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専門医が解説する「頭痛」のこと

総監修:社会医療法人 寿会
富永病院 副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長/
富永クリニック 院長
竹島 多賀夫 先生

頭痛診療における薬剤師・看護師の役割と介入のポイント

片頭痛は有病率が高く、日常生活への支障が大きい疾患である一方で、受診率が低く、多くの患者さんは緊張型頭痛と同じように「頭痛」と一括りにして、市販の鎮痛薬などで対処していると考えられます。こうした患者さんに受診を促したり、治療を円滑に進めるためには、さまざまなタイミングで、薬剤師や看護師などの医療者が積極的に頭痛診療にかかわっていただくことが重要です。今回は、片頭痛と緊張型頭痛が混在した患者さんを例に、薬剤師・看護師の介入ポイントについて解説します。

1.薬剤師による受診勧奨の例

今回ご紹介する患者さんは36歳の女性です。2人の子供の出産を経て、昨年、職場復帰されました。現在はメーカーの事務職としてフルタイム勤務をされている方です。

職場復帰したばかりで仕事が忙しく、子供もまだ小さいことから、ご自身の受診は後回しにしていましたが、最近、知人が脳梗塞で入院したこともあり、受診を考え始めていました。そんな矢先、子供の受診で訪れた薬局で、片頭痛の前兆である閃輝暗点が起こり、顔見知りの薬剤師に相談。頭痛外来の受診を勧められ、「頭痛オンライン」の医療施設検索で会社の近くのクリニックを検索し、受診に至りました。診断の結果、片頭痛と緊張型頭痛の混在がみられ、トリプタン系製剤による薬物療法を開始。受診前より頭痛症状をコントロールできるようになり、仕事や家事への影響も軽減しました。

症例:36 歳、女性

主訴:頭痛

現病歴:10代の頃から頭痛持ちだったが、受診歴はなく、「市販の鎮痛薬を飲んで一晩寝る」といった自己流の対処法でやりすごしてきた。出産を経て職場復帰後、ズキンズキンと波打つような激しい頭痛(月3~4回)や、吐き気などの症状にも悩まされるようになった。症状は昼過ぎから起こることが多い。少し横になれば改善するが、軽い運動によって改善する場合と悪化する場合がある。パソコンの画面の光がまぶしく感じる、料理のにおいにむかつく、子供の声やテレビの音で頭痛が増悪するといった症状を伴うこと、頭痛の前兆として閃輝暗点の症状がみられることもある。症状がひどいときは、市販の鎮痛薬を増量してもコントロールできない状態であり、家事や仕事が手につかないこともある。
職場復帰後は、家事と仕事に追われ、慢性的な睡眠不足が続いている。子供のかかりつけの薬局の薬剤師の勧めで、当科を受診。

2.片頭痛の診断のポイント

頭痛の診断・治療は、国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)1)に基づいて、行われます。頭痛を訴える患者さんを診る場合には、患者さんの症状を確認しながら、必要に応じて検査を行い、緊急性の高い二次性頭痛を鑑別します。二次性頭痛の除外には、SNNOOP10リストを用いることも有効です。
一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別、SNNOOP10リストの各項目については、「頭痛の解説」をご参照ください。一次性頭痛の鑑別診断で最も重要になるのは「問診」です。頭痛がいつから始まったのか、どのくらいの頻度で起こるか、どのように痛むのかなど患者さんの頭痛症状を確認し、一次性頭痛を分類します。

【問診のポイント】

  • いつから始まったのか?
  • 頻度はどのくらいか?
  • 寝込むほどの痛みか?
  • 頭痛以外の症状はあるか?
  • 頭のどの部分が痛むか?
  • 週に何日痛み止めを飲んでいるのか?

など

片頭痛の鑑別においては、片頭痛の特徴を示すPOUNDing2)として表されるPulsating(拍動性)、duration of 4-72 hOurs(4~72 時間の持続)、Unilateral(片側性)、Nausea(悪心)、Disabling(生活支障度が高い)の5つの項目のうち、4つに該当すれば片頭痛の可能性が高いと考えられます。今回の症例の場合、ズキンズキンと脈打つような痛み(拍動性)、寝込むほどのひどい痛み(生活支障度が高い)や吐き気(悪心)を伴う場合もあり、POUNDingとしては3項目ですが、他に片頭痛を疑う症状があります。パソコンの画面の光がまぶしく感じる(光過敏)、料理のにおいが気になる(臭覚過敏)、テレビの音や子供の声が気になる(音過敏)、閃輝暗点などの前兆が認められることなどが挙げられます。さらに、しんどい、イライラする、肩こりがある、仕事に集中できない、睡眠不足といった臨床症状から総合的に判断し、片頭痛と診断されました(図1)。

