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副作用マネジメント

疼痛

Vol.10

がん薬物療法に関連する疼痛

市立芦屋病院 薬剤部長
岡本禎晃 先生

■ がん薬物療法に関連する疼痛

  • 痛みを引き起こすがん治療薬
  • 診断基準と治療アルゴリズム
  • CIPNの評価
  • CIPNによる休薬と治療再開
  • CIPNに対する対処法
  • 患者さんへの指導

岡本先生からのアドバイス

  • がん治療薬に起因する疼痛に対する傾聴のポイント

    • 1. NCCNガイドラインなどで痛みの副作用がある抗がん剤を把握しておく
    • 2. 抗がん剤ごとに、痛みの出現するメカニズムを理解しておく
    • 3. 抗がん剤ごとに、痛みの出現する好発時期を把握しておく
  • がん治療薬に起因する疼痛発現時の対処のポイント

    • 1. 痛みの程度と痛みによる苦痛の程度、生活の質に関することを聴取する
    • 2. 患者さんが薬剤を希望した場合、相互作用や全身状態を念頭に置いてNSAIDs又はアセトアミノフェン、鎮痛補助薬、オピオイドを選択する
    • 3. 投与した鎮痛薬の効果と副作用をモニタリングし、増量や変更、不要な場合には中止を主治医に提案する

痛みを引き起こすがん治療薬

がん患者における痛みは、がんによる痛みとがん治療による痛みに主に分類される1)。がん治療による痛みには、術後痛、放射線照射後疼痛、がん薬物療法に伴う末梢神経障害(CIPN)の症状のひとつである神経障害性疼痛などがある1,2)。以降では、CIPNとしての神経障害性疼痛を取り上げる。

CIPNの発現頻度は、対象疾患、使用薬剤、併用薬剤、薬剤使用量などによって様々であるが2)、大腸がん患者、乳がん患者、婦人科がん患者、多発性骨髄腫患者などを含む4,179例を対象とした追跡調査のメタ解析では、CIPN の頻度は化学療法終了後1ヵ月以内では68.1%、3ヵ月後では60.0%、6ヵ月後以降では30.0%であったと報告されている3)

CIPNを引き起こす主な薬剤は、タキサン系製剤、プラチナ製剤、アルキル化剤、ビンカアルカロイド系製剤、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬などが知られている2,4,5)

がん治療薬ごとに神経細胞の障害部位が異なることから、 CIPNの臨床的特徴は様々であるが、主に感覚障害が発現するとされる4-6)。しかし、運動神経や自律神経の障害が発現する場合もあり、これらによる日常生活への影響が認められる場合には、がん治療薬の投与量の変更や投与中止などを考慮する必要がある1,3,4)

【がん治療薬のクラス別のCIPNの想定メカニズムと臨床症状】4)

クラス 想定メカニズム 臨床症状 CIPNを引き起こす主な標的
プラチナ製剤 DNA付加体 glove and stocking型分布の対称的な痛みを伴う異常感覚またはしびれ、初期では寒冷の異痛症および痛覚過敏、後期では運動機能喪失、長期にわたる慢性感覚ニューロパチー 脊髄後根神経節
タキサン系製剤 微小管の重合阻害 glove and stocking型分布の対称的な痛みを伴う異常感覚またはしびれ、感覚喪失、高用量時の運動障害 脊髄後根神経節、軸索、末梢神経末端
ビンカアルカロイド系製剤 ミトコンドリアと小胞体の機能不全、微小管の重合阻害 対称性の痛みを伴う感覚運動性ニューロパチー: うずくような異常感覚、固有感覚喪失、反射消失、運動失調、便秘、筋力低下、歩行機能障害 脊髄後根神経節、末梢神経末端
プロテアソーム阻害薬 プロテアソーム複合体との結合、ミトコンドリア障害、微小管の重合阻害 痛みを伴う感覚ニューロパチー 脊髄後根神経節、末梢神経
免疫調節薬 血管新生阻害 対称性の異常感覚や遠位の異常感覚、痛みを伴う感覚ニューロパチー、筋痙攣 脊髄後根神経節、末梢神経末端
アルキル化剤 DNAへの共有結合 しびれや異常感覚から痛みまでの範囲 脊髄後根神経節

Eldridge S et al.: Toxicol Pathol. 2020; 48(1): 190-201. より改変

診断基準と治療アルゴリズム

CIPNはがん治療薬の使用歴や末梢神経障害の出現時期、臨床症状などから判断されるが、厳密な診断基準は確立していない2)

CIPNと腫瘍そのものにより生じる神経障害や放射線治療の晩期障害による神経障害との鑑別は、CTやMRIなどの画像検査や治療歴の確認によって行われる2)。また、必要に応じて、末梢神経障害をきたす糖尿病、尿毒症、膠原病(血管炎症候群を含む)、ビタミンB1欠乏、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、傍腫瘍性神経症候群などとの鑑別を行う2)。最近では、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象などとの鑑別も必要であり、患者さんごとのきめ細かい診療が望まれる2)

【CIPNの診断、治療アルゴリズム】2)

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CIPNの評価

CIPNの評価は、主に機能評価や電気生理学検査などの定量的評価と医療者評価や患者報告などの質問紙評価に分けられる2)。CIPNの主な病態である痛みやしびれ感は、手指機能の障害や歩行機能障害、さらに移動・食事・入浴などの日常生活活動(ADL)、家事や買い物などの手段的日常生活活動(IADL)の障害につながる2)

