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2018年度介護報酬改定(以下、本改定)は、介護報酬改定率が0.54%とプラス改定に決まりました。2018年1月には、厚生労働省は社会保障審議会介護給付費分科会にて諮問通りに答申。本改定に関する概要は、次の4つの柱で構成されています。
①地域包括ケアシステムの推進、②自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現、③多様な人材の確保と生産性の向上、④介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保―。
ここでは、この柱に沿って具体的に紹介するとともに、その内容と変更点のポイントを列挙いたします。
中重度者のケアができる体制へ〜認知症の対応強化
まず一つ目の柱である①「地域包括ケアシステムの推進」では、団塊の世代が75歳以上になる2025年が近づいている中で、概要でも地域包括ケアシステムが1番目に掲げられています。ここでは中重度の要介護者も含め、どの地域に住んでいても適切な医療・介護サービスを切れ目なく受けることができる体制を可及的速やかに整備すべきと示されました。その上で、「中重度の在宅要介護者や、居住系サービス利用者、特別養護老人ホーム入所者の医療ニーズへの対応」「医療・介護の役割分担と連携の一層の推進」「医療と介護の複合的ニーズに対応する介護医療院の創設」「ケアマネジメントの質の向上と公正・中立性の確保」「認知症の人への対応の強化」「地域共生社会の実現に向けた取組の推進」などを挙げています。
報酬上の見直しでは「ターミナルケアの実施数が多い訪問看護事業所、看護職員を手厚く配置しているグループホーム、たんの吸引などを行う特定施設に対する評価を設ける」「ターミナル期に頻回に利用者の状態変化の把握等を行い、主治の医師等や居宅サービス事業者へ情報提供するケアマネ事業所に対する評価を設ける」「ターミナルケアマネジメント加算(400単位/月)の新設」「特養の配置医師が施設の求めに応じ、早朝・夜間または深夜に施設を訪問し入所者の診療を行ったことに対する評価を設ける」「特養内での看取りを進めるため、一定の医療提供体制を整えた特養内で、実際に利用者を看取った場合の評価を充実させる」が示されました。
また、医療・介護の役割分担と連携の一層の推進では、報酬上のポイントとして「医療機関との連携により積極的に取り組むケアマネ事業所について、入退院時連携に関する評価を充実させるとともに、新たな加算を創設(3日以内の入院時情報連携加算200単位/月など)」「訪問介護事業所等から伝達された利用者の口腔や服薬の状態等について、ケアマネジャーから主治の医師等に必要な情報伝達を行うことを義務づける」「リハビリテーションに関し、医療から介護への円滑移行を図るため、面積・人員等の要件を緩和するほか、リハビリテーション計画書の様式は互換性をもったものにする」など医療と介護が、一層の連携強化を図ることが求められています。
医療と介護の複合的ニーズに対応する形で、審議中から注目された介護医療院の創設では、「現行の『療養機能強化型』と『転換老健』に相当する2つの類型を設ける」「床面積要件や、併設の場合の人員基準の緩和、転換した場合の加算など、各種の転換支援・促進策を設ける」といった転換への具体策が示されました(図1)。
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ケアマネジメントの質の向上と公正・中立性の確保は、「ケアマネ事業所の管理者要件を見直し、主任ケアマネジャーであることを管理者の要件とするものの、一定の経過措置期間を設ける」がポイントとして挙げられます。
認知症の人への対応の強化では、「看護職員を手厚く配置しているグループホームに対する評価を設ける」「どの介護サービスでも認知症の人に適切なサービスが提供されるように、認知症高齢者への専門的なケアを評価する加算や、若年性認知症の方の受け入れを評価する加算について、現在加算が設けられていないサービス(ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、特定施設入居者介護等)にも加算を創設」といった評価です。この認知症への対応では、重度化した人へのケアを考える必要がありますが、グループホームでの高度認知症の方への対応策として、看護師の配置を考えるだけでなく、すべての職員が認知症について十分な知識を身につけ、その上でスキルをもつことが求められるでしょう(図2)。
