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原料・製剤に混入する異物の分析

当社では、製造する製剤には異物が混入しないよう細心の注意を払っていますが、原料(原薬及び添加剤)や製剤及び中間製品などに異物混入が認められた場合、特殊分析技術を持つ異物分析専門部署で速やかに異物を分析して混入経路を解明し、異物混入を防ぐ対応策を講じる体制をとっています。

原料搬入時、製剤製造後の異物の確認及び品質を改善する体制

当社では、製剤の製造工場における原料受け入れ時及び製剤製造後に異物混入の有無を検査していますが、各製造工場で異物の混入原因が特定できない場合には、全社一丸で混入原因を究明し、改善する体制を整えています(図1)。異物分析専門部署を社内に保有していることが、当社の強みとなっています。

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図1 原料搬入時、製剤製造後の異物の確認及び品質を改善する体制
図1 原料搬入時、製剤製造後の異物の確認及び品質を改善する体制

異物分析技術

当社の異物分析専門部署では、たとえ微量であっても異物を分析し、混入原因を究明できるよう、高度な異物処理技術を所有し、多岐にわたる分析機器を使いこなす特殊分析技術を保有しています。

図 異物分析技術

■分析機器の一例

①顕微鏡観察

異物の大きさ、形状などを観察します(写真1)。特徴的な形状であれば、混入原因の究明において重要な情報となります。異物の形状から異物の性質を推測でき、その後の分析方針を決められる可能性があります。

写真1  VHX-7000・KEYENCE
写真1 VHX-7000・KEYENCE

②分光分析

分子構造に基づくスペクトルを得ることができ、物質の構造推定や定性分析の目的で使用されます。異物分析に用いる主要な分光分析には、赤外分光分析(IR分析)やラマン分析があります。

◯赤外分光分析法(IR分析)

試料に赤外線をあてて得られる吸収スペクトルを測定する分光分析です(写真2)。分子振動による双極子モーメントの変化が生じる分子の吸収バンドを検出します。吸収バンドは物質の分子構造によって固有のパターンを示すことから、官能基などの構造情報を得たり、既知のスペクトルとの比較から物質を同定したりすることができます(図2)。

写真2 (左)NICOLET iS50,(右)NICOLET CONTINUUM・Thermo Fisher Scientific
写真2 (左)NICOLET iS50,(右)NICOLET CONTINUUM・Thermo Fisher Scientific
図2 白糖のIR吸収スペクトル
図2 白糖のIR吸収スペクトル

IR分析では、複数の物質が混合した異物についても解析することができます。ある異物についてIR分析を実施した結果、セルロースを主成分として、他の成分が混ざっているスペクトル(混合スペクトル)が得られました。縦軸を吸光度に変換し、同定できた特徴的なピークを順に引いて差スペクトルを描くことにより、この異物にはセルロースに加えパラフィンと水酸化ナトリウムが含まれていることが分かりました(図3) 。

図3 混合物のスペクトル解析
図3 混合物のスペクトル解析

◯ラマン分析

試料にレーザー光を照射した際に発生するラマン散乱光を検出することで、化学結合や結晶構造に関する情報を得る分光分析です(写真3)。赤外不活性でIR分析では検出できない分子の測定が可能です。レーザー光を物質に照射したときの散乱光を測定し、レーザー光のエネルギーから振動エネルギー分だけ変化したラマン散乱光を分光します(図4)。

写真3 DXR Raman Microscope・Thermo Fisher Scientific
写真3 DXR Raman Microscope・Thermo Fisher Scientific
図4 酸化鉄(鉄さび)のラマン散乱スペクトル
図4 酸化鉄(鉄さび)のラマン散乱スペクトル

◯マッピング(IR・ラマン分析)

IR分析やラマン分析を用いて、複数成分からなる混合物における特定物質の分布を調べることができます。また、この手法を用いることで、成分(異物)の有無を確認したり、分布する場所を特定したりすることもできます。
図5に錠剤表面における乳糖(錠剤の添加剤)の分布をIR分析で測定した例を示します。乳糖のIRスペクトルを用いて錠剤表面のマッピングを行った結果、乳糖は錠剤表面全体に偏りなく分布していることが判明しました。

図5 混合物のスペクトル解析
図5 混合物のスペクトル解析
赤色が強い部分が、乳糖由来のピークが強く検出された部分

③元素分析(EDX分析)

試料に電子線を照射し、試料から放出された特性X線量を検出し、エネルギーで分光することによって、元素分析や組成分析を行う手法です(写真4)。励起するX線エネルギーは元素に固有の値をとり、その値から鉄(Fe)などの金属元素を特定したり、ピーク面積の比較から組成比を推定したりすることができます(図6)。

写真4 JSM-IT800(HL)・日本電子
写真4 JSM-IT800(HL)・日本電子
図6 ステンレスのEDXスペクトル
図6 ステンレスのEDXスペクトル
ステンレスは鉄にクロムやニッケルなどを添加した金属
EDXスペクトルから各金属の組成比が確認できる

