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2018年度診療報酬改定(以下、本改定)の本体部分は若干のプラス改定となったものの、調剤報酬の引き上げは+0.19%という結果。実質的にはマイナス改定で、保険薬局にとっては大きな逆風に苛まれる本改定と言えるのではないでしょうか。
2017年12月に中央社会医療保険協議会(以下、中医協)が公表した資料では、「大型門前薬局に対する評価の適正化の措置を講ずる」との記述があり、大型門前薬局に対しては厳しい報酬削減措置を取ることが示唆されていました。また2017年10月に財務省が公表した「社会保障について」という報告書の中では保険薬局の存在が、「医療費膨張の温床」のように扱われており、特にやり玉に上がったのが大型門前薬局グループでした。この報告書では調剤医療費の中で2006年は約1.3兆円だった調剤技術料が2016年には約1.9兆円と、年々膨張していることを指摘。わが国はOECD諸国の中でも薬剤師数が最も多く、保険薬局がコンビニエンスストアや郵便局等よりも多いことにも言及。「薬剤師一人当たりの処方箋枚数が減少する中で、一人当たりの技術料が維持されてきた状況」が危惧されています。ターゲットになっているのは大型門前薬局で、中医協では「患者本位の医薬分業」を謳い、本改定の調剤報酬に関わる検討がなされてきましたが、厚生労働省と財務省の「綱引き」が行われたことは明確でしょう。ここからは、中医協でのこれまでの検討と議論整理を踏まえて、調剤報酬改定の個別項目を検証してみましょう。
「かかりつけ薬剤師」としての「説明と同意」徹底と「同意取得の様式」を新たに整備
前改定での「かかりつけ薬剤師・薬局」の新設。これがエポックメーキングとなり保険薬局の多くが門前薬局から「かかりつけ薬局」を目指すようになりました。
本改定での「かかりつけ薬剤師」に係る大きな改定ポイントは、『かかりつけ薬剤師指導料・かかりつけ薬剤師包括管理料』(以下、指導料・管理料)に関して、従来の要件「患者が選択した保険薬剤師が患者の同意を得て、署名付きの同意書を作成した上で保管し、その旨を薬剤服用歴に記載する」等に加え、「患者の状態等を踏まえたかかりつけ薬剤師の必要性や、かかりつけ薬剤師に対する要望等を確認する」ことを新たな要件として追加したことでしょう。言うなれば、かかりつけ薬剤師の機能や役割に関する「インフォームド・コンセント」(説明と同意)の強化が義務付けられたのです。この場合、かかりつけ薬剤師に対するニーズ等も患者から直接聴き、要望に応えなければならないため、患者に対して今以上に丁寧な対応が求められることになります。更に現場では以前、患者との同意取得の方法に関して混乱が生じたことから、厚生労働省は今回「同意取得の様式」を新たに整備することを決定しました。
この他、施設基準では「かかりつけ薬剤師」の当該薬局における在籍期間が、「半年以上」だったのが「1年以上」に見直されました。指導料・管理料届出薬局は、当該薬局に1年以上勤務した薬剤師でなければ「かかりつけ」として認知されず、薬剤師の離職率が高い薬局では退職者への面接等から離職原因を分析し、勤務環境改善に努める必要が出てくるでしょう。加えて、指導料・管理料の施設基準「当該保険薬局に週32時間以上勤務」との要件が、「育児・介護休業法に定める例外規定」により「労働時間が短縮された場合は、週24時間以上かつ週4日以上勤務」でも常勤としての取り扱いになりました。仕事と育児・介護等との両立が必要な薬剤師の負担軽減に配慮した見直しです。次改定ではこの考え方を進め、本改定で医科報酬に一部導入されたタスクシェアリング(業務の共同化)やタスクシフティング(業務の移管)等を進める報酬項目が保険薬局にも導入されそうです。保険薬局にも確実に「働き方改革」の波は押し寄せています。
特例除外廃止は大型門前に“激震”「地域支援体制加算」は8項目の実績要件
もう一つの大きな改定ポイントは、大型門前薬局への評価の適正化です。従来から、「グループ全体での処方箋受付回数が4万回超の薬局グループに属する保険薬局」に対し、「特定の医療機関からの処方箋集中率の極めて高い、または医療機関との不動産の賃貸借関係にある保険薬局」への調剤基本料を特例的に引き下げてきました。前改定では調剤基本料が1~5までの5段階に再編され、処方箋受付回数が4万回超の薬局グループに対し、①特定の医療機関からの処方箋集中率95%超、または②特定の医療機関との間で不動産賃貸借取引のある薬局は「基本料3」(20点)しか算定出来ず、基本料1(41点)の半分以下に減算となりました。
