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地域医療の実現のために

多職種チームによる心臓リハビリテーション<前編>
〜遠隔心臓リハビリテーションがもつ可能性〜

榊原記念病院心臓リハビリテーション室

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  • 中山 敦子 先生 坂本 純子 先生 石井 典子 先生
    公益財団法人 榊原記念財団 附属 榊原記念病院
    循環器内科 部長、心臓リハビリテーション室 室長、
    心臓病総合支援センター センター長 
    中山 敦子 先生 (写真・中央)
    リハビリテーション科 
    坂本 純子 先生 (写真・右)
    看護部 師長 
    石井 典子 先生 (写真・左)

心臓リハビリテーション(以下、心リハ)とは、心臓病患者さんのより良い社会復帰を目指し、患者さんが体力を回復して自信を取り戻すとともに、心臓病の再発や重症化・再入院を予防するために行われる包括的な治療プログラムである。 循環器専門病院である榊原記念病院(東京都府中市)では、心臓病患者さんのニーズ・困りごと等に対応すべく、心リハが1988年に保険適用となる以前から全国に先駆けて取り組みを開始し、多職種で構成された心リハチームによって患者さんをさまざまな場面で支援してきた。 今回、心リハの新たな形である遠隔心臓リハビリテーション(以下、遠隔心リハ)と、2022年度より保険適用となった心臓病両立支援(就労支援)を中心に、同院心臓リハビリテーション室・医師の中山敦子先生、理学療法士の坂本純子先生、看護師の石井典子先生にお話を伺った。 前編では主に遠隔心リハの実際や可能性、課題についてお送りする。

01多職種連携と共通の知識が可能にする質の高い心リハ

中山先生:榊原記念病院(以下、当院)の心リハは、1979年に心筋梗塞後の患者さんを対象に開始したのが最初です。その後、1982年には退院後の患者さん向けに外来心リハ室を開設しており、外来心リハにおいて40年以上の歴史があります。開設したのは外科の医師で、当時は多職種連携の概念もほとんどない時代でしたが、まず理学療法士と看護師がスタッフに加わり、徐々に職種が増えていきました。現在のスタッフは、医師・理学療法士・看護師・公認心理師・管理栄養士・社会福祉士・医療事務で、最近になって作業療法士も加わりました。各職種が専門性を発揮しながら1つのチームとして連携することで、運動療法にとどまらない包括的な心リハを提供しています。なお、今後は薬剤師も病棟だけでなく外来でも関わるようにしていく予定です。
このように、心リハの実践には多職種によるチーム医療が必要となりますが、日本心臓リハビリテーション学会が2000年に発足させた「心臓リハビリテーション指導士」(以下、心リハ指導士)という医師・看護師・理学療法士などの多職種を対象とした認定制度は、心リハの知識の普及と質の向上に大きく貢献していると思います。認定を受けるためには運動生理学の理解が必須であり、心リハの実地で登場する心肺機能検査や運動処方箋などの意味が分かるようになるからです。

石井先生:私は友人と一緒に第1回の認定試験を受験して認定を受けました。もともとは循環器のICU看護師でしたが、新しく認定制度ができたことが心リハに興味をもつ良いきっかけになりました。この制度では、心リハに必要な基本的な知識を看護領域に限らず学ぶことができ、運動・栄養・心理などの面で他職種が行う心リハについての理解も深まるので、多職種チームのなかで看護師として提供する心リハの質が上がると思います。また、認定を受けた者同士であれば、お互いの職種が異なっても共通の知識・用語で話して理解し合えるのも大きなメリットです。

坂本先生:認定制度が発足した頃、私は学生として理学療法を学んでいる最中でした。当時は、心臓病患者さんに理学療法士がリハビリテーション(以下、リハビリ)を行うこと自体がまだ珍しく、学校で学ぶリハビリも整形外科疾患や中枢神経疾患が中心で、循環器疾患についてはほとんどありませんでした。そのようななかで理学療法士になった私には心リハの知識がそもそもなかったため、まず基本を学ぶうえで心リハ指導士認定制度の存在は大きかったです。理学療法士3年目のときに認定を受け、以来ずっと心リハに従事していますが、心リハ指導士であることでより専門性の高い心リハを提供できていると思います。

中山先生:関連する資格として「心不全療養指導士」もあります。これは、日本循環器学会と日本心不全学会が2021年に開始した認定制度で、あらゆる循環器疾患の終末像である心不全の増悪・再入院を予防し、患者さんのQOLを改善することを目指して、多職種が取得できる資格です。心リハ指導士が運動を中心としているのに対し、心不全療養指導士は食事・睡眠・メンタルなども含めた生活全般を扱っており取得者には看護師が多いです。

坂本先生:私は心不全療養指導士も取得しました。内容としては心リハ指導士と重複する部分もありますが、理学療法士として仕事をしているなかでは意識が及びにくい患者さんの生活について学ぶ良い機会になりました。

