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施設の取り組み

過疎地域を支える地域医療連携推進法人の取り組み
-地域医療の実現を目指して-

広島県の備北メディカルネットワーク、法人設立から5年。深刻な過疎化と向き合う地域医療の現実と法人化によって新たな改革づくりに日々邁進した5年間を振り返り、3名の先生にこれまでの取り組みについて お話しして頂きました。

備北

  • 地域医療連携推進法人を活用した医師・医療従事者の活躍支援

  • 備北エリアにおける薬剤師の活躍支援

  • 備北メディカルネットワークが医師業務・地域医療にもたらした変化

  • 地域医療連携推進法人を活用した医師・医療従事者の活躍支援

    地域医療連携推進法人 備北メディカルネットワーク 代表理事
    中西 敏夫 先生

  • 備北エリアにおける薬剤師の活躍支援

    三次薬剤師会会長 / 株式会社ファーマシィ参与
    中村 徹志 先生

  • 備北メディカルネットワークが医師業務・地域医療にもたらした変化

    三次地区医師会会長
    鳴戸 謙嗣 先生

地域医療連携推進法人を活用した医師・医療従事者の活躍支援

地域医療連携推進法人 備北メディカルネットワーク 代表理事
中西 敏夫 先生

地域医療連携推進法人を活用した医師・医療従事者の活躍支援

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  • 中西 敏夫 先生
    地域医療連携推進法人
    備北メディカルネットワーク 代表理事
    中西 敏夫 先生

01備北メディカルネットワーク設立から5年

現在日本で二次医療圏とされている335圏域(令和3年10月現在)のうち、80余の医療圏は人口が10万人以下です1)。その多くは医師不足に陥っており、広島県の備北(広島県北東部の三次市、庄原市地区)二次医療圏域も例外ではありません。県内で約2500㎢と広い面積を占めている医療圏ですが、人口はすでに9万人をきっています。急性期を担う病院は4施設です。なんとかこの4病院で地域の医療を守ろうと、大学病院等から医師の派遣を受けてきましたが、医師を派遣する側の事情もあり、必ずしもニーズが十分に満たされる状況ではありませんでした。これを安定的なものにすることを第一の命題として、日本で初めての地域医療連携推進法人として、備北メディカルネットワーク(備北MNW)を設立しました。

1) 厚生労働省 第8回第8次医療計画等に関する検討会 資料1

地域医療推進法人 備北MNW:〔参加法人〕市立三次中央病院、庄原市立西城市民病院、三次地区医療センター、日本赤十字社 庄原赤十字病院
〔理念・運営方針〕https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/264501.pdf(2022年11月閲覧)

医療圏:医療法において、都道府県は医療計画の中で、病院の病床および診療所の病床の整備を図るべき地域的単位として区分する医療圏を定めることとされている。「二次医療圏」は、病床の整備を図るべき地域的単位、「三次医療圏」は特殊な医療を提供する地域的単位と定義されている。

広島県では2009年以降、県と広島大学の連携により、医療を担う人材の育成を目的とした広島大学医学部医学科推薦入学制度、いわゆる「ふるさと枠」の制度が施行されています。「ふるさと枠」で入学した学生は、9年間の義務年限のうち4年間は中山間地域の指定された医療機関で就労することとされており、備北MNWはその受け皿としても役立っていると思います。

現在、年間約20名の医師がキャリアアップや研修プログラムの中で備北に異動してこられ、内科に関しては我々の研修プログラムで専門医資格の取得が可能です。その他の診療科の専門医資格に関しては大学の研修プログラムに即したローテーションとなります。このため、例えば小児科の場合、中山間地域の病院には6ヶ月でローテーションすることとされている等、期間が限られる面があります。

02医師支援のための取り組み

備北MNWにおける具体的な医師のキャリア支援の取り組みとしては、地域医療介護総合確保基金に申請して、若手医師の研修のための講師派遣、医師が講演会や学会に参加するための参加費および旅費の支援、図書費の援助等があります。市立三次中央病院では原則、参加を希望した全ての医師に、学会参加費、旅費等を出しています。こうした費用負担が難しい施設では、備北MNWの資金を利用していただきます。加えて、各診療科の専門医が他病院の診療支援に行き、手術指導をする等、病院相互に医師の専門性を高める取り組みも進めてきました。