また、この患者さんは、長時間のパソコン作業で肩こりがある、眼精疲労がある、身体を動かしても悪化しない頭痛があるなどの臨床所見があることから、片頭痛と緊張型頭痛の混在と診断されています。

日常生活に支障をきたす
(中等度以上)

  • ズキンズキンと脈打つような痛み
  • 片側性(両側性のこともあり)
  • 体を動かすと痛みが増す
  • ひどくなると寝込むほどの痛み

痛みの周期・頻度(Episodic)

同様の頭痛発作が過去に5回以上
月1回~週2回程度

持続時間

発作として現れ、
4〜72時間持続する

以下の症状を伴う場合がある

  • 光が気になる(光過敏)
  • 音が気になる(音過敏)
  • 臭いが気になる(臭覚過敏)
  • 悪心、嘔吐
  • 発作の予兆として肩こり
  • 閃輝暗点、視覚異常などの前兆

図1:片頭痛の症状や特徴

頭痛の診断や片頭痛の分類などについては、「頭痛の解説」で詳述していますので、そちらもご覧ください。

3.片頭痛の治療のポイント

治療ではまず、患者さんが何に一番困っており、どうなりたいのか確認します。「頭痛の回数を減らしたい」「寝込むような頭痛を抑えたい」というように、患者さんによって治療に期待することは異なりますので、個々の患者さんに合わせた治療計画を立てることが重要です。

今回の症例では、トリプタン系製剤を片頭痛発作が出始めたときに服用することで片頭痛の症状が軽減し、日常生活に支障をきたすことも少なくなりました。薬物療法以外では、頭痛の誘因を避けたり、睡眠不足などの生活習慣を見直すように指導するとともに、片頭痛症状がひどいときは、暗い部屋で安静にする、頭を冷やすといったセルフケアの方法についてアドバイスを行っています。また、頭痛ダイアリーの役割を説明し、記載をお願いしたところ、受診時に必ず持って来てくれるようなり、治療薬の効果判定などにも役立っています。

なお、トリプタン系製剤には以下の特徴がありますので、処方する際には、患者さんによく説明するようにしてください。

トリプタン系製剤の特徴と使用のポイント

  • 頭痛が始まってからできるだけ早く服用する
  • 前兆・予兆期の服用では効果は乏しい
  • 1錠で効果不十分な場合は追加投与する
    経口剤の追加投与は前回投与から2時間以上あける(ナラトリプタンの場合は4時間以上)
  • 即効性や持続時間などを考慮して薬剤を選択する

など

※使用にあたっては各製品の電子添文をご確認ください

また、トリプタン系製剤では、以下の点にも注意が必要です。患者さんは、一度聞いても忘れてしまうことがあるため、医師だけでなく、薬剤師などからも繰り返し伝えるようにしてください。

トリプタン系製剤の処方時の注意点

  • 頭痛が起こったときに使用する薬であり、片頭痛の発作の回数を減らしたり、発作が起こるのをおさえる薬ではないことを患者さんに伝えておく
  • 服用後に、自動車の運転や機械操作に従事させないよう注意喚起する
  • 決められた用法、用量を必ず守ることと、服薬のタイミングを指導する
  • 効果が不十分な場合には、1回の投与量の増加、トリプタン系製剤間での薬剤変更を考慮する
  • 妊娠の可能性、エストロゲンを含む経口避妊薬の服用について確認する
  • ノンレスポンダーと思われる症例でも、服薬タイミングを見直すことで改善する場合があることを知っておく

など

このお薬は、片頭痛の発作の回数を減らしたり、発作が起こるのをおさえる薬ではありません。

4.トリプタン系製剤の作用機序

トリプタン系製剤のことを、「『血管収縮剤』と説明された」という患者さんが多くいらっしゃいます。片頭痛の病態・メカニズムは確定していませんが、現在では頭痛発作の機序として、「三叉神経血管説」が広く支持されています。三叉神経血管説3-5)によると、片頭痛の発作は、外部からの刺激により三叉神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やサブスタンスPなどの炎症性の神経ペプチドが脳血管内に放出され、感覚神経の痛覚閾値の低下、硬膜周辺での血管拡張や血漿蛋白の漏出など神経原性炎症が起こります。三叉神経の刺激伝達により、末梢で血管拡張や神経原性炎症がより広い範囲に誘発され、痛みが増強すると考えられています。