また、地域共生社会の実現に向けた取組の推進では、「障害福祉の指定を受けた事業所について、介護保険の訪問介護、通所介護、短期入所生活介護の指定を受ける場合の基準の特例を設ける」「療養通所介護事業所の定員数を引き上げる」などが盛り込まれていることも注目です。
自立支援と重度化を防止する介護サービス〜アウトカム評価の導入
二つ目の柱の②「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現」では、特にリハビリテーションの効果に着目して、各サービスへのアウトカム評価に対する加算が盛り込まれました。リハビリテーションに関する医師の関与の強化では、「リハビリに関する医師の詳細な指示について、リハビリのマネジメントに関する加算の要件とした上で、別途評価する」「要支援者のリハビリについて、要介護者のリハビリに設けられているリハビリのマネジメントに関する加算を設ける」が設定されています(図3)。
リハビリテーションにおけるアウトカム評価の拡充では「現在、介護予防通所リハビリに設けられているアウトカム評価(事業所評価加算:要支援状態の維持・改善率を評価)を介護予防訪問リハビリにも設ける」「現在、通所リハビリに設けられている生活行為の向上のためのリハビリに関する加算(6ヶ月で目標を達成できない場合は減算)を、介護予防通所リハビリにも設ける」が示されています。
外部のリハビリ専門職等との連携の推進を含む訪問介護等の自立支援・重度化防止の推進では、「訪問介護、通所介護、特別養護老人ホーム等において、通所リハビリ事業所等のリハビリ専門職等と連携して作成した計画に基づく介護を評価する」「訪問介護の身体介護に重点を置くなど、身体介護・生活援助の報酬にメリハリをつける」「統計的に見て通常のケアプランとかけ離れた回数※の訪問介護(生活援助中心型)を位置づける場合には、ケアマネジャーは市町村にケアプランを届け出る」「市町村は地域ケア会議の開催等により、届け出られたケアプランの検証を行い、必要に応じケアマネジャーに対し、利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、サービス内容の是正を促す」が挙げられました。
※「全国平均利用回数+2標準偏差」を基準として2018年4月に国が定め、10月から施行。
通所介護の心身機能の維持を図るアウトカム評価の導入では、「通所介護事業所において、自立支援・重度化防止の観点から、一定期間内に当該事業所を利用した者のうち、ADL(日常生活動作)の維持または 改善の度合いが一定の水準を超えた場合を新たに評価する」が盛り込まれ、さらに褥瘡(床ずれ)の発生予防のための管理や排泄に介護を要する利用者への支援に対する評価を新設。これには「特別養護老人ホーム等の入所者の床ずれ発生を予防するため、発生と関連の強い項目について、定期的な評価を実施し、その結果に基づき計画的に管理することに対し新たな評価を設ける」「排泄障害等のため、排泄に介護を要する特別養護老人ホーム等の入所者に対し、多職種が協働して支援計画を作成し、その計画に基づき支援した場合の新たな評価を設ける」などが設定されています。
更に、近年マスコミでも話題になっている身体的拘束等の適正化では、「居住系サービス及び施設系サービスについて、身体的拘束等の適正化のための指針の整備や、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の定期的な開催などを義務づけるとともに、義務違反の施設の基本報酬を減額する」と盛り込んでいます。
多様な人材の確保と生産性の向上〜介護ロボットは限定
本改定概要の三つ目の柱③「多様な人材の確保と生産性の向上」では、「人材の有効活用・機能分化、ロボット技術等を用いた負担軽減、各種基準の緩和等を通じた効率化を推進」を念頭に方針が打ち出されています。いずれも介護の担い手が現在だけではなく将来にわたって不足するという予測に、対策を講じたものといえるでしょう。
生活援助の担い手の拡大として、「訪問介護については機能分化を考える。介護福祉士等は身体介護を中心に担う。生活援助については、人材確保の裾野を拡大するとともに、新研修を創設して質を担保する」と明示しており、新研修については「現在の訪問介護員の要件である130時間以上の研修は求めないが、生活援助中心型のサービスに必要な知識などの研修を行う」ということになりました。
介護ロボットの活用の促進としては、「特別養護老人ホーム等の夜勤について、業務の効率化等を図る観点から、見守り機器の導入により効果的に介護が提供できる場合には評価を行う」と具体的な導入に対して加算が設けられます。