またこの地域は、診療所を開業しても採算が合わないということで、庄原市と三次市が施設を提供し、医師に来ていただいて運営している診療所(国保診療施設)が5施設あります。このような医師一人の診療所の場合には、休業して学会参加することが困難ですので、その間、代わりの医師を派遣するといった形で診療支援もしています。

もう一つ、市立三次中央病院ではタブレット端末を医師全員に無償で配布し、通信費は病院で負担しています。これで、市立三次中央病院の電子カルテが閲覧できます。市立三次中央病院は自治体病院ですから、医師の給与や賞与に関して特別の配慮をすることは難しいなか、医師への還元のあり方として、専門医としての研鑽についてはしっかり支援したいと考えています。

03共同研修の取り組み

研修はリモート会議システムを用いて、各施設に居ながら研修に参加できる仕組みで実施しています。そのために、大型のタッチパネルを有するパソコンも、県からの補助金で購入しました。講師は、地域の各領域の専門医にお願いするか、参加者の希望により全国各地の医師をお招きしています。年10回程度実施し、勤務医および開業医の先生方が参加されています。

リモート会議は便利ですが、コロナ禍のこうした状況でなければ、本来は、当院の講堂等に開業医の先生方を含め集まっていただき、「今度新しく来られた先生です」とご紹介すること等ができればと思っています。現状では、なかなか叶わないのが残念なところです。

04共同購入の仕組みづくり

この5年間で、4病院の事務長や材料部が中心となり、消耗品や医療材料等の共同購入も進めてきました。備北MNWという法人を維持するための経費は各病院が負担していますが、共同購入で軽減できた費用を維持に回すことができています。

現在新しく取り組んでいるのは、超音波診断装置を共同でレンタルし、課金制で決済する方式の導入です。事業所等ではコピー機をレンタルし、使用枚数をカウントして課金されますが、その方式に倣って超音波診断装置をレンタルし、一回の撮像でいくらと決めて課金される制度です。保守契約も含まれます。こうした方式は病院にも業者さんにもメリットがあるということで、各病院に導入する方向で調整しています。うまくいけば、大きな制度改革になるかもしれないと期待しています。

05フォーミュラリ構築に向けて

医薬品に関しても、フォーミュラリ構築に向けて準備を進めています。コロナ禍のなかで少し遅れていますが、医師会の先生方とともに、この地域に必要とされるフォーミュラリを構築していきたいと考えています。

フォーミュラリの策定では、ジェネリック医薬品への置き換えに留まるのではなく、「医薬品の適正使用」という観点でフォーミュラリをとらえ、検討を加えることが重要だと考えます。また、以前に比べてジェネリック医薬品に対する医師の拒否感は少なくなってきましたが、薬剤選択で重要な点として、価格だけではなく、安定供給や品質、剤形等が挙げられると思います。

さらに検討すべき事項として、例えば、高齢者では口腔内崩壊錠が必ずしも良いとは限らず、口腔内でふやけるとかえって飲みづらいといったことや、一包化した場合に、口腔内で溶ける薬とそうでない薬が混ざると意外と飲みにくいという声もあります。ジェネリック医薬品のなかには、一包化されても識別しやすく印字されている、割線が入っている等、さまざまな剤形の工夫がされたものもあり、こうした点も検討の対象となると思います。診療所は、現在ほとんど院外処方されていることもあり、フォーミュラリの議論は、薬剤師会を中心に、医薬品卸の皆さんも含めて進めていきたいと考えます。

065年間の地域医療の変化

この医療圏域内において、いわゆる5疾病・5事業を完結する以外に内科系ではこれまで地域に無かった、リウマチ・膠原病や血液内科の専門医にも来ていただきました。糖尿病専門医も以前は1~2名でしたが、今は4名に増員できましたので、地域の他の病院にも行って診療していただいたりしています。また、以前は医師一人の診療科がありましたが、今はそういう診療科はなくなり必ず複数の医師がいますので、大学からそのための応援を必要とすることも今のところはありません。そういう意味で、この圏域での医療水準は全体として上がっていると思います。

5疾病・5事業:生活習慣病その他の国民の健康の保持を図るために特に広範かつ継続的な医療の提供が必要と認められる疾病(5疾病:がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病及び精神疾患)として厚生労働省令で定めるものの治療又は予防に係る事業(5事業:救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療)