医療者評価には、有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版(CTCAE v5.0-JCOG)などが用いられ、Grade2ではIADLの障害、Grade3ではADLの障害によって判定される7)。一方で、CTCAEを用いたCIPNの評価では、医療者の評価と患者さんの自覚症状が乖離する場合があることが報告されており8)、 CIPNが軽度であればADL・IADLの障害も軽度であるとは断定できない点に注意が必要である2)。そのため、患者報告も重要であり、箸を使うなどの日本の生活を考慮したCIPNの評価尺度などの利用が有用な場合がある9)

【CIPNの判断に関わるCTCAEの項目】7)

CTCAE v5.0
Term 日本語
Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5
末梢性感覚
ニューロパチー
症状がない 中等度の症状;
身の回り以外の日常生活動作の制限
高度の症状;
身の回りの日常生活動作の制限
生命を脅かす;
緊急処置を要する
-
末梢性運動
ニューロパチー
症状がない;
臨床所見または検査所見のみ
中等度の症状;
身の回り以外の日常生活動作の制限
高度の症状;
身の回りの日常生活動作の制限
生命を脅かす;
緊急処置を要する
死亡

日本臨床腫瘍研究グループ, 有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版より引用、改変

CIPNによる休薬と治療再開

多くの化学療法の臨床試験では、Grade2のCIPNが認められる場合には減量、Grade3のCIPNが認められる場合には休止または中止を求めているが、実臨床では患者さんが重視する点などの価値観を傾聴して考慮し、CIPNの経過を予測したうえで化学療法の延期・減量・中止などの治療変更の検討が望まれる2,10)。なお、例えばオキサリプラチンでは、一度休薬し、ある一定のサイクル後に投与を再開するStop and Go方式の導入によって、がん治療成績を保ちつつ、CIPNの発現率低下につながることが報告されている11)

〈参考〉市立芦屋病院における治療経過観察時の心掛け

外来化学療法では、1週間から1ヵ月の経過を確認する必要がある。よって、できるだけ時間をかけてゆっくりと面談する。場合によっては、患者さんの考えを引き出すために、長時間の沈黙も必要になる。

患者さんへの指導

患者さんには日記やメモに痛みの場所や程度、薬の効果などを具体的に記載しておくことを勧めると良い14)。患者さんが医師に相談しにくい場合には、各診療科や病棟の看護師、薬剤師などに相談すること、外来で看護師に声をかけにくい場合には受付のスタッフに看護師に相談したいことを伝えてもらうことも有効である14)。また、調剤薬局で相談することも有効であると考える。

【痛みについてのメモの記載事項の例】15)

時期 痛みは1日中あるか、どんなときに痛いか、たいていはよくて時々急に痛くなるか など
場所 どこが痛いか、1ヵ所か広い範囲か、痛む場所はいつも同じか など
感じ方 鋭い痛みか鈍い痛みか、ビリビリ、ジンジン、ズキズキ、しびれた感じ、ヒリヒリ、キリキリ、締め付けられる感じ など
日常生活への影響 トイレやお風呂のときつらい、眠れない、食べられない、体が動かせなくて困る、座っているのもつらい、何も手に付かない など
痛みの程度 イメージできる最も強い痛みを「10点」、まったく痛みのない状態を「0点」とすると、今回の痛みは何点ぐらいか など
痛み止めの効果 効果が途中で切れる、全体に少し和らいだ、ほとんど効果を感じない など

〈参考〉市立芦屋病院における患者聴取の実践例

  1. 1. 外来化学療法の副作用の聴取は、その日のことではなく、前回の抗がん剤投与後から本日までの記憶や記録を確認する
  2. 2. 可能な場合、病院または製薬会社作成の経過記録用紙に副作用についての経過を記入してもらう
  3. 3. 必要に応じて電話フォローを行う

2024年3月更新

<参考資料>
1) 日本緩和医療学会 編,がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版,金原出版,2020.
2) 日本がんサポーティブケア学会 編,がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版,金原出版,2023.
3) Seretny M, et al. Pain. 2014; 155(12): 2461-2470.
4) Eldridge S, et al. Toxicol Pathol. 2020; 48(1): 190-201
5) Staff NP, et al. Ann Neurol. 2017; 81(6): 772-781.
6) Cavaletti G, et al. Curr Treat Options Neurol. 2011; 13(2): 180-190.
7) 日本臨床腫瘍研究グループ,有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版.
  JCOGホームページ http://www.jcog.jp/(2024年3月閲覧)
8) Nyrop KA, et al. Cancer. 2019; 125(17): 2945-2954.
9) Kanda K, et al. BMC Cancer. 2019; 19(1): 904.
10) Hertz DL et al.: Cancer Treat Rev. 2021; 99: 102241.
11) Tournigand C et al.: J Clin Oncol. 2006; 24(3): 394-400.
12) Loprinzi CL et al.: J Clin Oncol. 2020; 38: 3325-3348.
13) 日本ペインクリニック学会編, 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版,真興交易, 2016.
14) 日本緩和医療学会 編, 患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド増補版,金原出版, 2017.
15) 国立がん研究センターがん対策情報センター, がんになったら手にとるガイド 普及新版, 学研メディカル秀潤社, 2013.

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