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副作用マネジメント

眼障害

Vol.11

眼障害

独立行政法人 国立病院機構 東京病院 薬剤部 製剤主任
植木大介 先生

■ 眼障害

  • 抗がん剤による眼障害 これまでの経緯
  • 眼障害の主な種類(部位別)
  • 眼障害を引き起こす主な薬剤
  • 患者さんの訴えに基づく対処法フロー
  • 診察・検査
  • 鑑別診断
  • 評価
  • 対応・治療
  • 早期発見と重症化予防:医療側の留意点

植木先生からのアドバイス

  • 眼障害について、患者さんに伝えるポイント

    • 抗がん剤による副作用として眼症状、眼疾患が現れる可能性があることを理解している患者さんは少ないことを念頭に入れて服薬指導に当たることが肝要。
      副作用について説明する際は、患者さんが想像しやすい具体的な言葉、表現を用いることを心掛ける。(涙が出やすくなることがある、まぶしく見えることがある、など)
  • 眼障害に対応する際のポイント

    • 既往歴に眼疾患がないことをカルテ、問診により治療開始前に確認する。(抗がん剤開始に伴う副作用かの鑑別として重要)
      併用薬として点眼薬を用いていないかをお薬手帳などを通して確認する。(見落とされやすい)

抗がん剤による眼障害 これまでの経緯

抗がん剤治療における眼の副作用(眼障害)はあまり知られていなかったが、2007年頃にテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬による涙道障害や角膜障害が注目を浴び、認知されるようになった1)。また分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場してからは、新規機序に起因する眼科領域の副作用が発現するようになった1,2)

眼障害は、致死的な副作用ではないと考えられている3)。それゆえに医療者間での認知度が上がらず、軽視・見逃されがちである。しかし、眼障害は患者さんのQOLを大きく低下させる副作用であるため、認知度向上とともに早期発見・早期対応に努めなければならない1,3)

眼障害の主な種類(部位別)4-7)

眼障害は、眼の構造および前眼部・外眼部/後眼部の障害で分けて考えると、理解が深まる4,5)

4-7)より作成

複数部位が原因となりうる疾患・症状4,7)

眼痛、視力低下、視野狭窄/欠損、羞明、眼脂、霧視 など

眼障害を引き起こす主な薬剤

抗がん剤の中には、電子添文の「重要な基本的注意」や「重大な副作用」等に眼障害に関する記載のある薬剤がある。眼障害を認めた場合には眼科専門医にコンサルトし、適宜抗がん剤の休薬・減量・中止を検討する。

【主な眼障害と処置、原因として考えられる抗がん剤群】3)

眼障害 処置 原因として考えられる抗がん剤群
涙道通過障害 人工涙液によるwash out、涙管チューブ留置 フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬、タキサン系微小管阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬など
結膜炎 人工涙液、副腎皮質ステロイド薬(点眼) ピリミジン拮抗薬、チロシンキナーゼ阻害薬、アントラサイクリン系抗菌薬、タキサン系微小管阻害薬、BRAF阻害薬など
角膜障害 眼障害に使用される点眼薬 フッ化ピリミジン系代謝拮抗薬、VEGFR阻害薬、EGFR阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬など
ぶどう膜炎 副腎皮質ステロイド薬(点眼、局所注射、内服) BRAF阻害薬、MEK阻害薬、CTLA-4抗体、PD-1抗体、PD-L1抗体など
視神経障害 NSAIDs、ステロイドパルス療法 タキサン系微小管阻害薬、抗エストロゲン薬、ALK阻害薬など
網膜障害(黄斑含む) 抗VEGF療法(眼内注射)、アセタゾラミド内服 BRAF阻害薬、MEK阻害薬、チロシンキナーゼ阻害薬、タキサン系微小管阻害薬、CTLA-4抗体、アントラサイクリン系抗菌薬、プラチナ製剤など
睫毛の異常(乱生化・長生化) 睫毛ブローや抜去、眼障害に使用される点眼薬 EGFR阻害薬、FGFR阻害薬など

吉村知哲 他 監修, がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版, 医学書院, 2024.