また、地域包括ケアの観点から、今やどの病院も地域医療連携室の機能を高めており、地域の医師とのやり取りが良好になりました。診療所の多くは院外処方が主ですが、保険薬局や薬剤師との連携により、処方箋をFAX送信すると、患者さんの自宅に届けてくださるところもあり、残薬対策を含む服薬指導等にも積極的に取り組んでいただいています。

備北MNWが始動して5年が経過するなか、三次と庄原にある4病院は、ふるさと枠による派遣先として人気が高まっています。ぜひあそこで勉強したいという人が増えており、非常にありがたいと思っています。ローテーションで来ていただいた後は、当院より大きな病院に移られる医師もいますが、そこからまた帰って来られる医師も大勢いらして、最近、帰ってこられた先生方にも、また当院で勤務出来てよかったと言っていただいています。

07今後の課題

今では患者さんが救急搬送されると、基本的にどの病院でも受け入れ、治療することが可能となっています。その一方で、自宅に帰れない入院患者さんが、いずれの病院においても増えており、課題となっています。この地域では人口が減少していて独居の方が多く、近くにご兄弟や娘さんや息子さんがいても面倒を見ることができないといった状況があります。退院の受け皿がないのです。介護費用は市町村の負担となりますので、医療と介護の費用負担と人材の確保をどこで線引きするかも悩ましいところで、在宅医療・介護に関しては今後の課題となっています。

08県をあげての医療人材育成の構想

広島県は2022年5月、高度医療・人材育成ビジョンとして広島医療圏に1000床クラスのメガホスピタルを設立し、高度医療の提供と人材育成のための拠点とすることを決めました。広島県では、若手医師がなかなか県内に戻って来ない現状があります。広島都市圏において、医療資源を集約化し拠点病院を作ることで、人材を広島に呼び戻すのです。そしてさらに、県内各地域への医師派遣のためのネットワークを創出し、地域の拠点病院や中山間地域のネットワークを再構築して、県全体の医療提供体制を作っていくという構想です。

備北MNWも連携しつつ、この拠点構想が成功裏に進めば、地域医療を学び中山間地域の医療を守ってくれる医師が増えていくものと期待しています。

(取材日:2022年6月7日 オンラインにて実施)

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備北エリアにおける薬剤師の活躍支援

三次薬剤師会会長 株式会社ファーマシィ参与
中村 徹志 先生

備北エリアにおける薬剤師の活躍支援

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  • 中村 徹志 先生
    三次薬剤師会会長
    株式会社ファーマシィ参与
    中村 徹志 先生

01備北エリアにおける薬剤師の協働

備北メディカルネットワーク(MNW)発足以来、医師に関しては、既に他の病院と相互に行き来するかたちで人材不足を補えるようになってきています。一方、薬剤師に関してはまだその段階には至っておらず、大学病院など病床数の多い施設との比較では、備北MNWに加入するどの病院も薬剤師は少し足りていない現状があります。保険薬局についても同様で、薬剤師の不足を施設間で補い合うといったことは、現時点ではできていない状況です。

一方、このエリアでは以前から薬剤師間の横の繋がりが強く、薬剤師を対象とした研究会を、エリアの病院薬剤師会北支部と薬剤師会三次支部で連携して進めています。研究会で取り上げるテーマについても、保険薬局の薬剤師と病院薬剤師で話し合いながら決めています(図1)。研修内容によって、医師に参加を依頼したり、逆に医師の研修会の方に薬剤師が参加したりと、医師との関わりもある程度は進んできたと感じています。

図1 備北地域医師育成活躍支援協議会 合同研修会の事例

(備北地区 医師の会)

02病院薬剤師・保険薬局薬剤師に求められる専門性

研修会はおよそ月2回の頻度で開催しており、各回のテーマは、4月以降の1年度分をまとめて設定しています。内容としては、日本全国どこでも同じ治療を受けられるよう、治療の標準化を目指すもので、がん、循環器、糖尿病など診療カテゴリーごとに研修担当を置いて、その担当者が中心となって案を出すなどしています。講師は、当該分野を得意とする薬剤師が担います。例えば精神科のない施設では、精神科領域の知識がなくても問題ないということではないため、多様な領域のテーマを取り上げるようにしています。