本改定では調剤基本料が1~3までの三段階に再編。ただ、以前の95%ルールが85%と更に厳しくなり、通常の『基本料3-イ』(20点)に加えて、『基本料3-ロ』(15点)が追加され、更に「特定の医療機関との不動産取引の関係のある」同一敷地内薬局に『特別調剤基本料』(10点)を新設。実質的には5段階で、敷地内薬局に対してはその他にも厳しい措置が取られるようになりました(図1)。
また、妥結率5割以下や単品単価契約率、一律値引き契約の状況等の定期報告も全薬局に求められるようになり、これら様々な厳しい要件を満たせない薬局は、調剤基本料が半分に減算されるペナルティも課せられます。これらの「適正化」は、明らかに大型門前薬局グループを“狙い撃ち”にしたものと考えられるでしょう。指導料算定回数100回以上の薬局では、約42%が調剤基本料の特例対象除外に該当するとされています。特例除外廃止に伴い、従来の「基本料1」を算定出来ない薬局が続出することも予想され、大型門前薬局グループには“激震”となりそうです。
更に本改定では「基準調剤加算」廃止に伴い、それに代わる新機軸として『地域支援体制加算』が新設されました(図2)。
「かかりつけ薬剤師」が、当該機能を発揮し地域包括ケアシステムの中で、地域医療に貢献する薬局に対する評価ですが、非常に詳細な施設基準が設定されている上に、1年に常勤薬剤師一人当たり「調剤基本料1」算定以外の場合は、夜間・休日等の対応実績400回、「重複投与・相互作用等防止加算」等の実績40回等、8項目からなる数値実績に基づく厳しい施設基準が設けられています(図3)。
また、基本料1を算定する保険薬局は「指導料・管理料の何れかの届出」「麻薬小売業者の免許を受けている」「在宅患者に対する薬学的管理・指導について実績を有する」の3つの基準を満たせば地域支援体制加算の算定が可能になります。この地域支援体制加算で着目したいのは、施設基準にプレアボイド(副作用、相互作用、治療効果不十分等を回避・軽減した事例)報告実績が織りこまれていること。従来の「基準調剤加算」にはなく、調剤報酬の基準では初めての位置づけとなります。
「後発医薬品調剤体制加算」を再編、新設3は「85%以上」要件
後発医薬品では、「調剤数量割合80%」に向けて、本改定でも幾つかの使用促進策が導入されました。保険薬局における後発品の調剤数量割合が評価される『後発医薬品調剤体制加算』(以下、加算)は従来2段階の評価でしたが、「後発品数量割合の基準の引き上げ」が行われ、本改定では3段階へと再編。ただ、従来の「調剤数量割合65%以上」では算定不可能であり、「75%以上」だと、加算2(現行22点)から加算1(18点)に減算。今後より一層、後発医薬品シェアを高める努力が必要になります。ただ「85%以上」が達成出来れば、加算3(26点)を算定出来ますので、プラスに転じることになります。
更に、本改定では「後発医薬品の数量シェアが著しく低い(20%以下)薬局」への「調剤基本料に対する減算規定(2点減算)」が新設されました。一種のペナルティですが、①処方箋受付回数が1ヶ月に600回以下、②直近1ヶ月の処方箋受付回数のうち先発用医薬品変更不可のある処方箋受付が5割以上等のやむを得ないケース―等は減算対象から除外されます。加えて、前改定で新設された「一般名処方加算1・2」に関しても、後発医薬品使用促進に一定の効果を発揮した結果が表れたので、一般名処方を推進すべく加算1(3点→6点)、加算2(2点→4点)へと報酬点数がアップされました。
減薬に実績評価を導入した「服用薬剤調整支援料」は本改定の目玉
従来からの重要な課題「対物業務から対人業務へのシフト」に関する改定ポイントを紹介しましょう。前改定では『長期投薬情報提供料1・2』を廃止し、『服薬情報等提供料』(以下、提供料)に統合。調剤後の継続的な薬学的管理を実施した場合の評価として一元化されました。もともと、①医療機関へ文書等で情報提供した場合②患者等への情報提供や必要な指導を行った場合―に算定する報酬でしたが、本改定では提供料1・2の2段階に整理し再編。患者の服薬状況や服薬期間中の体調変化について薬局からフィードバックする取り組みに対し、医療機関からの求めがあった場合の提供料1を重点評価しており、患者・家族等の求めがあった場合や、薬剤師がその必要性を認めた場合に医薬品(緊急)・医療機器等安全性情報、患者の服薬状況の確認や必要な指導を評価する提供料2とは区別しています。医療機関からの指示で薬局薬剤師が服用期間中の服薬状況等をフォローし、その結果を医療機関と共有することで副作用等への対応を適切に行えることから、医療機関・薬局の副作用管理における「連携」を評価した新区分を設定しました。尚、「かかりつけ薬剤師」は提供料に係る業務を行っているのが前提で、これまで同様に指導料・管理料の算定以外の薬局に対する評価となります。