片頭痛の急性期治療薬であるトリプタン系製剤は、片頭痛の発生には何らかの誘因でセロトニン(5-HT)が過剰に放出された後、急激に代謝されるとともに血管の異常拡張が起こることで拍動性頭痛が発現し、また血管壁に浮腫や透過性の変化も出現することにより持続性頭痛が発現するとの考えから、開発されました6)。5-HT受容体の中で、トリプタン系製剤は5-HT1B受容体および5-HT1D受容体に選択的に作用します。
頭蓋内血管にある5-HT1B受容体に作用することで拡張した血管を収縮し、三叉神経終末にある5-HT1D受容体に作用することで、刺激された三叉神経を鎮静化し、CGRPやサブスタンスPなどの神経ペプチドの放出を妨げ、血漿蛋白の漏出抑制、中枢での疼痛伝達を抑制し、片頭痛の急性発作を抑えると考えられています7,8)

一方、トリプタン系製剤は、すべて5-HT1B受容体作動薬であるため、虚血性心疾患や脳血管障害の既往がある患者さん、コントロールされていない高血圧症の患者さんなどには使用できません。2022年に5-HT1F受容体作動薬であるditan系製剤が日本でも発売され、これまでトリプタン系製剤を使用できなかった患者さんにも治療の選択肢が広がっています。

図2:ゾルミトリプタンの想定作用機序(参考9より作成)

図2:ゾルミトリプタンの想定作用機序(参考9より作成)

5.薬剤師・看護師の介入の意義とポイント

頭痛診療では、医師は丁寧な問診を心がけていますが、短い診察時間のなかで、患者さんの訴えをすべて聞くことができないのも現状です。また、患者さんの理解度に合わせて説明をしたつもりでも、専門用語や薬剤の注意点などは、一度を聞いただけで理解できる患者さんは少なく、なかには自分に都合のよいフレーズしか覚えていないという方もいらっしゃいます。

薬剤師は患者さんとの距離が近く、医師に話さないような悩み(治療への不安、副作用など気になる症状、生活するうえで困ることなど)を患者さんが薬剤師に訴えることもあります。市販の鎮痛薬で対処している患者さんから話を聞き、受診勧奨を行うなど、早いタイミングから介入の機会がありますので、積極的に頭痛診療の一翼を担っていただければと思います。

また、看護師にも、患者さんから聞いた情報を医師に伝えたり、患者さんが医師の説明を正しく理解できているか確認するなど、医師と患者さんの橋渡し的な存在としてコミュニケーションギャップを埋める役割を担っていただくことを期待しています。

薬剤師

薬局

薬局

  • 患者さんとの会話で「頭痛」というキーワードが出たら、日常生活への支障を確認し、主治医への相談や専門医への受診を促す。
  • 頭痛外来の紹介や近医の調べ方など、受診行動につながる具体的サポートを行う。
  • 患者さんの理解度に合わせて、薬剤の説明などを丁寧に行う。

病院

病院

  • 薬剤の飲み方や使い方について詳しく説明する。
  • トリプタン系製剤では、服用のタイミングや使用上の注意などを繰り返し説明するなど、患者さんが医師から受けた説明のフォローを行う。
  • 片頭痛予防治療薬(発症抑制薬)を処方されている患者さんには最低でも2ヶ月間は飲み続ける必要があることを指導する。

ドラッグストア

ドラッグストア

  • 鎮痛薬を大きな箱でいくつも購入する人や頻繁に購入する人に声をかけ、頭痛症状で頻繁に薬を服用しているようであれば、受診勧奨を行う。
  • 上記のような人に対し、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛,MOH)があることや、片頭痛に有効な薬があることなどを説明する。

看護師

  • 医師からの説明を患者さんが理解できてないと思われる場合は、再度説明したり、そうした状況を医師にフィードバックする。
  • 月経時の頭痛の有無、妊娠の可能性や女性特有の悩みなど、答えにくい質問について、症状の確認時に合わせて確認する。(患者さんも看護師も女性の場合)