患者さんの訴えに基づく対処法フロー

抗がん剤治療中に、以下のような訴えを見聞きしたときは、眼科へコンサルトする3,4)

  • 患者さんの副作用聴取時に眼障害が漏れないように問診票に「眼に関する項目」を記載
  • 問診票の「眼に関する項目」にチェックが入った場合は下記患者の訴えなどを参考に、より詳細に内容を聴取する
  • 聴取した内容(症状、部位、発現時期など)より、重症度を評価する(後述の評価の項目も要参照)

眼障害に関する患者の訴え(例)3)

  • 涙が止まらない、頻繁に目を拭いている(流涙)
  • 目やにが多くなる、起床時に目やにで目が開かない(眼脂)
  • 目が乾く(ドライアイ)
  • ゴロゴロする(異物感)
  • 目が痛い(眼痛)
  • 目がかゆい
  • 充血している
  • 物が見えにくい(視力低下・視野狭窄)
  • かすんで見える(霧視)
  • 物が二重に見える(複視)
  • 物が歪んで見える(変視症)
  • 物が小さく見える(小視症)
  • 異常にまぶしさを感じる、家の中でもサングラスをかけている(羞明)
  • 目を閉じていても目の端に光が走るのを感じる(光視症)
  • 小さな糸くずや蚊のようなものが視える、浮遊物が飛んでいる(飛蚊症)
  • 睫毛が不揃いになる(睫毛乱生化)
  • 睫毛が異常に長くなる(睫毛長生化)

吉村知哲 他 監修, がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版, 医学書院, 2024.

眼科にコンサルト:診察・検査、鑑別診断、評価
必要に応じた対応・治療
(抗がん剤の減量、休薬含む)

診察・検査

問診などの診察はもちろん、視力、眼圧、眼底検査をはじめとした検査で鑑別疾患・病態を絞る3)

【問診】3)

  具体例 問診の意図
発症様式 いつから眼障害が出ているか?
その時期から使用し始めた薬剤はあるか?
薬剤性眼障害の可能性
抗がん剤を開始してから眼症状が発現したか? 抗がん剤によるものか
寛解・増悪因子 抗がん剤を休薬すると眼症状は治まるか? 増悪因子:抗がん剤
糖尿病を併発しているか(血糖値は安定しているか)? 糖尿病性網膜症の可能性(増悪因子:高血糖持続)
季節による変化か? 増悪因子:花粉症などのアレルギー
年齢による変化か? 老眼や加齢に伴う眼疾患(加齢白内障など)の可能性
性質、量 涙が止まらない症状があるか?
頻繁に目を拭くことがあるか?
涙道狭窄・閉塞、結膜炎、角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍による流涙か
目やにはあるか(または多いか)?
起床時に目やにで眼が開かないことがあるか?
涙道閉塞、結膜炎による眼脂か
ゴロゴロするといった異物感や違和感があるか? 結膜炎、角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍による症状か
目がかゆいか? 結膜炎による症状か
目が痛いか? 角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍、ぶどう膜炎、球後視神経炎による眼痛か
目が充血しているか? 結膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、ぶどう膜炎による充血か(ただし、抗がん剤による角膜障害は結膜充血がないのが特徴とされている)
異常にまぶしいと感じるか? 角膜炎、角膜びらん、ぶどう膜炎、白内障による羞明か
色が違って見えるか? 球後視神経炎、白内障による色覚障害か
場所、広がり 物が見えにくいか?
かすんで見えるか?
涙道閉塞、角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍、ぶどう膜炎、網膜剥離、網膜静脈閉塞症、黄斑浮腫、球後視神経炎、白内障による視力低下または視野狭窄、霧視か
見ようとするところだけ見えないことがあるか? 黄斑浮腫、球後視神経炎による中心暗点か
物が歪んで見えるか? 黄斑浮腫による変視症か
物が二重に見えるか? 白内障による複視か
小さな糸くずや蚊のような物が見えるか?
浮遊物が飛んでいるように見えるか?
ぶどう膜炎による飛蚊症か
強さ、随伴症状 該当項目なし
時間経過、日内変動 眼症状は継続しているか? 抗がん剤によるものか
流涙症状は1日中続いているか(寝ているときは軽快するか)? 抗がん剤による流涙では24時間続くが、ドライアイや睫毛反応性による場合は目を閉じている間は症状がない

吉村知哲 他 監修, がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版, 医学書院, 2024.

