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2018年度診療報酬改定(以下、本改定)が、いよいよ告示されました。本改定でのポイントは、①徹底したアウトカム評価の導入、②地域での徹底的な連携体制構築の推進、③同一法人による事業複合化の容認-と総論的に3点にまとまるのではないでしょうか。
本改定の大きなポイント「①徹底したアウトカム評価の導入」は、医療機関だけではなく介護系施設も含めて、アウトカムを追求すればするほど、ベッドの回転率は上がり延入院(入所)患者数は減少傾向になっていくと予想されます。本改定の本体改定率は+0.55%であり、平均単価は現状維持か若干の単価増になる医療機関が多いと想定されますが、アウトカム評価の導入により延入院患者数が徐々に減少していくことで、中長期的に収益が低下していくリスクを秘めています。それらをカバーしていくためには、ポイント「②地域での徹底的な連携体制構築の推進」による新入院患者数の確保が不可欠です。徹底した連携体制とは何を指すか、それは病病連携、病診連携、医介連携です。地域を俯瞰的に捉え、戦略的に連携体制の構築を図っていかなければなりません。そのためには、地域連携室の役割が非常に重要です。今後の地域連携室には、地域連携室や院内に集積されたデータ等を活用して「戦略や企画」を立案し、実行できる役割を担う事務職の配置が不可欠になってきます。
また、徹底した連携体制の構築を推進する一方で、本改定の最後のポイントが「③同一法人による事業複合化の容認」です。本改定では、その「特別な関係」が見直されました。これまで同一法人内での連携に係る診療報酬(退院時共同指導等)は算定できませんでしたが、本改定により「特別の関係」であっても連携に係る診療報酬が算定できるように変更されました。この厚生労働省からのメッセージは、地域において医療機関の事業展開が複合化していく流れを容認したものといえるでしょう。本改定では他にも、通所リハ展開の要件緩和や、有床診療所を含む医療機関による介護事業展開等を後押しする内容が散見されます。
上述しただけでも、本改定は非常に本質的な改定だと評することができます。本改定の本質的な意味を理解せずに、入外平均単価の現状維持やプラスに作用したからといって、次期改定までの2年間を何も取り組まずにいると、2年後、4年後と年を経るにつれて厳しい経営環境にさらされてくることは必至です。是非、本改定のメッセージを読み解き、早々に行動を開始いただく一助になれば幸いです。
7対1、10対1入院基本料の再編・統合
何よりも急性期病院の最大の関心事は、急性期一般入院基本料の再編の影響と今後の見通しでしょう。2014年3月末時点で約38万床あった7対1病床は、2017年4月に35.4万床へと2.6万床(約7%)が減少しています。しかし減少したとはいえ、一般病床では未だ7対1の病床数が最多のため、厳格化への圧力は強いものがあります。
本改定では、7対1、10対1という概念自体が見直され、最低看護基準配置が10対1以上になったと捉えられます。そこに、重症度、医療・看護必要度(以下、重症度)の重症患者割合によって実績加算が付くという形になりました(図1)。
7対1を算定している病院で重症度が30%を下回るケースは減収となることから、経営を維持していくため、積極的に看護配置を10対1へと近づける病院を出すことが狙いです。これからは院内の患者の実態に見合った人員配置を、自ら算出して適正配置を考えることが必要になります。
一方で、急性期を志向する病院には、重症度を引き上げ続ける努力とともに、手厚い看護配置は必須というメッセージでもあるでしょう。そのメッセージは、現在10対1を算定する病院であって重症度の高い病院の評価が、現行の評価体系と同様であったことからも読み取れます。要は、重症度の高い病院は、それに見合った看護人員の配置を求めているということです。将来的な「社会保障と税の一体改革」の計画では、2025年に高度急性期の人員配置は約2倍(単価は1.9倍)、急性期の人員配置は約1.6倍(単価は1.5倍)とされています。すなわち、選択と集中による医療資源の集約化です。今後の病院の方向性はそれらを見据えた上で、適切な人員配置を検討する必要があります。入院医療の評価体系は、改定を経るたびに本質化しています。この「入院基本料の見直し」からも分かるように、入院医療を提供する病院が目指すところは、突き詰めると「保有している機能(医療資源)と院内の患者実態の一致」です。病院経営を行っていく上での原則ですが、本改定以降、より本質的にこの部分が求められていくでしょう。
