師がその高度な医学的専門性を発揮し、本来担うべき業務に精注するためには、タスク・シフティング/タスク・シェアリングを進めつつ、プライマリ・ケアと高度医療の両方の場面で医師を支える人材が必要である

▽日本においても、海外の事例を参考に、フィジシャン・アシスタントの資格を新たに設け、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等ができるようにすることを重要な選択肢として検討すべきである

 

前回のSKIMで紹介しました医師事務作業補助者(医療クラーク)は、医師の事務作業をサポートする職種であり、病院では診療報酬での評価もあるため、積極的な配置が進んでいます。一方、フィジシャン・アシスタントは医療事務ではなく、医師の診療そのものをサポートする職種、つまり、タスク・シフティングの担い手となる職種と言えます。

 

実際、診療所では今のところ「医師事務作業補助体制加算」は算定できないため、診療所の医療クラークは、事務作業のみならず、診療介助や器材出し、問診等を行っている事例が多く見受けられます。また、在宅医療において、事前のヒアリングとともに、家族への状況や料金(自己負担、高額療養費制度等)の説明、ケアマネージャーや看護師、ヘルパー等関係職種との情報連携も行う医療クラークも存在しています。

 

診療所等のヒューマンリソースが限られた現場では、「事務作業だけ」「診療補助作業だけ」といったように、業務範囲に制限をかけることは運用にそぐわないように感じます。フィジシャン・アシスタントの業務範囲やスキルについて検討が行われていくことに期待を寄せたいと思います。

(編集:株式会社日本経営)