病院薬剤師と保険薬局の薬剤師では、求められる知識が異なる面もあります。病院には入院患者さんがおり、一人では動けない重症や中等症の方も多くいます。一方、保険薬局の窓口に来られる患者さんは、中等症以上の方はあまりいないけれども、さまざまな病気の方が来られるため、保険薬局の薬剤師はジェネラリストであることが求められます。病院には各領域の専門家がいるので、わからない場合は尋ねたり、代わってもらったりすることも可能ですが、保険薬局ではそうはいかないことも多く、患者さんのニーズに対応するためには、個々の薬剤師に幅広い知識が求められます。そういった部分もフォローできるよう、研修会に取り組んできました。

コロナ禍の期間中、研修会はオンライン開催で月1回程度となりましたが、回数が減っても、可能な限りさまざまなカテゴリーを網羅すべく取り組んできました。研修会に対する参加者の評価についてアンケート調査などはしていませんが、個別に話を聞く限りでは好評で、次はこれをしてほしいといった要望も出てきています。

03地域包括ケアにおける薬剤師の連携

地域包括ケアでは、医療、介護に加えて、住居や生活支援などのニーズに包括的に応えられるシステムが必要だと考えます。実際、保険薬局を利用される患者さんは増えてきており、なかにはコストを度外視して、患者さんから依頼されれば薬剤を届けるなど、地域のためにコツコツと対応されている薬局もあります。

現時点で病院薬剤師ができる内容としては、地域の保険薬局に患者さんをしっかりとバトンタッチすることだと考えます。病院と保険薬局との連携ツールとして、以前はお薬手帳をよく使用していたのですが、今は、急を要するものではない場合において、トレーシングレポートを中心に活用しています。トレーシングレポートの策定に際しては、広島県病院薬剤師会と広島県薬剤師会の両者で委員会を立ち上げ、1つのフォーマットを作り、広島県内全域の共通のトレーシングレポートとして活用しています。最近では保険薬局にも活用が広がっており、内容も充実したものになってきています。

薬剤の適正使用の観点からも、保険薬局が担うところは大きいと思います。備北MNWに参加する4病院のうち、院内処方は1施設のみで、クリニックの先生方も今は院外処方の方が多く、患者さんの残薬などの確認を含め、保険薬局で管理して報告するため、連携が大切です。

不明点などがあれば、病院と保険薬局がお互いに電話で問い合わせるような関係ができているのですが、クリニックや病院の医師との繋がりについては、まだ少し壁はあるかなという感じです。

以前よりは薬剤師に対する医師からの信頼度は上がってきているところです。例えばクリニックから診療中に、最寄りの薬局に薬剤について電話で問い合わせられたりすることもあります。そうした連携を、もう一歩進めることができればと感じています。

地域医療全体を考える場合、医師、行政、福祉、そして薬剤師の連携が全体として進んでいかないと医療は進みません。こうした連携が今後の課題だと考えます。

04地域フォーミュラリの策定・施設間での薬剤業務の協同に向けて

備北MNW設立後、備北MNW参加の4病院の事務方と薬局長が集まり、使用頻度の高い薬剤トップ100のリストの作成や、後発医薬品の購入状況の調査など、各施設での薬剤使用に関する状況把握を進めていました。そうしたデータをもとに備北地区版地域フォーミュラリの検討も進める予定でしたが、コロナ禍に見舞われてしまい、少し停滞しているという状況があります。

地域フォーミュラリの策定には、困難な面もあります。4病院のいずれも、その成り立ちや仕組みが少しずつ異なるため、一気に共同購入まで進めることは難しいところがあると思っています。メリットを価格に求めるのか、後発医薬品だけではなく先発医薬品も絞り込むのか、さらに供給の安定性や信頼性をどう確保するかも、備北地区版地域フォーミュラリ策定に関連する検討課題です。

こうした課題に取り組みつつ、施設間での薬剤師派遣の実施や、薬剤売買を通じたデッドストックの解消などにも取り組んで行きたいと考えています(表1)。

表1 備北メディカルネットワークの目指すもの(薬剤編)

(取材日:2022年7月21日 オンラインにて実施)

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備北メディカルネットワークが医師業務・地域医療にもたらした変化

三次地区医師会会長
鳴戸 謙嗣 先生

備北メディカルネットワークが医師業務・地域医療にもたらした変化

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  • 鳴戸 謙嗣 先生
    三次地区医師会会長
    鳴戸 謙嗣 先生

01備北医療圏における地域医療の現状

備北二次医療圏は広島県の4分の1の面積を占めますが、人口は県全体の40分の1です。典型的な中山間地域であり、少子高齢化の先進地域だと思います。

広いエリアに人口が少ない広島県北部は、北海道に次いで全国で2番目に無医地区の多い地域です。三次市と庄原市という中核都市がありますが、人口はそれぞれ5万人と3万人弱であり、周辺地域はさらに人口も医師も少なく、今も減少傾向にあります。

