高精度に分割可能な製剤の開発技術
割線を有する錠剤(以下、割線錠)は、割線の利用により用量調整が可能な製剤です。実際の医療現場において錠剤を分割する際には、市販されている各種錠剤分割器や、スパーテルの裏面、器具を利用せず手で分割するなど、様々な方法が選択されています。しかしながら、それら分割方法の違いによって分割誤差(半錠のバラつき)を生じる可能性が多く報告されており、当社の社内試験でも同様の結果が確認されています。
そこで当社では、医療現場における分割調剤の実態を踏まえて、より高精度に分割可能な製剤の開発に取り組んでいます。
医療現場における分割調剤の実態調査に基づいた割線錠の開発
割線錠の開発時には、当社で行ったインターネット調査結果(図1)に基づいて、医療現場で最も選択されている錠剤分割器(錠剤分割専用として市販されているハサミ)を用いた当社独自の分割性評価基準を規定し、割線形状の開発や製剤の処方検討に取り組んでいます。
- 調査主体
- :沢井製薬株式会社
- 調査対象者
- :調剤薬局・病院・調剤併設ドラックストア勤務の分割処方をしている薬剤師
- サンプルサイズ
- :300人
- 調査年月
- :2020年5月
- 実査委託先
- :楽天インサイト株式会社
錠剤の分割を行う際、どのような方法で錠剤を分割しますか。(複数回答可)
図1 インターネット調査結果
分割精度向上の追求
錠剤の形状には、大きく分けると円形錠と異形錠があります。異形錠で代表的なオーバル形(図2)は、器具を利用せず錠剤の両端をつまみ、手分割するには望ましい形状といえます。しかしながらジェネリック医薬品は、先発品からの切り替えによる患者さんの心理的な要因が働く場合も配慮する必要があり、安易な形状変更は出来ません。これらの背景を踏まえた当社の分割精度向上への取り組みを紹介します。
図2 当社の代表的なオーバル形割線錠
■割線角度と割線デザインの検討
①割線角度について
割線角度(割線を構成する2つの側面がなす角)について検討した結果です。添加剤の処方が異なる錠剤サンプルA、Bについて、割線角度を50°、70°、90°、110°に変化させ、ハサミ分割した場合の分割精度の比較を示します(図3)。
図3 割線角度による分割精度の社内比較試験
分割精度の評価は、分割後の錠剤質量を、日本薬局方 製剤均一性試験を参考に計算した判定値※で算出しており、この判定値がより小さい場合に分割精度がより高いことを表します。判定値は、AとBどちらの錠剤サンプルも割線の角度が70°以上になると明らかに小さくなる傾向が認められました。これは割線角度がハサミの刃が入れやすい角度以上であるかが影響したと推測され、分割精度を向上させるための割線角度は70°以上にすることが効果的であると考えられました。
※:判定値=(各断片質量の標準偏差÷断片の平均質量×100)×2.4
②割線デザインについて
割線部(割線を構成する2つの側面が交わる底部)のデザインについて検討した結果です。
添加剤の処方が異なる錠剤サンプルY、Zについて、割線部を円形の中心に向かって隆起した曲線形状(断面模式図)である従来型デザインと、割線部が直線形状(断面模式図)である新型デザインで、ハサミ分割した場合の分割精度の比較を示します(図4)。
図4 従来型と新型割線による分割精度の社内比較試験
前述と同様に判定値で分割精度を評価した結果、XとYどちらの錠剤サンプルも割線部が直線である新型デザインの判定値が小さく、分割精度が高い傾向が認められました。これは新型デザインの割線部とハサミの刃の接触面の大きさが従来型デザインより大きいことにより、分割時の圧力が分散されたため、錠剤が部分的に欠損することを抑えられたと推測され、分割精度を向上させるための割線デザインは、割線部が直線で、ハサミの刃との接触面が大きい新型デザインの方が効果的であると考えられました。この結果から、当社では分割精度の向上を目的として、割線部が直線形状の割線デザインを付した新型割線錠を新たに開発し、特許出願を行っています(特許出願番号:特願2023-190130)。
■添加剤の検討
これまでの研究で、添加剤の形状や配合する添加剤の数が分割精度に影響することが判明しています(図5)。
これらの結果から、当社ではこれまで得られたメーカーごとの添加剤情報をデータベースに蓄積し、分割精度の向上を目指した添加剤の組み合わせなど、製剤の処方検討に活用しています。
■割り易さへの科学的アプローチ
割り易さの評価には、人間が感じる硬さや嗜好をスコア化する官能試験や、錠剤そのものの硬度測定、オートグラフ(図6)を用いた割線強度の測定などがあります。これまでの研究で、これらは必ずしも相関関係になく、複合的に関係していることが判明しています。
例えば、小さな力では割れるが、分割時に小さな破片が生じる製剤の場合、荷重値が小さくオートグラフでの評価は高くなりますが、破片が多いことで官能試験では評価が低くなることがあります(図7)。
これらの結果から、当社ではオートグラフを分割性のひとつの指標と位置付けた検討を予定しています。
当社では、今後も患者さんや医療現場で扱いやすい割線錠を目指して、添加剤をはじめ様々な研究開発に取り組んでいきます。
(2024年3月作成)