中山 敦子 先生

中山 敦子 先生

02専用アプリとテレナーシングで行う新しい遠隔心リハ

中山先生:当院では、すべての患者さんに入院の翌日から心リハを行っています。一方、退院後に週1〜3回外来に通って行う心リハの一般的な実施状況をみると、欧州では半数以上の患者さんが行っているのに対し、日本では9割以上の方が行っていません1)。これには、自宅が遠方で通院が難しい、忙しくて時間がとれない、送迎で家族に迷惑をかけたくない、医療者からの情報提供不足もあって外来心リハをよく知らない等のほか、自分が運動する姿を他人に見られたくないという日本人の国民性とでも言うような理由もあるように思われます。このような背景のもと、“患者さんが自宅で安全に行う心リハ”として遠隔心リハの取り組みを進めました。
一口に「遠隔心リハ」と言っても広義から狭義までさまざまなものがありますが、当院で行っているのは、スマホアプリとApple Watchなどのウェアラブルデバイスを用いる非双方向性・非リアルタイムの遠隔心リハで、患者さんの日々の生体情報を当院に自動転送し、その情報を私たちが通常2週間ごとにチェックして患者さんには電話で生活指導などを行う(テレナーシング)というものです(図1)。もともと、私が前職の大学病院で看護師とともに重症心不全患者さんに同様の遠隔心リハを実施したところ再入院がゼロになった実績があり3)、2021年に当院に赴任した後はコロナ禍も相まって一気に取り組みが進みました。2025年現在、遠隔心リハ用のアプリは私たちが開発したもの以外にも多数登場してきています。

図1 榊原記念病院における遠隔心リハの方法
図1榊原記念病院における遠隔心リハの方法

(文献2より転載)

03当院における遠隔心リハ実施の流れと各職種の役割

中山先生:患者さんにとって利便性の高い遠隔心リハですが、すべての患者さんで実施できるわけではありません。心リハ中の安全性を考慮し、まずは医師の診察でリスク評価を十分に行う必要があり、例えば、非常に重症である、精神状態が安定しない、電話で指示が受けられそうにないなどの患者さんには従来の外来心リハをお願いすることになります。安全面の確認ができ、かつ患者さん本人の同意も得られた場合にのみ遠隔心リハの導入となります。

石井先生:看護師は、医師からの導入依頼を受けて後日患者さんに直接対面し、遠隔心リハのプログラムやアプリ・機器の使い方などについて詳しい説明を行います。説明資料自体は医師の診察後に予め渡してあるので、アプリや機器の説明は患者さんによってはほとんど不要なこともあります。80代半ばの方で使いこなせるようになるまで少し時間がかかった例はありましたが、アプリ自体はシンプルで分かりやすい設計なので、高齢患者さんでも大きな問題はなく使ってもらえていると思います。そして、2週間に1回の電話の際に私たちが患者さんに聞く内容について説明し、通常の外来心リハと同様の生活指導を行います。

坂本先生:看護師からの説明・指導の後、理学療法士も患者さんと対面し、実際に患者さんの運動を確認します。遠隔心リハで最も避けたいのは、私たちが見ていないところで患者さんが運動をしすぎたり・しなさすぎたりすることで病状が悪化してしまう事態なので、運動中の脈拍を見ながらその方にとっての適切な運動の範囲を重点的に指導します。同時に、現状の身体機能も評価し、通常3カ月間のプログラム終了時に比較することで改善を見える化できるようにしておきます。

坂本 純子 先生

坂本 純子 先生

石井先生:プログラム期間中は隔週でテレナーシングを行います。まずは、疾患管理ができているか、病状に何か異変が生じていないかを確認するため、受診や服薬の状況、むくみ等の自覚症状の有無、起床時の血圧・体重などを聞いていきます。その後で、日々の運動について、当院に転送されている患者さんのデータを見ながらフィードバックしています。そして、プログラム終了時には再び患者さんと対面して総括を行います。

中山先生:つまり、“遠隔”心リハとは言うものの、完全に遠隔ではなくて、プログラムの最初と最後は対面で、その間には受診もあるので、正確には対面とハイブリッドの遠隔心リハです。また、プログラムの要であるテレナーシングでは、患者さんの声しか聞こえないなかで健康状態を適切に把握していかなければならないため、実施には一定の技術と経験が必要です。

石井先生:そのため、当院ではテレナーシング実施者(テレナース)の条件を、心リハ指導士あるいは心不全療養指導士の認定を受けていること、および外来心リハでの実務経験が1年以上あることと定めています。外来心リハの経験があると、患者さんが電話口で言っている内容の想像がある程度つくので必要な確認ができます。例えば、患者さんが「胸が痛い」と訴えた際に、その方の基礎疾患と治療経過から痛みの原因を推測でき、どのような痛みかを患者さんに確認して、問題の有無を説明することができます。また、「この痛みはいつまで続くのか」といった退院後ならではの患者さんからの質問についても外来で経験済みなのでスムーズに対応が可能です。

中山先生:もちろん、問題がありそうな場合は、週に1回行っている多職種カンファレンスで相談してチームで対応を話し合い、患者さんに受診をお願いすることもあります。テレナーシングのみですべてに対応するわけではありません。