医師の高齢化、地域の過疎化が進む中、そうした地域が消滅せずに生き残るためには、医療は最も基本的な基盤であり、医療機関が互いに協力し役割分担をして、効率的に住民を守ることが必須です。そのために発足したのが、備北メディカルネットワーク(MNW)であり、地区医師会の使命は、地域医療を守ることに尽きると考えています。

02診療所の承継における問題

三次地区医師会の開業A会員は41名、平均年齢65歳です。医師になった子どもたちもいますが、人口が減少する地域で後継者として医院を承継し、経営していくことは非常に困難です。加えて、現在の医療は専門分化が高度に進んでいます。しかし、今地域でもとめられているのは、かかりつけ医であり総合診療医です。私自身、元々消化器外科医ですが、20年前から手術をやめ、総合診療医として診療しています。こうしたなかで、専門特化した子どもたちに「帰ってきて総合診療に従事してほしい」というには難しい状況があります。

三次地区の喫緊の課題は、小児科です。市立三次中央病院は、小児救急も受け入れて頑張っていただいていますが、ワクチン接種や日常の細々した子どもさんへの対応は、やはりかかりつけ医でなければ困難な部分があります。しかし、現在ある小児科診療所も後継者が不在です。小児科医がいなくては、この地域に子どもも増えませんので、市に対し、公的支援をしてでも小児科を誘致したいとお願いし令和4年8月23日、公設公営の小児科診療所開設が決まりました。

また、三次市に4施設ある有床診療所も、国の方針で介護医療院への転換を誘導されるなか、人材不足もあり存続困難な状況にあります。

03備北MNW発足以降の医師業務、地域医療の変化

基幹病院である市立三次中央病院ができて28年になります。市立三次中央病院ができる前、医師会の病院に診療科として外科をつくろうという話がありました。しかし、人口減少のなかで、同じような機能を持つ病院が2つあっても大変だろうという議論になり、それをきっかけに地域における医療機関の役割分担の話が進みました。

その結果、急性期診療は、基幹病院である市立三次中央病院、回復期から慢性期は医師会の病院である三次地区医療センター、在宅については我々かかりつけ医が担当するという役割分担をしてきた歴史があります。それが備北MNW設立の素地にもなりました。

現在、かかりつけ医は全員が基幹病院である市立三次中央病院の協力医療機関になっており、三次地区医療センターと市立三次中央病院の間の連携も非常によく、役割分担もうまくできています。例えば脳卒中の診療は、急性期は市立三次中央病院へ送り、回復期のリハビリテーションは三次地区医療センターで行います。三次地区医療センターでは、脳卒中・大腿骨骨折連携パス、嚥下リハビリテーション、心臓リハビリテーションに注力しており、回復期リハビリテーションから在宅リハビリテーションに特化した在宅医療支援病院を目指して取り組んでいます。在宅やケアホームに移ることができる患者さんは、その後はかかりつけ医が診療し、施設入所を要する患者さんは、備北MNWの4病院のうち、長期療養病床を有する2施設のいずれかに移るといった形で、医療と介護の役割分担、連携もしっかりとできています。

加えて、かかりつけ医が病気等で休診せざるを得ない場合には基幹病院に医師派遣を依頼できるシステムも機能しています。

また、備北MNW発足以降、これまでこの診療圏に不在、ないし医師数が不足していた診療科(リウマチ科・血液内科)の専門医に来ていただいたことは、ずいぶん大きな変化をもたらしました。なかでもリウマチに関しては、治療の進歩により専門医でなければ使いにくい薬剤もあるため、これまで患者さんは片道約1時間かけて広島まで行かなくてはなりませんでした。今では、この圏域で診療可能になり、地域のリウマチの患者さんは大いに助かっています。今後は、パーキンソン病などの脳神経内科が要望されています。

04過疎化が進む中での在宅診療の現状と課題

かかりつけ医は、幅広い診療科のほとんど全てを診ています。ただし、基幹病院との役割分担は明確にできており、紹介システムも確立していますので、自身の範囲を超える場合には、患者さんをスムーズに専門医療に繋ぐことができます。