地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料)の見直し
地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料)は、200床未満の病院における施設や在宅等からの直入患者の受け入れ(サブアキュート)が評価されることになりました(図2)。
これによって、地域包括ケア病棟を有する200床未満の医療機関は、地域の介護系施設や在宅医療を提供している医療機関と連携を図り、自ら患者確保に努めていくことが重要になります。現在の全国的な傾向を見ていると、高度急性期や急性期の大病院が地域包括ケア病棟を導入することが一般的になりつつあります。そうすると亜急性期の患者は、急性期病院の中で地域包括ケア病棟に転棟することとなり、地域の後方支援病院へと転院することが少なくなります。これまで後方支援病院として急性期からの紹介患者割合が高い地域包括ケア病棟を有する病院は、この事実を認識した上で、自ら患者を確保していく取り組みを推進するべきでしょう。ここで重要なことは、自ら患者を確保していくための営業機能を担う地域連携室の強化であり、戦略的に行動していくことが必須になります。
また、200床未満のサブアキュートを担う病院は、自ら在宅医療や訪問系機能を保有していくことが求められています。地域包括ケアの施設基準の定めによる実績は、「自宅等からのサブアキュートの受入実績 ①自宅等から入棟した患者割合が1割以上(10床未満は1人以上)、②自宅等からの緊急患者の受入実績が3ヶ月で3人以上」と「在宅医療提供等の実績(4つの内、2つ以上を満たす)ⓐ在宅患者訪問診療料の算定回数が3ヶ月で20回以上であること、ⓑ在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料又は精神科訪問看護・指導料Ⅰの算定回数が3ヶ月で100回以上、若しくは同一敷地内の訪問看護ステーションにおいて、訪問看護基本療養費又は精神科訪問看護基本療養費の算定回数が3ヶ月で500回以上であること、ⓒ開放型病院共同指導料(Ⅰ)又は(Ⅱ)の算定回数が3ヶ月で10回以上であること、ⓓ介護保険における訪問介護、訪問看護等の介護サービスを同一敷地内の施設等で実施していること」等が要件とされました(図3)。
これは、200床未満の地域包括ケア病棟(病床)を有する病院が、地域における地域包括ケアシステムの中心的役割を主体的に担っていって欲しいというメッセージだと受け止めるべきでしょう。
地域包括ケア病棟(入院料を含む)は、2017年9月時点で導入数が2,000病院を超え(地域包括ケア病棟協会調査による)、病床数は約65,000床となっています。しかしながら、病床数としてはまだ十分ではないという評価です。本改定によって、地域包括ケア病棟を導入する病院は更に増加し、将来的には地域包括ケア病棟が地域におけるメインストリームを担うことになっていくことが予想されます。
回復期リハビリテーション病棟の見直し
回復期リハ病棟は、リハビリテーションのアウトカム実績指数の持つ意味合いが大きくなりました(図4)。
この傾向は今後も継続していくことが予想され、回復期リハ病棟はより一層アウトカムにこだわった質・効率性の向上が急務ですが、注意点もあります。リハビリテーションのアウトカム実績を推進すればするほど平均在院日数は短縮していく可能性が高く、病床回転率は上がっていくということです。即ち、回復期リハ病棟においても、重要になるのは新入院患者確保のための、地域連携室の働きです。