【検査】3, 7)

検査 目的
視力検査 視力低下の有無を確認
眼圧検査 高眼圧がリスク因子である緑内障などの可能性を調べる
細隙灯顕微鏡検査のイメージ細隙灯顕微鏡検査
(眼症状全般の確認)
眼瞼、結膜、角膜、強膜、前房、虹彩、水晶体、前部硝子体の観察などのほか、生体染色を用いて観察することで涙液の状態や角膜上皮・結膜上皮の状態などを詳細に診察できる
主に眼科医が行う診察行為
眼底検査のイメージ眼底検査
(後眼部の確認)
網膜や視神経などからなる眼底を診察
細隙灯顕微鏡検査と併せて行われることが多い
蛍光眼底造影検査のイメージ蛍光眼底造影検査
(後眼部の確認)
造影剤を用いて眼底を撮影。網脈絡膜の機能、眼底の新生血管などの血管性病変などを検出できる
光干渉断層計(OCT)
(後眼部の確認)
硝子体、網膜や黄斑などの状態を把握できる
生体染色のイメージ生体染色のイメージ生体染色
(前眼部の確認)
角膜、結膜の表面などの性状を評価
スペキュラマイクロスコープのイメージスペキュラマイクロスコープ
(前眼部の確認)
専用の角膜内皮撮影装置機器で内皮細胞の密度と形状を評価
内皮細胞は一度傷付くと再生しない
涙道通水検査、涙道内視鏡検査、涙道造影
(前眼部の確認)
いずれも涙道の状態を調べる
シルマー試験(前眼部の確認) 涙液の分泌量を測定

※ 画像をクリックすると拡大表示されます。

鑑別診断

鑑別疾患・病態に注意したうえで、抗がん剤による眼障害と診断する3)。ここでは、抗がん剤治療時に併発している可能性があるため、注意が必要な疾患・病態をピックアップした。

【抗がん剤以外の原因を考慮すべき疾患・病態】3)

疾患・病態 特徴 鑑別のポイント
問診できること
転移性脳腫瘍
★★★
頭蓋内以外の部位のがんが頭蓋内に転移したもの。肺がん、乳がんに多い。頭蓋内圧亢進に伴う頭痛や嘔吐、脳局所症状として視野障害(半盲)や眼振、視力低下がある 頭部CT・MRI、シンチグラム、PET
眼症状以外の症状の有無
糖尿病網膜症
★★
糖尿病3大合併症の1つ。高血糖持続による細小血管障害。糖尿病罹患後、数~10数年で発症する。霧視、飛蚊症、視力低下、視野障害がある 眼底検査
糖尿病の有無、血糖値
白内障
★★
水晶体に混濁が起こる疾患の総称。加齢、併発(他の眼疾患に併発)、全身疾患合併(アトピー性皮膚炎、糖尿病に併発)、薬物性(ステロイド長期投与)、外傷性がある。羞明、霧視、 視力低下、複視がある 細隙灯顕微鏡検査、徹照法
年齢(50歳以上)、合併症、薬歴(ステロイド長期全身投与、フェノチアジン系薬投与など)
薬剤毒性角膜症
★★
点眼薬(抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、NSAIDs、抗緑内障薬、点眼麻酔薬)自体の成分や防腐剤により角膜上皮障害をきたす。頻回点眼や多剤併用で生じることもある。眼痛、異物感がある 細隙灯顕微鏡検査
市販薬を含む点眼薬や眼軟膏の使用歴
アレルギー性結膜炎
★★
Ⅰ型アレルギーによる結膜疾患(原因抗原は主に花粉、ハウスダスト)。 結膜の増殖性変化はみられず、両眼のそう痒、粘液性眼脂、流涙がある 細隙灯顕微鏡検査、Ⅰ型アレルギーの検査(血清抗原特異的IgE抗体測定、皮膚試験)
季節性か否か、アトピー性皮膚炎合併の有無
眼精疲労(疲れ目)
★★
不定愁訴が多い(眼痛、充血、流涙、霧視、羞明、視力低下、複視、肩こりなど)。VDT(Visual Display Terminal)症候群の主症状の1つ 特になし
眼科疾患の有無、斜視や左右差の大きな近視・遠視の有無、職場環境、生活スタイル、精神的ストレスの有無
細菌性結膜炎
★★
細菌による結膜炎の総称。黄色ブドウ球菌によるものが多い。ほとんどが片側発症であり、膿性眼脂を伴う。他には眼瞼浮腫、異物感、眼瞼・眼球結膜充血がある 結膜擦過物や眼脂を用いた塗抹・培養検査
片眼性か両眼性か、膿性眼脂の有無、尿道炎や子宮頸管炎の合併の有無(淋菌性結膜炎、クラジミア結膜炎の疑い)

