閉じる

施設の取り組み
公益社団法人 神奈川県薬剤師会

ダウンロードはこちらPDF

薬局薬剤師の積極的な服薬フォローアップへの取り組みに向けて
-かながわ服薬フォローアップ強化プロジェクト-

公益社団法人
神奈川県薬剤師会

01社会的に評価される薬剤師の育成を目指して服薬フォローアップ強化プロジェクトをスタート

KEI ITO伊藤 啓氏(公益社団法人 神奈川県薬剤師会 常務理事)

2020年9月、改正薬機法が施行され、「薬剤師が調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う」こと、つまり薬剤師の「服薬フォローアップ」が義務化された。この背景には本来の医薬分業の意義である、地域での薬局薬剤師を含むチーム医療が十分に行われていないという指摘がある。
「多くの薬局・薬剤師は調剤業務に真面目に取り組んでいますが、それだけでは社会的な評価は得られません。服薬フォローアップを通じて社会的に評価される薬剤師を育て上げていかなくてはならないと考えた私たちは、法改正が行われる前に動こうと県内の薬剤師に呼びかけ、『かながわ服薬フォローアップ強化プロジェクト』を立ち上げることにしました」と神奈川県薬剤師会常務理事・伊藤 啓氏は話す。
同プロジェクトの正式名称は「令和元年度 神奈川県 地域における薬局機能強化及び調査・検討事業」である。2019年度の単年度事業として、行政と連携して実施された。目的は、来局時以外の服薬期間中における服薬指導の効果的な方法等を調査・検討し、より多くの薬局薬剤師が積極的に服薬フォローアップに取り組めるようにすることである。
「もともと神奈川県の薬剤師は問題意識が高い方が多く、県薬剤師会は常に『行動すること』を掲げて運営しています。また、薬剤師の倫理観を育成するための倫理研修会も実施しています。こうした土壌があったことも、今回のプロジェクトの立ち上げにつながったと考えています」(伊藤氏)。

02服薬フォローアップに関する意識調査とモデル事業を通じた事例収集を実施

同プロジェクトでは、①服薬フォローアップに関する薬剤師の意識調査、②モデル事業を通じた服薬フォローアップの事例の収集を行った。①の調査には県内の2,494薬局のうち310薬局(12.4%)が回答し、②の事例収集には県の全薬局の約1割にあたる238薬局が参加した。
①の調査で服薬フォローアップの実施状況を尋ねたところ、「十分にできている」「ある程度できている」(a)と回答した薬局は167薬局(54%)と半数以上が具体的な行動を起こしているという結果だった。ただし、143薬局(46%)は「あまりできていない」「全くできていない」(b)と回答している。
「これらの薬局に『どのような患者に服薬フォローアップが必要か』と質問したところ、a、bともに『コンプライアンス不良が心配される患者』が最も多く、回答の傾向にはあまり差がみられませんでした。しかし、aのほうがbより回答の選択率(%)が高く、服薬フォローアップの経験値が高い薬局ほど様々な患者さんで服薬フォローアップの必要性を見出していることが推察されました。その一方で、bでは服薬フォローアップといっても実際何をしたらいいのかわからないのではないかという印象を持ちました」と伊藤氏は調査結果を分析する(図1)。
さらに「『服薬フォローアップの際にどのような方法で患者に連絡することが有効だと思うか』という質問に対してaの薬局群では、ほとんどが「対面(53.9%)」「電話(38.3%)」と回答しているのに対して、服薬フォローアップが具体的にイメージできていないと思われるbの薬局群では、「電話」が約6割で対面は2割に満たないという結果で、意識に大きな差があったのも印象的でした」とも話す。

図1 意識調査の結果
どのような患者に服薬フォローアップが必要だと思いますか(複数回答)

(令和元年度 神奈川県 地域における薬局機能強化及び調査・検討事業報告書p.7, 9)

②の事例収集に関しては、2019年7月に説明会と参加薬局の募集を行い、8月から10月にかけて服薬フォローアップを実施して報告書を提出してもらった。
「服薬フォローアップの実施にあたっては何度も事前の打ち合わせを行い、患者さんへの説明用リーフレットや患者対応記録用紙を作成して参加薬局へ事例の報告をお願いしました」(伊藤氏)。記録用紙にはフォローアップの必要性の判断理由や連絡方法、フォローアップ時の患者さんの状態と薬剤師の対応、フォローアップ後の患者さんの状態などを記載してもらう形になっている(図2、図3)。
また、服薬フォローアップの対象とする患者さんについては「重症患者などと限定せず、薬剤師の薬学的視点でフォローアップが必要と判断した患者さんとし、フォローアップの方法も限定しませんでした。たとえばステロイド外用薬を処方されても、副作用が心配で使っていないというような患者さんもいらっしゃいます。このようにフォローアップが必要になるケースがたくさんあるためです」と伊藤氏は語る。
最終的に記録用紙を提出した薬局は103薬局、提出事例数は491事例で、このうちフォローアップが完了し、共有が可能とされた434事例をまとめて事例集を作成した。