石井 典子 先生

石井 典子 先生

04遠隔心リハでみえてきたさまざまな可能性

中山先生:患者さんの側からすると、医療者に毎日の生体情報を見られ、定期的に電話もかかってくる遠隔心リハは、適度な緊張感と安心感があるらしく、患者さんの性格によっては外来心リハよりもリハビリとして適していると思われます。また、電話による一対一のコミュニケーションが親密性を高めるという効果もみられており、外来心リハでは周りに他人がたくさんいて、医療者も忙しそうに働いているなかで相談しにくいことも、遠隔心リハのテレナーシングであれば相談しやすくなるようです。退院後の回復期というリスクのある時期に隔週で医療者に相談できるのは患者さんの安心につながると考えられ、実際に、うつ病の評価尺度であるPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)の改善率が、外来心リハより遠隔心リハの患者さんで高くなったという報告があります4)。運動を実施する際の安全面だけで言えば外来心リハのほうが良いのですが、生活のなかでの運動頻度やメンタルマネジメントなどを考えると遠隔心リハのほうが適しているのかもしれません。また、外来心リハでは一般的に3割の患者さんが途中でドロップアウトしてしまう5)のに対し、遠隔心リハでは患者さんが電話に出る限りは確実にフォローアップが可能な点も大きな違いだと言えます。
医療者としても、IT技術の進歩によって、今までは知り得なかった患者さんの日常生活における健康状態が分かる時代になり、医療のあり方自体が変わってきたと感じます。なお、当院の遠隔心リハシステムは、2024年度のJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)「STI for SDGs」アワードにおいて文部科学大臣賞を受賞しました。受賞理由は、さまざまな要因で通院が困難な患者さんへの心リハを在宅で実現した点に加え、テレナースに対しても在宅勤務の可能性を示し、医療者の働き方改革や離職防止につながるという点でした。私たちの取り組みが、患者さんはもちろん医療者にとってもメリットがある将来性の高い方法として評価されたことを大変嬉しく思っています。

*「STI for SDGs」アワード:STI(科学技術・イノベーション)を用いて社会課題を解決する日本発の優れた取り組みを表彰し、取り組みのさらなる発展や他地域への水平展開を進めることで、SDGsへの貢献を目指している。

05遠隔心リハを今後広めていくうえでの課題

中山先生:これから遠隔心リハの普及を目指すにあたり、取り組まなければならない大きな課題がいくつかあります。一つは保険適用の問題です。現状、遠隔心リハの“遠隔”指導のなかで保険算定が可能なのは管理栄養士による栄養指導(リモート栄養指導、オンライン栄養指導)だけで、その他は、プログラムの最初に看護師が対面で行う生活指導の部分が、2024年度の診療報酬改定で一部の患者さんに対して算定できるようになったのみなのです。

石井先生:算定の条件が、慢性心不全の患者さんで1年以内に再入院した場合の退院直後と限定されているので、今後少しずつ拡大していけばと思います。

中山先生:保険適用の範囲が拡大されれば、遠隔心リハに取り組もうという医療機関も増えてくるはずです。当院のように遠隔心リハをすでに実施しているチームが現場で培ったノウハウを全国に広く共有する仕組みをつくっていく必要もあり、それも今後の課題です。

中山先生 坂本先生 石井先生

中山先生:もう一つの重要な課題として、遠隔心リハ中に事故が起こった場合の法的な責任の所在があります。これは、リアルタイムに双方向で行う遠隔心リハで特に問題となりますが、画面の向こうで運動していた患者さんに有害事象が発生してしまった場合に、その責任は医療者にあるのか、使用した機器のメーカーにあるのか、あるいは回線環境が良くなかったのだとしたらインターネット業者にあるのかなどについて、どのように考えるべきかという法整備がまだできておらず、日本だけでなく世界中で曖昧な状態です。先に保険適用の問題を挙げましたが、遠隔心リハを保険医療として行うとなった場合にこの点はより難しい問題だと思われます。しかし、心臓ペースメーカーを使用する患者さんの指導管理では遠隔モニタリング加算がすでに行われており、遠隔心リハについても将来的には保険収載されると考えられますので、今後しっかりと検討していかなければなりません。

<参考文献>

  • 1)後藤葉一:わが国における心臓リハビリテーションの現状と将来展望.日本冠疾患学会雑誌,21:58‒66,2015
  • 2)「榊原記念病院の患者支援と地域医療連携〜心臓病を予防し、 心臓病の人が活き活きと生活する社会を目指して〜」,p62,榊原記念病院,2023
  • 3)Nakayama A, et al:Remote cardiac rehabilitation is a good alternative of outpatient cardiac rehabilitation in the COVID-19 era. Environ Health Prev Med, 25:48, 2020
  • 4)Kanaoka K, et al:Multifactorial Effects of Outpatient Cardiac Rehabilitation in Patients with Heart Failure: A Nationwide Retrospective Cohort Study. Eur J Prev Cardiol, 30:442–450, 2023
  • 5)Nakayama A, et al:The use of geographical analysis in assessing the impact of patients' home addresses on their participation in outpatient cardiac rehabilitation: a prospective cohort study. Environ Health Prev Med, 25:76, 2020

(開催日:2025年8月6日 開催場所:東京都府中市)

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