★:注意度

吉村知哲 他 監修, がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版, 医学書院, 2024. より改変

評価

眼障害と明らかになった後、CTCAE v5.0に基づいて重症度を評価して治療の要否を判断する。

【眼障害(Grade 5は除く)】8)

CTCAE v5.0
Term 日本語
Grade1 Grade2 Grade3 Grade4
霧視 治療を要さない 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下); 身の回り以外の日常生活動作の制限 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える,または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 身の回りの日常生活動作の制限 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
角膜潰瘍 罹患眼の穿孔を伴わない角膜潰瘍 罹患眼の穿孔
ドライアイ 症状がない; 臨床所見または検査所見のみ; 潤滑剤で改善する症状 症状があり,中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 身の回りの日常生活動作の制限
眼痛 軽度の疼痛 中等度の疼痛; 身の回り以外の日常生活動作の制限 高度の疼痛; 身の回りの日常生活動作の制限
角膜炎 症状がない; 臨床所見または検査所見のみ; 治療を要さない 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 角膜潰瘍;身の回りの日常生活動作の制限 罹患眼の穿孔; 最高矯正視力0.1以下
夜盲 症状があるが日常生活動作の制限がない 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下); 身の回り以外の日常生活動作の制限 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 身の回りの日常生活動作の制限 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
視神経障害 症状がない; 臨床所見または検査所見のみ 中等度の視力の低下(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 顕著な視力の低下(最高矯正視力0.5未満, 0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下) 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
羞明 症状があるが日常生活動作の制限がない 身の回り以外の日常生活動作の制限 身の回りの日常生活動作の制限
網膜剥離 黄斑部を除く裂孔原性網膜剥離 黄斑部剥離を伴う裂孔原性網膜剥離
網膜穿孔 網膜剥離がなく治療を要さない 網膜剥離はないが治療を要する
網膜血管障害 血管新生を伴わない網膜血管障害 血管新生を伴う網膜血管障害
網膜症 症状がない; 臨床所見または検査所見のみ 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下); 身の回り以外の日常生活動作の制限 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 身の回りの日常生活動作の制限 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
ぶどう膜炎 わずかな(trace)炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎 1+~2+の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎 3+以上の炎症細胞浸潤を伴う前部ぶどう膜炎;中等度の後部または全ぶどう膜炎 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
視覚低下 中等度の視力の低下(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 顕著な視力の低下(最高矯正視力0.5未満, 0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下) 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
流涙 治療を要さない 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 顕著な視力の低下(最高矯正視力0.5未満, 0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下) 罹患眼の最高矯正視力0.1以下
眼障害、その他(具体的に記載) 症状がない, または軽度の症状; 臨床所見または検査所見のみ; 治療を要さない;視力に変化がない 中等症; 最小限/局所的/非侵襲的治療を要する; 身の回り以外の日常生活動作の制限;最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下 重症または医学的に重大であるが, ただちに視覚喪失をきたす可能性は高くない; 身の回りの日常生活動作の制限; 視力低下(最高矯正視力0.5未満, 0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下) 視覚喪失の可能性が高い状態; 緊急処置を要する; 罹患眼の最高矯正視力0.1以下

【感染症および寄生虫症(Grade 5は除く)】8)

CTCAE v5.0
Term 日本語
Grade1 Grade2 Grade3 Grade4
結膜炎 症状がない, または軽度の症状; 治療を要さない 症状があり, 中等度の視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5以上または既知のベースラインから3段階以下の視力低下) 症状があり, 顕著な視力の低下を伴う(最高矯正視力0.5未満,0.1を超える, または既知のベースラインから3段階を超える視力低下); 身の回りの日常生活動作の制限 罹患眼の最高矯正視力0.1以下

日本臨床腫瘍研究グループ, 有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版より引用、改変(Grade5を省略)

対応・治療

主な眼障害の対応・治療をまとめた3,4)

