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日常生活のアドバイス

末梢神経障害
末梢神経障害による「手足のしびれ・痛み」を和らげるためのセルフケア
ケア
2021年4月作成

抗がん剤治療中に使用する薬によっては、手先・足先のしびれや痛みをはじめ、便秘や排尿困難などさまざまな末梢神経障害の症状が現れます。症状が重くなると、原因となる抗がん剤の減量や中止、または変更が必要になることもあります。現在のところ抗がん剤による末梢神経障害に対して有効な予防法や治療法は確立されておらず、症状と上手に付き合いながら抗がん剤治療を続けることが大切です。そこで今回は、症状を和らげるためのケアや日常生活の対処法をご紹介します。

医療法人東札幌病院
血液腫瘍科部長
平山 泰生 先生
医療法人東札幌病院
副院長 看護部長 がん化学療法看護認定看護師
大串 祐美子 先生
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末梢神経障害の種類と主な症状

神経は中枢神経と末梢神経に分かれます。脳と脊髄をあわせて中枢神経と呼び、中枢神経から枝分かれしている神経が末梢神経です。末梢神経には、感じたことを脳に伝えるための感覚神経、手足を動かすための運動神経、内臓の働きなどに関係する自律神経が含まれています。

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抗がん剤の中には、神経の中の神経細胞体などにダメージを与え、末梢神経の働きに影響を及ぼすものがあります。これにより、手足のしびれや痛みなどの感覚障害や歩きづらいなどの運動障害、排尿困難や便秘などの自律神経障害などが起こることがあります。

末梢神経障害の症状
感覚障害 「手足がビリビリ、ジンジンする」「何かに触れただけで痛い」「味が強く感じる・薄く感じる」など症状は多岐に渡る
運動障害 「衣服のボタンがとめづらい」「文字が書きづらい」「うまく歩けなくなった」「階段がのぼりづらい」など
自律神経障害 「食欲がわかない」「尿が出にくい」「便秘になった」など。悪化すると腸閉塞を起こすことも

このような末梢神経障害が起こりやすい薬として、オキサリプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ビンクリスチンなどが知られています。

末梢神経障害の自覚症状は主に感覚や運動の症状から起こりますが、症状の現れ方は薬の種類や投与量によって異なり、同じ薬でも個人差があります。また、末梢神経障害は抗がん剤以外の薬が原因で起こることもあります。適切な処置を受けるために、症状を自覚したら早めに医師に相談しましょう。

発症時期と回復までの時間

末梢神経障害が現れやすい抗がん剤を使用すると、1〜2週間で指先に感覚の鈍りや、かすかな違和感が現れ、治療を繰り返すと徐々にしびれや痛みを感じるようになります。医師や看護師、薬剤師、ケースワーカーに相談しながら付き合い方を見つけていきましょう。末梢神経障害は、抗がん剤治療を終えると少しずつ改善し始めます。回復には2〜3年間と長い時間がかかることもあります。

治療・対処法

軽い痛みでおさまらず、徐々に症状が強くなることもあります。抗がん剤による末梢神経障害では、症状や痛みを和らげる薬を使うことがあります。
症状が悪化して日常生活で不都合を感じるようになった時点で、抗がん剤の減量や中止、または変更を検討することもあります。減量や中止によって症状は軽快しますが、抗がん剤治療の継続のためにも医師と相談しながら、自分に合った方法を慎重に探していきましょう。

急性末梢神経障害

神経障害の中でもまったく性質の違うものとして、オキサリプラチンの急性末梢神経障害があります。投与直後から2日以内で手や足などにしびれや痛みなどの症状が現れますが、2週間ほどで回復します。体を冷やしたり冷たいものに触れたりすること(寒冷刺激)により誘発されたり悪化するのが特徴なので、抗がん剤治療中は寒冷刺激を避けるようにしましょう。

予防と早期回復のポイントは運動習慣

抗がん剤治療を受ける場合、つい安静を心がけてしまいますが、末梢神経障害の予防や早期回復には、有酸素運動や筋肉トレーニングでの体づくりがおすすめです。無理は禁物ですが、医師と相談しながら普段から運動を心がけるとよいでしょう。