また、多剤・重複投与を適正化する観点から、患者の意向を踏まえて、患者の服薬アドヒランス及び副作用の可能性等を検討した上で、処方医に減薬の提案を実施し、その結果処方される内服薬が減少した場合に評価される『服用薬剤調整支援料』(以下、調整支援料)を新設。要件では、「保険薬剤師が文書を用いて提案し、6種類以上の内服薬が2種類以上減少した場合に月1回算定可能」とされるように「減薬の実績評価」が導入されました。従来から、薬の受け渡し時における疑義照会により、減薬等の処方に変更が行われた場合の評価として「(在宅患者)重複投薬・相互作用等防止加算」(以下、防止加算)が存在しましたが、提案の取り扱いを整理。薬の受け渡し時以外の多剤投薬の適正化に係る提案を、『調整支援料』として評価しました。防止加算が「40点または30点」の評価であるのに比べ、『調整支援料』は薬剤師に要求される役割も高いことから125点の高評価。「多剤処方による弊害防止」だけでなく薬剤師の資質向上にも貢献し、本改定における調剤報酬の目玉の一つと考えられます。
さて、前改定で「初回来局時の点数より2回目以降の来局時の点数」が低く設定された『薬剤服用歴管理指導料1~3』は本改定で各々3点ずつ引き上げ。更に薬剤服用歴の記録等に見直しが行われました。薬剤服用歴の記録に関しては、中医協でも「記載事項が多くなっている一方で、患者の継続的な薬学的管理を行う上で、必要な事項等が明示されていない」等の課題が指摘されていました。そのため、「継続的な薬学的管理及び指導の記載を求めると同時に、記載事項の整理」が実施され、より具体的な内容が織りこまれており、薬局現場での運用がし易くなるのではないでしょうか。
また、適切な“お薬手帳”の活用実績が相当数あるとは認められない薬局に対するペナルティとして、『薬剤服用歴管理指導料の特例』の新しい区分が出来ました。特例対象薬局の判断は「半年以内に再度、処方箋を持参した患者への薬剤服用歴管理指導料の算定回数のうち、手帳を持参した患者への管理指導料の割合が50%以下」の施設基準です。多忙を極める調剤現場で、この特例を回避するために、薬剤師は手帳を持参しない患者への対応に知恵を絞る必要が出てくるでしょう。
「分割調剤」の処方箋様式の大きな見直し、明細書の無償発行が「完全」義務化へ
最後にその他の改定ポイントを、幾つか挙げておきます。まず「分割調剤」に係る処方箋様式の追加が新たに導入されたこと。分割指示に係る処方箋を発行する場合には、「分割の回数及び何回目に相当するかを右上の所要欄に記載」すると共に、「分割した回数毎にそれぞれ調剤すべき投与日数(回数)を記載し、当該分割指示に係る処方箋における総投与日数(回数)を付記する」ことが必要になりました。更に、分割指示の回数上限は「3回まで」。分割指示に係る処方箋の交付を受けた患者に対して、処方箋受付前に継続的な薬学的管理・指導のため当該処方箋の1回目の調剤から、調剤済みになるまでを通して、同一の薬局に処方箋を持参すべきとの旨を説明することが求められます(図4)
更に、次回の調剤予定確認に加え、予定された時期に患者が来局しない場合は、必要に応じて電話等で服薬状況を確認して、来局をチェックすること。また他の薬局で調剤を受けることを申し出ている場合には、当該薬局に対して調剤状況や、必要な情報を提供すること等も留意事項として記載されています。この他、受付保険薬局情報で1回目の処方箋が使用期間内に受け付けられたことが確認出来ない場合、当該処方箋は無効になる等、「分割調剤」に係る処方箋は、極めて厳格な運用が行われます。
2011年、全レセプトにオンライン提出が原則、義務付けられました。そのため多くの保険薬局では明細書の無償発行を通常業務にされてきたと考えますが、公費負担医療の給付により自己負担のない患者(全額公費負担を除く)の場合には、経過措置により患者からの要求のあったケースのみ無償発行されてきた薬局が多かったのではないでしょうか、しかし、2018年4月に経過措置が終了しますので、患者からの求めのある・なしに係わらず、明細書を無償発行しなければなりません。従来の「原則」が外れ「完全」義務化が実施されますので現場での明細書の運用には、ご留意下さい。
「かかりつけ薬局」の「同意取得」様式の整備や、「分割調剤に係る処方箋様式の追加」、「明細書・完全義務化」等、薬局での煩雑な事務作業が一段と増加することも想定されます。薬剤師が本来の調剤業務に専念出来るよう専門的知識を有する事務スタッフや登録販売者導入等も含め、保険薬局もワークシェアリング、タスクシフティング等の「働き方改革」が必要な時代を迎えているのかもしれません。
(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)
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