■分析手法の一例

①微細異物の取り出し

開発中の試作錠剤に黒点が認められたことがありました。黒点を取り出し顕微鏡観察したところ、微細な異物が埋まり込んでいることがわかりました。顕微鏡で見ながら、専用の道具(写真5)を用いて異物を取り出したところ、12µm×30µmの大きさの金属片であることがわかりました(画像1)。

写真5 微細異物の取り出しに使用する専用の道具
写真5 微細異物の取り出しに使用する専用の道具
画像1 当社物性研究部より提供
画像1 当社物性研究部より提供

②異物位置の推定

錠剤表面に青い斑点が認められたことがありました。斑点部分のコーティング層だけを剥がして観察をしたところ、斑点は素錠部の表面、コーティング層の内側にあることが分かり、異物はコーティング工程で混入したと推測されました(画像2)。

画像2 当社物性研究部より提供
画像2 当社物性研究部より提供

異物分析に係る対応事例

当社の異物分析専門部署がこれまでに実施してきた異物分析業務から、①医療機関より当社製品への異物混入の懸念をご指摘され調査・回答した事例、②原料の異物混入に対し当該原料メーカーに改善提案を行った事例、③自社製造工場での異物混入に対する改善提案を行った事例を紹介します。

1.医療機関からのご指摘対応

◯概要

錠剤の割線部にオレンジ色の付着物が認められるとのご指摘を医療機関からいただきました(画像3)。

画像3 当社物性研究部より提供
画像3 当社物性研究部より提供

◯原因究明

正常部分についてラマン分析を実施した結果、製剤処方に含まれるD-マンニトール及びアスパルテーム由来の散乱スペクトルが認められました(図7)。

図7 正常部分のラマン散乱スペクトル
図7 正常部分のラマン散乱スペクトル

一方、異常部分には、製剤処方に含まれる黄色三二酸化鉄に由来するスペクトルが認められました(図8)。

図8 異常部分のラマン散乱スペクトル
図8 異常部分のラマン散乱スペクトル

◯医療機関への報告

異物は黄色三二酸化鉄の局在によって発生した斑点であり、安全性への影響はない旨をご報告しました。また、当該製剤の製品生産工場に、添加・混合時に慎重に作業を行うよう改めて注意喚起したことをお伝えしました。

◯改善

黄色三二酸化鉄を粉砕機で粉砕してから当該製剤の製造に供するとともに、製造後の外観検査工程で、製品中に本件に類似する不良錠が入らないよう、検査手順を再確認しました。

2.原料メーカーへの品質改善提案

◯概要

入荷した原薬中に金属繊維様の異物が混入していることが判明したので、調査しました(画像4)。

画像4 当社物性研究部より提供
画像4 当社物性研究部より提供

◯原因究明と改善提案

元素分析の結果、異物の金属繊維はステンレス製(鉄とクロム)であると推定されました。原薬メーカーの製造ラインを確認したところ、製造設備で使用されているフィルターに金属繊維が織り込まれていることが判明しました(画像5)。異物とフィルターの金属繊維について元素分析を行ったところ、分析結果が一致し(表1)、当該フィルターからの混入が示唆されました。
このことを原薬メーカーに報告し、当該フィルターを使用しないよう改善提案しました。

画像5 当社物性研究部より提供
画像5 当社物性研究部より提供
表1 異物とフィルター金属繊維の元素分析比較
表1 異物とフィルター金属繊維の元素分析比較

3.製造工場での品質不良に対する改善点の指摘

◯概要

製造された錠剤の内層に異物の影が確認されました(画像6)。

画像6 当社物性研究部より提供
画像6 当社物性研究部より提供

◯原因究明と改善

コーティング層を慎重に剥離して確認したところ、透明の塊が埋まり込んでいました(画像7)。

画像7 当社物性研究部より提供
画像7 当社物性研究部より提供

IR分析の結果(図9)、素錠部を構成する添加剤の1つ(ステアリン酸マグネシウム)が局在していることが判明しました。
当該錠剤の製造工程を確認した結果、異物を除くための篩で捕集できなかったステアリン酸マグネシウムの凝集塊が混入したと考察されました。品質に影響は無いと判断されましたが、外観検査工程を改善することで同様の不良錠が出荷されないようにしました。

図9 素錠部に混入した塊(異物)のIR分析
図9 素錠部に混入した塊(異物)のIR分析
①素錠部と④異物のスペクトル波形は異なり、異物には⑤ステアリン酸マグネシウムの波形が強く出ていたため、ステアリン酸マグネシウムの局在化が示唆された

当社では製品の品質と安全性を守るために、異物混入を防ぐことに最大限の注意を払っていきます。
万が一、異物が発見された場合は、当社の異物分析専門部署が異物に関する様々なデータを取得して科学的に考察し、関連部署と連携しながら迅速かつ真摯に問題解決に尽力しています。
今後も技術を磨いて、より高度な品質管理を実現するために努力し続け、より高品質で信頼性の高い製品を提供できるよう努めます。

(2024年3月作成)