運動は、直接神経細胞体を保護したり、症状の回復を早めるだけでなく、心の安定など精神面にもよい影響があります。末梢神経障害は、精神的に落ち着いている人のほうが、症状が出にくいことがわかっています。

ケアと日常生活の対処法Q&A

症状を和らげたり、悪化させないケアと日常生活の対処法をご紹介します。

ケア1軽い運動

運動は血液循環をよくし、神経にプラスに働きかけます。抗がん剤治療をうけながら毎日30分運動するのはなかなか難しいでしょう。ストレスにならない範囲で行いましょう。軽い運動では、散歩やウォーキングもおすすめですが、自宅で毎日続けられるのはラジオ体操です。上肢、下肢の動きがあり、全身をバランスよく動かせます。立位でも座位でもでき、自分の体力や体調に合わせて行えます。

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ケア2お風呂でマッサージ

お風呂も血行をよくします。ぬるめのお湯につかり、手足をマッサージしましょう。ただし、抗がん剤治療によって皮膚が弱くなっている場合がありますので、強くこすらず、さするように行いましょう。手のひらや足の指を軽く開いて閉じるだけでもよいでしょう。

ケア3寒冷刺激を避ける

オキサリプラチンを投与している場合は、冷たいものに触れたり、冷たい飲み物や氷を飲んだりしないようにして、洗面や手洗いは冷水を避け、温水で行いましょう。エアコンなどの冷風を避け、床などひんやりするところに直接座らないようにしましょう。

Qしびれや痛みを和らげる方法は?

A温めると症状が和らぐことがあります。冬は帽子や耳あて、マフラー、手袋で防寒し、夏も靴下を使用しましょう。湯たんぽ、カイロ、ホットパックなどは血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを緩和しますが、知覚が鈍っている部位ではやけどに注意が必要です。一方、保冷剤などで冷やすことで、血管を収縮し痛みが和らぐこともあります。温めたり、冷やしたりを体験して、自分の心地よい方を選びましょう。

Q手がしびれてモノをつかみにくくなるときの対処法は?

A生活便利グッズを大いに活用しましょう。ペットボトルのふたはオープナーや滑り止めのマットを使うと開けやすくなります。包丁は、まな板で食材を固定するグッズを使ったり、幅広スライサーやピーラー、皮むきグローブなどで代用しましょう。

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Qやけど対策は?

Aしびれによって温度を感じる感覚が鈍くなり、触れているものが熱いことに気付かず、やけどをしてしまうことがあります。鍋ややかんなど調理器具をつかむときは、鍋つかみを使って直接触れないようにしましょう。湯飲みなどの食器もタオルを利用しましょう。
湯たんぽによる低温やけどにも注意が必要です。湯たんぽは低温で短時間使用にとどめましょう。

Q衣服の選び方は?

A着脱しやすい衣服を選びましょう。「ボタンがとめづらい」場合は、つかみやすい大きめのボタンやボタンホールが斜めになっているブラウスやカーディガンなどを活用してもよいでしょう。また、ボタンを面ファスナー(起毛面とループ面を押し付けて貼りつく布ファスナー)に変えると着替えがラクになることもあります。

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Q転倒予防でできることは?

A運動神経や感覚神経が鈍くなり、バランスを崩しやすいので、転びやすくなります。階段やちょっとした段差、すべりやすい敷物に注意し、つまずきやすいものは床に置かないなどの配慮も大切です。室内でも室外でもスリッパやつっかけ、夏用サンダルは転倒の原因になるのではかないようにしましょう。
靴は、開口部が広くて脱ぎはきしやすく、つま先部分が少し反りあがった、かかとがしっかりしているもので自分に合ったものを使用しましょう。転倒予防シューズもおすすめです。

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Q便秘解消の方法や便秘時の対処法は?

A水分摂取やおなかのマッサージ、適度な運動など無理のない範囲で行いましょう。また、排便時の姿勢も大切です。洋式トイレでの排便には前かがみの体勢が最適で、さらに足が地面にしっかり着いていないと力が十分に入りません。前かがみの体勢を保持できない場合は大きいクッションを抱いてみるとよいでしょう。便秘解消方法は、vol.02便秘における食事療法、vol.01便秘における運動療法をご参照ください。

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末梢神経障害は、早期発見・早期対策がとても重要です。症状を自覚したら、一人で抱え込まず、医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。

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