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- 骨髄抑制:ケア(vol.12)
抗がん剤の影響で、血液をつくる骨髄の機能が低下し、血液の生産が抑えられることにより、血液中の成分が減少する「血液の変化」がみられます。それを「骨髄抑制」と言います。骨髄抑制による症状や合併症により、治療を継続できなくなったり、命の危険につながる可能性があります。
骨髄抑制について日常生活の注意点や重症化の予防法について紹介します。
腫瘍センター長
薬師神 芳洋 先生
看護部 がん化学療法看護認定看護師
森 奈月 先生
骨髄抑制の種類
白血球数の減少
骨髄抑制でいちばん多くみられるのが白血球数の減少です。
白血球は身体に入ってきた異物(細菌やウイルスなど)を排除する役割を担っています。
白血球の数が減少すると、身体の抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなりますので、感染症の予防に努めましょう。
抗がん剤投与後1~2週間で最も数が減少し、その後1~2週間で回復します。
血小板数の減少
血小板は血管の破れた部分に集まり、血液を固めて血を止める役割を担っています。血小板の数が減少すると、出血しやすくなったり、血が止まりにくくなりますので、出血の予防・対策をしましょう。
抗がん剤投与後1週間から減少し、2〜3週間程度で回復します。
赤血球数の減少
赤血球は身体中に酸素を運び、二酸化炭素を持ち帰る役割を担っています。赤血球の数が減少すると貧血になりやすくなります。貧血時のふらつきなどの症状に備えましょう。
抗がん剤投与後2週間から緩やかに減少し、緩やかに(数週間で)回復します。
日常生活の注意点・セルフケア
血液の成分はそれぞれ異なる役割を担っているので、数が減少した際に現れる症状が異なります。どの血液の成分が減少しやすく、それによりどのような症状が現れやすいのか、何に気をつけるべきかを知っておくと適切な対処ができます。
白血球数が減少したときには感染症予防を!
- ・なるべく人混みは避け、外出するときは必ずマスクを着用しましょう。
帰ってきたら手洗い・うがいをし、感染症を予防しましょう。 - ・食後は⻭磨きをし、口腔内を清潔に保ちましょう。
- ・入浴・シャワーは毎日行い、身体を清潔にしましょう。
- ・ひげそりは皮膚を傷つけないように気をつけましょう。
T字カミソリよりも電気シェーバーを使う方が皮膚を傷つけにくいと考えられています。 - ・生もの(お刺身など)を控えることもあるので、主治医に相談しましょう。
- ・風邪症状や胃腸炎などで医療機関を受診する場合は、受診前に必ず主治医に相談しましょう。
- ・38度以上の発熱があるけれど、熱が出たときに服用する薬が処方されていない
- ・38度以上の発熱があり、抗生物質を服用して3日たっても熱が下がらない
- ・帯状疱疹の症状(チクチク・ひりひりを感じる発疹や水疱)
- ・咳が続く
- ・息苦しい
血小板数が減少したときには出血の予防を!
- ・⻭を磨くときは柔らかい⻭ブラシを使い、口腔内の出血に気をつけましょう。
- ・入浴の際、身体を洗うときはなるべく固いタオルの使用は避け、皮膚を強くこすらないようにしましょう。
- ・ひげそりは電気シェーバーを使う方が皮膚を傷つけにくいと考えられています。
- ・排便時に強くいきまないようにし、傷をつくらないように気をつけましょう。
- ・保湿クリーム・ローションを使用し、皮膚の保湿を心掛けましょう。
- ・爪は短めに切りそろえ、ひっかき傷をつくらないように気をつけましょう。
(深爪をしないように気をつけてください。) - ・鼻を強くかむと出血する場合があるので気をつけましょう。
- ・擦り傷や切り傷による出血の場合
水道水でよく洗い、血が止まるまで押さえます。 - ・鼻からの出血の場合
目の下あたりの鼻柱の左右を親指と人差し指で挟んで圧迫し、下を向いて血を止めましょう。
上を向いて止めようとすると、血がのどに下りてきて、息苦しさが出ることがあります。
赤血球数が減少したときには貧血予防と転倒に注意を!
- ・食事がとれるようなら栄養バランスの良い食事をとりましょう。良質のタンパク質(肉・魚・卵・乳製品・大豆製品など)を含む食材をとるようにしましょう。
ただし、お刺身や乳製品などの生ものは控えることもありますので、主治医に確認しましょう。 - ・身体を温めると血流が良くなり、貧血の症状が軽減される場合があります。
- ・貧血のふらつきでけがをしないように、床に物を置かないようにしましょう。
スリッパや靴下、ラグ、マットなどにより転倒することもありますので、素足で過ごすなど工夫して生活しましょう。
インフルエンザ流行時期の注意点
患者さんがインフルエンザに感染すると、治療を休んだり、治療計画が変更になる可能性があります。患者さんだけでなく、ご家族も感染しないよう、家族ぐるみでインフルエンザを予防しましょう。
インフルエンザ患者の咳やくしゃみなどでウイルスが飛散し、感染します。ご家族の方も予防接種を受け、外出時はマスクを着用し、手洗い(アルコール消毒)やうがいで予防し、感染しないよう気をつけましょう。
万が一、ご家族の方がインフルエンザに感染した場合は、患者さんにうつらないように注意してください。
患者さんも予防接種を行うことを推奨しますが、治療開始までの期間や受ける治療、ご自身の体調にも関係しますので、接種を希望される方は、必ず主治医に相談してください。
抗がん剤治療中の患者さんへ
抗がん剤治療中の患者さんの多くが、だるい、吐き気がする、何もしたくなくなるといった症状を経験します。そんな時は無理をしないで、できることをする」、「食べたいものを食べる」といった過ごし方をすすめています。必要以上に日常生活を制限する必要はなく、自分の体調を考慮しながら、自然体で過ごすことをおすすめします。
身体がつらい時は、休んだり、手抜きをしたり、または家族やまわりの人にSOSを出すのも良いと思います。働きながら治療する人は、可能であれば、職場の信頼できる人に病状や考えられるリスクを話し、サポートしてもらえる体制をつくっておくと心強いですね。
私たち医療スタッフは患者さんに適した治療やケアを行いたいと思っています。可能であれば何でも言っていただきたいですが、特に具合の悪いときは我慢や遠慮したりせずに、今つらいと感じていること、ご自分の様子や状態を教えてほしいと考えています。なるべく詳しく伝えていただくと治療やケアの効果も上がりやすいものです。逆に、「弱音を吐きたくない」と我慢されると、症状が正確に把握しづらく、治療方針をたてにくくなる場合もあります。
がん治療は時間もかかりますし、治療以外のことに悩んだり、いろいろ解決しなくてはならない問題が出てきて、患者さんにもご家族の方にも多くの負担がかかると思います。病院では社会福祉の立場から、患者さんやご家族をサポートする医療ソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士等)のような治療以外のサポートをする専門職がいる施設もあります。さまざまなプロフェッショナルがチームを組んでいますので、治療以外のことでも何か困ったことがあれば、気軽に相談してください。患者さんもご家族の方も頑張りすぎず、サポートを活用しながら、できる限り心穏やかに過ごせるようにしていただきたいと思っています。