かかりつけ医の約6割は在宅医療に従事しています。純粋な在宅医療に限らず、介護施設やグループホームなど、居住系の施設への訪問診療が多いと思います。往診専門クリニックもあり、主として基幹病院から在宅に移行された患者さんの看取りや、特別養護老人ホームの施設医師として看取るといったことを合わせてしておられます。

過疎化が進む広域エリアにおける在宅医療に関しては、ある程度の拠点化が必要だと考えます。ただ、居住系のナーシングホームは入所費用が高額で、年金だけでは賄いきれません。比較的費用負担の少ない特別養護老人ホームがあるものの、空きがなくて順番待ちが長いため、年金しか収入のない人の行き場所がなくなっている状況です。

在宅高齢者の約7割は家族との同居世帯で、老々介護とならざるを得ず、加えて独居の高齢者をカバーするとなると、行政の力が必要です。我々も三次市に対して、「ここに来れば全部まとめて診るよ」といえるような、年金受給者でも生活しやすい、安価な高齢者向け住居を作ってほしいとお願いしています。行政がしっかり関わって、食事などのさまざまなお世話を周りがし、自分の身の回りのことはある程度ご自身でやっていただく、経済的負担の少ない施設が今一番必要だろうと思います。

05超高齢社会のなかで特に対策が必要な疾患分野および医療・介護の連携

5疾病5事業を基本としつつ、高齢化の中で、三次では認知症対策が進んでいます。かかりつけ医41名中、認知症のサポート医が13名で、認知症支援センターとの連携ができています。また、かかりつけ医は全員が介護認定審査会の経験者ですから、介護保険に対する理解は、他地域に比べるとずいぶん進んでいると思います。

現時点では、介護施設の間に、備北MNWのような密接な連携はできていません。今後は、備北MNWの下部組織として地域包括ケア連携推進法人のような組織ができればと考え、研究しているところです。

医療保険と介護保険、また社会福祉保険間の隙間が埋まっていないので、そこをうまく連携させるシステムができれば、三次の地域包括ケアは完成すると思っています。

06コロナウイルスのパンデミック下での備北MNWの機能

三次でCOVID-19感染症のクラスターが発生した時には、ただちに備北MNWを中心にコロナ対策調整会議を立ち上げました。三次市と庄原市の4つの基幹病院を中心に、保健所、行政、全医師会、介護施設、警察、社会福祉法人などの施設にも連絡協議会に参加いただいて、定期的に連絡する場をつくりました。そこでは、「今うちの病院は満床です」「何床空いています」などさまざまな情報を共有し、非常にうまく連携ができました。

入院が可能な施設は、市立三次中央病院と日本赤十字社庄原赤十字病院の2つの基幹病院です。そこを退院した患者さんを、三次地区医療センターなど他の病院が受けます。かかりつけ医は、可能であれば発熱外来とワクチンを担当します。パンデミック下においてもこうしたシステムがすぐにでき、役割分担をしっかりして、うまく機能しました。これはネットワークがあったおかげです。

07患者さんの年齢、経済的側面を考慮した医療のあり方

私自身が三次で開業して以来、36年になりました。この間ずっと、患者さんの経済状態なども見ながら診療してきましたが、今、薬が非常に高額になっていることを痛感しています。介護保険も今や縮小されつつあり、自己負担が増えるばかりです。医療コストについて、国民全体で考えていかないと医療保険は破綻してしまいます。

がんの治療薬のなかには、延命効果を得るために、年間1000万円を超える費用がかかる薬もあります。人工透析は年間500~600万円、寝たきりで介護施設に入っても年間400~500万円かかります。いわゆる1QALY(質調整生存年)500万円です。

社会保障費がこれだけ増えると、国が効率化をいうのは仕方のないことですし、国民の合意がないと行き詰ってしまいます。希望する医療に関する患者さんの意思決定であるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)についても、しっかりとした検討が必要です。一方で、医師の収入は低減し、医療介護関係者の給与も非常に低い状態におかれています。

医療資源をどのように効率的に使っていくかについて、今、国民の合意が必要です。

かかりつけ医として単独で、医療保険や介護保険なりを利用してやっていくことは既に限界を超えており、過疎地域の医療をなんとか維持していくためには、行政との連携が必要です。備北医療圏では、この地で代々地域医療を守ってきた医家が減ってきており、備北MNWの基幹病院である市立三次中央病院と連携しながら地域医療を守っていく所存です。

(取材日:2022年8月19日 オンラインにて実施)

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