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日常生活のアドバイス

間質性肺炎
間質性肺炎の早期発見のポイント
ケア
2023年3月更新

抗がん剤の治療中に起こる副作用にはさまざまなものがありますが、特に注意が必要な副作用として、間質性肺炎があります。間質性肺炎の初期症状は風邪と類似しているため、患者さんが気づきにくく、重症化するケースも少なくありません。ここでは、がん治療による間質性肺炎を早期に気づくためのポイントや治療方法、退院後の注意点などについてまとめています。患者さんへの指導にご活用ください。

関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座
主任教授
倉田 宝保先生

患者さんへの服薬・生活指導時に印刷してお使いいただけるPart1、患者さんと接する機会の多い医療従事者向けPart2をご用意しています。

Part1:患者さん・ご家族向け

がん治療で起こる間質性肺炎とは

肺の中には気管支の先に肺胞という空気の入った小さな袋があり、この肺胞を取り囲む組織を間質とよびます。間質性肺炎は、この間質が厚く硬くなり、うまく酸素を取り込むことができなくなった状態のことで、進行すると肺全体の機能が落ちて、血液中の酸素が不足し、呼吸不全に至ります。間質性肺炎はさまざまな原因によって肺胞の壁が炎症したり損傷して起こりますが、がんの治療でも起こることがあります。

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ドセタキセルやブレオマイシンのような従来から使用されている殺細胞性抗がん剤、ゲフィチニブやボルテゾミブなどの分子標的薬、ニボルマブやペムブロリズマブなどのがん免疫治療薬など多くの抗がん剤で副作用として間質性肺炎を起こす可能性があります。抗がん剤投与開始から間質性肺炎が発症するまでの期間はさまざまですが、多くは投与開始後2~3週間から、2~3ヶ月後に発症します。
これらの薬剤による治療を受けていても、かならず間質性肺炎になるわけではありません。また、抗がん剤以外にも市販薬や健康食品が原因で間質性肺炎が起こることもあります。主治医に間質性肺炎のリスクについて、しっかりと確認するようにしましょう。

間質性肺炎に気づくためのポイント

間質性肺炎は放置すると重症化するため、早期に気づくことと、少しでも疑いがあればすぐに医療機関に連絡をすることが重要です。間質性肺炎の代表的な症状として、「息切れ」、コホンコホンという「乾いた咳」、「発熱」などがあります。これらは風邪の症状とも似ているため、見逃してしまうこともあります。痰が絡むようなゴホンゴホンという咳ではなく乾いた咳が出る、少し歩いたり階段を上ると急に息切れがするようになった、ということがあれば、間質性肺炎の症状を疑います。

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またパルスオキシメータが身近にあれば、その値も参考になります。酸素飽和度が普段よりも落ちていれば、自覚症状がなくても医療機関に連絡を取りましょう。

※パルスオキシメータ:
皮膚を通して動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定する装置。
一般的に96~99%が標準値とされ、90%以下の場合は
十分な酸素を全身に送れなくなっている可能性がある。

間質性肺炎の治療と退院後の生活

抗がん剤の副作用として間質性肺炎が起こった場合は、原則として抗がん剤を中止し、入院のうえ治療を行います。一般的に治療には副腎皮質ホルモンの1つであるステロイド薬を用います。入院中に使用していたステロイド薬は、退院後も量を減らしながら継続しますが、この時期に再び間質性肺炎を発症することもあります。息切れや咳がまた悪化したと感じたら、すぐに医療機関に連絡するようにしましょう。
ステロイド薬服用中は免疫機能が落ちるため、細菌やウイルスに感染しやすくなります。手洗いやうがいなど、感染対策をしっかりと行うようにしましょう。
また、血糖値が上がって糖尿病が悪化したり、食欲が増加して食べすぎてしまうことがあるので、規則正しい食生活と、できる範囲で軽い運動を心がけるようにしましょう。

Part2:医療従事者向け

薬剤性間質性肺炎の原因となる薬剤について

薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるものを薬剤性肺障害といい、臨床病型として、特発性間質性肺炎、好酸球性肺炎、肺水腫、気管支喘息、血管炎などがあります。薬剤性肺障害の中で最も頻度が高いのが間質性肺炎で、薬剤性肺炎と薬剤性間質性肺炎はほぼ同義語として用いられています1)

間質性肺炎を起こす代表的な薬剤2-5)
薬効分類 薬剤名
アルキル化薬 シクロホスファミド、ブスルファン、ダカルバジン、テモゾロミド
代謝拮抗剤 5-FU、S-1、カペシタビン、メトトレキサート、シタラビン、ゲムシタビン、フルダラビン、ペメトレキセド
抗がん抗生物質 ブレオマイシン
微小管阻害薬 ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセル
トポイソメラーゼ阻害薬 イリノテカン、ドキソルビシン、アムルビシン
白金製剤 シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン
分子標的薬 ゲフィチニブ、エルロチニブ、ソラフェニブ、エベロリムス、テムシロリムス、ボルテゾミブ
免疫チェックポイント阻害薬 ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ

間質性肺炎の発現時期は薬剤によりさまざまですが、ゲムシタビンのように投与後数時間で発現するものもあるので、慎重に経過を観察します。特に分子標的薬については、間質性肺炎が多く報告されているので注意が必要です1)
また、日本人は欧米人や他のアジア人と比較して、重篤な薬剤性間質性肺炎を起こしやすいことが知られています6)

服薬・生活指導時における注意点

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間質性肺炎を起こしやすい抗がん剤が処方されている患者さんに、副作用のリスクを説明することは必要ですが、リスクを強調しすぎると、経口剤の場合は服薬コンプライアンスに影響を与える恐れがあります。息切れ、乾いた咳、発熱など間質性肺炎の初期症状を伝え、症状が現れたら、すぐに医療機関に連絡するよう説明しましょう。
また、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用の場合、免疫チェックポイント阻害薬のあとに分子標的薬が追加されると間質性肺炎のリスクが高くなることも報告されています7)。このようなケースでは、患者さんの薬剤の服用歴を確認し、気になる症状があれば処方元へ連絡するなど、連携体制を整えることが大切です。

間質性肺炎を見逃さないために

抗がん剤の投与を受けている患者さんで特に動作時の息切れが顕著な場合には、間質性肺炎を疑い、医療機関の受診とレントゲン撮影を勧奨します。動脈血酸素飽和度の測定も、間質性肺炎を見逃さないために有用です。
患者さん本人は症状を見逃してしまうこともあるので、ご家族など周りの方にも息切れや乾いた咳などに注意するように伝えておきましょう。

<参考文献>

  • 1) 日本呼吸器学会薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会編, 短縮版薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 2013.
  • 2) 西條康夫, 月刊薬事, 57(2):49-52(213-216), 2015.
  • 3) 斎藤好信, 月刊薬事, 57(2):53-57(217-221), 2015.
  • 4) 鈴木賢一 他 編, がん薬物療法の支持療法マニュアル 2013.
  • 5) 厚生労働省: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎(肺臓炎、胞隔炎、肺線維症), 平成18年11月(令和元年9月改定)
  • 6) 工藤翔二, 日本人にとっての薬剤性肺障害, 日本内科学会雑誌, 2006: 95: 1058-62.
  • 7) Schoenfeld AJ, et al : Severe immune-related adverse events are common with sequential PD-(L)1 blockade and osimertinib. Annals of Oncology 2019 ; 30(5):839-844.

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