図2 患者さんへの説明用リーフレット

図3 患者対応記録用紙

03薬剤師に求められる積極的な服薬フォローアップへの取り組み

収集した事例を分析したところ、患者さんとの連絡方法は電話(385件)が一番多く、次いで来局(183件)、訪問(90件)と対面でのフォローアップが多いという結果だった。「これは、①の調査でフォローアップができていると回答した薬局が行っている連絡方法と一致します。このことからも現在のところ、電話と対面が有効な方法と考えられていることが読み取れます」(伊藤氏)。
また、2019年12月には医師、訪問看護師、介護支援専門員といった多職種が出席するパネルディスカッションを実施し、意見交換の機会を設けた。
「パネルディスカッションでは、他職種と薬剤師の考えるフォローアップの違いが明らかになりました」と伊藤氏は言う。たとえば他職種からの意見では「敗血症等の数時間で命に関わるような重症感染症のバイタルチェックやフィジカルアセスメントを、薬剤師にチェックしてもらえると助かるし、医師への信頼につながる」というものがあった。「薬を確認するだけでなく、患者さんの状態をみることもフォローアップにつながるのだと感じました」(伊藤氏)。
今回のプロジェクトでは、服薬コンプライアンスに関する問題を解決するためのフォローアップ事例が多く、薬剤師が患者さんに継続してかかわることで、患者さんの服薬コンプライアンスの向上に大きく寄与することが確認された。一方で、効率的な服薬フォローアップや適切な治療を行ううえで、患者さん以外にも家族や患者さんにかかわる多職種との連携や情報共有が効果的で重要であると考えられた。
「患者さんが医薬品の使用により起きる体調の変化や疾患自体に不安を抱えている事例も多く収集されています。新型コロナウイルスの影響で、現在、事業を継続することは困難になっていますが、薬剤師は服薬コンプライアンスの状況だけでなく、医薬品の性質を踏まえて患者さんに起こりうる変化を予測し、必要性を判断して積極的に服薬フォローアップに取り組むことが求められていると考えます」(伊藤氏)。

04プロジェクト参加薬局の取り組み―宮前調剤薬局での実施基準など

伊藤氏が経営する株式会社宮前調剤薬局では、プロジェクトの実施にあたり重症と軽症を分けて考え、重症患者さんや入院の可能性のある患者さんなどには期間中に電話などでフォローアップをするが、軽症で事前に予見される副作用などがある患者さんには薬局の連絡先を書いた名刺状のものを渡して、電話またはメールで連絡してもらう方法をとった。
「私自身は『100人来たら100人フォローアップ』という考えですが、従業員にそれを求めるのは難しいと思います。服薬期間中にフォローアップが不可欠となる重症の患者さんはそれほど多くはありません。それではそれ以外の軽症の患者さんに対してはどのようにフォローアップするのかと薬局内で検討を重ね、業務を効率的に行い、患者さんとの信頼関係を構築できる方法として、何かイベントが発生したときに患者さんが連絡しやすい環境を作るという結論に達しました。それが『患者さんから連絡してもらう』という方法です」と伊藤氏は実施基準を決めた経緯を語る。
また、「途中で薬局側から連絡を入れる場合の注意点は、必ず事前に電話などによる連絡をとることがある旨、患者さんに伝えるようにすることです」とも言う。「突然電話などで連絡をとると、トラブルになりかねず、患者さんとの信頼関係に支障を来すこともあると考えます」(伊藤氏)。

05薬局内で症例検討を実施してフィードバックを判断

得られた情報に関しては、薬歴に記録して共有している。電子薬歴は、服薬フォローアップで連絡が必要な患者さんがTo Doリストで出てくる仕様のものを新たに導入した。
一方、処方医へのフィードバックは、トレーシングレポートを活用している。各薬局で様式がバラバラだと医師が見づらいということを考慮し、株式会社宮前調剤薬局が展開する3店舗のうち2店舗が位置する川崎市の市薬剤師会では様式を統一している。ただし、生命に影響を及ぼすような緊急性の高いケースでは、直接医師に連絡して意見交換しながら話すというケースもある。とはいえ、「通常の副作用の相談などをすべて医師にフィードバックするということはありません。発生したイベントが副作用ではないケースもあるためです。これは見逃せない副作用であると判断したときは報告するといった線引きをしています」と伊藤氏は話す。その判断については、社内の月1回のミーティングのときに症例検討を行い一人ひとりの薬剤師が考える機会を作っており、さらに、介入した結果や転帰までフォローアップし、神奈川県薬剤師会の薬局プレアボイドWeb報告システムなどを活用して報告している。
また、神奈川県薬剤師会には「くすりと健康相談薬局」という認定制度がある。「私たちの薬局では、1つハードルを上げて、『健康相談』を受ける薬局であることを目標としています。患者さんから信頼されていないと、健康や薬に関する相談はされません。服薬フォローアップは当然のこととして行って、健康相談ができる薬局という土壌を作っていきたいと考えています」と伊藤氏は今後の展望を語る。

06薬学的知見に基づく服薬フォローアップについて改めて考え直すいい機会に

伊藤氏は今回のプロジェクトについて、「『使用上の問題はありませんか』『副作用はありませんか』などと聞いて『問題ありません』と患者さんが話したことをそのまま記録することが本当に薬学的知見に基づいた服薬フォローアップなのか、ということを改めて考え直す機会にするべきと考えています」と語る。また、電話をすることで「喜ばれた」「感謝された」という報告もいくつかあったと言い、そのうえで「勘違いしてはいけないのは、サービスとフォローアップは違うということです。患者さんに喜ばれたり、感謝されたりすることは悪いことではないし、社会的貢献度を上げるのには役に立っていますが、薬剤師の職能を上げて社会から評価されるということとは意味合いが違うと考えています。今後は薬剤師の薬学的知見を活かし、専門性を発揮した結果を積み重ねていく必要があると私は考えます」(伊藤氏)と述べた。それに加えて、「薬剤師は今回のプロジェクトを、コミュニケーションやマナーを学ぶいい機会にしていただきたい」とも語り、今回のプロジェクトについて総括した。

(取材日:2021年4月22日 神奈川県薬剤師会館・オンラインにて実施)

ダウンロードはこちらPDF

一覧にもどる