リハビリテーションのアウトカム実績指数を上げていくためには、「入院期間を短くする」か「FIM得点を引き上げる」かの2択しかありません。まず前者は、病床回転率が上がり、新入院患者確保を増やさなければ稼働率は低下するため、できる限り避けたいというのが病院側の本音ではないでしょうか。とすれば、後者の選択をすることになりますが、FIM得点を上げるためには、急性期で運動機能が低下した患者をできる限り早期に引き受けていく必要があり、やはりここでも、連携の取り組みが非常に重要となるのです。しかしながら、急性期から早期に引き受けるということは、急性期病院側の入院期間が短縮し、稼働率が低下していく可能性があるため、現状より極端な変化は見込めない可能性もあります。そうすると多くの回復期リハ病院は、連携先を拡大し、新入院患者の確保を徹底して行っていく必要があります。
今回、働き方改革の流れもあり、リハビリスタッフの専従・常勤要件が緩和されました。回復期リハ病棟においては、一定の要件を満たす回復期リハ病棟の専従スタッフによる外来リハビリ提供が可能となります。また回復期リハ病棟の退棟後3ヶ月以内の患者については、リハビリ上限日数が撤廃されることとなり、外来リハビリの提供は患者にとっても継続したリハビリを行っていく上でメリットがあるのです。さらに、医療機関(回復期リハ病棟以外も)のリハビリテーション室を活用した通所リハビリ実施に係る要件が緩和されており、新たな事業展開が見込めることになっています。
療養病棟の見直し
慢性期医療は、療養病棟入院基本料2と介護療養病棟の廃止が経営意思決定の中で大きなポイントでしょう。本改定の入院料の再編・統合により、医療保険の療養病棟は看護配置20対1以上かつ医療区分2・3の患者割合50%以上となりました(図5)。
現在、療養病棟2の病院にとっては少なくとも看護配置は25対1から引き上げなければならなくなり、必然的に人件費は増加することとなります。人件費の増加を吸収するためには、医療区分2・3の患者割合を引き上げ、実績評価の加算を取っていかなければなりません。そうすると、地域で医療区分2・3の患者の確保が課題となり、医療療養病棟での存続を望む病院はこぞって医療区分2・3の患者確保に奔走することになります。療養病棟でも地域連携の取り組みが非常に重要になってくる一方で、現在、療養病棟入院基本料1を算定している病院にとっても、競合先が増えることで、安泰でなくなるリスクが潜んでいることにも注意が必要です。
また、療養病棟の転換については、経過措置が最大6年間見込まれているものの、できる限り早期に意思決定すべき課題でしょう。特に介護医療院の点数設計は、政策誘導を色濃く反映しており、高い点数が付いています。さらに、最大1年間(2021年3月末までに限り)は移行定着支援加算として1日93単位の加算が算定可能となっており、50床100%稼動で計算すると年間17,000千円ほどの経済効果です。経済性のみで転換の意思決定をするものではありませんが、意思決定が遅くなればなるほど戦略的選択肢は狭くなり、経済的評価も得られなくなるということは認識しておくべきでしょう。
更に介護医療院は、今後、介護保険事業計画で必要病床数が規定されてくることになります。介護保険事業計画は、市町村単位で策定するものであり、市町村の意向によっては整備枠が限定されてくる可能性も否めません。2018年度からの3ヶ年については、実質的に療養病棟からの転換を優先する仕組みになっていますが、2021年度からの第8期介護保険事業計画からは一般病棟からの転換や新規参入も可能となる見込みです。整備枠によっては、そもそも転換できなくなる可能性も少なからずあるかもしれません。それらも見越した上で、自院は地域でどのような役割を発揮していくのかを突き詰めて意思決定することが求められます。
(メディキャスト株式会社 NKアカデミー事業部 統括マネージャー 濱中 洋平 )
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※記載内容は、2018年3月5日告示時点での見解です。今後の疑義解釈やQ&A等により変更となる場合がございます。
発行:沢井製薬株式会社
制作・編集:株式会社日本経営