施設の取り組み
かんだ内科クリニック
高血圧診療におけるPHR管理アプリの価値
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かんだ内科クリニック 院長 觀田 学 先生
幅広い業界で、デジタル技術を使いこなして新たな価値を生み出すDX(Digital Transformation)への取り組みが求められている。医療現場も同様で、DX推進にあたり、患者さんのPHR(Personal Health Record)を活用しやすくするためのデジタルツールは大きな役割を担う。
沢井製薬は、医療機関のオンライン診療システムと連携できるPHR管理アプリ「SaluDi(サルディ)」を2021年10月にリリースした。日本循環器学会循環器専門医で、高血圧や心臓血管疾患の患者さんの診療を手がける『かんだ内科クリニック』院長の觀田学先生に、同アプリの診療への活用についてお話を伺った。
目次
01より簡便な家庭血圧の記録・管理のツールを求めて
―― PHR(Personal Health Record)サービスの導入をお考えになったきっかけから教えてください。
觀田先生:高血圧の診療において、血圧管理はとても重要です。
ご存じの通り、血圧の測定には医療機関で測る診察室血圧と、自宅で測る家庭血圧の大きく2種類があります。
診察室血圧は来院時の時間帯や状況などによって変動が大きくなりやすく、正確な情報を得るためには家庭での早朝の血圧を測ることが必要です。
さらに日ごとの数値のブレに左右されないよう週単位あるいは月単位での平均値を出し、降圧目標の設定などを行っています。
一方で、家庭血圧の平均値を出す作業における効率の悪さが悩みの種でもありました。
患者さんには毎日の血圧値を記録した血圧手帳を、診療時に持参してもらいます。
しかし手書きによる記録や管理は、人によっては億劫に感じたり、続きにくい原因になったりしやすいものです。
血圧の平均値は、患者さんの血圧手帳を基に当院の看護師が計算します。2週間分なり1カ月分なりをまとめて計算するのですが、そのために費やす手間や時間は少なくありません。
そこで考えたのが次の2点です。
① 患者さんがもっと簡便に家庭血圧の記録や管理ができ、また人手を使って計算しなくても自動的に平均値が出せるようなツールはないだろうか。
② スマートフォンのアプリやスマートウオッチなど個人の健康データを記録するツールはあるが、診察時にプライベートのスマートフォンでアプリの画面を見せてもらうというのもまた、患者さんにご面倒をかける要因となり気を遣ってしまう。医療機関のパソコンと患者さんのPHRデータが連携し、診察室のパソコンで情報共有できることが望ましい。
昨今は製薬会社や医療機器メーカーなどによるPHRサービスが増えてきています。上記の希望を満たすものもいくつかありますが、その中でより希望に合致したツールについて検討した結果、「SaluDi」の導入に至りました。
02PHR管理アプリの導入により高血圧診療の効率が向上
―― 「SaluDi」を導入する決め手となったのはどういう点でしょうか。
觀田先生:患者さんに経済的な負担をかけたくありませんし、当院としても新しいシステムを導入することによるコスト負担は極力抑えたいので、「無料で使える」という点にまず魅力を感じました。
また、直感的に使いやすい点もこのPHR管理アプリの大きな特徴の一つだと思います。具体的には次のような点が特に優れていると感じています。
●血圧計をはじめとする様々なブランドの測定機器やヘルスケアアプリとの連携が取りやすい
●無駄のないシンプルな設計で、自分の必要な画面にすぐにアクセスできる
「SaluDi」には体重や体温、血糖値、酸素飽和度といったバイタルや、歩数や摂取カロリー、お薬手帳などの生活記録、健診・検査データなどさまざまな機能がありますが、当院では今のところ血圧の管理をメインに活用しています。
血圧管理におけるメリットとしては次の点が挙げられます。
●朝の平均値、夜の平均値というように、時間帯ごとに計測した血圧の平均値をそれぞれ自動で出すことができる