  • 抗がん剤が原因として疑われる場合は症状に応じて、適切に中止するよう指導を行う
  • 1日6回以上使用する必要がある場合、複数の点眼薬を使用する必要がある場合などがあるため、患者さんがコンプライアンスを保てるように指導を行う
眼障害 対応・治療
流涙症
  • 保護眼鏡の使用
  • 遮光
  • 原因薬剤の中止など
涙道通過障害(閉塞)
※進行性、難治性
  • 涙管チューブの留置
  • 人工涙液の使用(抗がん剤のウォッシュアウトが目的;防腐剤無添加の人工涙液を1日6回以上使用することで、S-1による涙管チューブ挿入数が減少したとの報告あり1)。ヒアルロン酸含有のものは避ける)9)
  • 涙嚢移動術(結膜と涙嚢円蓋部を直接吻合)1)
  • 自施設に眼科が無いなど、必要であれば涙道外来を行っている施設を紹介する(涙道外来を行っている施設及び医師は、日本涙道・涙液学会ホームページに記載されている)
眼瞼(皮膚)炎
  • 保湿
  • 抗炎症薬の使用
睫毛の異常
(長生化・乱生化・脱落)
  • 睫毛のブロー・抜去・カット
  • 角膜治療薬の使用
ドライアイ(角膜起因)
  • 人工涙液の点眼
  • 角膜治療薬の使用
角膜びらん・角膜潰瘍
  • 抗生物質(オフロキサシン眼軟膏)の使用
  • 原因薬剤の減量・休薬など
角膜炎
  • 副腎皮質ステロイド薬の点眼
結膜炎
  • 人工涙液の使用
  • 副腎皮質ステロイド薬の点眼
ぶどう膜炎
  • 副腎皮質ステロイド薬の点眼・内服・局所注射
  • 重症例では原因薬剤の減量・休薬など
脈絡膜新生血管
  • 抗VEGF療法(眼内注射)
  • 原因薬剤の減量・休薬など
網膜静脈閉塞症
網膜動脈閉塞症
網膜症(出血、浸出斑)
  • 抗VEGF療法(眼内注射)
  • 原因薬剤の減量・休薬など
網膜剥離
  • ステロイド全身投与
  • 原因薬剤の減量・休薬など
    ※自然治癒の可能性あり
黄斑症
  • 抗VEGF療法(眼内注射)
  • 原因薬剤の減量・休薬など
視神経障害
視神経症
  • NSAIDs内服
  • ステロイドパルス療法(ステロイド全身投与)
  • 原因薬剤の減量・休薬など

早期発見と重症化予防:医療側の留意点

  • 抗がん剤投与前に、眼科で眼疾患の精査や眼鏡調整などを行う4)
  • 患者さんが訴えるのを待つのではなく、積極的に問診して早期発見できるようにする3)
    特に、眼を触っていないかを観察する4)
  • 患者さん自身が眼の症状(異変)に気付いた際に、抗がん剤の副作用を疑うことができるよう指導を行う3)
  • 患者さんの訴えに耳を傾ける。「老化現象」と短絡的に考えない(患者さんも老化と思い込みやすい)9)
  • 眼症状を認めた場合、眼科専門医へコンサルトする3)
  • 予防的側面も含め、防腐剤無添加の人工涙液によるウォッシュアウトを積極的に行う3)
  • 眼障害に関して、薬剤投与継続の可否を判断できるのは眼科医となる2)
    • 眼障害を生じ得る薬剤に関しては眼科医と積極的に連携し、投与開始時ならびに投与中の眼科検査を定期的に行う
    • 有害事象の発症頻度、可逆性か非可逆性か、重症度に関しては、患者さんだけでなく全科横断的に情報を共有する
  • 眼症状は、一般的な副作用と比べて不定愁訴も多く、患者さん毎に症状の訴えが異なることに留意する必要がある9)
  • 徐々に症状が進行することも多いため、患者さん自身も症状に気が付きにくいこともある3,9)

2025年3月更新

<参考資料>
1) 柏木広哉. あたらしい眼科. 2021; 38(11): 1291-1299.
2) 兒玉達夫. 眼科. 2023; 65(7): 631-637.
3) 吉村知哲 他 監修, がん薬物療法副作用管理マニュアル 第3版, 医学書院, 2024.
4) 岡元るみ子 他 編集, がん化学療法副作用対策ハンドブック 第3版, 羊土社, 2019.
5) Fortes BH, et al. Drugs. 2021; 81(7): 771-823.
6) Awasthy B, et al. J Clin Oncol. 2022; 40(16)supple: e15001.
7) 中澤満 他 編集, 標準眼科学 第14版, 医学書院, 2018.
8) 日本臨床腫瘍研究グループ,有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版.
JCOGホームページ https://www.jcog.jp/(2025年2月閲覧)
9) 静岡県立静岡がんセンター. 抗がん剤治療と眼の症状 第10版, 2023.

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