図3:薬剤師や看護師の介入ポイントの例

薬局の薬剤師

今回の症例のように、他の疾患で薬局を訪れた患者さんとの会話の中や、健康相談などを行う際、「頭痛」というキーワードが出てきたら、日常生活への支障を確認するとともに、主治医への相談を勧めたり、専門医への受診を促すようにしてください。頭痛外来の紹介や近医の調べ方など、受診行動につながる具体的なサポートをしていただくことも重要です。

すでに治療を受けている患者さんには、患者さんの理解度に合わせて、薬剤の説明などを丁寧に行います。薬剤の説明を行う場合のポイントについては、「病棟の薬剤師」もご参照ください。

病棟の薬剤師

薬剤の飲み方や使い方について詳しく説明するほか、トリプタン系製剤では、服用のタイミングや使用上の注意などを繰り返し説明し、患者さんが医師から受けた説明のフォローをしていただければと思います。

片頭痛の治療では、患者さんの頭痛の程度や頻度などによって予防療法を行う場合があります。経口の片頭痛予防治療薬(発症抑制薬)を処方された患者さんのなかには、予防治療薬の意味や使い方を誤解している方が多く、1週間服用しただけで、「効かない」と中止してしまう方も多いため、最低でも2ヶ月間は飲み続ける必要があることを必ず指導してください。

ドラッグストアの薬剤師

鎮痛薬を大きな箱でいくつも購入する人や頻繁に購入する人に声をかけ、頭痛症状で頻繁に薬を服用しているようであれば、受診勧奨を行ってください。鎮痛薬の飲み過ぎを指摘すると、患者さんは「自分は大丈夫」ということがありますが、そうした場合は、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛,MOH)があること、片頭痛に有効な薬があることなどを説明して、かかりつけの医療機関や頭痛外来の受診を促しましょう。

外来の看護師

診察時間には限りがあり、医師が患者さんの訴えをすべて聞けない場合もあります。また、患者さんは医師の前では緊張していいたいことがいえないこともあるため、診察の前や後に看護師が丁寧に患者さんの話を聞いて、必要な情報を医師に橋渡ししてください。また、医師が伝えたつもりでも、患者さんが理解できていないことはよくあります。患者さんが理解できていないと思われる場合は、看護師から再度説明するなどフォローしたり、医師にフィードバックしていただけると助かります。

片頭痛は女性に多く、月経時の頭痛の有無、妊娠の可能性や女性特有の悩みなどは、男性の医師よりも同性の看護師のほうが打ち明けやすいといった声もよく聞きます。症状の確認時に、これらも合わせて確認するようにしてください。

6.頭痛ダイアリーの活用

頭痛ダイアリーの説明は、基本的に医師が行うため、看護師や薬剤師がかかわる機会は少ないかもしれませんが、患者さんから相談があった場合は、頭痛ダイアリーを一緒に見ながら、症状や生活上の困ったことを確認するなど、コミュニケーションツールとして活用していただければと思います。

特に薬剤師は、頭痛ダイアリーを見れば、急性期治療薬の使用・服薬状況、日常生活への支障度、処方薬に対する不安などを確認することができます。頭痛ダイアリーを使用していない患者さんに対しては、頭痛ダイアリーの役割を説明し、記入を促すなど、医師が説明しきれない部分のフォローをお願いします。

<参考>
  1. 1)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会:国際頭痛分類 第3版, 医学書院, 2018.
  2. 2)Detsky ME, et al: Does this patient with headache have a migraine or need neuroimaging? JAMA 2006; 296:1274-1283.
  3. 3)Moskowitz MA : The neurobiology of vascular head pain. Ann Neurol 1984;16:157-168.
  4. 4)Moskowitz MA : Neurogenic versus vascular mechanisms of sumatriptan and ergot alkaloids in migraine. Trends Pharmacol Sci 1992;13:307-311.
  5. 5)Moskowitz MA, et al. : Pain mechanisms underlying vascular headaches. Rev Neurol(Paris) 1989;145:181-193.
  6. 6)ゾーミッグ錠2.5mg インタビューフォーム, 2022年1月改訂(第16版)Ⅰ概要に関する項目 1 開発の経緯.
  7. 7)ゾーミッグ錠2.5mg 電子添文, 2021年12月改訂(第1版)18.薬効薬理 18.1 作用機序.
  8. 8)Goadsby PJ, et al: Migraine―current understanding and treatment. New England Journal of Medicine 2002; 346:257-270.
  9. 9)ゾーミッグ錠2.5mg インタビューフォーム, 2022年1月改訂(第16版)Ⅵ 薬効薬理に関する項目 2 薬理作用.