定期巡回型サービスのオペレーターの専任の要件は「夜間・早朝に認められている、オペレーターと同一敷地内の事業所の職員(一部を除く)の兼務を認める等の事項を日中にも認めると緩和されました。ICTを活用したリハビリテーション会議への参加については「リハビリテーション会議(リハビリテーション関係者間でリハビリの内容等について話し合うとともに、医師が、利用者やその家族に対してその内容を説明する会議)への医師の参加については、テレビ電話等を活用してもよい」とし、直接訪問でなくても良いことが明記されました(図4)。
地域密着型サービスの運営推進会議等の開催方法・開催頻度の見直しでは、地域密着型サービスの運営推進会議等の効率化や、事業所間のネットワーク形成の促進等の観点から見直しを行うことになりました。具体的には「個人情報・プライバシーの保護等を条件に、現在認められていない複数の事業所での合同開催を認める」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護の介護・医療連携推進会議の開催頻度について、他の宿泊を伴わないサービスに合わせて、年4回(3ヶ月に一度)から年2回(半年に1度)にしても良い」と緩和されています。
制度の安定性と持続可能性を確保
最後の柱である④「介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性を確保」ですが、ここでは福祉用具や、集合住宅への訪問介護をはじめ居宅系サービスの見直しが提示されています。
福祉用具貸与の価格の上限設定については「福祉用具貸与について、商品毎の全国平均貸与価格の公表や、貸与価格の上限設定を行う(2018年10月から)」「福祉用具専門相談員に対して、商品の特徴や貸与価格、当該商品の全国平均貸与価格を説明することや、機能や価格帯の異なる複数の商品を提示することを義務づける」などが示されました。
集合住宅居住者への訪問介護等に関する減算および区分支給限度基準額の計算方法の見直しでは、「集合住宅居住者に関する訪問介護等の減算の対象を、有料老人ホーム等以外の建物にも拡大する」「事業所と同一敷地内または隣接する敷地内に所在する建物について、当該建物に居住する利用者の人数が一定以上の場合は減算幅を見直す」「集合住宅居住者の区分支給限度基準額を計算する際には、減算前の単位数を用いることとする」「定期巡回サービス事業者は、正当な理由がある場合を除き、地域の利用者に対してもサービス提供を行わなければならないことを明確化する」としています。
サービス提供内容を踏まえた訪問看護の報酬体系の見直しについては、「訪問看護ステーションからのリハビリ専門職の訪問について、看護職員との連携が確保できる仕組みを導入するとともに、基本サービス費を見直す」「要支援者と要介護者に対する訪問看護については、サービスの提供内容が異なることから、基本サービス費に一定の差を設ける」などが示されました。
通所介護の基本報酬のサービス提供時間区分の見直しでは、「2時間ごとの設定としている基本報酬について、サービス提供時間の実態を踏まえて1時間ごとの細かい設定に見直す」「基本報酬について、介護事業経営実態調査による収支差率等の実態を踏まえた上で、規模ごとにメリハリをつけて見直す」といったことが提示されています。
長時間の通所リハビリの基本報酬の見直しについては「3時間以上の通所リハの基本報酬について、同じ時間、同等規模の事業所で通所介護を提供した場合の基本報酬との均衡を考慮しつつ見直す」として、1時間単位の設定となりました。
本改定でのポイントを柱に沿って記載してきましたが、本改定は介護サービスによって大きく明暗が分かれた改定だったのではないでしょうか。どの事業であっても加算を算定することができなければ厳しい状況であることは言うまでもありません。また同じ事業であっても、リハビリに特化している場合、認知症対応に特化している場合など、事業所のポジションによっても状況は変化します。介護給付費分科会では継続して「介護サービスの質」についての議論が重ねられています。その意味でも本改定で「アウトカム評価」が一部導入された意義は大きく、「質の高い介護」に向けてその一歩を踏み出した改定だと言えるのではないでしょうか。
(株式会社メディア・ケアプラス 松嶋 薫)
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※記載内容は、2018年3月5日告示時点での見解です。今後の疑義解釈やQ&A等により変更となる場合がございます。
発行:沢井製薬株式会社
制作・編集:株式会社日本経営