●一つの画面で、設定した期間の血圧の平均値を確認することができる
血圧管理のアプリをいくつか比べたところ、上記のことができるものは多くありません。
また、これはPHRサービス全般にいえることですが、デジタルでデータを保存することで、過去の記録も容易に遡ることができます。
手書きの血圧手帳で何年も前の血圧値を調べようとすれば、多くの時間や手間がかかりますから、診療の効率を上げるという意味でも価値を感じています。
0340~70代の患者さんを中心にアプリ利用者が増加中
―― 患者さんにはPHR管理アプリをどのように勧めていらっしゃるのでしょうか。
觀田先生:当院が「SaluDi」を導入したのは2021年の12月で、2022年6月までの半年間で約110人の患者さんが使っています。
普段からスマートフォンの操作に慣れている40代~70代くらいの患者さんを中心に、新しい血圧手帳に切り替わるタイミングで「こういうアプリがありますけど、どうですか」と伝えることが多いです。これから血圧管理を始める患者さんに、最初から勧める場合もあります。
中には「やっぱり手書きのほうが記録しやすい」という患者さんもいますが、「血圧手帳を持ち歩かなくても、血圧値のデータがあらかじめ共有されているので、受診したいと思ったタイミングでいつでも受診できますよ」といったメリットを伝えると、納得される患者さんも多いです。
また、血圧手帳をなくした場合も自分の血圧値のデータが残り続けるメリットは、アプリを使っている多くの患者さんが実感されているのではないかと思います。
なお、血圧手帳に日々の血圧の記録をしていても、平均値を自分で計算している患者さんは決して多くありません。
アプリでは自分の血圧の平均値が一目瞭然ですので、「今のあなたの血圧の数値目標はこのくらいですよ」とお伝えし、普段から自分のデータをチェックするよう指導しています。
実際、このアプリを使い始めてから、以前よりも主体的かつ前向きに診療を受ける患者さんが増えている印象があります。
毎日、自分でデータを入力して、主治医と共有できるということがモチベーションにつながっているのかもしれません。
もちろん診療においてもさまざまな面で役立っています。
患者さんは1カ月に1回くらいのペースで受診される方が多く、そのタイミングで薬が変わることも少なくないのですが、こうした場合にもアプリの血圧のデータをチェックすることで、どのくらいの期間で薬の効果が現れるのか、あるいは薬の量を調整したほうがよいのか、といったことを検討することができます。
また、例えば「最近忙しくてなかなか受診ができないけれど、血圧がちょっと高くなってきている」といった患者さんの場合も、データを共有することで、先回りして生活面での指導を行うようなことが、これからは可能になるのではないかと期待しています。
04アプリを心不全の早期治療にもつなげたい
―― 今後はアプリをどのように活用していきたいとお考えでしょうか。また、このアプリに期待することについて教えてください。
觀田先生:現在は血圧の管理をメインにアプリを活用していますが、心不全の患者さんに対する体重の管理にも役立つのではないかと考えています。
特に重症の心不全の患者さんの場合は、増悪の兆候を早くとらえて、悪化する前に対応する必要があります。
体内に水分がたまって体重が増加している、安静時の心拍数が通常より高くなっている、といった心不全の重症化を知らせるアラートがアプリに加わると、患者さん自身が異常に気づきやすくなり、早期発見・早期治療につながるのではないでしょうか。
自分の健康データを記録し、可視化できることはPHR管理アプリ全般のメリットの一つといえますが、データをそのままにするのではなく、患者さんの健康維持や受診のサポートに直接つなげられるような仕組みができることを期待しています。
ともあれ、アプリを導入したことにより、当院の高血圧診療は非常に効率が良くなり、スタッフの負担も軽減されました。
患者さんの血圧管理をもっとスムーズに行いたい、血圧の平均値を一目で確認したい、といった循環器内科をはじめとする医療機関のニーズに、確実に応えてくれるアプリといえるでしょう。